ノアズアーク 〜転生してもスーパーハードモードな俺の人生〜

こんくり

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第42話 バベル

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「セムス家に魔術を...?」
「うん。セムス家に魔術を習いに。」

セムス家。
アークを創った3つの一族の1つ。
現在、ノアの覚醒者こそいないものの、魔術の才に長けた者が多くおり、アーク本部や支部、その他施設の守護に多く貢献している。
アーク本部に張られている大規模な魔術はセムス家初代当主のトバル・セムスよって張られたものらしい。

そんな、魔術=セムス家という等式が成り立ってしまいそうな一族に俺が修行を?

過去に俺が方舟を使えなくなった時、何かできることはないかと、魔術の鍛錬をしようとした時がある。
その時に俺は、セムス家に魔術について教わろうとしたが、それは無理だとアークの職員に突っぱねられた。
彼らは魔術の技術を外に出したがらないから無理だと。

そんな彼らに魔術を教えてもらう事なんてできるのだろうか。

「できるなら俺もお願いしたいんですけど...。」
「彼らは自分達の技術をあまり一族以外に教えたがらないからね。でも、助っ人っていう形なら教えてもらえると思うよ?」

助っ人?
どういう事だ?

「助っ人...ですか?」
「そう。この前、新たに生まれた超越者によって東の支部が壊滅したでしょ。で、新しく別の場所に建て直してるんだけど、魔術で結界を張り直すのに人手が足りないらしくて。そこに助っ人っていう名目でルーク君を送るよ。それなら、いけると思うんだよね。」

思うんだよねって...。
もし俺のような若僧が行って、セムス家の機嫌でも損ねたらどうするんだ。
アークの最高権力者だぞ?
死刑にだってされかねない。

「本当に大丈夫なんですか?」
「うん、多分ね。今は色々緊急だし。許してくれるでしょ。」
「わ、わかりました。出発はいつ頃になりますか?」
「今すぐ、だよ。」
「...えっと、今すぐ?もう話は通っているんですか?」

俺がそう聞くと、ニコ班長は首を振った。

「ううん、通してないよ。だって頼んでみて無理って言われたら終わりだし。行きさえすれば、やってみろってなると思うんだよね。」

まじかよ...。

「そ、そういうものですかね。」
「うん、大丈夫だよ。じゃあ、行ってらっしゃい。」

ーーー

新しい支部の場所は限られた者にしか教えられないらしく、俺は目隠しをされたまま、ヴィルによってワープさせられた。

目隠しを外すと、目の前には天まで届きそうな高い塔が建っていた。
おそらく、元々あった何かしらの建造物を利用して建てたものだろう。
でないと、この規模の建物がこんなスピードで建つわけがない。

そんな圧倒的な建物に見惚れていると、1人の男が近づいてきた。
すらりと背の高く、癖っ毛のその男からはどこからか威圧感が感じられた。

「お前がルーク・キャンベルか?」
「はい、そうです。あの、ニコ班長から言われ..」
「そんなこと、言われなくても既に聞いている。私はムロド・ハムシーク、ここの責任者だ。」

ハムシーク...。
レイさんと同じ苗字だ。
ということは、この人もメチャクチャ偉い人だな。
粗相の無いようにしなければ。

「よ、よろしくお願いします。」
「お前がここでしていいのは魔術を張る手伝いだけだ。勝手なことはするなよ。」
「はい!」

ーーー

魔術で結界を張るのは、明日の朝からのようで、俺は新しいアークの支部を案内してもらえることになった。

「キャンベル様、私が案内させていただきます。」
「あっ、ハリスさんじゃないですか!」
「はい、お久しぶりでございます。」

ハリス。
この小さなお爺さんはレイ・ハムシークに仕える執事だ。
彼がいたことで、俺はかなり安心した。
でも、なぜ彼がここに?
レイさんもここにいるのか?

「お久しぶりです。あれ、でもハリスさん、レイさんの執事は?」
「はい、現在も勿論レイ様に仕えております。ですが、レイ様は現在、少し長期の任務に出られておりますので、臨時でムロド様にお仕えしています。」

超越者討伐任務の会議にレイさんが出席していなかったことから、彼が何かの任務に出ているのだろうと思っていたが、長期の任務ぅ!?
仮にも俺の隊長なのだから、一言くらい言ってくれてもいいんじゃないか?
なんて、最初の俺なら思っていたかもしれないが、レイさんがスーパー自己中心野郎だってことはこれまでの任務で散々知っているので、俺はハリスの返答を簡単に流すことができた。

「そうなんですね。」
「はい、では案内の方をさせていただきます。」
「よろしくお願いします。」

ーーー

新しい支部の中はアーク本部とは違い、非常に質素なものだった。
どちらも、古びた建物ということに変わりはないが、アークは巨大な城といった感じで、高貴な雰囲気が漂っている。
それに対して、バベルは見渡す限り石って感じだ。
床、壁、天井の全てが石で作られており、暗く、冷たさを感じる。
こんな場所に案内するような場所があるのか、と思うが、ハリスに従って彼の後を追う。

「この新しい支部は“バベル”と呼ばれています。元あった塔を改築したもので、とても古いものですが、想定より早く完成しそうです。」
「へー、確かに、古いですね。」

やっぱりそうか。
本部もそうやって建てられたんだろうな。

「そしてキャンベル様、既にお話は聞いていると思いますが、明日からは魔術の助力してもらいます。」 
「分かってます!そのために来たんですから。魔術を使うのは久しぶりなので、緊張します。」

俺がそう言うと、ハリスが立ち止まった。
そして振り返り、真剣な面持ちで俺を見つめる。

「キャンベル様、一点だけご注意を。」
「はい、なんでしょうか?」
「明日からあなたは、ハムシーク家から離れ、セムス家で働きます。キャンベル様はハムシーク家の方々をどう感じましたか?」
「まぁ、えっと...」

俺が知るハムシーク家は2人。
1人はレイさん、そしてもう1人は先程会ったムロドだ。
どちらにも共通して言えることは1つ。
2人とも偉そうで、自己中心的だ。
でも、そんなことを正直に話せる訳がない。
だって2人はアークの最高権力者だ。

うまい嘘も思いつかなかった俺は、何も言えずに口籠もっていた。
そんな俺の様子を見て、ハリス少し微笑んだ。

「他言はしません。正直に仰っていただいて大丈夫です。」
「はは...そうですか...。まあ、変な人が多いですね。自分のことばっかりっていうか...。」

これでも最大限オブラートに包んだつもりだ。

「自己中心的な方が多いですよね。」
「まあ、はい。そう言うことです。」

俺が観念して正直に話すと、ハリスは“ハッハっハッ”と大きな声で笑った。

「でも、悪い人は少ない。ハムシーク家の方々は皆、本気でこの戦争を終わらせようとしています。だから私はハムシーク家に仕えているのです。」
「それは...俺にも分かります。」
「それは良かったです。でも、セムス家は違います。彼らは評議会の権力に溺れており、傲慢です。自身の家に邪魔な者がいると、平気で死刑を下す。キャンベル様、くれぐれも明日は彼らに失礼がないようご注意を。」

俺はハリスの言葉に驚き、後ずさった。

セムス家もハムシーク家同様、自己中心的な人が多いのだろうと思っていたが、そこまでとは。
魔術を強化しにきたのに、死刑を下されるようなことがあっては笑えない。
これまで以上に、粗相がないよう気をつけなければ。

「わ、分かりました。気をつけます。」
「それでは支部の案内はこれで終わりです。キャンベル様、明日のためにお休みください。」

バベルの中に入って数分。
突然、案内は終了した。
確かに案内される場所か少なそうだとは思っていたが、ほとんど入り口までしか案内されていない。

「えっ!もう終わりですか!?まだ、支部の名前と明日の注意しか...。」
「はい、これで終わりです。ムロド様にはキャンベル様に明日の注意をすることだけ命じられておりますので。それに、まだ入室許可の出ている部屋はほぼありません。」

ハリスはそう言って今日俺が泊まる部屋の鍵を渡すと、バベルのどこかへと消えていった。
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