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第12話 拉致

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10分ほど経ち、ようやく俺の体は自由に動くようになった。

俺は現在、なぜか俺の名前を知るノアの覚醒者である男に連れ去られている。
男はおそらく敵ではないのだが、俺には『アーク』という目的地がある。
連れて行かれるわけにはいかない。

「ちょっと!下ろしてください!」
「ダメだ、お前逃げるつもりだろ。」
「当たり前でしょ!」
「じゃあダメだ。」

男は暴れる俺を冷静に押さえ込む。

「もう一度確認するが、お前がルークで間違いないんだな?」
「は、はい。そうですけど。」
「じゃあ、お前がゲアの町で厄災を倒したんだな?」
「な、なぜそれを…?」
「いいから、答えろ。」

男の俺を押さえ込む力が強くなる。

「痛い痛い!わ、分かりました。俺、俺です!」
「よし、確定だな。」

こいつばっかり質問しやがって。
聞きたいことがあるのは俺の方なのに。

男がなぜ王女様が厄災だと気づいていたのか、そしてどこに俺を連れ去ろうとしているのか、聞きたいことは山ほどある。

「なぜ俺を連れ去ろうとしてるんですか?」
「連れてこいって言われてるからだよ。」

この男は誰かに命令されて俺を連れ去っているようだ。
しかし誰がそんなことを?

15歳になるまで、シモンと各地を転々としたが、基本的には人と接触していない。
なので、この世界で俺のことを知っている人は数少ないはずだ。
もしかして、俺がこの体に転生する前のルークを知っている誰かだろうか。

「誰に命令されたんですか?」
「言えない。」
「じゃあ、あなたは誰なんですか?」
「あぁ?聞いてどうする?」
「名前も知らない人についていけませんよ。」
「….。ちっ、カンナリだ。」

カンナリ…。
聞いたことないな。

カンナリは、時折舌打ちをして、俺を睨む。
相当イライラしている様子だ。

「では、カンナリ、一度ドルド王国に戻らせてください。」
「なぜだ?」
「護衛の報告と宿に荷物を取りに行かせてください。」
「時間の無駄だ。」

男に俺の話を聞く気はない。
カンナリは何が何でも俺を連れていくつもりのようだ。

しかし、俺は一体どこに連れて行かれのだろうか。

ーーー

突然、カンナリが立ち止まった。
そして、指笛を吹いた。

ピューーーッ

すると、どこからともなく鳩のような鳥が飛んできた。
カンナリの目の前で止まる。

“もう見つけたの?...おっ!彼がルークかい?”

なんと鳥が喋った。
女性の声だ。いや、雌と言った方がいいのか?

「そうだ。厄災を追ってたら、偶然見つけた。」
“えぇ!厄災もいたの!?最近活発になってきてるね。”

カンナリは特に不思議がる様子もなく、普通に鳥と会話している。
鳥と会話する集団がいる場所に今から連れて行かれるのかと思うと不安がすごい。

“じゃあ今回の任務は完了だ。彼と一緒に帰還して。”
「了解。おい、この鳩マーキング済みか?」
“済んでるよ。後処理も終わった?”
「ああ、早くしてくれ。」
“呼んでくるから、少し待ってて。”

カンナリと鳩が何やら意味の分からない会話をしていると思ったら、鳩はちょこんとカンナリの頭の上に座った。

“もしもし、カンナリ聞こえているかい?”

鳩の声が男性の声に変わった。

「はい、聞こえてます。人数は2人です。少し広めにお願いします。」

鳩の声が変わると、カンナリは鳩に対して敬語になった。
相変わらず、会話の内容は意味がわからない。

“じゃあ、行くよ。”

男性の声がそう言うと、カンナリの足元から円が広がり始めた。
どんどん円は広がっていく。
円が俺とカンナリを囲うほどに広くなった時だった。

俺たちは円の中に落ちた。

ーーー

ただひたすらに下へと落ちる感覚に襲われた。

ーーー

目を開けると、そこは広い平原だった。

ふと見上げるとカンナリがこちらを見下ろしていた。

「い…今のは何ですか?」
「お前の白い炎と一緒の類だ。格は違うがな。」
「俺と一緒….?」
「もういいから立て。説明は後だ。」

俺はカンナリに言われるがまま、立ち上がった。
一歩踏み出すと、何かにぶつかった。

「痛っ、。」

見えないが、確かにそこには壁がある。
俺はこの壁の正体を一瞬で理解した。

「魔術だ。なんて高度な…。」

大きすぎて全体を認識できない。
さらに、この規模の魔術に様々な条件が付されている。
規模と質、両方が共に最高水準の魔術だ。
俺はもちろん、シモンでもここまでの魔術を使うことは不可能だろう。

凄まじい魔術に驚いていると、カンナリの頭に乗っていた鳥が俺の前に飛んできた。

“ルーク君、私について来て。”

女性の声に戻っている。

今、俺にある選択肢は、黙ってついていく、もしくは逃げる、の2つ。
逃げる選択肢を取りたいのは山々だ。
でも、逃げ切れるとは思えない。
まず、ここが何処なのかが分からない。

俺は実質1つしかない選択紙を選び、この鳥に黙ってついていく事にした。

ーーー

“今日は...ここだね。”

鳥が指す場所には穴があった。
意図的に開けられた魔術の穴だ。
鳥はその穴をくぐる。
俺もその後に続いた。

「うわぁ...。すげぇ...。」

穴をくぐった先にあったのは古城だった。
さながら、ホ◯ワーツ城のような。
まさに圧巻。
転生したての俺であったなら、飛び上がって喜んだだろう。

“カンナリ、ここまででいいよ、ご苦労様。ルーク君は私について来て。”

俺は鳥に促されるまま、巨大な門をくぐる。門をくぐると、石畳が続いており、その先には大きな扉が見えた。

鳥が近づくと、ゆっくりと扉が開き始めた。
これも魔術だ。
城の扉までの短い道のりだけでも、魔術が施されている所が多々あった。
それらの魔術は一律、守る事に重点を置かれている。

ここまで厳重に守られているこの場所は一体何なのだろうか。
この城の見た目からして、魔法学校だったりして。

扉が完全に開くと、鳥は何処かへ飛んでいった。
城の中から1人、丸眼鏡をかけたブロンドヘアの女性が出て来た。

「ようこそ、ルーク君。」

あの鳥と同じ声だ。
女性は笑顔で、俺への敵意は感じられない。
本当に歓迎されている様子だ。

「こ、こんにちは。」

信じられないだろうが、俺は誘拐された身にも関わらず、この状況に少しワクワクしていた。
最近、いろんな事が起きすぎて忘れかけていたが、俺は異世界で2度目の人生を精一杯楽しむことを心に決めたのだ。
俺が転生前、死に際に願ったのは3つ。
魔法使いになる事、勇者になって世界を救う事、そしてこれは出来ればでいいのだが、ハーレムだ。
転生当初こそ、それらが不可能だという事に絶望したものの、今となっては少しずつ叶いつつある。
少し思っていたものとは違ったが、魔術は使えるようになったし、ノアの力に覚醒して町を1つ救った。
ハーレムは一切実現する気配がないが、願った事の半分以上が叶ったと言ってもいいだろう。
でも、何かが足りなかった。
魔術の腕前がやっと一人前になったと思えば、師匠が失踪、旅に出れば、ジリ貧生活。
大きな力を手に入れたが、生活水準は転生前と同じ、もしくはそれ以下だ。

なんだかんだで、スーパーハードモードな俺の人生。
俺の2度目の人生にずっと足りていないもの。
そう、世界観だ。
俺の認識では、異世界といえば、多種多様な種族や魔物がいて、迷宮やクエストをこなしてレベルアップみたいな感じだった。
しかし、この世界は言うなれば中世ヨーロッパ。その時代の建物や歴史に興味がある人はいいだろうが、俺に言わせてみれば、古いだけだ。
なんなら、厄災という化け物がいる分、生存難易度爆上がりだ。

そんな俺の前に現れたあの有名な魔法学校に似た古城。
期待せずにはいられない。
俺が誘拐された身だということは一旦忘れよう。

俺は女性に促されるまま、城の中へ入った。
と同時に久々にあの感覚に襲われた。
そう、期待を裏切られた時の絶望だ。

「はぁ、。」

ため息が出る。
やっぱりね。

これまでの経験則で分かっていたはずだ。
期待しすぎた。

俺が想像していた空中を飛ぶ蝋燭、喋る肖像画なんてなかった。
もちろん階段も動かない。

城の中には、忙しそうに人が走り回っていた。
大量の資料や本を運んでいたり、沢山の人に呼び出されているのか、部屋から部屋へと出入りを繰り返している人もいる。
総じて皆んな目の下にクマがある。
ブラック企業か何かかここは。

「どうしてため息をつくんだい?」
「いえ、こっちの事情です。」

前言撤回。
俺は誘拐されたのだ。
絶対に逃げてやる。
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