R18)社長室のキスで異世界転移パイロットになった私は、敵方・イケメン僕キャラ総帥に狂愛されて困っています【連載版】

K.A.

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「ふふ。お馬さんが好きなんだろ?」、社長に『SMホテル』に連れ込まれて困っています

(8)-(1)

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 子供の頃、こんな事があった。
 親の車に乗って移動する時、気になる建物があった。『ご宿泊一室四千円から』と書かれたデカデカした看板があったからだ。
 一部屋で四千円なら、親からしたらどうにかなる金額だと悟っていた頃だ。私は言ってしまった。「家族全員で四千円って安い! フジきゅ~の近くにもこんなところがあったらイイね」、と。

 運転席と助手席に座る両親は沈黙した。後部座席に一緒にいた弟は、フジきゅ~という言葉に反応したらしく、電車のおもちゃをいくつ買ってもらえるかについて、彼なりに真剣に悩んでいそうな発言を繰り返していた。
 向かっていたショッピングセンターに到着するまで、両親には話しかけてもらえず、弟からは、「お姉ちゃんの嘘つき!」となかばいわれのない内容の罵声ばせいを大量に浴びせられた。
 その日、出発前から落ち込んでいた。
 気晴らしになると思って親の買い物についてきたつもりが、ショッピングセンターに到着してから、家族と行動を共にせず、キッズスペースで時間を過ごした。そこで、さらに中途半端な出来事があってモヤモヤした。だから、つらい記憶として残ったのかもしれないけど、『ご宿泊一室四千円から』っぽい建物については、口にしてはいけないルールが私の中に生まれた。
 海外に行くのは無理でも、せめて国内で遠出をしたかっただけなのに……

 いかがわしいという言葉を知らない頃、そんな事があったのだ。大人になってからも『ご宿泊一室四千円から』っぽい建物が好きではない。

 社長とデート中、ふと横を見ると、露骨に『ご宿泊一室四千円から』だとアピールしている建物があった。子供の頃のトラウマが、後遺症として残っていたらしい。私は、社長の腕にしがみついた。社長の身体を引っ張り、その場を早く抜けようとした。
 私の行動が急に変わったのが、社長も気になったらしい。「ああ……」と納得するような声を発したあと、私のペースに合わせて素早く移動してくれた。

『駅への近道を選ぶ際は、もう少し慎重に考えるようにするよ。ネットの情報に頼ってばかりでは、天王寺先輩のに危険がおよぶ事があるかもしれない。大丈夫。僕は、君が心嬉しく過ごせる事を一番に考えたい』

 あの日、帰りの電車の中で、社長がそんな風に言ってくれた。
 子供の頃のあるあるエピソードを社長に話したおぼえはない。普通の意味で、私が、『ご宿泊一室四千円から』っぽい建物を怖がったと感じてくれたのだろう。港のデートスポットのイベントは、恋人同士として楽しい時間を過ごした。でも、まだ身体の関係は怖い……そう伝わったのだと思う。

『天王寺先輩、乗り換えの時、駅ビルで買い物に付き合ってくれないか?』

 息が詰まったままデートを終了させないように、社長は気づかってくれた。ご自分のお買い物かと思っていたら、本屋に併設されたステーショナリーコーナーで、可愛らしい動物マグネットセットを買ってくれたのだ。

『これなら、家の冷蔵庫に貼りつけてもよいし、オフィスで使ってもよいだろ。帰って、冷蔵庫の中の飲み物を口にして一息したところで眺めてほしい。オフィスのパーティションに貼ってみて、使い心地がどうだったか報告してくれ』

 社長は、『ご宿泊一室四千円から』に関する事には一切触れず、今日は家に帰れるから大丈夫というメッセージと、明日からも会社にきて普通に話してくださいというメッセージを伝えてくれた。
 その気持ちが痛いほど伝わってきた。夕方に向かう中途半端な時間でも大勢の人がいる場所で、感動の涙を流しそうになったけど、小説の新刊案内の吊り広告が目に入ったので、我に返り止まる事ができた。

『お馬さんが気に入ったの?』

 すべてデザイン違いのマグネットセットの中で一番気に入ったのはお馬さん。目がくりっとして、全体的に丸っこい印象で可愛い。子供の頃から、キャラクター化されたお馬さんが好き。
 社長も可愛いと言ってくれたので、お馬さんマグネットは、オフィスで使う事にした。
 そうオフィスで……社長室から、久々に事務デスクに戻ると、ファウンテでの出来事を思い出してばかりになってしまった。
 夢を見ていたのではなく、あれは現実だったんだ。
 プレゼントのお馬さんマグネットが目に入ると、ファウンテの『リアフ』という生き物の事を思い出した。ポニーみたいに小型で、さらにカピバラのように丸っこく、さらにさらにモフモフなさわり心地という愛すべき彼らが自由に暮らす草原の上に、ジェネの機体が出現した事があった。交戦には至らず、通過してくれ、ほっとした。
 彼ら『リアフ』以外も暮らす、自然の緑野りょくやが傷つけられずに済んだ。海の割合が多いファウンテで、しかも人工陸地でない場所は超貴重なのだ。

 そのファウンテから戻り、オフィスで仕事……というよりは、ずっと考え事をしていた。
 重要任務を与えられる立場ではないし、与えられても無理だけど、電話が鳴れば、誰よりも早く出ようと心掛けていたつもりだ。ましてや社長からのコールであれば、電話機の小型ディスプレイに内線番号が表示された瞬間、着信音を再生する機能の作動に勝つぐらいの勢いで手を伸ばしていた。

 私、天王寺有栖は、電話の取り次ぎもできない社員に成りさがっていた。
 一度だけ、受話器を耳にあててしまったけど、「ファウンテへ一緒に帰ろう」という社長の声を聞いた瞬間、受話器を叩きつけるようにして通話を切った。なるべく事務用品棚の前にぴったりくっついていたけど、自分の席の内線が鳴ると、お手洗いへとダッシュしていた。
 現代日本に帰ってきた私は、正体が、異世界ファウンテの悪の華エリオット・ジールゲンという社長を徹底的に避けた。
 はずだったのだけど……

「お馬さんが気に入ったの?」

 私は、ぷるぷるしながら、頭を横に振った。
 ダークスーツ姿の社長はにこやかだ。ジャケットの胸ポケットから、高級ボールペンのはしが出ていて、赤い光を浴び、悪魔の所有物に相応しく禍々まがまがしい輝きを放っている。
 社長は今、マイボールペンをお持ちですし……事務服姿とはいえ、天王寺有栖は現在オフィス外におります故、業務命令は聞ける事と聞けない事があります……というのでお願いしたいです。
 マグネットのお馬さんは、温かみあるデザインですが触れ心地はかたいです。そのお馬さんは、座るところはビニールレザーっぽいのでソフトな質感だと思いますが、冷たい印象というか……触れたら、めちゃくちゃハードと表現しちゃうと思います!

「じゃらじゃら言っている部分は、本物の金属だが、君の肌があたる部分の安全性は問題ない構造になっている。この部屋の事は、あらかじめ調査済みだ。心配しないでほしい。ふふふ。ネットの情報に頼ってばかりでは、天王寺先輩のに危険がおよぶ事があるかもしれない。大丈夫。僕は、君が心嬉しく過ごせる事を一番に考えたい」

 じゃらじゃら言う鎖を手放した社長は、くらの部分をスリスリする。
 生まれて初めて入ったけど……『四千円』だとしたら安い。
 部屋の中が赤い。
 壁紙が赤色のせいなのか、目の前にある鉄格子が赤くペインティングされているせいなのか、そこにそびえるX字で手足を拘束されちゃうと思われるやつが赤いせいなのか、社長がスリスリしているお馬さんが赤を基調としているせいなのか……手を縛られ、ベッドの上に座っているしかない冴えないOLの目に、赤色ビニールレザー素材の癖にリアルな作りのギロチン台が映った。
 前に思わず想像してしまった事があるけど、その時よりもリアルな感じで、ギロチン台に固定された自分が、後ろから社長にアレコレいじられる図が頭をよぎった。
 あのギロチン台、首と両手を前側に突き出す形で本気で拘束されちゃうやつだよ!
 ぬ、濡れてる量が少ないうちは、この刑からのがれられないとか言われちゃうよ……きっと。とろとろの蜜を流すさまを、執行人の僕に見せてくれとか言われちゃうよ……きっと。や、やばい……

 鏡が多過ぎる部屋だ。天井にも鏡があって、真っ赤なカーペットを映し出しているじゃないか。
 これで『四千円』だとしたら安過ぎる。
 視線を右に向けても左に向けても、鏡越しに、お馬さんをスリスリしている社長の姿が目に入るぐらいに鏡がいっぱいだ。

「お馬さんにまたがる者が落ちないように、手枷足枷が完備されている。お馬さんの首に腕を回しても、下から伸びる鎖で繋げる。腕を大きくあげてまたがりたい場合、ほら、天井からも鎖が垂れているよ。手枷にも、足枷にも、鎖にも、取り外し式のジョイントが用意されているから、格好が自由自在に変えられる」

 スポットライトの赤い光に照らされているお馬さんは、鏡に映しても映さなくても、あやしい雰囲気を漂わせている。
 海外に行くのは無理でも、せめて国内で遠出をしたいと思った『ご宿泊一室四千円から』は、本当はお高かったようだ。高慢ちきで、人を見下したような態度を見せ、リストラ候補の事務用品棚係、天王寺有栖を嘲笑あざわらっているかのようだ……と小説の真似っぽく考えている場合ではない!
 これは、かなりのピンチな状況!
 あ、あれって……あのお馬さんって、裸にされた女の人がまたぐやつ……「アンアン、キャンキャン」言わされるやつでしょ! や、やわらかくて敏感な部分を責められてもだえているのに、まだ滴る量が少ないとか言われちゃうやつでしょ!
 あ……あ……足から伸びた鎖を引っ張られて、「ああっ!」とつやめいた叫びをあげて、熱い息を吐いているところを抱きしめられてしまって、大切な部分の割れ目がもっと食い込んで、濡らしちゃうのを見られて悦ばれちゃうやつでしょ……フィ、フィクションの世界の外にもあったのか……や、やばい!
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