虹の樹物語

藤井 樹

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〜49章〜

祖先の眠る森 ンッフォトルト

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「何にもないわね」

 祖先の眠る森『ンッフォトルト』にルーナたちは辿り着いていた。

 ロキエッタはルーナのために薬を調合しようと、森に生える植物を物色していた。

 が、特に使えるものがなかったようで、残念そうに深いため息をついた。

 森に立ち入るとひんやりとした空気が充満しており、どこか物悲しい雰囲気に包まれている。

 そんな不穏な静寂が流れる森の中、子供たちのはしゃぐ声だけが異質にこだましていた。

「相変わらず元気ねぇ」

 ルーナたちは少しばかり開けたところに腰を落ち着かせ、背中合わせにして座った。

「若いっていいなぁ」

 ロキエッタは底なしの体力で走り回る子供たちを見てそんなことを呟いた。

「おばさんみたいなこと言って。いやね」とルーナは背中越しに笑っている。

 少しだけ笑みを浮かべたロキエッタは話を続けた。

「子供たちの笑う声って平和そのものよね」

「どうしたのよ、急に。らしくないわよ」

 ルーナは真剣な様子で話すロキエッタを茶化した。

「平和っていいな、って思っただけ。それだけよ」とロキエッタは照れくさそうに言った。

 木々の隙間から垣間見える空が時折微かに光を放っている。

 もうどこまで焼き尽くされてしまったのだろうか。

 村のみんなは無事だろうか。

 ソルは・・・無事だろうか。

 悪夢のような時間が永遠と流れているような気がする。

 平和っていいな。

 ロキエッタの言葉がこだまする。

 ・・・本当にその通りだ。

 ルーナはそっと「そうね」と呟き背中をロキエッタに預けた。

 ロキエッタはほんの少し笑っただけでそれ以上は何も言わず、あとは静かに背中を支え続けてくれていた。

「お姉ちゃんたちも遊ぼう!」

 周りではしゃいでいた子供たちがキラキラと目を輝かせルーナたちの元へとやってきた。

「ごめんね、お姉ちゃんたちちょっと疲れちゃったから、また今度遊ぼうね」

 ロキエッタは子供たちにお手上げだと言わんばかりに手を上げてそう言い放った。

「えーつまんないのー」

 子供たちはブツブツと不平を垂れていはいたが、すぐに興味が他に移ったらしく気がつくとまたどこかへと駆け出していった。

「勝手なものよね」

 そんな子供たちの背中を見送りながらロキエッタが呟いた。

「私もあのくらい無邪気でわがままな時期、あったなぁ」

 ロキエッタはルーナに背中を預けそうとぼけてみる。が、ルーナからの返事がない。

 背中合わせのルーナからは規則的に呼吸を繰り返す温もりが伝わってくる。よく耳をすませてみると、スゥスゥと寝息が聞こえてきた。

「あんたも大概ね」と一人微笑むロキエッタ。

 親友の温もりを背中に感じながら、ロキエッタも少しばかり休むことにした。

 ルーナの体温と呼吸を繰り返す微かな揺れに、ロキエッタは安心しすぐに眠りに落ちた。
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