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第二章

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 ドレスに着替えて、ルカ君の待つ、コンサバトリーへとナタリーさんに案内してもらう。

 青々とした緑の、観葉植物が沢山並んでる中に、藤製のテーブルセットが置いてあり、二人掛けの椅子の端に、ルカ君が腰掛けていた。
 ルカ君がこちらを見て、立ち上がる。

「……ミアさん、似合ってるね」
「ありがとう。沢山素敵なドレスがあって、ナタリーさんに選んでもらって、着せてもらったの」
「うん。良かった」

 ルカ君に手を引かれ、隣に腰掛ける。

「……ドレスがぴったりで、びっくりした」
「……ああ、実はね、シェラードさんに、ミアさんが着たドレスを借りて、採寸させてもらったんだ」
「そ、そうだったの?」

 い、いつの間に……!

「うん……、勝手にごめん。驚かせたくて」
「ううん。そうだったんだね」
「シェラードさんも、ミアさんの為ならって、快く貸してくれたんだよ」

 ……うん。ディアナさんなら、ノリノリで貸してくれそう。

「……色々、宿代や、旅費も出して下さってるのに、こんなドレスまで」
「……さっき、ターラが言っていた様に、みんなミアさんに感謝していて、何かしたくてしょうがないんだよ。だから、気にせずに受け取ってくれた方が、みんな喜ぶと思う」
「でも、自分が出来ることをしただけだから……」
「それで、僕は助けられたんだから。それに、ミアさんが、自ら進んで、受け入れてくれたんだよ?」
「それは、人の命がかかってるんだから、当たり前だよ」


 ……私が、聖属性の女の子だったから、ルカ君は私を選んだんじゃないのかな?

 
 ――そうか、ずっともやもやしてたのは、ソレ・・だ。


「……ルカ君、私がルカ君を助けたからって、私を選ばなくてもいいんだよ?」

 ルカ君の表情が、固まる。

「…………ずっと、ミアさんは、そんな風に思ってた?」
「っ、そうじゃなくて、私がした事に、囚われて欲しくなくて……」
「……いつも、何故か距離があるなって、ミアさんだけ、少し引いた所から見てる気がしていたんだ。僕だけ、必死で、……なんか、馬鹿みたいだね」

 ルカ君が、いつも気持ちを一生懸命伝えてくれていたのに、自分がヒロインだからじゃないか、聖属性という特殊な能力のせいじゃないかって、ずっと、ルカ君を、信じられずにいた。

「…………ごめん、ちょっと、一人で落ち着いて考えたい。……ミアさんは、ゆっくりお茶を飲んでいって」

 ルカ君が、目を合わせずに、立ち去ってしまう。
 突然の事に、心細くなって、涙が出そうになる。

「……ミア様、お入れし直しましたので、どうぞ召し上がって下さい。温まりますよ?」

 ナタリーさんが、声を掛けてくれる。

「……ありがとうございます」

 ナタリーさんが、せっかく入れてくれたものを、無駄にしたくなくて、こくりと一口飲み込む。

「……美味しい、です。……ありがとう」

 あったかくて、ホッとして、思わずポロッと涙が出てしまう。

「……ミア様は、ルカ様が、今まで女性を好きになった事が無いのは、ご存知ですか?」
「え?……いいえ、知らない、です」
「ミア様が、初恋なんですよ?……それはそれは、必死なんだと思います、ルカ様は」
「そう、なんでしょうか……?」

 たまたま初めて触れたのが私だったから、とか思ってしまうのは、ひねくれ過ぎなのかな……。
 あんな言葉が出てしまったのだって、自分に自信が無いからだ。
 この、ネガティブな思考が駄目な気がする。ディアナさんみたいに、明るく強くなりたいのに。

「……ナタリーさん、」
「はい」
「私、あの、ルカ君の事を、あまり知らないんです。もっと教えてくれますか? ルカ君が育った街も、見に行ってみたいです」
「えっと、それは、ミア様だけで街に行くということでしょうか?」
「はい。無理でしょうか……?」
「そうですね……護衛を連れて行けば、問題無いと思います」
「本当ですか? ありがとうございます!」

 ナタリーさんに、また着替えを手伝ってもらい、歩きやすい格好に着替える。

「ナタリーさん、短時間の間に何度も、すみません……」
「ミア様、こんな簡単にお召変えられるものは、着替えのうちに入りません」
「そ、そうなんですね」

 着替え終わり、玄関へ行くと、すでに護衛の人が待ってくれていて、馬車が停まっていた。ナタリーさん、仕事が早い……!

「辺境伯軍少尉の、アルフレッドと申します。この度は、ミア様の護衛をさせて頂きます」 

 二十代前半位の、黒髪で物腰の柔らかい、イケメンだ。ルカ君に少し似ている。親戚の方なのかな……?
 
「急にお願いしてしまい、申し訳ありません。よろしくお願いします」

 馬車に乗り込み、街の中心部へと向かう。

「ルカ様が、良く訪れていた所。で、よろしかったでしょうか?」
「はい。お願いします!」

 街の中心部に着き、馬車から降りようとすると、アルフレッドさんが、すかさず手を差し伸べてくれる。

「あ、ありがとうございます……」

 と言うと、にこっと笑いかけられる。……やっぱりルカ君に似てるな。と思ってしまう。
 
 ……なんだか視線を感じて、周りを見回したけれど、誰とも目が合わない。……気のせいかな?

「ミア様、お腹は空いてらっしゃいますか?」
「はい! 空いています」

 早めのお昼ご飯を食べてから、さっきナタリーさんが淹れてくれたお茶を飲んだきりだ。

「では、ルカ様のお好きな、果物の飴を食べてみますか?」
「果物の飴?」
「はい。りんごや葡萄などの果物に飴がかかっており、屋台で売られている人気の品なんです」
 
 それって、りんご飴だ!
 懐かしい。小学生以来食べてないかもしれない……。

「はい。ぜひ食べてみたいです!」

 街の中心に、噴水のある広場があり、噴水の周りに色々な屋台が並んでいる。

 その中に、串に刺した果物に、ツヤツヤの飴がかかった物を並べた屋台を見つける。

「ミア様は、どの果物になさいますか?」
「じゃあ……、りんごのを一つお願いします」

 姫林檎の様な小さなりんごに、飴がたっぷりとかかった串を渡される。

「綺麗、可愛い……」

 一口齧ると、飴のカリッとした食感と甘さの後に、シャクッとしたりんごの甘酸っぱさが広がる。これこれ!
 大きいりんごだと、だんだんと飴がなくなって、りんごを齧ってるだけになっちゃうんだよね。姫林檎サイズだと、ちょうど良いな。

「これを、ルカ君が好きなんですか?」
「そうですね。ルカ様は甘いものがお好きなので、屋台ではこういった物を買われる事が多いですね」
「そうなんだ……」
「この通りの先に、焼き菓子のお店があるのですが、そこのお菓子もお好きで、屋敷のみんなにお土産と称して、いつも、ちゃっかりとご自分の分も買ってらっしゃいました」
「そうなんですね……、今日も、買って帰っても良いでしょうか?」
「もちろんです。ルカ様も喜ばれると思います」

 りんご飴を食べ終え、焼き菓子屋さんへと向かう。
 向いから、大柄の男の人が、早足で歩いてきたので、横へ避けようとしたけれど、避けきれずに当たってしまう。よろけたところを、アルフレッドさんが支えてくれる。

「す、すみません。ありがとうございます」
「大丈夫ですか? ここは人通りが多いので、よろしければ腕を」

 そうだよね……、ふらふらしてたら、迷惑をかけてしまうし、お言葉に甘えて持たせてもらおう。

「ありがとございます」

 アルフレッドさんの腕に手を置こうした瞬間、誰かに腰をグッと掴まれる。
 後ろから抱く様に、腰に手を回されてしまう。

「え、あ、あの、離して、下さい」

 びっくりして、必死になって、腰に回された腕を剥がそうとして、見覚えのある手だと気がつく。 
 後ろを振り向くと、撫然とした表情のルカ君が見える。

「ル、ルカ君……?!」
「……ナタリー、アルフレッドを護衛に連れて行くなんて聞いてない」
「ルカ坊ちゃんは拗ねてらっしゃって、ミア様のエスコートが出来ない様でしたので、適任のアルフレッド様にお願いしました」

 ぎゅっとルカ君の手に力が入る。

「奥様に、ミア様のお相手をお願いされたのを、お忘れですか? ミア様が、見知らぬ土地に来て、すぐに、ルカ様がもてなすことを放棄されたので、不安になり、泣いてらっしゃいましたよ? そんなミア様に、相応しい護衛をつけたのを、ルカ様が文句を言う筋合いがおありですか?」

 ナ、ナタリーさん、怒ってる?

「ミア様は、ルカ様の事が知りたいと仰って、ルカ様の好きな物を召し上がって、喜んで下さり、ルカ様にお土産まで買って帰ろうとしてらっしゃったんですよ? 大切なお客様に、そこまで気を使わせて、まだ拗ねてるおつもりですか?」

 ルカ君が、唇をぎゅっと結んで黙ってしまう。

「……転移」

 と、ルカ君が呟くと、どこか知らない部屋にいた。  

 

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