ノアズアーク 〜転生してもスーパーハードモードな俺の人生〜

こんくり

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第35話 誕生 part2

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~エマ目線~

アークには私たちがいた本部の他に4つの支部がある。
それらは東西南北に1つずつ存在しており、各2名の覚醒者が駐在、その他は探索班で構成されている。

そんなアークの厄災調査の要とも言える支部の1つが超越者によって襲撃された。

アークが超越者によって襲撃されたのは初めてではない。
1度目はアーク創設当初に、2度目は私がアークに在籍する少し前。
2度ある事は3度あると言う。
しかし、アークは2度目の襲撃を機に魔術師の育成を積極的に始めた。
アークを隠すことに全力を注いだのだ。
だから、この任務に当たるまで私ですら支部の正確な場所を知らなかった。
アークの場所を正確に把握しているのは評議会と数人の解放者のみ。
にも関わらず、今回の襲撃が起きた。

超越者はどうやって支部の場所を...。

「エレナ隊長、超越者は何故この場所が分かったのでしょうか?」
「さあ、私も気になっていた。アークは本部と支部、どちらもセムス家指折りの魔術師が結界で隠している。偶然見つけられるようなものじゃない。」

エレナ隊長の言う通り、歩いていたら偶然見つけたなんてことは起こるはずがない。
考えたくはないが...

「裏切り者でしょうね。」

フィンがポツリと呟いた。

「まあ、そう考えるのが妥当だろう。」

フィンの言葉にエレナは顔色ひとつ変えることなく、そう答えた。

迷わず仲間を疑うのはどうかと思うが、フィンの言っていることは正しい。
以前のゴフェル強奪の件と言い、完全にアークから情報が外部に漏れている。

「俺は違いますよ?」
「そんなこと言われなくてもわかっているさ。フィン、君は生意気だが、忠実だ。」
「ハハっ、そうですね。あ、エレナ隊長、エマ。」
「なに?」
「11秒後に来ます。」

ーーー

支部の中に入ると、すぐに厄災に勘付かれた。

「私が先陣を切る。フィンは敵の情報を、エマは後ろを守って。」
「はい!」「はい!」

3人が同時にノア化し、方舟を構える。

「前から4体、後ろから2体。来ます!」

フィンの言った数の通り、厄災は私たちの目の前に現れた。

エレナは彼女の背丈ほどあるステッキ状の方舟を構える。
すると、ステッキの先端に氷の刃が形成された。

エレナ・グレッチャーは氷を自由自在に操る能力を持つ。
彼女は数少ない女性の覚醒者であり、唯一の女性の解放者だ。

彼女が方舟を一振りすると、4体の厄災は氷に包まれ、粉々に割れた。

「これなら、ガラド部隊の到着を待つまでも無さそうね。」
「エレナ隊長、ほとんどの厄災は2階にいます。行きましょう。」

ーーー

「うっ。」

2階に着くと同時に、腐った血と肉の匂いが鼻をついた。
見ないようにしているが、大量の死体がそこら中に転がっているのが分かる。
どれも、人の形をとどめていない。

「これは酷いな。」

フィンが顔ををしかめる。

「フィン、厄災はどこ?」

エレナは少し戸惑った様子でそう言った。

「そうですね...。確かに俺の方舟には100近くの形跡が写ったんですけど...。」

フィンも戸惑った様子だった。

彼らが驚くのも無理はない。
フィンの偵察能力には全探索班班員をもったとしても敵わない。
そんな彼が2階にほとんどの厄災がいると言ったのだ。
しかし、ほとんどの厄災がいるはずの支部の2階には、形跡が残るのみで、厄災は1体も見当たらなかった。

「フィン、上の階にいる可能性はないの?」
「いや、それはない。上にも数体の反応がある。でも、100近くの数字とたった数体と言う数字を俺の方舟が間違うわけがない。」
「だよね。」

一応、フィンに間違いが無いか聞いて見るが、もちろん無い。
なら、なぜ100体近くいた厄災が消えている?

「エレナ隊長、これは...。」
「ああ...、こんなこと私も初めてだ。」

誰かが私たちよりも先に殺した?
いや、ありえない。
厄災を倒すことができるのはノアの覚醒者だけだ。
ノアの力を使えば、痕跡が残る。
方舟を使えば、尚更強くだ。

「俺の間違いってこともあるかもしれません。上の階に行きましょう。」

ーーー

上の階に着くと、やはり厄災は数体しかいなかった。

あれだけ多くの厄災は一体どこに...。

「やっぱり、いませんね。」
「うん、不可解だね。でも、いないに越したことはない。いるだけ倒して帰ろう。」

エレナは視界に入った厄災を瞬く間に全滅させた。

「フィン、あと何体いる?」
「少しお待ちを。...えーっと、...1体です。場所は...大広間にいます。」

フィンの言う通りに、私たちは大広間へと向かった。

クチャ クチャ クチャ ンッ

「何ですか、この音は。」

大広間に近づくに連れ、何かを食べるような、そんな音が聞こえた。

「フィン、分かるか?」
「いえ、厄災がいることは分かりますが、何が起こっているかまでは。少し様子を伺いますか?」
「いや、たった一体の厄災を警戒する必要はない。正面突破だ。」

エレナはそう言うと、大広間の扉を凍らせ、粉々にした。
土煙が晴れると、大広間の中には、うずくまる人影が1つ見えた。
その人影はモゾモゾと小刻みに動いている。

「フィン、あれは?」
「厄災です。」

それを聞いたエレナは方舟を厄災に向ける。
すると、一直線に氷が厄災に向けて形成されていった。
氷の山が厄災を貫くかと思われたその時、氷が弾け飛んだ。

「なっ、。」

エレナ隊長の、解放者の攻撃があっさり弾かれてしまった。
ノアの中でも解放者は特別だ。
私たちとは段違いの力を持つ。
厄災ごときがどうこう出来るものではない。

「ウウッ」

うずくまる厄災はゆっくりと立ち上がり、振り向いた。
厄災の頬は大きく膨らんでいた。
厄災は頬につまったものを何度か噛むと、ゴクリと飲み込んだ。
そして、右手持った“肉のような何か”を口に放り込む。

なにか、食べている?

厄災は食事を必要としない。
人間に溶け込むために形上、食事をする厄災もいるそうだが、あくまで形だ。

それに私は、あの“肉のような何か”をどこかで見たことがある気がする。
まさか、あれは...。

「共喰い...しているのか?」

エレナが呟いた。

共喰い...。
厄災が厄災を...。
肉片を取り込んでいるのか?

「ウウッ...。」

厄災の動きが突然、ピタリと止まった。
そして、みるみるうちに全身にヒビが入っていく。
ヒビが厄災の頭からつま先まで広がると、一気に砕け、尻餅をつくほどの風が吹いた。

「ぐっ、何だ、何が起こった?フィン!」
「わ、分かりません!」
「フィン、エマ、何か来る!方舟を構えろ!!」

風の勢いは凄まじく、立っているのがやっとだった。

ようやく風がおさまると、厄災のいた場所にはには光り輝く全裸の男が立っていた。
エレナ隊長とフィンは何が起こったのか分からず、立ち尽くしている。
でも、私は違った。

「あ...。はっ、はっ、はっ。」

心臓の鼓動が速くなる。
呼吸を...。
呼吸しないと...。

私は“あれ”を知っている。

あの姿...。
忘れたくても忘れられない。
真っ白の髪に真っ白の肌。
あの厄災、共喰いをして成長したのだ。
厄災の最高到達点。

「エマ、まさか“あれ”は...。」
「はい、超越者です。」

そう、今この瞬間、超越者が誕生した。
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