ノアズアーク 〜転生してもスーパーハードモードな俺の人生〜

こんくり

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第45話 緊張

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アーク本部へと帰還する当日。

「***・**」

俺がそう唱えると、ウルが見えなくなった。
気配もなく、完全に消えた。
ノアの覚醒者である俺でさえも、かなり近づかないと知覚できないほどに。

「なんとか、形になったわね。」

ウルの声が聞こえると、スーッと彼女の姿が現れた。

「はい!ほんっとウルさんのおかげです!」

喜びと安堵が混ざった感情が込み上がってくる。

俺はついに詞をなんとか形にすることができた。
詞を使った俺の魔術はまだ荒く、持続時間も短いが、これなら超越者を欺ける。

「私が教えたっていうのもあるけど、ここまで早く習得されるとは。セムス家の奴らは全然ダメね。」
「ははっ、そんなこと言って大丈夫なんですか?」
「本当のことだから。どう?あなた、セムス家の養子にでもなる?」
「そうですね。なんなら、ウルさんに嫁ぎましょうか?」

なんて冗談もウルさんとは言い合える仲になった。
最初こそ、“なんだこの冷たい女は”と思ったが、今となってはこんなに良い先生は他にないとまで思うようになった。
彼女がいたから詞を習得できた。
この言葉に嘘はない。
これを無駄にしないためにも、任務を絶対に成功させなければ。

そんな事を考えていると、一羽の鳩が俺の肩にとまった。
ゼインの能力で操られた鳩だ。

“キャンベル、そろそろだ。”
「分かりました。」
“最初にワープした場所に来てくれ。”

鳩から出るゼインの声がそう言うと、どこかへと飛び立っていった。

「では、ウルさん。行ってきます。」

ーーー

本部へと戻ると、ニコ班長が出迎えてくれていた。

「おっ!ルーク君。魔術の修行は上手くいったみたいだね。」
「はい...。なんとか。でも、大変でしたよ。セムス家の人たちは気難しい人達ばかりで。」
「そんな疲れてるルーク君には申し訳ないんだけど、あともう少しで任務の会議が始まるんだよね。」

ニコ班長はそう言うと、半ば強制的に俺を部屋へと連れていった。

彼女の部屋に入ると、既に前回の任務説明時のメンツが揃っていた。
遅れてすいません、と軽く頭を下げて、空いているカンナリの隣に座る。
俺が座ると同時にニコ班長が口を開いた。

「よし、これで全員揃ったね。それでは数日後に迫る超越者討伐任務の再確認をする。まずは、この任務の隊長から。前も言ったと思うけど、この任務の隊長はエレナ・グレッチャーにしてもらう。そして今回は特別部隊で、人数が多い。ということで、エレナさんの補佐としてゼインさんにも任務に出てもらう。」

ニコ班長がそう言うと、エレナとゼインが軽く頭を下げた。

なんと、解放者が2人も来てくれるなんて。
かなり心強い。

今回の任務に出るのは解放者2人と俺たち6人の覚醒者。
これでも超越者と戦うには少し不安が残るが、アークにいる覚醒者の数を考えれば、かなり多く人数を割いてくれている。

「そして、ルーク君。」

ニコ班長が俺の名前を呼んだ。

「...?」
「今回の任務はルーク君の魔術にかかってる。魔術の調子はどうかな?」
「なんとか間に合った...と思います。」
「それはよかった。よし、これで任務の説明は終わり。この任務は、アーク史上最大の任務になる。もしかしたら命を落とす人もいるかもしれない。でも、これは人類が勝つために絶対に落とせない戦いよ。皆んな、頑張って。」

ーーー

会議が終わり、解放者とカンナリを除く5人の覚醒者が部屋に残った。
エマとカンナリは知っているが、残りの男性2人と女性1人のことは前回の会議で顔を見ただがで、何も知らない。
次に会うのはおそらく任務当日。
ここで、自己紹介でもしておいた方がいいな。

「あの、初めまして。俺はルーク・キャンベルって言います。」

俺がそう言うと、1人の男が立ち上がり、ブンッと頭を下げた。

「お、俺はアレクシス・コナーです。ア、アレクって呼んで下さい。」

ガッチリとした体にオールバックの髪型と太い眉といった見た目からは裏腹にオドオドした様子だ。
下げた頭もまだ上げない。

「アレク、よろしくお願いします。」

俺がそう言うと、アレクは頭を上げた。
アレクと握手を交わす。
すると、それを見ていた女性が近づいてきた。

「私はペトラよ。よろしく。」
「ルークです。よろしく。あともう1人は...あれ?」

ペトラとも握手を交わし、もう1人の男とも自己紹介しようとしたが、既に部屋にいなかった。
トイレにでもいったのかと、少し部屋で待っておこうと椅子に座ろうとした時、エマが俺を呼び止めた。

「ルーク君、多分フィンは先に帰ったちゃったよ。」
「フィン...あぁ、もう1人の。そうですか、彼とも少し話をと思ったんですけど...。」
「彼、エレナ隊長以外に興味ないの。私も同じ部隊なのに、あんまり話してくれないし。気にしなくていいよ。」
「そ、そうなんですね。」

残った4人で少し話したあと、アレクとペトラが部屋を出て、俺とエマが残った。

少しの間、沈黙が流れる。
なぜか、少し気まずさを感じる。

あれ、こういう時ってどんな話すればいいんだっけ。
任務の日まで何しますか?とか、いや詮索してるみたいでキモいな。
くそっ、前世でもっと女の人と話す練習をしておくんだった。

「ルーク君、どうしたの?」

俺が1人でソワソワしているのを見て、不思議に思ったのか、エマが俺の肩をトントンっと叩いた。

「あっ、えーっと、何でも...ないです。」
「本当に?なんか変な顔してたから緊張してるのかなって。」
「そ、そうですか?」
「うん...してないの?緊張。」

緊張...か。
確かに数日後には超越者と戦うにしては、あまり緊張していない。

超越者は複数体いるらしい。
もしかしたら今回戦う超越者はコーディ隊長を殺したやつかも。
あの時に感じた絶望は忘れもしない。
今になっても震える夜がある。

でも、今回はこちらから仕掛けるのだ。
事前に覚悟をする時間が沢山あった。
今は、ただ任務をこなすことだけを考えることが出来ている。

「はい、あまりしてないですね。自分でもびっくりです。エマさんはしてますか?」

俺がそう言うと、エマさんは何度も頷いた。

「してるに決まってるじゃん!でも、あの時みたいな絶望感はない...かな。」

エマさんはそう言うと、少し俯いた。
言葉にはしないが、まだ不安が大きいのだろう。
コーディ部隊の任務で、俺は酷い傷を負い、カンナリも何もできなかった自分に酷く落ち込んでいた。
そんな俺たちよりも、エマさんが1番心に傷を負っていた。
任務の失敗、そしてコーディ隊長の死は、責任感の強い彼女には人一倍辛いものだったに違いない。

「エマさん。」
「なに?ルーク君。」
「心配しなくても大丈夫です。今回は解放者が2人も任務につきます。それに...」
「それに?」
「何があっても俺がエマさんを守りますよ。」

どうだ?決まったか?
流石に今のはカッコ良すぎたのではないだろうか。

エマさんの反応を待って俺は彼女の瞳を力強く見つめる。
“ルークありがとう!”と、抱きしめられたりしないかな、なんて考えながら。
しかし、彼女の反応はそうはならなかった。

「ううっ。」

エマさんの瞳から一粒の水滴がポロリと流れた。

あれ?泣いてる?
なんで!?キモすぎたか!?

「エマさん、なんで泣いっ...うっ!」

突然のことにパニックになっていた俺の両頬をエマさんがつねった。

「だめ、私も一緒に戦う仲間でしょ。前みたいに勝手に前に出たら許さないから。」
「ふぁ、ふぁかりました。」
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