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〜45章〜
逃げ惑う小さな命
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「ソル!ソル!」
遠くの方で誰かが自分のことを呼んでいるのが聞こえる。
この声は・・・誰の声だっけ?
ぼんやりと薄目を開けて辺りを見渡すがそこはいつもと変わらぬルーナの家であった。
「ソル!」
ルーナの心配そうな声がすぐ近くで聞こえる。
そんなに慌ててどうしたんだろ。
もう少し寝かせて欲しいんだけどな。
「おい、起きろって」
誰かが自分の体を揺すっている。
うるさいなぁ。
一日中森の中で働き詰めだったんだ。少しぐらい休んだっていいじゃないか。
どうせ今日は雨なんだし。
ソルは周りの喧騒を遮るかのように寝返りを打つ。
ふと辺りの声がしんと静まり返った。
と、突如、脇腹に強い衝撃を受け、ハッと目を覚ますソル。
「痛っ!」
思わず体を起こすとそこにはルーナにコーモス、そしてロキエッタがこちらを心配そうに見つめていた。
「ちょっと!ロキー、蹴ることないじゃない」
責めるようにそう言ったルーナを鼻で笑ったロキエッタは口元に悪戯な笑みを浮かべながら言った。
「時間がないのよ。仕方ないでしょ?」
ロキエッタに蹴られたであろう脇腹をさすりながらソルはゆっくりと起き上がった。
「大丈夫か?」
コーモスが心配そうにそう尋ねてくるが、ソルには何が何だかわからない。
「えっと・・・何だっけ?」
呆れた、とでも言いたげな様子でロキエッタが深いため息をついた。
「寝ぼけてる暇なんてないぞ。あと少しで村に到着って頃になってモケが気球じゃなくなっちゃったんだ」」
村まで?・・・モケ?・・・気球?
ハッと全てを思い出したソルは辺りを慌てて見渡した。
辺りは薄暗く雨が轟々と降り注いでいる。
ソルたちは小さな木の影に、雨を避けるかのようにして座っていた。
「『アイアス』は?」
ソルは慌てて遠くの方を見据えるが『アイアス』の姿は確認できなかった。
しかし、真っ黒な雲が張り詰める空には雷が蠢き、遠くの方はまるで夕焼けのように赤く染まっている。
「地上からはまだ見えないぐらいの距離だ。けど、すぐにここも危ない。とりあえず早く村に行って知らせてやらないと。・・・歩けるな?」
ソルは静かに頷きゆっくりと立ち上がった。なぜだかわからないが足がガクガクと震えている。また節々の関節が痛み、ソルは思わず顔をしかめた。
ルーナが心配そうにこちらを見つめている。
「大丈夫」
ふらつく体をなんとか保ち、心配させまいとゆっくりと歩き始めるソル。ふと、胸の辺りで何かがかすかに動くのを感じた。
そっと胸ポケットを開くと中でモケが寝息を立てて眠っていた。
猛スピードでここまで運んできてくれたのだ。きっとモケも疲労困憊だろう。
ソルはそっとお礼を呟き静かにポケットを閉じた。
「もうすぐ村が見えてくると思う」
コーモスの言う通り、小高い丘を越えるとすぐにフロンスマーレの村が見えてきた。
「みんな気がついて避難しているといいけど」
ルーナが心配そうにそう呟き後ろを振り返る。
空がだんだんと赤く染まってきているように見えるが、ただの思い込みだろうか。
急がないと。
ソルたちは村への道を足早に駆けて行った。
「おーい!誰かいるかー!」
大雨が降りしきる中コーモスが大声で呼びかける。
村の広場には人っ子一人としていなかった。
すると、その大声に気がついたのか、一軒の家の扉がそっと開いた。
「あぁ、フィーニさん」
ひょっこりと顔を覗かせた村長のフィーニが驚いた様子で目を見開いている。
「おぉ、コーモス!それにルーナたちも!無事であったか!」
雨に濡れるのもお構いなく、フィーニはソルたちの方へと駆け寄ってくる。
少年たちの危機迫る顔に何かを悟ったのか、フィーニはすぐに「何があった!」とすごい剣幕で問い詰める。
「首都の方で巨影神が現れました。至る所を焼き尽くしながら侵攻している様子でした。ソル曰くソルマルクの巨影神『アイアス』が復活したって。なぁ?」
コーモスはソルの方を振り返り同意を求める。ソルは落ち着かない様子で声を張り上げる。
「ルーナたちを攫ったのは『アイアス』復活のためだって、ソルマルク軍にいる友人が言ってました。芽を集めていたんです、復活のために。あれは間違いなく『アイアス』です!」
「まさか、そんなことが」
目をまん丸と見開き愕然とするフィーニであったが、すぐにハッと我に返ったかのようにキッと口元を結ぶ。
「コーモスよ。村に残った戦士隊を集めて避難誘導を頼む。避難場所はテムじゃ。結界をより強く張り巡らすようシニコローレへと伝えておくれ。それから・・・」
「なりません」
フィーニの言葉を遮るように氷のように冷たい声が響き渡る。
ハッと振り返るとそこにはフードを目深に被った魔女たちが大勢集まっていた。
「フォーイ。其方がなぜここに?」
魔女の集団の中の一人がゆっくりとこちらへ向かってくる。
「テムは襲撃に遭い陥落致しました。妖獣の群れです。結界も破られました」
無機質にそう言い放ったフォーイは静かにお辞儀をすると集団の中へと溶け込んでいった。
「ううむ。何が起こっているのじゃ。テムの結界が破られた?そんなことは・・・」
ブツブツと物憂げに考え込んでいるフィーニをコーモスが急かす。
「村長!ひとまずンッフォトルトへの避難を。安全とは言えませんがひとまずのところは」
フィーニは片眉をそっと上げ疑念を抱いた様子であったが、すぐに頷き「そのように頼む」と呟いた。それを見たコーモスはすぐさま駆け出していく。
「ルーナにロキエッタ。お前さんたちは人を集め共に避難しておくれ。子供たちのことはお前たちに任せたぞ。・・・ソル、お前さんも一緒に行きなさい」
「えっ、でも・・・」
と思わず口走ったソルの腕をロキエッタがピシャリと叩く。
「時間がないんだから議論している暇はないわ、いくわよ!・・・早く!」
ものすごい剣幕で睨みつけられたソルは仕方なく、人たちへの注意喚起をすべく走り出した。
「あっちの方お願い。私は森の麓の方へ行くわ。ルーナ、あんたは自分の家の方、お願いね!」
ロキエッタはそう言うとさっさと駆け出していった。
ルーナと目が合い静かに頷いたソルはロキエッタに言われた通りに駆け出した。
「危険が迫っています!みなさん早く避難してください!」
一軒一軒の戸を叩きながら大声で叫ぶソル。
「何があった⁉︎」
と村の男が慌てた様子で扉を開け放つ。
「しゅ、襲撃がきます!広場で戦士隊が避難誘導するので、早く!」
それを聞いた男は慌てた様子で家の中へと蜻蛉返りしすぐさま家族を連れて飛び出してきた。
「戦士隊の誘導に従ってください!」
ソルは大声を上げ続け人たちの避難を手伝った。
何事か、と最初は皆不振げな様子でソルのことを伺っていたが、わらわらと広場の方へと駆けていく人たちを背後に見て、慌てた様子で飛び出していく。
『アイアス』はもうどの辺りまで来ているだろうか。
村からでもわかるほどに空が赤く染まり始めている。
空を覆い尽くすのはもはや雲なのか煙なのか判断がつかないほどだ。
ソルは力の限り声を張り上げ避難誘導を行った。
「戦士隊と魔女は来る危険に備えるのじゃ」
広場に集まった者たちにそう声を張り上げるフィーニ。
どうやってあれを退けるのだろう。
ルーナは目の当たりにした巨大な影を思い出し思わず身を震わせた。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
ルーナの手を握っていた小さな少年が不思議そうにこちらを見上げている。
そのまだ幼い瞳に、心配させまいとそっと微笑むルーナ。
「ううん、なんでもないよ。雨がすごいから風邪を引かないようにしなきゃね」
まだ何が起きているのかよくわからないのだろう。
あどけない顔をしたその少年は不思議そうにルーナの言葉を聞いていたが、やがて目を輝かせ「僕、強いから風邪なんて引かないよ」と笑顔で言った。
「そっか、偉いねー!」と、優しく微笑んだ。
この子たちを守らなきゃ。
ルーナはしっかりとその子の手を握り、辺りを見渡した。
村の広場にはたくさんの人たちで溢れかえっていた。
が、ソルとロキエッタの姿が見当たらなかった。
まだ避難誘導をしているのだろうか。
「これからンッフォトルトまで避難します。皆焦らずゆっくりと進んでください」
コーモスが列の先頭の方で声を張り上げているのが聞こえる。
「ルーナ!」
目の端でロキエッタがこちらに駆けてくるのが見えた。
「家は無事だった?」
全速力で駆けてきたのだろう。ロキエッタは乱れた息でそう尋ねた。
ルーナはロキエッタの背中をさすりながら静かに頷く。
「ねぇ、ソルのこと見なかった?」
ロキエッタは眉を顰め静かに首を振った。なんとか息を整えると「きっとまだ避難の手伝いしてるんでしょ。・・・大丈夫よ!」とルーナの背中をパンっと軽い調子で叩いた。
「・・・そうね」と曖昧に呟くルーナ。
そんなルーナを見てロキエッタは優しく寄り添いそっと微笑んだ。
「ソルなら大丈夫。信じなさい!」
真剣な眼差しで自身を見つめるロキエッタ。ルーナは「そうね。ありがと」と笑顔で応えた。
すぐに村民たちの避難が始まり目の前にできた列がゆっくりと進み始めた。
後ろ髪を引かれる思いではあったが、ルーナは避難誘導に従いロキエッタと共にゆっくりと歩き始めた。
遠くの方で誰かが自分のことを呼んでいるのが聞こえる。
この声は・・・誰の声だっけ?
ぼんやりと薄目を開けて辺りを見渡すがそこはいつもと変わらぬルーナの家であった。
「ソル!」
ルーナの心配そうな声がすぐ近くで聞こえる。
そんなに慌ててどうしたんだろ。
もう少し寝かせて欲しいんだけどな。
「おい、起きろって」
誰かが自分の体を揺すっている。
うるさいなぁ。
一日中森の中で働き詰めだったんだ。少しぐらい休んだっていいじゃないか。
どうせ今日は雨なんだし。
ソルは周りの喧騒を遮るかのように寝返りを打つ。
ふと辺りの声がしんと静まり返った。
と、突如、脇腹に強い衝撃を受け、ハッと目を覚ますソル。
「痛っ!」
思わず体を起こすとそこにはルーナにコーモス、そしてロキエッタがこちらを心配そうに見つめていた。
「ちょっと!ロキー、蹴ることないじゃない」
責めるようにそう言ったルーナを鼻で笑ったロキエッタは口元に悪戯な笑みを浮かべながら言った。
「時間がないのよ。仕方ないでしょ?」
ロキエッタに蹴られたであろう脇腹をさすりながらソルはゆっくりと起き上がった。
「大丈夫か?」
コーモスが心配そうにそう尋ねてくるが、ソルには何が何だかわからない。
「えっと・・・何だっけ?」
呆れた、とでも言いたげな様子でロキエッタが深いため息をついた。
「寝ぼけてる暇なんてないぞ。あと少しで村に到着って頃になってモケが気球じゃなくなっちゃったんだ」」
村まで?・・・モケ?・・・気球?
ハッと全てを思い出したソルは辺りを慌てて見渡した。
辺りは薄暗く雨が轟々と降り注いでいる。
ソルたちは小さな木の影に、雨を避けるかのようにして座っていた。
「『アイアス』は?」
ソルは慌てて遠くの方を見据えるが『アイアス』の姿は確認できなかった。
しかし、真っ黒な雲が張り詰める空には雷が蠢き、遠くの方はまるで夕焼けのように赤く染まっている。
「地上からはまだ見えないぐらいの距離だ。けど、すぐにここも危ない。とりあえず早く村に行って知らせてやらないと。・・・歩けるな?」
ソルは静かに頷きゆっくりと立ち上がった。なぜだかわからないが足がガクガクと震えている。また節々の関節が痛み、ソルは思わず顔をしかめた。
ルーナが心配そうにこちらを見つめている。
「大丈夫」
ふらつく体をなんとか保ち、心配させまいとゆっくりと歩き始めるソル。ふと、胸の辺りで何かがかすかに動くのを感じた。
そっと胸ポケットを開くと中でモケが寝息を立てて眠っていた。
猛スピードでここまで運んできてくれたのだ。きっとモケも疲労困憊だろう。
ソルはそっとお礼を呟き静かにポケットを閉じた。
「もうすぐ村が見えてくると思う」
コーモスの言う通り、小高い丘を越えるとすぐにフロンスマーレの村が見えてきた。
「みんな気がついて避難しているといいけど」
ルーナが心配そうにそう呟き後ろを振り返る。
空がだんだんと赤く染まってきているように見えるが、ただの思い込みだろうか。
急がないと。
ソルたちは村への道を足早に駆けて行った。
「おーい!誰かいるかー!」
大雨が降りしきる中コーモスが大声で呼びかける。
村の広場には人っ子一人としていなかった。
すると、その大声に気がついたのか、一軒の家の扉がそっと開いた。
「あぁ、フィーニさん」
ひょっこりと顔を覗かせた村長のフィーニが驚いた様子で目を見開いている。
「おぉ、コーモス!それにルーナたちも!無事であったか!」
雨に濡れるのもお構いなく、フィーニはソルたちの方へと駆け寄ってくる。
少年たちの危機迫る顔に何かを悟ったのか、フィーニはすぐに「何があった!」とすごい剣幕で問い詰める。
「首都の方で巨影神が現れました。至る所を焼き尽くしながら侵攻している様子でした。ソル曰くソルマルクの巨影神『アイアス』が復活したって。なぁ?」
コーモスはソルの方を振り返り同意を求める。ソルは落ち着かない様子で声を張り上げる。
「ルーナたちを攫ったのは『アイアス』復活のためだって、ソルマルク軍にいる友人が言ってました。芽を集めていたんです、復活のために。あれは間違いなく『アイアス』です!」
「まさか、そんなことが」
目をまん丸と見開き愕然とするフィーニであったが、すぐにハッと我に返ったかのようにキッと口元を結ぶ。
「コーモスよ。村に残った戦士隊を集めて避難誘導を頼む。避難場所はテムじゃ。結界をより強く張り巡らすようシニコローレへと伝えておくれ。それから・・・」
「なりません」
フィーニの言葉を遮るように氷のように冷たい声が響き渡る。
ハッと振り返るとそこにはフードを目深に被った魔女たちが大勢集まっていた。
「フォーイ。其方がなぜここに?」
魔女の集団の中の一人がゆっくりとこちらへ向かってくる。
「テムは襲撃に遭い陥落致しました。妖獣の群れです。結界も破られました」
無機質にそう言い放ったフォーイは静かにお辞儀をすると集団の中へと溶け込んでいった。
「ううむ。何が起こっているのじゃ。テムの結界が破られた?そんなことは・・・」
ブツブツと物憂げに考え込んでいるフィーニをコーモスが急かす。
「村長!ひとまずンッフォトルトへの避難を。安全とは言えませんがひとまずのところは」
フィーニは片眉をそっと上げ疑念を抱いた様子であったが、すぐに頷き「そのように頼む」と呟いた。それを見たコーモスはすぐさま駆け出していく。
「ルーナにロキエッタ。お前さんたちは人を集め共に避難しておくれ。子供たちのことはお前たちに任せたぞ。・・・ソル、お前さんも一緒に行きなさい」
「えっ、でも・・・」
と思わず口走ったソルの腕をロキエッタがピシャリと叩く。
「時間がないんだから議論している暇はないわ、いくわよ!・・・早く!」
ものすごい剣幕で睨みつけられたソルは仕方なく、人たちへの注意喚起をすべく走り出した。
「あっちの方お願い。私は森の麓の方へ行くわ。ルーナ、あんたは自分の家の方、お願いね!」
ロキエッタはそう言うとさっさと駆け出していった。
ルーナと目が合い静かに頷いたソルはロキエッタに言われた通りに駆け出した。
「危険が迫っています!みなさん早く避難してください!」
一軒一軒の戸を叩きながら大声で叫ぶソル。
「何があった⁉︎」
と村の男が慌てた様子で扉を開け放つ。
「しゅ、襲撃がきます!広場で戦士隊が避難誘導するので、早く!」
それを聞いた男は慌てた様子で家の中へと蜻蛉返りしすぐさま家族を連れて飛び出してきた。
「戦士隊の誘導に従ってください!」
ソルは大声を上げ続け人たちの避難を手伝った。
何事か、と最初は皆不振げな様子でソルのことを伺っていたが、わらわらと広場の方へと駆けていく人たちを背後に見て、慌てた様子で飛び出していく。
『アイアス』はもうどの辺りまで来ているだろうか。
村からでもわかるほどに空が赤く染まり始めている。
空を覆い尽くすのはもはや雲なのか煙なのか判断がつかないほどだ。
ソルは力の限り声を張り上げ避難誘導を行った。
「戦士隊と魔女は来る危険に備えるのじゃ」
広場に集まった者たちにそう声を張り上げるフィーニ。
どうやってあれを退けるのだろう。
ルーナは目の当たりにした巨大な影を思い出し思わず身を震わせた。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
ルーナの手を握っていた小さな少年が不思議そうにこちらを見上げている。
そのまだ幼い瞳に、心配させまいとそっと微笑むルーナ。
「ううん、なんでもないよ。雨がすごいから風邪を引かないようにしなきゃね」
まだ何が起きているのかよくわからないのだろう。
あどけない顔をしたその少年は不思議そうにルーナの言葉を聞いていたが、やがて目を輝かせ「僕、強いから風邪なんて引かないよ」と笑顔で言った。
「そっか、偉いねー!」と、優しく微笑んだ。
この子たちを守らなきゃ。
ルーナはしっかりとその子の手を握り、辺りを見渡した。
村の広場にはたくさんの人たちで溢れかえっていた。
が、ソルとロキエッタの姿が見当たらなかった。
まだ避難誘導をしているのだろうか。
「これからンッフォトルトまで避難します。皆焦らずゆっくりと進んでください」
コーモスが列の先頭の方で声を張り上げているのが聞こえる。
「ルーナ!」
目の端でロキエッタがこちらに駆けてくるのが見えた。
「家は無事だった?」
全速力で駆けてきたのだろう。ロキエッタは乱れた息でそう尋ねた。
ルーナはロキエッタの背中をさすりながら静かに頷く。
「ねぇ、ソルのこと見なかった?」
ロキエッタは眉を顰め静かに首を振った。なんとか息を整えると「きっとまだ避難の手伝いしてるんでしょ。・・・大丈夫よ!」とルーナの背中をパンっと軽い調子で叩いた。
「・・・そうね」と曖昧に呟くルーナ。
そんなルーナを見てロキエッタは優しく寄り添いそっと微笑んだ。
「ソルなら大丈夫。信じなさい!」
真剣な眼差しで自身を見つめるロキエッタ。ルーナは「そうね。ありがと」と笑顔で応えた。
すぐに村民たちの避難が始まり目の前にできた列がゆっくりと進み始めた。
後ろ髪を引かれる思いではあったが、ルーナは避難誘導に従いロキエッタと共にゆっくりと歩き始めた。
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