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第8章

270話 ラシェン王

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 そこは、とても大きな建物の中であった。どれくらい大きいかと言うと人間族の偉い者達とその護衛達が合わせて100人程が集まっても余裕がありそうだ。

 護衛役の中に一人の男が居た。その者の名はマーズ。少し前までドワーフの村に居てアトス達と一緒に険しい戦いを生き抜いた者だ。
 なんとかモンスター達から逃げ切り無事にドワーフの村に着いたマーズは暫く療養してから、リンクスと一緒に人間族の住処に帰った様だ。

「おい、マーズあの方は誰だ?」

 隣で姿勢を正していたリンクスが周りに聞こえない程度の声で話し掛けて来る。

──はぁ……私より生まれが良くて散々英才教育を受けている筈なのに

 表情には出さないがマーズはリンクスを残念そうに見る。

「なんだ?」

 リンクスは不思議そうに聞いてくる。

「いえ、あんな有名な方を知らないで今までどうやってその地位まで登り着いたんですか?」 

 あの事件以降、リンクスの事を見下す様になり上司と部下の関係性ではあるが他の人から見たらそうは見えないだろう。

「いつもは全て副官がやってくれて、教えてくれた──そんな事より早く教えるんだ!」


 マーズはもう一度溜息を吐き答える。

「あの方はラシェン王の右腕に当たる、近接部隊隊長であり、隊全体の総隊長である、グンドウ様ですよ」

 マーズの説明したグンドウと言う隊長は、とても威厳のある顔付きをしている。既に結構歳がいっているのか、顔にシワがあるが、そのシワが更に威厳を保ち極め付けは、とても長い真っ白な顎髭が生えていた。
 また、体付きだけを見れば歳を感じさせない程、筋肉が盛り上がっており、流石は総隊長と言えるだろう。

「ほぅ……あれがグンドウ殿か。私も見るのは初めてだが強そうだ」

 リンクスは憧れの人を見るような目でグンドウを観察している。

「マーズ、お前が物知りで助かった。あのアトスとか言うガキ側に就いたと最初は思って帰って来たら殺してやろうと思ったが、しなくて正解だったな」

 リンクスは良い判断をしたと言わんばかりに顔を上下に何度か振る。

 マーズは周囲を見回すとチラホラと建物内に人が入って来るのが見える。現在、国の大事な方針を決めると言う事で、この建物に偉い者達が呼び出されている──リンクスもその偉い人達の一人である。

 マーズはリンクスの護衛役として付き添い現在は会議が始まるのを待っている状態である。

 リンクスとマーズが建物内で待っていると一人の男が声を掛けて来た。

「おやおや、これはリンクスさんお久しぶりですね」

 何やらリンクスに話し掛ける男が居た。そして、その男を見た瞬間にリンクスは顔を歪めた。

「ガバイ──来ていたのか……」
「えぇ、むしろ貴方が此処にいる事が不思議ですよ」

 男の正体は丸々と肥えた体を揺らして笑っているガバイであった。

「貴様は確か何処かの村を担当していた筈だが?」
「あぁ……その件は無事に終わりましたよ──今では我々ラシェン王のものとなりました」

 何やら面白い事を思い出したのかガバイは実に機嫌良さそうに笑っていた。

「それよりも聞きましたよ──貴方以外隊員は全て全滅したと」
「ぜ、全滅などしてない──ここにいるマーズと私が生き残っている」

 急に声を掛けられたマーズはガバイに対して頭を下げる。

「はっはっは。それは全滅と変わりありませんよ?」

 ガバイの言葉に何も言い返さないリンクスは黙り込む。

「貴方は優秀そうなのに大変だ……」

 ガバイはマーズの肩に一度手を置き移動する。

「それでは、また後ほど」

 ガバイは何人かの護衛を引き連れて、ドシドシと移動していった。

「クッ……なんて嫌味な奴なんだ!」

 リンクスはイライラしている様で片方の足を小刻みに動かして貧乏ゆすりをする。

「リンクス様、みっとも無いです。誰が見ているか分かりませんのでお辞めになって下さい」
「ッチ!」

 マーズの言葉に足を揺らすのをやめて周囲を見渡す。

「まだ、始まらんのか!」
「もう、そろそろです」

 もはや子供の様に駄々を捏ねるリンクスに呆れる。

──この男と先程のガバイ殿が同じ地位だとは考えられんな……

 表情に出さず、そんな事を思っていると──いきなり太鼓の大きな音が鳴り響いた。

「な、なんだ!?」
「ラシェン王が参ります」

 太鼓の音が鳴った瞬間に周りにいる者は大きな入り口に体を向け、皆が姿勢を低くしラシェン王を出迎える。

「おぉ……やはり我らの王は貫禄が違う」

 流石のリンクスも自身の国の王は分かる様で、敬う様に頭を下げる。

 だが、リンクスとは違ってマーズは反対の意見を持っていた。
 まずラシェン王の体型である──先程話したガバイの二回りは大きいお腹を揺らしながら王座まで歩いている。そして、まだ数十メートルも歩いていないと言うのに、顔と髪は脂ぎっており、目などは顔の肉に覆われて殆ど開いてないように見える。

──こんな風貌の王の元で頑張ってたと思うと過去の自分を殴りたくなりますね……

 そして王座に到着したラシェン王は一度手を振ると今までで一番大きい太鼓の音が室内に鳴り響いた。

「皆の者頭を上げよ」

 その言葉と共に室内全員が一斉に頭を上げてラシェン王を見る……

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