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 あの優しいお兄様を、怒らせてしまった。

 今までのお兄様との関係が、心地良くて、必要以上に甘え過ぎていたのだと、ようやく気づく。


 ーーお兄様に甘えずに、ちゃんと自分でフィリップと向き合わなければいけない。


 フィリップの家を訪ねると、フィリップの母親のルイーゼおばさまに、とても喜ばれた。

「パトリシア! 来てくれたのね。フィリップがいなくても、いつでもお茶しにきてちょうだいね。私も可愛い女の子とお話したいのよ。男ばかりで、ほんと、うんざりしちゃうんだから。あ、フィリップよね。ちょっと待ってね」

 息継ぎ無しにお話された後、客間に通される。

「パトリシア、急にどうした? 約束もなく来るなんて、珍しいな」

 フィリップが部屋に入ってくる。

「突然ごめんなさい。フィリップと話したい事があって……」
「何? かしこまって。何かあった?」
「……あのね、少し前の晩餐会の時に、フィリップが、その、胸の大きい女性が好きだって聞いてしまって……」
「ん、何? 俺の女性の好みが聞きたいの?」
「ええ……まあ? 聞きたいというか、フィリップは、胸の大きな人が好きなんでしょう?」
「ああ、男なら、みんなそうなんじゃないかな?」
「……お兄様は、違うって言ってたわ」
「アレックスは……まあ、胸なんか関係ないだろうね」
「フィリップは、お兄様の女性の好み、知ってるの?」
「女性の好み……というか、なんというか。え、アレックスの事、聞きにきたの?」
「いえ、違うの」

 一瞬、目的を忘れてしまっていた。お兄様の女性の好みじゃなくて、話さなくちゃいけない事があるのよ。

「その、それで、フィリップの好みの女性と、私って全然違うでしょう? それで、私、胸を大きくしようと思って、お兄様に相談したの」
「……うん。パトリシアって、たまに予想出来ない行動をするよね」
「マチルダとフェリシアにも言われたのだけど、そうなのかしら?」
「だって、子どもの頃、料理人にカエルの肉が美味しいと聞いて、カエルを捕りに行こうとしたり、書斎に幽霊が出たと聞いて、一晩中見張ろうとしたら、結局書斎で寝てしまって、朝になってパトリシアがいないと大騒ぎになったり……」
「フィリップ、分かった、分かったわ!……だから、それで、その、夫婦生活のこととか、お兄様に色々と教えて頂いたんだけど、フィリップと、その、そういう夫婦ですることを、想像できなくて、私」
「まあ、結婚するとしても、もう少し先の事になるだろうけど……、俺も、パトリシアは家族みたいには思ってるけど、その、女性? として見たことは無いかも……」
「そう、よね!」
「というか、元々、パトリシアとの婚約って、パトリシアに変な虫がつかない様に、とりあえず俺を婚約者にしたって、親父に聞いたけど」
「……何、それ。虫?」
「うん。だから、パトリシアには、絶対、手は出すなって。……この分だと、アレックスも虫だと思われてるな。きっと。……可哀想に。おじさん、マジでパトリシアを溺愛してるもんな」

 理解が追いつかなくて、呆然としてしまう。
 フィリップの言う事が本当なら……

「婚約は形だけだったってこと? 私、フィリップと夫婦になったらって、真剣に悩んでたのに!」
「パトリシアも知ってるもんだと思ってたよ。その分だと、アレックスも知らないんだろ? 早く教えてあげた方が良いんじゃないのか? なんか、誤解してそうな気がするし……この間の舞踏会の時、アレックスの目が怖かったのは、だからか」

 フィリップの言葉に、思わず立ち上がってしまう。

「フィリップ、教えてくれてありがとう! あなたとはずっと仲の良い友達でいたいわ!」
「うん。俺も」
「じゃあ、ごめんなさい。失礼するわね」
「ああ、アレックスによろしく」

 足早に、フィリップの家を後にする。


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