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〜33章〜
フォスニアン・ラプソディ 音激狂篇
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「よかった、間に合ったぁ」
ものすごい速度で駆けてきた二人はあっという間にパパラパの街へと戻ってきていた。
さっと馬から飛び降りたミッキー・シックスはその馬の尻を叩き解放させると、鼻歌を歌いながら目の前の建物を見据えた。
ギラギラとネオン輝く建物が二人を見下ろしている。その周りには大勢の人だかりができており、どこか狂ったような熱気を帯びていた。
ミッキー・シックスはスタスタとその群衆の方へと歩いていく。
カチカチに凝り固まった足を引きづりながらミッキー・シックスの後を追うソル。
「ミッキーさん。何ですか、ここ?」
彼はニヤリとしながらタバコを咥えて火をつけた。
ふぅっと旨そうにタバコを吹かしたミッキー・シックスは目の前の建物を狙い打つかのように指差しながら言った。
「ジョズギア・パームル・ホール。ロックの殿堂サ・・・ロックは流石に知ってるよネ?」
パンっと銃を撃つかのような仕草でその建物を射止めたミッキー・シックスは、群衆を掻き分けズンズンと建物の方へと歩いていく。
はぐれては敵わない。とソルも全速力で彼の後を着いていく。
ごった返す群衆を掻き分け、なんとかミッキー・シックスまで追いついた。
入口まで辿り着いたミッキー・シックスは、いつの間にやら取り出していたチケットをもぎりの男性に手渡す。
「今夜はやばいぞ!楽しんで!」
笑顔で背中を叩いてくるもぎりの男性。ソルは自然と頬が緩むのを感じた。
「ロックのライブに来たんですか?何のために?」
会場内はさらに熱気に溢れており、たくさんの人々でごった返していた。
ソルは珍しく大声を上げてミッキー・シックスにそう尋ねた。
「キミに見せたかったんだ。一生に一度見れるかどうかってほどのショーだからネ。楽しんで!」
ミッキー・シックスは大声でそう返すと、手を振り瞬く間に人混みの中へと消えていってしまった。
えっ、置いていかれた?
慌ててミッキー・シックスの消えた方へと駆け寄ったが、すでに彼の姿はなくソルは一人ぼっちになってしまった。
「・・・信じられない」
異国の地でまた一人ぼっちになってしまったソルはそう呟いたが、その顔は笑っていた。
フォスニアンの行動はいつでも予測不可能だ。いちいち戸惑っていてはやっていけない。
ミッキー・シックスは「ショーを見せたい」と言っていた。つまり、「ショーを見ろ」ということだ。それも今回に限っては一人で。
彼の意図が何なのか全くもって想像することは難しい(もしくはそもそも意図など存在しない可能性の方が高い)が、きっとまた何か面白いものが見られるのだろう。
ソルはキョロキョロと辺りを見渡し、ライブ会場への入り口を見つけると興奮に打ち揺れる人々を何とか交わして入り口を目指す。
途中、何人ものフォスニアンたちが声をかけてきたが、皆興奮しているようで何を言っているのかよくわからなかった。
それでも、その熱気に飲まれたソルは笑顔で手を上げ彼らに応えた。
何とか会場の入り口まで辿り着き扉を開けると、そこは巨大な野外ホールになっていた。すでに多くに観客たちが、まだかまだかとショーの始まりを待ち侘びている。
さっきまで建物の中にいたのに・・・。
満点の星空の下、巨大なステージが鎮座していた。
呆然と立ち尽くしていたソルであったが、「まぁ、きっとこれも魔法、か」とすぐに納得すると、適当な場所に体を滑り込ませ、周りの観客と同様にショーの始まりを待った。
ソルの脇を通る人々が時折、機械人間の存在に気がつきハイタッチを求めてくる。
会場内の熱気のせいだろうか。今ではすっかりそのテンションに馴染んでいたソルは、臆することなくハイタッチを返し笑顔で挨拶を交わしたりしていた。
しばらくそんなことをしていると、突如ステージ中央に巨大な数字が浮かび上がる。
数字で百と記されている。すぐにその数字が九十九、九十八と変わり、どうやらカウントダウンが始まったようだ。
会場の熱気はいよいよに勢いを増す。
あと九十一秒でショーが始まる。
ソルはその時をいまかいまかと、他の観客同様待ち侘びた。
六・・・パッとステージが照らし出され、観客たちは狂ったように雄叫びを上げる。
五・・・自分の胸の鼓動が今にも弾け飛んでしまいそうだ。
四・・・巨大なスクリーンがぽっと浮かび上がる。それも五つだ。
三・・・自分は今、周りの観客に負けないぐらいの雄叫びを上げている。
二・・・巨大なスクリーンに人影が浮かび上がる。至る所から悲鳴にも似た歓声が上がる。
一・・・まるで夢の中にいるみたいに、フワフワとした感覚に包まれる。
バンッバンッと立て続けに火花が上がる。まるで花のように美しく圧巻の光景であった。
それに伴い会場全体に轟音が鳴り響きショーが始まった。
四人の男たちがステージを縦横無尽に走り回る。
あっという間にそのショーのボルテージは最高潮まで達した。
激しく切なく心掻き乱される彼らの音楽は今までに聞いたどんな音楽とも異なり、異次元の光を放っていた。
何曲ぐらい歌ったのだろうか。
ピンスポットの当たるステージ中央に一人の細身の男の影が浮かび上がる。
どよめきにも似た歓声が上がり、ソルは自身の鼓動が早まるのを感じた。
歌を歌っていたフロントマンだ。
ソルのいる位置からは遠過ぎてよく見えなかったが、すぐにスクリーンにその姿が映し出される。
その男は、長い髪をゆらゆらとさせ、ステップを踏みながら観客を煽っている。
それに呼応するかのように会場全体が一つになり、まるで生き物のように唸りを上げる。
満足そうに笑うそのフロントマンは長い髪を振り乱し雄叫びを上げた。
信じられないくらいの高音がその男から発せられたかと思うと、今度は爽やかに旋律を奏でていく。
魂までもが鷲掴みにされるほどの歌声である。
その様子に会場内の熱気はどんどんと上がっていく。
「あぁ、今日はありがとう。愛してるゼ!ラ・フェスタのボーカル、ティース・イフノイノだゼッ!」
ティースと名乗ったそのボーカルは両手を広げ観客の声援に応えた。
「そして、世界一のメンバーを紹介するゼッ!」
すぐに両脇から弦楽器をぶら下げた男が二人、軽快なグルーブを生み出しながら現れる。
「オン・ギター、デト・ガライ!」
フードをまぶかに被った小柄の男は、頭を激しく振りながら軽快なリズムで高音を掻き鳴らしていく。
その音はまるで喜怒哀楽が美しく混ざり合い、全ての命を包み込むようであった。
「そして、オン・ベース、スユキ・カムラ!」
反対のもう一人の弦楽器を演奏するスユキと呼ばれた男は、大柄な体を小刻みに揺らしリズミカルな低音を生み出している。
真面目にスーツを着込んではいるが、どこか怪しい光を反射させるメガネにソルはぞくりと体を震わせた。
彼らが生み出す旋律はまるで岩壁に打ち付ける荒波のようであり、また背筋を伝う冷や汗のようでもあった。
彼らが放つ圧倒的なエネルギーにソルの体は震え、手には汗がうっすらと浮かび上がる。
「楽しんでるかっ!かかっここよオラァ。ジョズギアー!」
ギタリストのデトがそう叫ぶとそれに負けないぐらいの叫び声を返す観客たち。
「いいねぇ。お前たち、愛してるぜぇ!」
満足そうに頷いたデトはベーシストのスユキの方を指差し観客を煽る。
メガネをクイっと上げ、首元を締めていたネクタイをゆっくりと緩ませるスユキ。
「みんな乗ってるか!いつもの、いくよ!プー・プーシャラルカ・プー。セイッ、カモン!」
魔法のような不思議なコールアンドレスポンスが繰り広げられ、より一体感を増していく場内。
「オン・ドラムス、アクティ・ガドセダ!」
ボーカルのティースの声がけを合図に打楽器が走り始める。
鍛えら上げられた肉体から繰り出されるそのリズムは、まるで悪魔の行進を思わせるほど、重厚で濃密な地響きのようであった。
地面を揺らすそのリズムはだんだんとその速度を上げていく。
自身の心臓の鼓動が先か、はたまたその打楽器の打ち鳴らすリズムが先か。
自身の中から何かが迫り上がってくるのを感じる。
目を閉じてその何かを全力で掴みにかかるソル。
「俺たちラ・フェスタはここにいるみんなにスペシャルなプレゼントを用意したぜ!叫べー!」
突如、地面が割れたかと思うほどの歓声が周りから上がった。
パッと目を開けステージへと目を向けると、そこには何とも奇妙な男が現れていた。
慌ててスクリーンを確認すると、そこにはハットを目深に被り白いスーツを完璧に着こなした男が悠々と立っていた。
「レジェンド・オブ・レジェンド。ケルリア・サンソン!」
ケルリアと呼ばれた男は体をクネクネと踊らせながら奇声を上げる。
理解が追いつかないほどの踊りを見せたかと思うと、腰を激しく振り乱したりひたすら高音で叫んだりと、彼の行動に予想がつくことは一度たりとてなかった。
「まだまだいくぞー!」
二人の歌い手はまるで絡み合うかのように美しく激しい旋律を奏で始める。
もはや彼らが放つ音楽が聞こえているのか聴こえていないのか、それすらわからないほどの歓声に会場内は包まれていた。
ソルもまた彼らに負けないほどの声を上げ、全力で命を震わせた。
それからのことはよく覚えていない。
あっという間に終わってしまったショーはどのくらいの時間だったのだろうか。
一瞬のことだったようにも思えるし、まるで永遠のことだったかのように思える。
ムンムンとする場内からは湯気が立ち上り、皆何かをやり切ったかのように爽やかな表情でステージを見つめている。
ミッキーさんはこれを見せたかったんだ。
まるで生まれ変わったかのように清々しい気持ちでステージを見つめる。
「最後に俺たちが伝えたいことは・・・」
ボーカルのティースが口を開く。一瞬にして場内が静寂に包まれる。
「伝えたいことは、命は永遠だってことだ。そして命は一つ。・・・俺たちは一つなんだ!」
笑顔でティースとケルリアが抱き合う。その上空に火花が花開く。
疲れを知らない観客たちは今日一番と言っていいほどの歓声を上げた。
そこにいる全ての命が躍動し、煌めきを放ち始める。
ソルは込み上げる笑いを止めることができなくなっていた。
なんて素晴らしいショーなんだ。
命は永遠で、一つ。知らなかったけど、きっとそうなんだ。
「また会おうぜ」
そのバンドはそう言い残しステージを去った。
興奮冷めやらぬまま満点の星空を見上げたソルの頬には一筋の涙が流れた。
ものすごい速度で駆けてきた二人はあっという間にパパラパの街へと戻ってきていた。
さっと馬から飛び降りたミッキー・シックスはその馬の尻を叩き解放させると、鼻歌を歌いながら目の前の建物を見据えた。
ギラギラとネオン輝く建物が二人を見下ろしている。その周りには大勢の人だかりができており、どこか狂ったような熱気を帯びていた。
ミッキー・シックスはスタスタとその群衆の方へと歩いていく。
カチカチに凝り固まった足を引きづりながらミッキー・シックスの後を追うソル。
「ミッキーさん。何ですか、ここ?」
彼はニヤリとしながらタバコを咥えて火をつけた。
ふぅっと旨そうにタバコを吹かしたミッキー・シックスは目の前の建物を狙い打つかのように指差しながら言った。
「ジョズギア・パームル・ホール。ロックの殿堂サ・・・ロックは流石に知ってるよネ?」
パンっと銃を撃つかのような仕草でその建物を射止めたミッキー・シックスは、群衆を掻き分けズンズンと建物の方へと歩いていく。
はぐれては敵わない。とソルも全速力で彼の後を着いていく。
ごった返す群衆を掻き分け、なんとかミッキー・シックスまで追いついた。
入口まで辿り着いたミッキー・シックスは、いつの間にやら取り出していたチケットをもぎりの男性に手渡す。
「今夜はやばいぞ!楽しんで!」
笑顔で背中を叩いてくるもぎりの男性。ソルは自然と頬が緩むのを感じた。
「ロックのライブに来たんですか?何のために?」
会場内はさらに熱気に溢れており、たくさんの人々でごった返していた。
ソルは珍しく大声を上げてミッキー・シックスにそう尋ねた。
「キミに見せたかったんだ。一生に一度見れるかどうかってほどのショーだからネ。楽しんで!」
ミッキー・シックスは大声でそう返すと、手を振り瞬く間に人混みの中へと消えていってしまった。
えっ、置いていかれた?
慌ててミッキー・シックスの消えた方へと駆け寄ったが、すでに彼の姿はなくソルは一人ぼっちになってしまった。
「・・・信じられない」
異国の地でまた一人ぼっちになってしまったソルはそう呟いたが、その顔は笑っていた。
フォスニアンの行動はいつでも予測不可能だ。いちいち戸惑っていてはやっていけない。
ミッキー・シックスは「ショーを見せたい」と言っていた。つまり、「ショーを見ろ」ということだ。それも今回に限っては一人で。
彼の意図が何なのか全くもって想像することは難しい(もしくはそもそも意図など存在しない可能性の方が高い)が、きっとまた何か面白いものが見られるのだろう。
ソルはキョロキョロと辺りを見渡し、ライブ会場への入り口を見つけると興奮に打ち揺れる人々を何とか交わして入り口を目指す。
途中、何人ものフォスニアンたちが声をかけてきたが、皆興奮しているようで何を言っているのかよくわからなかった。
それでも、その熱気に飲まれたソルは笑顔で手を上げ彼らに応えた。
何とか会場の入り口まで辿り着き扉を開けると、そこは巨大な野外ホールになっていた。すでに多くに観客たちが、まだかまだかとショーの始まりを待ち侘びている。
さっきまで建物の中にいたのに・・・。
満点の星空の下、巨大なステージが鎮座していた。
呆然と立ち尽くしていたソルであったが、「まぁ、きっとこれも魔法、か」とすぐに納得すると、適当な場所に体を滑り込ませ、周りの観客と同様にショーの始まりを待った。
ソルの脇を通る人々が時折、機械人間の存在に気がつきハイタッチを求めてくる。
会場内の熱気のせいだろうか。今ではすっかりそのテンションに馴染んでいたソルは、臆することなくハイタッチを返し笑顔で挨拶を交わしたりしていた。
しばらくそんなことをしていると、突如ステージ中央に巨大な数字が浮かび上がる。
数字で百と記されている。すぐにその数字が九十九、九十八と変わり、どうやらカウントダウンが始まったようだ。
会場の熱気はいよいよに勢いを増す。
あと九十一秒でショーが始まる。
ソルはその時をいまかいまかと、他の観客同様待ち侘びた。
六・・・パッとステージが照らし出され、観客たちは狂ったように雄叫びを上げる。
五・・・自分の胸の鼓動が今にも弾け飛んでしまいそうだ。
四・・・巨大なスクリーンがぽっと浮かび上がる。それも五つだ。
三・・・自分は今、周りの観客に負けないぐらいの雄叫びを上げている。
二・・・巨大なスクリーンに人影が浮かび上がる。至る所から悲鳴にも似た歓声が上がる。
一・・・まるで夢の中にいるみたいに、フワフワとした感覚に包まれる。
バンッバンッと立て続けに火花が上がる。まるで花のように美しく圧巻の光景であった。
それに伴い会場全体に轟音が鳴り響きショーが始まった。
四人の男たちがステージを縦横無尽に走り回る。
あっという間にそのショーのボルテージは最高潮まで達した。
激しく切なく心掻き乱される彼らの音楽は今までに聞いたどんな音楽とも異なり、異次元の光を放っていた。
何曲ぐらい歌ったのだろうか。
ピンスポットの当たるステージ中央に一人の細身の男の影が浮かび上がる。
どよめきにも似た歓声が上がり、ソルは自身の鼓動が早まるのを感じた。
歌を歌っていたフロントマンだ。
ソルのいる位置からは遠過ぎてよく見えなかったが、すぐにスクリーンにその姿が映し出される。
その男は、長い髪をゆらゆらとさせ、ステップを踏みながら観客を煽っている。
それに呼応するかのように会場全体が一つになり、まるで生き物のように唸りを上げる。
満足そうに笑うそのフロントマンは長い髪を振り乱し雄叫びを上げた。
信じられないくらいの高音がその男から発せられたかと思うと、今度は爽やかに旋律を奏でていく。
魂までもが鷲掴みにされるほどの歌声である。
その様子に会場内の熱気はどんどんと上がっていく。
「あぁ、今日はありがとう。愛してるゼ!ラ・フェスタのボーカル、ティース・イフノイノだゼッ!」
ティースと名乗ったそのボーカルは両手を広げ観客の声援に応えた。
「そして、世界一のメンバーを紹介するゼッ!」
すぐに両脇から弦楽器をぶら下げた男が二人、軽快なグルーブを生み出しながら現れる。
「オン・ギター、デト・ガライ!」
フードをまぶかに被った小柄の男は、頭を激しく振りながら軽快なリズムで高音を掻き鳴らしていく。
その音はまるで喜怒哀楽が美しく混ざり合い、全ての命を包み込むようであった。
「そして、オン・ベース、スユキ・カムラ!」
反対のもう一人の弦楽器を演奏するスユキと呼ばれた男は、大柄な体を小刻みに揺らしリズミカルな低音を生み出している。
真面目にスーツを着込んではいるが、どこか怪しい光を反射させるメガネにソルはぞくりと体を震わせた。
彼らが生み出す旋律はまるで岩壁に打ち付ける荒波のようであり、また背筋を伝う冷や汗のようでもあった。
彼らが放つ圧倒的なエネルギーにソルの体は震え、手には汗がうっすらと浮かび上がる。
「楽しんでるかっ!かかっここよオラァ。ジョズギアー!」
ギタリストのデトがそう叫ぶとそれに負けないぐらいの叫び声を返す観客たち。
「いいねぇ。お前たち、愛してるぜぇ!」
満足そうに頷いたデトはベーシストのスユキの方を指差し観客を煽る。
メガネをクイっと上げ、首元を締めていたネクタイをゆっくりと緩ませるスユキ。
「みんな乗ってるか!いつもの、いくよ!プー・プーシャラルカ・プー。セイッ、カモン!」
魔法のような不思議なコールアンドレスポンスが繰り広げられ、より一体感を増していく場内。
「オン・ドラムス、アクティ・ガドセダ!」
ボーカルのティースの声がけを合図に打楽器が走り始める。
鍛えら上げられた肉体から繰り出されるそのリズムは、まるで悪魔の行進を思わせるほど、重厚で濃密な地響きのようであった。
地面を揺らすそのリズムはだんだんとその速度を上げていく。
自身の心臓の鼓動が先か、はたまたその打楽器の打ち鳴らすリズムが先か。
自身の中から何かが迫り上がってくるのを感じる。
目を閉じてその何かを全力で掴みにかかるソル。
「俺たちラ・フェスタはここにいるみんなにスペシャルなプレゼントを用意したぜ!叫べー!」
突如、地面が割れたかと思うほどの歓声が周りから上がった。
パッと目を開けステージへと目を向けると、そこには何とも奇妙な男が現れていた。
慌ててスクリーンを確認すると、そこにはハットを目深に被り白いスーツを完璧に着こなした男が悠々と立っていた。
「レジェンド・オブ・レジェンド。ケルリア・サンソン!」
ケルリアと呼ばれた男は体をクネクネと踊らせながら奇声を上げる。
理解が追いつかないほどの踊りを見せたかと思うと、腰を激しく振り乱したりひたすら高音で叫んだりと、彼の行動に予想がつくことは一度たりとてなかった。
「まだまだいくぞー!」
二人の歌い手はまるで絡み合うかのように美しく激しい旋律を奏で始める。
もはや彼らが放つ音楽が聞こえているのか聴こえていないのか、それすらわからないほどの歓声に会場内は包まれていた。
ソルもまた彼らに負けないほどの声を上げ、全力で命を震わせた。
それからのことはよく覚えていない。
あっという間に終わってしまったショーはどのくらいの時間だったのだろうか。
一瞬のことだったようにも思えるし、まるで永遠のことだったかのように思える。
ムンムンとする場内からは湯気が立ち上り、皆何かをやり切ったかのように爽やかな表情でステージを見つめている。
ミッキーさんはこれを見せたかったんだ。
まるで生まれ変わったかのように清々しい気持ちでステージを見つめる。
「最後に俺たちが伝えたいことは・・・」
ボーカルのティースが口を開く。一瞬にして場内が静寂に包まれる。
「伝えたいことは、命は永遠だってことだ。そして命は一つ。・・・俺たちは一つなんだ!」
笑顔でティースとケルリアが抱き合う。その上空に火花が花開く。
疲れを知らない観客たちは今日一番と言っていいほどの歓声を上げた。
そこにいる全ての命が躍動し、煌めきを放ち始める。
ソルは込み上げる笑いを止めることができなくなっていた。
なんて素晴らしいショーなんだ。
命は永遠で、一つ。知らなかったけど、きっとそうなんだ。
「また会おうぜ」
そのバンドはそう言い残しステージを去った。
興奮冷めやらぬまま満点の星空を見上げたソルの頬には一筋の涙が流れた。
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