過酷な場所で生き抜く為に──食物連鎖の頂点が巨大モンスターの世界で死ぬ気で生き抜きます

こーぷ

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第3章

69話 チルの行動

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 夜も深くなった時間に私は静かにベットを抜け出す。アトス様も姉さんも気持ちよさそうに寝息を立てている事を確認してから慎重に部屋を出た。

「アトス様、姉さん、ごめんなさい」

 私は二人が起きない様に小さい声で謝り、ディング宅を抜け出した。
 真夜中と言うこともあってか、村の外では一切人が居なく、牢屋までは誰にも見つからないで、着くことが出来た。

「見張りはいるかな……?」

 いくら、人数が少ないとは言えディングやグダの話ぶりから、あの魔族を売る事によって食料問題を解消しようとしている為見張りは立っているだろうと思い、身を隠しながら近付く。

「……」

 やはり、見張りが居た。
 だが、いつものルーティンワークの為か特段警戒している訳でも無く、むしろ眠いのか船を漕いでいる。

「あの程度なら気配を消して近づけばバレないかも」

 アトス様の訓練の中にはモンスターに気付かれない様にする為気配を消して移動する訓練もある。

 私は、訓練をよく思い出しながら見張りに近付き反応を探る。
 徐々に近付き、後五メートルも無い所まで近付いたが見張りは起きる気配も無い。

「このまま、侵入しちゃおう」

 見張りの横を静かに通り過ぎ、建物の中に入る事が出来た……。

「こんなに、雑でいいのかな?」

 とりあえず、今は魔族の事が気になる為階段を慎重に降りて、魔族が囚われている地下に向かう。

 魔族以外は牢屋に入って居ない為、何事も無く魔族が居る牢屋まで来れた。

「……うぅ……」

 魔族はあれから何もご飯を与えられて居ないのか前見た時よりも更に弱っている様に見えた。

「大丈夫?」

 見れば分かる通り大丈夫じゃない状態だが、他になんて声を掛けて良いのか分からない。

「うぅ……」

 魔族はやっと目の前に誰かが居ることが分かったらしく、私の声に反応した。
 だが、やはり弱っている為身体を動かす所か、顔すらこちらに向ける事が困難な状況らしい。

「あ、そうだ。忘れてた」

 私は、魔族の弱り切った状態を昔の私に当て嵌めて居た。スラム街の時は、本当に食料に飢えていたのを今でも思い出す。
 毎日、姉のロピと協力して食料を盗んだりしていたが、小さい子供では成功する筈も無く、捕まり酷い目に遭わされた事も何度かある。
 逃げ切れても食料を奪えず結局、空腹のまま夜を過ごしたりなどスラム街の生活は最悪だった。

「確か、この中に……」

 私はディング宅から持ってきた鞄から、水と食料を取り出す。

「これ、要る?」

 水の入った物を魔族の牢屋越しに見せて聞いてみる。

「うぅ……うう……うぅ」

 言葉に出来ないが、先程の反応とは違う為、恐らく欲しいと思って、水の入った容れ物を牢屋の隙間から内部に入れてあげた。

「!?」

 魔族は歩けないながらも、床を這って容れ物に近付き、水を飲み始める。
 よっぽど喉が渇いていたんだろ、水の入っていた容れ物は直ぐに空になった。

「うぅ……あ……りがと……う」

 初めて魔族が言葉を話した。

「大丈夫?」

 私はここに来て初めて発した言葉をもう一度魔族に問いかける。

「お嬢さんのお陰で……なんとか……」

 やはり、水だけでは今までの体力を回復出来ないのか、魔族の声はカラカラで弱り切っている。

「そうだ。これもあげるね」

 持ってきた荷物の中から、カチカチになっているパンにハムを挟んだものを水と一緒に牢屋の内部に入れてあげる。
 魔族は恥も外聞も関係無しと言うように食べ始める。
 一体どれくらいの間食事をさせて貰えてなかったのか……。

「うぅ……」

 魔族は、突然涙を流したが、それでも泣きながらパンを食べる。
 あっという間に食べ終わった為、もう一つパンを用意していたので渡した。

「ふぅ……。お嬢さん、本当にありがとうございました」
「もう平気?」
「ええ、お嬢さんのお陰です」

 魔族はシワのある顔で笑う。顔つきは執事の爺や的な感じだが、身体つきは老人とは思えない程締まっている。

「お嬢さん、お名前を伺ってもよろしいですかな?」
「チル」
「チル様ですね。私はリガスと申します。この度は助けて頂き誠にありがとうございます」

 リガスは、まだフラつくものの立ち上がり姿勢を正した後に綺麗にお辞儀をした。まるでお嬢様に頭を下げる仕草に見える。

「うん、リガスが無事で良かった」
「な、なんと言うお優しい方……」
「これで、一人で逃げ切れそう?」
「ええ。まだまだ本調子では無いですがオークやゴブリン共なら余裕ですな」

 強がっているわけでも無く本気でそう思っている様な顔つきでリガスが呟く。
 リガスの一つ一つの所作が洗練している為、私は自分の雑な話し方や仕草が恥ずかしくなり、背筋を伸ばしてみた。

「ふふ、チル様何か私に出来る事はございますかな?」
「別にない。後はここから逃げ出してまた自由に生きればいい」

 私の言葉にリガスは驚いたのか目を見開いてこちらを見ている。

「驚きました……。普通魔族に問われたら、何かしら力を貸せと言うのが普通ですが、チル様はそんな事は必要無いと?」

 やはり魔族は種族の中でも格段に強いのか戦闘面で利用する者が後を絶たないらしい。だが、魔族は強い為力ずくで言う事を聞かせる事も出来ず魔族を用心棒などに雇う時は、とんでもない対価を払わないといけないらしい。

「ですが、私の命の恩人であるチル様に何もお礼出来ないのも私的に納得出来ない為、何でもいいので願い事はないですかな?」

 私は、何か無いか考える……。

「一つあった」
「なんですかな?」
「明日、私と姉のスキル儀式があるから、逃げるなら儀式が終わってからにしてほしい」 
「ほっほっほ。チル様は面白い! 私ますます気に入りました」

 魔族は、何が可笑しかったのか物凄い笑っている。

「笑ってしまい、失礼致しました。分かりました、では逃げるのは明日以降にしましょう」
「うん、そうして」
「承知致しました」
「じゃ、私はそろそろ戻るね。黙って抜け出しちゃったから」
「帰り道お気を付けて下さい」
「うん、リガスも次は捕まっちゃダメだよ?」
「気を付けます」

 リガスと別れてからディング宅に静かに戻りベットに潜り込んで深い眠りに就く。
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