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しおりを挟むフェリシアの話を聞き、身近な男性を思い浮かべて、1人だけ、もしかしたらと頭に浮かんでしまった人がいた。
トントンと、控えめにドアをノックし、「パトリシアです」と小さく言う。
「どうぞ」
と、いつもの優しい声で返事があり、ドアを開ける。
ソファに座り、本を読んでいるお兄様の姿が目に入る。
顔を上げると、ランプの灯りで照らされた、アッシュブロンドの髪がさらりと流れ、青色の瞳がこちらを向く。
「……こんな時間に、どうしたのかな? 昔みたいに怖くなった?」
首をプルプルと振って否定する。
「ごめんなさい、こんな時間に。……お兄様に、ご相談があって……」
「何かあった? 入って」
お兄様の隣をすすめられて、腰掛ける。
「あの……誰に相談したら良いか分からなくて、お兄様しか思い浮かばなくて……」
「困ってるんだね」
「そう、なの……フィリップが、その、胸の大きい方が好きらしくて、」
「…………うん?」
「私、その胸が大きくはないでしょう? 胸が大きい人じゃないと女性に思えない、と話しているのを聞いてしまって」
「……それは、酷いな」
「それで……、その、男性に胸を触ってもらうと、大きくなると聞いて」
「……」
「誰にもそんな事、頼めないと思ったのだけれど、お兄様の顔が思い浮かんでしまって」
「…………パトリシア、ちょっと待って」
お兄様の顔を見ると、酷く焦った様に、真剣な顔をされている。
「ええと、……フィリップが、胸が大きい人が好きとかいう話はどうでも良いのだけれど、その、男性に触ってもらうと大きくなるという話は、僕以外には相談していないね?」
「ええ。フェリシアが本で読んだと……、今日、聞いたところなの。それに、こんな事、お兄様以外に相談できないわ」
「フェリシアか……」
お兄様の目が遠くなる
「…………それで、フィリップの為に、パトリシアは、胸が大きくなりたいということ?」
「だって、女性に見られなければ、夫婦として幸せになんて暮らせないでしょう? フィリップは、あの、シェルバーン夫人みたいな方が良いと言っていたの」
お兄様が、小さく息を吐く。
「フィリップにはパトリシアがいるのに……」
「でも、男性は胸が大きい方がお好きなのでは?」
「僕はそうじゃないよ」
「……そう、なのね。でも、小さ過ぎるのは駄目でしょう?」
「……パトリシアは、そんなに小さくないと思うんだけれど……」
何故か、お兄様に目を逸らされる。
「男性から見て、私の胸はどうなのかしら」
「……パトリシアは魅力的だよ」
「お兄様、それは駄目よ。身内の贔屓目だわ」
「そうなのかな? 昔からずっと、トリシアが可愛いよ」
昔の呼び方で呼ばれ、なんだか恥ずかしくなって俯いてしまう。
――いけない。本来の目的を忘れてしまっては!
「お兄様、お願い。私の幸せな結婚生活の為に、協力して欲しいの」
「……パトリシア、それは、僕が、パトリシアの……」
お兄様が、珍しく言い澱む。
「胸を触って下さる?」
「…………もし、僕が断ったら、どうするの?」
「誰にもお願いできないから、お兄様に言ってるの……」
「パトリシアが、どこまで分かって、触ってなんて言ってるのか知らないけれど、男にそんな事を簡単に言っちゃ駄目なんだよ? 分かってるかい?」
「……分かってるわ。だから、お兄様に相談したのだけれど……」
お兄様がはぁっと息を吐く。
「分かった」
「ありがとう! お兄様」
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