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後ろから、社長に入れられて困っています

(7)-(2)

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「しばらくの間、僕のお仕事に協力してもらうが、家に帰ったら、ベッドの上で夫婦として過ごそう。イアリーの市長の裏切りで、調査が難航してしまって……アリストの記憶をさぐるには、適合体である君との接続という方法しか用意できなかったんだ。女性にとってデリケートな部分に、棒状の器具をさし込ませてもらうしかなくて申し訳ないが、力を貸してほしい。ねえ、僕に触れられ、そして、口づけを交わし、高ぶってきた? 魂が揺さぶられるほど取り乱して。寝所ねどこではない場所で、このようなお願いをする事、もちろん詫びさせてもらうが……君を護る意味でも、アリストの記憶を得るのは重要なんだ。どうしてもなさねばならない。彼女の恨みの想いをデータ化して解析し、このアリストメモリーと殲滅砲撃レ・イダグを繋ぐ必要がある。僕を裏切る奴がいなくなる世界を作らなくてはならない」

 社長の言っている事、アニメの悪役の台詞っぽくって、詳しい説明がなくても何となく理解できる。
 嫌な予感しかしない。
 私が快楽に溺れるとアリストの記憶から何かが得られて、そのデータを使って、世界を滅ぼしてやるという事。
 空中戦艦イレイサが、ジェネに逆らう者すべてを消し去る時が来る。

『早起きしてもらい申し訳なかった。でも、今日、ここにデートにこられて嬉しかったな。最近、仕事が忙しくて……つねに緊張していたんだ。わずかなミスですべてを失うし、誰かにおとしいれられる可能性もある。いつでも心配事ばかりさ。だから、幸せを強く感じる。いっぱいお喋りしたね。今日は、とても楽しかった。人混みすらない落ち着いた場所で、君と二人、温かな時を過ごせた。ああ。窓の外、ヤシの木。サービスエリアに立ち寄るとなぜかあるね。このあたりには初めてきたが、単に車を走らせているだけでも心が癒やされそうだ。次は、ドライブにこないか?』

 あの日、電車で温室観賞に行ったのは、車よりも早く到着したいからという理由だった。一番乗りできれば、社長が気に入った温室を二人占めできるのではないかと考えたすえだったのだけど、目論見通り成功。

「ひ……あ……しゃ、社長……わ、割れ目を……まさか、割れ目をさわっている? あは、や、やめて……いやぁ……ひろげないで……はあ、あは!」

「アリス姉さん、棒、もう少し奥までさし込ませてくれ。大丈夫。ここには僕しかいない。乱れたさまを見せる事、恐れないでほしい。これから夫婦として、長い時を共にするんだ。君と二人で楽しく過ごせるよう、お部屋には、いろいろなおもちゃを用意してある。温かな時を過ごしたいな。落ち着いて愛をはぐくめるよう、不安要素はすべて排除してしまいたいんだ。絶対に、アリス姉さんを護るよ。だから、この愛撫あいぶの波に溺れ、なまめかしいさまを見せてほしい」

 温室に行くのに、深夜出発というのはおかしい。一番乗りはしたい。深夜以外の時間に車で出発だと、泊まりの計画を立てる必要があったので、電車で行く提案を社長からしてくれた。

『結婚したら、のんびりしたデートができなくなるから、電車の遠出もまた行こう。父と母と出掛ける際、必ず警護の者がそばにいた。夫婦になる前に、家族水入らずの時間をたっぷりと味わっておきたいな』

 普段は強く意識しないようにしていたけど、帰りの電車内で、社長に言われた事はしっかり頭に残った。身分の差を久々に感じてしまい、ひどく緊張したからだ。
 社長は、素敵なデートをいっぱい考えてくれていたようだけど、生まれも育ちも庶民の私が上手に振る舞えず、質素なお付き合いをお願いした。内心は分からないけど、社長は、こうなったら庶民の暮らしを楽しんでやると覚悟したかのように、私に合わせてくれた。
 最初の頃は、逆に社長に無理をさせていないか心配していたけど、「心の底から喜んでいる君の表情をたくさん眺めたくなったんだ。その為の穴場スポットさがしは、とてもやり甲斐がいのある事さ。幸せという名の贈りものを、君に受け取ってもらえていると感じられて、僕も幸せだよ」と言ってくれた。
 社長にとっては庶民の品らしき高価なプレゼントに対し、私が戸惑ってばかりいると、「昨日、売り切れでがっかりしたと言っていたお菓子、出張先で手に入れてきた」などと、気をつかわないように最大限の工夫をしてくれていたので、いつしか身分の差を意識しにくくなっていたけど、お付きの人がいるのが普通という話を聞き、やっぱり、住む世界が違う人なんだという思いが強くなった。

 私の気に入っている本を貸してほしいと社長の方から言ってくれるようになり嬉しかったけど、「文化の勉強ができる参考書みたいで面白い」というのが感想にまじっていた事があったし、まったく違う世界で暮らしてきた人で、娯楽として庶民レベルを楽しんでいるんだろうと、その時は単純にそう受け止めた。
 緊張が高まり、顔色を変えて反応してしまったのか、社長は、私の心の内に気づいてくれた。「大丈夫だよ」と言葉で伝えず、そっと肩を引き寄せ、こんな時にも安心を届けてくれる事に感謝しかなかった。
 温室デートの帰りの電車内も、温もり模様につつまれた空間だった。

「ん……ん……んんんっ!」

 今、横でひざまずき、唇の奥へ舌を侵入させ、私を快楽で溺れさせようと、胸にも、大切な部分にも手を伸ばしてくるこの人は、本当に社長なのだろうか?
 私を立て看板みたいなものに拘束したまま、実験器具も同然の棒を後ろからさし込み、心も身体も悪へと堕ちるよういてくるこの人は、本当に社長なのだろうか?

「……父からジェネを受け継ぐにあたり、アリストを護り、彼女をしんの英雄にするのが、我が家の悲願だと教えられた。アリストを絶対視して篤信とくしんしている者が集まる組織、それがジェネだ。先の聖戦は、身命しんめいすものであったのか――現在は、その意味を知りたいと思った者の子孫で構成されている。総帥の座を継ぐ僕ですら、すでに世界中の人間から神格化されていた、聖戦が行われた正当な意味として抽象神となったアリストをあがめる力によってジェネを率いる事ができるのか、幼い頃から不安だったよ。だが、生涯を添い遂げるさだめの女性に、アリストの魂が宿っていたと知り、心が決まった。僕がゆくべき道は、一つしかないだろ?」

『天王寺先輩、必ず君を護るよ。だから、お嫁さんになってほしい。一緒に楽しい家庭を築いていきたいな。これからも、ずっとそばにいてほしい。僕も、君のそばにずっといるから』

「アリス姉さん、必ず君を護りたいんだ。だから、愛に溺れて、どこまでも堕ちてくれ。共に、この世界の覇者になろう。僕は、君の心と身体がほしい」

 胸の先を横から指ではじかれ、「あはっ!」という声をあげてしまった。を動かして逃げようとしたつもりが、看板に胸の先が触れ、やまない興奮の支配がさらに強まる。
 ゴムバンドのようなもので縛られた足を揺らすと、膝が看板でれた。敏感な部分ではないはずなのに、その程度の刺激で、「はあ、はあ」という声が漏れ、快楽の海に投げ出されそうになる。

「気持ちいいんだろ? 君は、囚われのだ。すでに僕の妻になったに等しいという事だよ。夫の手で乱されていく事に対し躊躇ためらいをおぼえる必要はない。アリス姉さんに悲劇が降りかかる可能性をゼロにする為、教えてほしい。ここには、どのようなアリストの記憶が残っているんだい?」

「ア、アリスト……アリスト……」

 魂の前の持ち主の名前をひたすらつぶやいてしまった。
 アリストの意識を強めると、操縦の方法、計器の見方――クラティアの操作を一つ一つ知っているというより、これをやれば戦う事ができるという考えが浮かんでくる。「最前線で手に入れた敵の機体に乗り込んで戦う事もあるから」とナンナンに言われて、冴えないOLは、「ああっ」と納得した。
 仕事のできる人は、突然のトラブル発生でも、きっと、「ピキーン!」と心の中でヒラメキ音が鳴り、何でもかんでもスマートに対処できるんだろうと、いつぞや思った事がある。
 アリストという女性は、クラティアだけを操縦できるんじゃなくて、戦いすべてにおいて臨機応変だったから英雄なんて呼ばれていたんだろう。そういう脳みその持ち主。
 そんな彼女の記憶を、私は知らない。
 融合してからも、記憶にあたる部分は私のままで、戦闘の緊張感が緩い時は、「登録してるネット小説の続きって、どこまで投稿されたのかな? 超ぅ読みたい!」と気の抜けた状態が多々あったぐらいだ。

「昇華制御装置の設定は完了している。アリストの魂に触れる事で、異世界への転移が可能となるこれを使えば、殲滅砲撃レ・イダグへのエネルギー転送とてできるはず。さあ、アリストの恨みの記憶を教えてほしい」

「しょうかせいぎょそうち……? いせかいへのてんい……?」

 社長の手には、青い宝石のようなものが握られていた。ネックレスのように長いチェーンがついたそれは、以前、社長に捕まった時に見せてもらったもの。これが、現代日本がある世界との行き来を可能にする装置だったなんて。
 装置から放たれる青い光をじっと見つめる――

『ぼくは、君の心と身体がほしい。天寿を全うしたとしても、魂は、次に使うどこかの誰かにあげなければいけないだろ? ぼくは、君の心と身体のそばに永遠にいられるんだ。だから、幸せを強く感じる。いっぱいお喋りしたね。今日は、とても楽しかった。人混みすらない落ち着いた場所で、君と二人、温かな時を過ごせた。これからも、ずっとそばにいてほしい。ぼくも、君のそばにずっといるから』

「……え!」

 え……私、今、青い瞳に見つめられていた?
 声にも出してしまったけど、心の中でも、疑問に対する答えをさがすように、何度も、何度も、「え」とつぶやいてしまっている。
 青い瞳の美しい人は、社長ではない。でも、社長だ。

「……お兄さん? お兄さんの方ですか? アリストの恋人は、社長のご先祖さまのお兄さんですか?」

 目の前の現実にいる、青い瞳の美しい人、社長の口が開く。

「そうだ。僕の曾祖父の双子の兄だよ。当時、双子は不吉だと言われていたらしく、隠されて育ったらしいが。アリストメモリーに接続できたんだね。他には何が見える? ふむ。アクセスウェーブが安定しているな。アリストの記憶を、僕にも見せてくれ」

 取り出した小型端末の画面を確認したあと、社長は、私の方に手を伸ばしてくる。
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