ノアズアーク 〜転生してもスーパーハードモードな俺の人生〜

こんくり

文字の大きさ
上 下
34 / 47

第32話 簡単な任務

しおりを挟む
次の日の正午頃、馬車が止まった。

任務についてレイから説明されることもないまま、目的地についた。
そして馬車から出たとき、俺は広がる光景に目を疑った。

辺り一面、霧で真っ白だったのだ。
隣にいるレイさんでさえ、ぼんやりとしか見えない。
これでは厄災に襲われた時、反応が遅れてしまう。

「レイさん、これ…どうしますか?」
「ん?進むよ。」

真っ白の視界プラス方舟が使えない俺は警戒度マックスだったが、そんな俺とは正反対にレイは至極冷静だった。
流石は解放者、余裕が違う。

「そ、そうですよね。進みましょう。」
「はぐれないでよ。」

俺はレイから離れないよう、彼の後ろにピッタリと張り付きながら進んだ。
レイはそんな俺を邪魔そうに何度も振り返り、嫌な顔をしていたが、気を使う余裕なんて俺にはなかった。

「レイさん。」
「なに?」
「今回の任務の内容って...。」
「あー、言ってなかったっけ?」
「え...はい...。」

嘘だろ!?
忘れてただけだったのかよ!

「もちろん、厄災退治だよ。簡単な任務さ。」
「あの...もっと詳細を...。」
「えー、面倒くさいなー。どうせ倒すんだから知らなくても一緒でしょ。」
「そ、そこを何とか。」
「しょうがないなー。」

レイはダルそうにそう言うと、渋々説明を始めた。

「あのね、ここは元々、多くの旅人が行方不明なることで有名だったんだ。おそらく厄災が関わっているんじゃないかとアークは睨んでいたんだげど、確証が無かったから後回しになってたんだよね。でも、最近あまりにも行方不明者が多いから探索班を数名向かわせたんだ。」
「それでどうだったんですか?」
「誰も帰って来なかった。探索班は覚醒者ではないとはいえ、厳しい訓練を受けた対厄災のプロだ。戦う事は出来なくても、逃げる事くらいは出来る。そのプロが1人として帰って来れなかった。これは厄災が複数体いると見て間違いないだろう。と言う事で、僕がこの任務を選んだんだ。」
「選ぶとか出来るんですね。」
「僕は特別だからねー。でも、この任務を選んでのは君のためだよ。」

俺のため?
どう言う事だ?

「レイさん、それはどういう...。」
「しっ!静かに。」

レイが突然、立ち止まった。
密着して歩いていたので、レイの背中にぶつかる。

「ど、どしたんですか?」
「囲まれてる。」
「な、何に...。」
「厄災に決まってるだろう。」

一気に緊張感が走る。

俺は全く気づかなかったが、俺たちはいつの間にか厄災に囲まれていたようだ。

どこにいる?
全く分からない。

「レイさん、どうしますか?」
「ルーク・キャンベル、頭を下げて。」

レイの言う通りに俺がしゃがむと、レイが右手を振り上げた。
すると、その右手が光った。
太陽を見た時のように、目を瞑らざるおえないほど明るい光だ。

「うっ、」

俺は咄嗟に目を瞑った。

【完全解放】

レイがそう呟くと、キーンッという耳鳴りのような音が響いた。
そして数秒後、俺が目を開くと、霧は晴れ、大量の灰が舞っていた。

「っ...。」

俺はあまりにも一瞬の出来事に驚き、動けないでいた。

灰の量からして、厄災は20~30体、もしくはそれ以上いたはずだ。
その量の厄災をレイは今の一撃で葬った。
強いなんてもんじゃない。
次元が違う。

「ふぅー、これでよし。」
「もう...終わりですか?」

俺がそう言うと、レイの顔は一瞬歪み、大きなため息をついた。

「君、覚醒者なのに本当に感覚が鈍いね。これで終わりなわけないでしょ。それじゃあ君をここに連れてきた意味がない。ほら、あそこを見て。」

彼が指差す先には厄災が一体、無傷でこちらを見ていた。
そう、レイはあれだけいた厄災をたった一体だけ残して攻撃したのだ。
とんでもない精度だ。

「一体だけ残してどうするんですか?」
「君が倒すんだよ。決まってるじゃん。」

へ?
俺いま、方舟使えないんですけど。

「ちょっ、ちょっと待ってください!む、無理です!」
「無理とかないから。逃げたら僕が君を殺すよ。ほら、行って。」

彼はそう言うと、俺の尻を蹴った。
そして俺はふわりと宙に浮かび、厄災の目の前に投げ出された。

「グルルルルッッ」

目の前に転がってきたノアの覚醒者を見て、厄災が殺気をはなつ。

それと同時に右から大きな塊が迫ってくるのが分かった。

俺は咄嗟にノア化し、ギリギリその厄災の攻撃をかわす。

「ハァ、ハァッ、あっぶねぇ。」

今のスピード、攻撃力からして、おそらくまだアザモノには至っていない。
しかし、普通の厄災よりは明らかに強い。
アザモノになりかけの厄災って感じだ。

もちろん方舟があれば、このレベルの厄災なんて余裕で倒すことができる。
でも、今は使えない。
ということは今の俺とあの厄災の実力は同等、もしくはそれ以下だ。

厄災の攻撃を避ける間に俺も数発、攻撃してみたが、あまり効いている様子はなかった。
攻撃は最大の防御だ、とはよく言ったものだ。
自分から攻撃できないと、ここまで戦いにくくなってしまうとは。

そんなことを考えている間にも厄災の攻撃は止まない。

やばい。
これじゃあ、やられるのも時間の問題だ。
一体、レイさんはどういうつもりなんだ。

レイの方へ、ちらりと目をやると彼は顔色ひとつ変えず、俺と厄災の戦いを見ていた。
覚醒者が今1人減ってしまうかもしれない時に。

「ルーク・キャンベル、戦いの間によそ見をするな。死ぬぞ。」
「そ、そんなこと...っ!」

そして案の定、戦いの間によそ見をしていた俺に厄災の攻撃が直撃した。

「ぐはっ!」

俺が吹き飛ばされると、レイが空中で俺を受けとめた。

「もー、何やってるの?君、やる気ある?」
「レ、レイさん、マジで死んじゃいます...。」
「じゃあ、尚更早く倒さないと。ほら、早く行って。」
「待ってください、方舟を使えない俺がどうやってアレを倒せと?」

方舟なしで戦ってみて、改めて分かる。
方舟の無い覚醒者は弱い。
それ程に方舟というものはノアの覚醒者にとって必要不可欠なものなのだ。

「はぁ、君はねノアの力の使い方ってものがなっていない。あの程度の厄災ならば、方舟無しでも十分に倒せる。これは僕だからじゃない、君もそうだ。いいかい?身体中の血管を通して血を流すようにノアの力を流すんだ。いや、君なら炎か。全身の血という油に着火するイメージで、ノアの力を使え。」
「や、やってみます。」

イメージする事が大事ということ以外よく分からなかったが、とりあえず言われた通りにやってみる。

まずは目を閉じる。
集中するんだ。
そして、全身に流れるノアの力を感じる。
・・・
よし、次はそれに一気に着火だ。
・・・
・・・
くそっ...。

途中までは上手く行っているように感じた。
でも、体から溢れ出る力、炎はいつもと同じで変わった様子はない。

「ダメでした...。」
「いや、ルーク・キャンベル...、これは...。」

ふと前を見ると、レイはひどく驚いた顔をしていた。

「な、なんですか?」
「首元のそれ...。」

レイは俺の首元を指差した。
俺がその方向へ視線を落とすと、首元にかかるゴフェルが光っているのが分かった。
そしてそれは俺の両腕に分かれ、グローブの形になった。
その瞬間、白い炎の勢いがこれまでにないほどに増す。

「えっ...。方舟...!?」

驚くことに、加工されていないゴフェルが方舟の役割を果たしている。
形は少し歪だが、確かに俺の方舟の形だ。
それに、完全解放した時の形に近い気がする。

何がきっかけになったのか、そもそも加工前のゴフェルがなぜ方舟の役割を果たせているのか分からないが、とにかく俺の方舟は復活した。

「君、それどうやったの?」
「わ、わかりません..。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

インフィニティ•ゼノ•リバース

タカユキ
ファンタジー
女神様に異世界転移された俺とクラスメイトは、魔王討伐の使命を背負った。 しかし、それを素直に応じるクラスメイト達ではなかった。 それぞれ独自に日常謳歌したりしていた。 最初は真面目に修行していたが、敵の恐ろしい能力を知り、魔王討伐は保留にした。 そして日常を楽しんでいたが…魔族に襲われ、日常に変化が起きた。 そしてある日、2つの自分だけのオリジナルスキルがある事を知る。 その一つは無限の力、もう一つが人形を作り、それを魔族に変える力だった。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

転生してテイマーになった僕の異世界冒険譚

ノデミチ
ファンタジー
田中六朗、18歳。 原因不明の発熱が続き、ほぼ寝たきりの生活。結果死亡。 気が付けば異世界。10歳の少年に! 女神が現れ話を聞くと、六朗は本来、この異世界ルーセリアに生まれるはずが、間違えて地球に生まれてしまったとの事。莫大な魔力を持ったが為に、地球では使う事が出来ず魔力過多で燃え尽きてしまったらしい。 お詫びの転生ということで、病気にならないチートな身体と莫大な魔力を授かり、「この世界では思う存分人生を楽しんでください」と。 寝たきりだった六朗は、ライトノベルやゲームが大好き。今、自分がその世界にいる! 勇者? 王様? 何になる? ライトノベルで好きだった「魔物使い=モンスターテイマー」をやってみよう! 六朗=ロックと名乗り、チートな身体と莫大な魔力で異世界を自由に生きる! カクヨムでも公開しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...