ノアズアーク 〜転生してもスーパーハードモードな俺の人生〜

こんくり

文字の大きさ
上 下
43 / 47

第41話 鳩の知らせ

しおりを挟む
年が明けてすぐ、俺はニコ班長から直接の任務要請が入った。
俺はレイ部隊に所属しているので、いつもならまずレイに任務要請が入った後、俺に任務が伝えられる。
俺に直接入るということは、俺でなければいけない、何か理由のある任務なのだろう。

ニコ班長の部屋に入ると、既に沢山の人が集まっていた。
ニコ班長の隣にはゼインさんが座っていて、他の席にはエマやカンナリなどの見知った顔から見知らぬ顔までいる。
全員がアークの戦闘服を着ていることから、覚醒者が集められていることが分かった。
数にして、3部隊ほど集まっているのではないだろうか。

任務要請と言われて集まっているので、ここにいる全員で任務に当たるのだろう。
ここまで多くの覚醒者が1つに任務を担当するのは見たことがない。

「ルーク君、空いてる席に座って。」

ニコ班長に促され、空いていたカンナリの隣の席に座る。
俺の後にも数人の覚醒者が入ってきたが、レイさんが来ることは無かった。
そして空いている席が無くなると、ゼインが立ち上がった。

「今回の任務の概要は私から説明させてもらう。というのも、私の操る鳩が超越者の居場所を突き止めた。」

“超越者”
彼のその一言で、部屋の空気が一気に変わった。

これだけ多くの覚醒者がいて、そして解放者もいる。
皆が何となく、今から始まる任務がアークで最大規模級の1つだと分かっていただろう。
でも、これは予想外だった。

「えっ、まさか...。」

覚醒者の1人が口を開いた。
それにゼインは黙って頷く。

「前回、エレナ部隊とガラド部隊が超越者と対峙した時、数十羽の鳩に超越者を追わせた。その殆どが帰って来なかったんだが、2匹だけ帰ってくることが出来たんだ。1匹は情報を読み取る前に絶命したが、もう1匹は奇跡的に無事だった。残った鳩から1体の超越者の居場所を割り出すことができた。そこで、君たちにはその超越者を討伐してもらいたい。任務の詳細は彼女から。」

ゼインがそう言うと、ニコ班長が立ち上がった。

「では私から任務の詳細を。まず任務地はドルド王国周辺の戦争地帯よ。超越者の数は1体で、大勢の厄災を従えているわ。そして、この任務の隊長はエレナ・グレッチャーにお願いしたい。彼女の部隊とルーク君、カンナリの超越者と対峙経験のある人達を中心に任務に当たって。最後に作戦ね。超越者は大量の厄災に守られている。その大量の厄災を相手にしていては、超越者と戦う余裕なんてない。そこで、ルーク君の魔術による奇襲を作戦とする。」

俺はニコ班長の言葉に耳を疑った。

俺の魔術が作戦!?
彼女が俺に何を求めているのかは何となくわかる。
おそらく俺の魔術で部隊の姿を消し、出来るだけ超越者以外の厄災を避けて戦う、というものだろう。
作戦の内容としては、悪くない。
しかし、関心の俺に成功させる自信がない。
 
「えっ...、俺の魔術が作戦ですか?」
「そうよ。」
「でも、アークには俺以上に魔術を扱える人が沢山います。それでなぜ俺が?」
「もちろん、アークにはセムス家をはじめとした魔術のエキスパートが多くいる。その中にはルーク君より魔術を上手く扱う人もいるでしょう。でも、彼らは厄災と戦えない。任務中に魔術の使用を繰り返せる人が必要なの。そして、それが出来る覚醒者は君以外にいない。」
「そう...ですか。」

確かに、俺の魔術の実力は覚醒者の中ではかなり上の方だ。
もしかしたらシモンに次ぐ魔術師かもしれない。でも、その1つ上のシモンには遠く及ばないだろう。
その差がどれくらいのものなのか、そしてそれが超越者に通用するのか、自分でも分からないのだ。

アザモノに俺の魔術は通用した。
でも、超越者を相手に魔術を使ったことはない。
一瞬で見破られてしまう可能性もある。
もしそうなれば、俺たちは大量にいる厄災の中心に身を投げ出すことになる。
そんな状況で超越者に襲われれば、全滅は確実。
つまり、この作戦は俺次第で始まりすらしない。

「作戦は1ヶ月後よ。準備の時間を長めにとるから、訓練と作戦の練り込みを欠かさないで。あと、ルーク君は魔術の練習ね。では、解散。」

ーーー

解散後、各々が準備に自室に帰ったが、俺は1人、部屋に残った。
誰かに残れと言われた訳ではない。
この任務に対する自分の責任が大き過ぎて、頭の中を処理するのに時間がかかっていたのだ。

超越者討伐作戦まで、あと1ヶ月。
それまでに自分がどれくらいやれるかを理解しなければいけない。
そして実力が足りていなければ、残った時間で引き上げる...

...なんてこと、本当にできるのか?

くそっ、なんで俺が...。

自分に大きな責任が乗っていることに不満が無いと言えば嘘になる。
でも、ニコ班長やゼインさんをはじめ、沢山の人が考えた上でこの作戦になったはずだ。
これが、考えられ得る最善なのだろう。
もう、決まったことなのだ。
全力でやるしかない。

そんなことを考えていると、ニコ班長が部屋に帰ってきた。

「あれ、ルーク君まだいたんだ。」
「はい...。俺に出来るかなって...。」

俺がそう言うと、ニコ班長は何度か頷き、自分の席に座った。
少しの間、沈黙が続く。
そして、俺が自室に帰ろうと、立ち上がった時、ニコ班長が俺を呼び止めた。

「ルーク君、もちろん今回の任務はあなたにかかってる。でも、失敗したからって誰もあなたを責めない。作戦を決めるにあたってこれが最善だと、評議会がゴーサインを出した。だから、失敗すれば責任は全てアークにある。言われたところで無理だろうけど、あまり気負わないで。」

ニコ班長の言うように、気負いすぎるのは良くない。
失敗したら...なんて考えれば考えるほど、失敗の確率が上がっていく。
そんなことは分かっている。
分かってはいるが、この任務の自分に対する責任の大きさを気にしないなんて出来る訳がない。
俺の失敗で多くの仲間を失うかもしれない。
運良く逃げ切れたとしても、超越者にこちらから仕掛けるチャンスが次に来るのはいつになるのか。
どちらにしても、2度目はないのだ。

「遅かれ早かれ、アークは超越者を倒さなければいけない。少し予想より早かったけど、今回の任務はアーク側から仕掛けることができるチャンスだ。こんなこと、次来るのは数十年後か、それとも数百年後か。そしてそのチャンスに君がいる。魔術を扱える覚醒者なんてそうそういない。んー、だから何が言いたいかって言うと、君がいるからこの作戦ができるってこと。他の作戦の方が成功率は低いんだ。」
「そう...ですか。でも、俺のせいで誰かが死ぬのは嫌です。絶対に成功させます。」

俺のその言葉に、ニコ班長は笑顔で頷いた。

「うん、いいね。なら、1つ提案なんだけど。」
「何ですか?」
「セムス家に魔術を習いにいかない?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

赤き翼の万能屋―万能少女と出来損ない死霊術師の共同生活―

文海マヤ
ファンタジー
「代わりのない物なんてない。この世は代替品と上位互換に溢れてる」  万能屋。  猫探しから家の掃除や店番、果ては護衛や汚れ仕事まで、あらゆるものの代わりとなることを生業とするもの。  そして、その中でも最強と名高い一人――万能屋【赤翼】リタ・ランプシェード。  生家を焼かれた死霊術師、ジェイ・スペクターは、そんな彼女の下を訪ね、こう依頼する。 「今月いっぱい――陸の月が終わるまででいいんだ。僕のことを、守ってはくれないだろうか」 そうして始まる、二人の奇妙な共同生活。 出来損ないの死霊術師と最強の万能屋が繰り広げる、本格ファンタジー。 なろうに先行投稿中。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

転生してテイマーになった僕の異世界冒険譚

ノデミチ
ファンタジー
田中六朗、18歳。 原因不明の発熱が続き、ほぼ寝たきりの生活。結果死亡。 気が付けば異世界。10歳の少年に! 女神が現れ話を聞くと、六朗は本来、この異世界ルーセリアに生まれるはずが、間違えて地球に生まれてしまったとの事。莫大な魔力を持ったが為に、地球では使う事が出来ず魔力過多で燃え尽きてしまったらしい。 お詫びの転生ということで、病気にならないチートな身体と莫大な魔力を授かり、「この世界では思う存分人生を楽しんでください」と。 寝たきりだった六朗は、ライトノベルやゲームが大好き。今、自分がその世界にいる! 勇者? 王様? 何になる? ライトノベルで好きだった「魔物使い=モンスターテイマー」をやってみよう! 六朗=ロックと名乗り、チートな身体と莫大な魔力で異世界を自由に生きる! カクヨムでも公開しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...