ノアズアーク 〜転生してもスーパーハードモードな俺の人生〜

こんくり

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第16話 初任務

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部屋に戻ると、ドルド王国に置いてきたはずの俺の荷物が置かれていた。

本当に取りに行ってくれたのか。
荷物のほとんどはもう必要のないものだったが、シモンからもらったペンダントだけは必要だ。
これからは首から下げておこう。

荷物の横に、もう1つ大きな袋があった。
これは俺のものではない。
アークからの支給品か何かだろうか。

まぁ、俺の部屋にあるものは俺のものだろう。
という事で、俺は袋の中身を確認することにした。

袋を開けると、中には上下の服と靴が入っていた。色は上下とも黒で、所々に高級感のある装飾がなされている。

朝が早く、ノアモードにもなって疲れていたのでゆっくり二度寝をしようと思っていたが、俺はこのかっちょいい服を試着せずにはいられなかった。

「おお、すごい!」

なんだこのフィット感は。
しなやかさと丈夫さが兼ね備わっている。
ついぴょんぴょん飛び跳ねたり、屈伸したりしてしまう。
こんな高級な服は着たことがない。

明日の任務に備え、戦闘シミュレーションでもしておくか。

厄災をイメージして、下手くそなシャドウを繰り返す。

「ふっ!はっ!はっ!えいや!...ん?」

もう一度言うが、“任務に備えて”イメトレに励んでいると、部屋の前に誰かいる気配がした。

誰だよ。
人が気持ちよくなっている時に。

扉を開けると、昨日の朝、俺を呼びに来た男がまた立っていた。
ニコ班長がまた俺を呼び出したのだろうか。
次は怒られないことを願う。

「また呼び出しですか?」
「いえ、違います。明日の任務についてご説明をしに参りました、私は探索班のジン、微力ながら任務のサポートをさせていただきます。」
「はあ、じゃあ...お願いします。」
「まずは、アークに所属する覚醒者様に支給される制服の説明を...と思ったのですが、大丈夫そうですね。」

ジンと名乗る男は俺が既に制服を身につけているのを見てそう言った。

新しいおもちゃを買ってもらった子供を見るような目をする彼を見て、俺は一気に恥ずかしくなってきた。

やめろ!
俺がカッコいい服に興奮してはしゃいでたみたいじゃないか!

「...はい、大丈夫です。」
「よくお似合いです。えーっと、では明日の集合場所だけお伝えしておきます。明日の朝、アークの5番出口にお越しください。」

ジンはそう言って俺にアークの地図を渡した。

「ありがとうございます。」
「はい、明日の朝、お待ちしております。では、失礼します。」

ーーー

任務当日の朝になった。

時間になったので地図を見ながらアークの5番出口に向かうと、既にカンナリとジンが集合していた。
カンナリは何かにイラついていて、激しく貧乏ゆすりをしている。

彼は俺に気づいた瞬間、カッと俺を睨んだ。

「おい!遅いぞ!」

どうやら彼がイラついている理由は俺だったようだ。
まだ集合時間までは10分以上あるにも関わらず、このブチキレようだ。

「集合時間まで、まだ10分以上ありますけど。」
「関係ねぇよ。ただでさえ足手纏いのお前を待っている時間なんて無いんだよ。」

なんて横暴な。
これから共に命をかけて戦うというのに。
本当にこの2人で大丈夫なのだろうか。
共に戦うどころか、後ろから斬りつけられそうだ。

「はいはい、すいませんね。ジンさん、カンナリがうるさいのでさっさと出発しましょう。」
「あぁ?お前ふざけんなよ!おい、ジン!こいつを任務から外すよう、ニコに言ってこい!」

「揃いましたね。では、任務の説明をします。」

俺とカンナリが揉めているのを無視して、ジンは淡々と任務の説明を始めた。

「今回の任務地は、東の小さな町、ライゼムです。馬車で向かいます。」
「馬車かよ。ヴィルさんはいないのか?」
「はい、ヘンダーソン様は現在、任務でいらっしゃいません。」
「ちっ、だるいな。」

ヴィル?、ヘンダーソン?
その人と今から任務地に馬車で行くことと関係あるのだろうか。

「ヴィル・ヘンダーソンって誰ですか?」
「ヘンダーソン様は、ノアの覚醒者の1人です。アークにいらっしゃる時は能力で任務地までワープさせてくれます。」

ワープ...俺がアークに拉致された時のあれか。
ワープが能力ってとんでもないな。

「へぇー、色々な能力があるんですね。カンナリはどんな能力なんですか?」
「・・・。」

無視だ。
雑魚には教えないってか?
気分の悪いやつだな。

「ジンさん、カンナリはほっといて、出発しましょう。」
「そ、そうですね。では、出して下さい。」

ジンが馬車の御者に声をかけると馬車が動き出した。

馬車に揺られながら、ジンは任務の説明を続けた。

「ライゼムでは、大量の失踪者が出ています。先に潜入している探索班の調査で、厄災の存在が確認されています。おそらく、アザモノかと。」
「アザモノ?」

俺が知らない単語に逐一反応するので、カンナリが舌打ちをしてこちらを向いた。

「お前、いちいち説明を止めるな。」
「2日前にアークに来たばかりなんですよ。何も知らないんです。仕方ないじゃないですか。」

俺とカンナリの喧嘩がヒートアップする前に、ジンが俺たちの間に入る。

「まぁまぁ、お二人とも。ライゼムまではまだ時間があります。ゆっくりいきましょう。」

ジンがそう言うと、カンナリは不服そうな様子で黙った。

「で、アザモノって?」
「そうですね、一言で言ってしまえば、厄災の成長個体です。」

マジかよ、厄災って成長するのか。
確かに、神の肉片を持った化け物が俺に簡単に倒されるほど弱いわけがない。

「アザモノになるとどうなるのですか?」
「まず、キャンベル様は人間がどうやって神の肉片に寄生されるのかご存じですか?」
「いえ、分かりません。」
「そうですか、ではそこから説明しましょう。
どうやって神の肉片を取り込むのか、答えは人間、自ら取り込むのです。」

自ら取り込む?
地面に転がってる肉片を?

この世界は落ちているものを平気で食べる奴が多いのだろうか。
俺なら取り込むどころか、拾いもしないだろう。

「そんな汚い事する人がいるんですね。」
「いえ、それは空腹からではありません。」
「それなら、なぜ取り込むんですか?」
「神の肉片には人間が持つ欲望を増幅させる効果があるからです。そして幻覚を見ます。まるで、神の肉片が自分が欲するものかのように。」

なるほど、欲望を増幅させて神の肉片を取り込まずにはいられなくするってことか。
さすが神の肉片だ、恐ろしすぎる。

ジンは俺の驚く顔を横目に説明を続けた。

「厄災になると欲望、つまり殺人衝動を抑えることができなくなります。奴らは欲望を発散すればするほど強くなり、人間性が消えていきます。そして、一定以上の欲望を発散した時、新しい人格が形成される。その成長個体をアザモノと呼んでいます。」
「新しい人格...。」

完全に別人になってしまうとは。
つまり、俺がルークの体に入ったのと同じようなものか。もちろん俺に殺人衝動なんてないが。

「新しい人格を発言させた奴らは神の使徒となり、神のために行動します。巧みに人間の中に溶け込み、覚醒者に見つからないよう人を殺し続けるのです。」
「...じゃあ、俺たちはどうやって見分けるんですか?」
「奴らの体には形を変える黒い痣があります。厄災が戦う時、体を黒い触手に異形化させ、攻撃してくるでしょう?」
「はい、俺が戦った厄災も黒い触手で暴れ回っていました。」
「その状態は欲望を抑えきれない厄災が暴走している状態です。アザモノは違う、その異形化を完全操るのです。つまり、漆黒の痣はいわば、その触手を収納している場所です。」
「今回はそのアザモノがいると。」
「はい、アザモノになると戦闘力、それに知性も段違いです。お気をつけ下さい。」

ーーー

ジンの説明を聞いていると、目的地についたのか、馬車が止まった。

御者が顔を出した。

「馬車で進めるのはここまでです。ここからは歩いて行ってください。」

どうやら、まだ目的地にはついていないらしい。

馬車から降りると、目の前には谷の両端を結ぶ細長い吊り橋があった。
確かに、これでは馬車はこれ以上進めない。

ジンが地図を取り出す。

「この谷の下にライゼムの町がありますね。この吊り橋を渡りましょう。」

ジンに続いて吊り橋を渡ろうとした時、ふと横を見ると、カンナリの目に十字の紋様が浮かび上がっていた。

「え、なんでノア化してるんですか?」
「先に行ってる。」

カンナリはジンにそう告げると、吊り橋から飛び降りた。
彼の姿が深い谷の中に消えていく。

「えぇぇぇぇ!?ジンさん!彼、飛び降りましたよ!大丈夫なんですか!?」
「いつものことです。私たちは吊り橋を渡りましょう。」

ジンはいたって冷静だった。
本当にいつものことなのだろう。

こんな突然谷を飛び降りる自己中心的な男と初任務だったなんて。
俺とカンナリの2人きりだったなら任務どころではなかっただろう。

俺はジンが任務に同行してくれる事を心底良かったと感じた。
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