上 下
176 / 492
第6章

175話 自己紹介

しおりを挟む
「はぁはぁ、ロピ、チル大丈夫か?!」
「はぁはぁ……大丈夫です……まだ余裕があります」
「ムリー、はぁはぁ……死んじゃう……」
「よし、ロピは大丈夫そうだな」
「なんでよ!? お兄さん、私限界だよ、助けてよ!」

 こいつ、まだ全然余裕ありそうだな……。

「ほっほっほ。アトス殿、私の心配はして下さらないのですか?」
「必要ねぇーだろ……」
「ほっほっほ。これは手厳しい」

 リガスはいつも通り余裕そうである。他の三班を見てみると、皆も俺と同じくらいの疲労度なのか、息切れはしているが、まだ余裕がありそうである。

「おい、テメェ! どうするんだよ?」

 一人の参加者が大きな声で呼び掛ける。

 先程、三人を囮にした事により、中型も含めて殆どのモンスターが捕食に集中し追い掛けるのをやめてくれたが、残りの小型はまだ俺達を追い掛けて来ている様だ。

「お兄さん、小型しか居ないし倒しちゃった方がいいんじゃない?」

俺達の後ろを追い掛けて来る小型は五体である。

「いや、五体も居るからな……この人数で犠牲を出さずに倒せるか……」
「ふむ。恐らく何人かは犠牲者が出そうですな」

 俺達パーティ以外なら犠牲になってもいいが、結局は人数が減れば後になって大変な事になりそうだし、出来れば犠牲者を出さない方向で、この状況を解決したい。

「皆さん、先程の集団が捕食が終わり私達を再び追い掛けて来る可能性もありますので、もう暫くこのまま逃げようと思います」

 そう言ってリーダーは黙り込み周囲や先にモンスターの気配が無いか集中し始める。

「ッチ、臆病者が……」
「けど、流石に五体は全員で殺さねぇーとムリだぜ?」
「分かっている!」 

 参加者の何人かが荒れてきたな……。

「ほっほっほ。皆、殺気立っておりますな」
「なんで、嬉しげに言うんだよ……」
「殺気立っている所に身を置くと戦闘欲が昂ぶるのですよ」
「分かる……」

 そう言って、リガスとチルは頷き合う。

「お兄さん、わ、私全然分かんない……」
「安心しろ、俺もだ……」
「チルちゃんはどこから、こんな風になっちゃったのかな……?」
「安心しろ、お前の妹は立派に成長している……」

 それから、半日程逃げ続け太陽が傾き始めた頃に、リーダーが話し始める。

「皆さん、どうやら残りの三体を振り切れそうに有りません、倒しましょう」

 リーダーの言葉に、待ってましたと言わんばかりに参加者は武器を持つ。

「何だかんだ、二体程撒けたねー」
「ふむ。やはりあの男は優秀ですな」

 半日で二体も撒くことが出来るのは凄いな……。

 そして俺達は戦いやすそうな場所を見つけて足を止める。

「皆さん、討伐人数を満たしているからと言っても、油断しないで下さい」
「誰にモノを言っているんだよ」
「そうだぜ! 俺らはアンタ達より、よっぽどモンスターの相手をしているんだ、任せな!」

 逃げ続けたストレスを発散するが如く、参加者達が武器を振り回しながら小型に向かって突っ込んで行く。

「こちとら、逃げるのは性に合わないんだよ!」

 大剣使いが、小型の外装を切り裂く。

「あはは、それはお前だけじゃねぇーがな」

 続いて短刀使いが、大剣使いが切り裂いた傷を武器で更に広げて、手に持っていた怪しげな液体を傷口に垂れ流す。

「あれって何しているんだ?」
「ふむ。恐らく毒を垂らしたのでしょう」

 リガスの説明を聞いていると、先程液体を傷口に垂れ流された小型が急に暴れ出す。
 そして、大暴れした後に力尽きたのか地面に倒れ込み、痙攣した様に触覚や手脚が震えていた。

「俺の毒は、やっぱり効くなー」
「物騒なもん持っているな……」

 倒れて痙攣している小型を参加者達が滅多刺しにしていた。

「すごーい。あんな戦い方もあるんだね」
「毒……」

 自身の戦闘力の低さを他の物で補うか……。

「ほっほっほ。理由は分かりますが理解は出来ませんな。やはり最後に頼れるのは自身の身体です」
「私もそう思う」 

 これだから脳筋は……。

「私は、あっちの人に共感するかなー」
「俺もだ……」

 周囲を見ると他の者達も難なく小型を討伐していた。

「皆さん、お疲れ様です」

 リーダーが労いの言葉を掛けた瞬間に参加者の一人がリーダーを殴り飛ばす。

「お疲れ様じゃねぇーだろ。なんで三人を切り捨てた?」

 それから、三班全員でリーダーを囲む様に問いただす。

「ここまで来たら全てお話します」

 そう言って、リーダーは煙玉の件や三班が捨て駒班の事、前回の遠征時の事を話した。

「そうか……」

 先程リーダーを殴った男は一度目を瞑り考えをまとめた後にもう一度リーダーを殴り飛ばした。

 え……?

「え? なんでまた殴った!?」

 俺の気持ちを代弁する様に短刀を持った毒使いが聞く。

「これで俺は許してやる。お前が努力して俺達を生かす様にした事は認めているから」

 それを聞き他の参加者達もリーダーを次々殴り合計15発程顔面に拳を貰ったリーダーは許して貰えたらしい。

「はは、イッ、てて。皆さんありがとうございます」
「良いってことよ!」

 一番最初に殴った男が笑いながら答える。そして直ぐに真剣な表情に戻った。

「だが、お前を今後リーダーとは認めない」
「えぇ。それは理解出来ます」
「だが、お前以上に纏め上げる能力を持った者も居ない」

 リーダーと大剣使いが話し合っているのを周りの男達は黙って聞いているが、一人反論する者が居た。

「統率者なら、ここに神が」

 何やら言い出しそうなチルの口を慌ててロピが押さえ込む。

「チ、チルちゃんは少し黙ってようか」
「むーむー」

 ロピ、ナイスだ。

「お前の、その察知能力も、俺達が生き残るのに必要だからな、リーダーとは認めないがこれまで通り俺達に指示は与えてくれ」

 そして大剣使いは、ニカッと笑顔を浮かべてリーダーの手を取り起き上がらせる。

「立場は俺らと対等だぞ?」
「えぇ。分かっております」
「それと、納得出来ない指示には従わねぇ」
「存じております」

 二人は硬い握手を交わしながら笑いあっている。

「そんじゃ、まぁお前の名前を教えてくれよ」
「名前?」
「当たり前だろ? リーダーじゃ無くなったんだから、名前で呼び合うしかねぇーだろ」

 大剣使いの言葉に毒使いも何度も頷いている。

「分かりました。私の名前はマーズと言います」
「マーズだな、俺はフィールだ宜しくな」
「へッヘ。オイラの名前はトインだ。
この毒で小型すら倒せるぜ?」

 そこからは、三班全員の自己紹介が始まった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...