ときおりしおり

俺んぢ

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1章 見覚えのない場所へ

2 Ron

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 もう一度眼を覚ます時は、きっと見慣れた世界にいるはずだ。いつもの、何の変哲もない世界...。

 でも、「いつも」ってどんなだっけ...?

「ねえ」

 そうだ、眠っているボクをいつも起こしてくれるのだ。

「ねえ」

 ボクはいつもわかっていながらちょっとだけシカトするんだけど、本当はそんないつもの朝が大好きだったんだ。

「ねえってば」

 もうちょっとだけ、この声を聞いていたい。だから、もうちょっとだけ、ボクはシカトする事にする。

「ねえ、起きて」

ボクはゆっくりとまぶたを開ける。そろそろ、起きなくてはいけない。

「...ねえちゃん、おはよう」

「...」

返事はない。

「...ねーちゃん?私が?」

「...あれ?」

ボクは眼をこすって、写っている顔をよく見てみた。

「わあっ!!」

 ボクは思わず大声をあげた。その声を聞いて、彼女もギョッとした顔をする。

「...もう、いきなりおっきな声出さないでよ、びっくりしちゃったじゃん」

「ご、ごめん」

 彼女の顔に見覚えはなかった。おそらく、彼女もボクの事を知らないのだろう。

「あのさ」

と、彼女が言う。

「え、えっと...何かな」

「突然で悪いんだけどさ、何でもいいから、食べ物ないかな?もう二日何も食べてないんだ」

「えっ、でも...」

 と、ボクが困った顔をすると、彼女は突然焦り出した。

「いやいや、もちろんただでなんて言わないよ!ちゃんと対価は払うから...ほら、これなんてどう!?」

 そう言って彼女は、いきなり大きなバッグの中から巨大な黒い銃を取り出してきた。大きさは...多分1mくらいだ。

「いやいや、そうじゃなくってさ」

 ボクは辺りを見回しながら話す。

「実はここに食料があるかどうかボクも知らないんだ」

 ボクがそういうと、彼女は不思議そうな顔をした。

「あれ?ここに住んでるわけじゃないの?」

「うん、多分違う」

「多分って何さ」

「多分って...何だろ」

 ボクは、自分が言った言葉をどう補足しようか考えながら、小屋にある棚を物色していた。あるのは、洋服や、透明の液体の入ったビンと空のビン、それと...

「これ...食べ物かな?」

 そう言ってボクが持ち出したのは、淡い茶色の四角い紙袋だった。紙袋には、見慣れない文字がたくさん書いてある。

「どれ!?見せて!」

 そう言うと、彼女はボクの手からそれを奪いとり、目の上まで持ち上げて注意深く見始めた。

「あ、これってアレだよね...」

 彼女は訝し気な表情で紙袋を見つめる。アレって何だろう。

「ま、まあいっか!背に腹は変えられないよね!食べよ食べよ!」

 と言って、彼女は勢いよくイスに座り、おもむろに紙袋をバリっと破った。同時に、辺りに柔らかいチョコの匂いが広がる。誰のかもわからないものを勝手に食べて大丈夫だろうか。

「いや、もうほんと助かったよ」

 彼女はその食料を口いっぱいに頬張りながら言う。

「キミは食べないの?」

「ボクは別に、お腹すいてないから」

「ふーん、そっか」

 食料の入った袋は元々12個あったが、今彼女が3個目を食べたので残りは9個となった。

「そういえば、名前とか聞いてなかったね」

と、彼女は言った。

「私、シオリっていうの。多分キミより年上かな?ちょっと探し物をしていて、今はいわゆる旅人ってやつ?故郷を出てから3年くらい経つかな。趣味は特殊生物図鑑の作成で、読める文字はシドニア文字、メグシア文字...」

「まって、ちょっと待って」

ボクは慌てて彼女の話を止める。

 話をいきなり止められたものだから、彼女は戸惑っている。

「あのさ、ボク、今の...えっと、シオリの言ってる事、ほとんどわからないんだけど」

「あれ?そうなの?そんな変なこと言ってたかな」

 そこまで言うと、シオリはポンっと手を叩いた。

「あ!もしかして、私訛りが強い?ここだと言語が違ったりする?」

「いや、そうじゃなくて、う、う~んとね、なんていうか...」

 ボクはなんと言えばいいのか、言葉を探している。

「ボク...記憶が無いみたいなんだ」

「え!?記憶喪失っやつ!?」

「多分。」

「多分!?」

 ボクはシオリが落ち着くのを待ってから、話を続けた。

「ボクが今ここにいる理由とか、ここに来た経緯とか、それまでの事が全部わからないんだ」

「それじゃやっぱり、記憶喪失なんじゃないの?」

「そうなの、かな...よくわからないや」

「名前とかも覚えてないの?」

「名前...?」

 ボクはそれを聞いて初めて、自分の名前を覚えていない事に気付く。

 そこで、ボクは自分の身につけている道具にボクの名前がないか、調べることにした。

 まずは額にある大きなゴーグルをはずす。さらに帽子をとって、裏返してみる...が、そこに名前らしきものはない。

「そうだ、さっきの鍵...」

 ボクはポケットの中から鍵を取り出した。裏返してよく見てみると、そこに何かの文字が彫られている事に気付いた。


”Ron”

「...これ、なんて読むの?」

ボクはシオリに鍵を手渡す。

「えーっと...これは“ロン”って読むんだと思うけど...これキミの名前?」

「あ、いや...たまたま持ってた鍵だから、別にボクの名前とは限らないと思う」

 ボクはそう言いながら、シオリにその鍵を見せる。

「ロン、ロン、ロン...うん、しっくりくるね! じゃあ、キミの名前は今からロンだ!」

「じゃあ、って...そんなテキトーでいいのかな?」

 ボクが困った顔をしていると、それとは対照的に、シオリは明るい顔で口を開く。

「ねえ、ロン」

 シオリは長いツインテールの髪を、くるっと半回転させる。

「私と一緒にこない?」
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