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〜31章〜
フォスニアン・ラプソディ 音舞狂篇
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「ヘーイ、ムーさん!今日もアゲアゲサイコーだったヨ!」
ミッキー・シックスは立ち上がり、ムーさんと呼ばれたその旧人類と熱い抱擁を交わす。
互いに嬉しそうに背中を叩き合っているが、ひっそりとしていた店内にはどうにも似つかわしくない光景であった。
一通り抱擁を交わしたムーはソルの方へと向き直り両手を広げ抱擁を求めてきた。
「さぁ、機械人間クン。熱い抱擁を交わそうゼ!ヘイッ、カモン!」
大きなサングラスがキラリと光る。どうやら今回は逃げ場はなさそうだ。
おずおずと立ち上がり恐る恐る抱擁を返すソル。
「は、初めまして」
ガシガシとソルの背中を抱いたムーは満足そうに身を離し、しげしげとソルの顔を見た。
「さっきはなんで来てくれなかったのさー。せっかく盛り上がってたのに」
ハハハ、と笑いながら背中を叩いてくる。ドカッと空いた席に座ると「いつものね!」と慣れた様子で注文をした。
ミッキー・シックスに促され渋々席へと座り直したソルであったが、二人の旧人類に挟まれなんとも居心地が悪い。
そんなソルを気に留めることもなく話を続けるムー。
「いやぁ、今日もよかったよー!アゲアゲだゼ!ハハハッ」
ムーの前にすぐさまグラスが差し出された。
「それじゃ」と言ってグラスを掲げるムー。
カチンとグラスが割れんばかりに乾杯をした。
旧人類、もといフォスニアンたちは誰もがこんなにもテンションが高いのだろうか。
陽気な空気がムンムンと溢れている。
「ムーさんはね。この国で有名なディージェーなんだ。・・・ディージェーってのはディスクジョッキーのことで、音楽を流してみんなを楽しく踊らせてくれる人のことだヨ」
とっくのとうにベロンベロンになっていたミッキー・シックスは怪しい呂律でそう説明してくれた。
「キミも踊りたくなったらボクのところにカモン!アゲアゲのハピハピにしてあげるゼッ!」
またもや大声で笑い声を上げるムーであったが、周りにいる人たちは特に気にした様子はない。いつものことなんだろうか。
「そういえば、まだキミの名前を聞いていなかったネ。僕はムー・イシノイトロ。この国で一番アゲアゲでイケイケなディージェーだゼ!ホワットイズユアネイム?」
何も持っていないのにも関わらず軽く握りしめた手をソルの口元まで運んでくるムー。
ソルは彼の勢いに気圧されごくりと生唾を飲み込んでからなんとか口を開いた。
「ソ、ソルン・スペスです。・・・よろしくお願いします」
そうなんとか自己紹介をしたソルは、なんだかよくわからない緊張感に包まれ慌ててグラスを手に取り、ほんの少しだけ口を潤した。
「いい名前だネ!お肌がスベスベになりそうな名前だぁ!ハハハ」
ムーのその言葉に隣のミッキー・シックスも爆笑している。
ソルにはなにがなんだかわからなかったが、曖昧に苦笑いを返しそっとため息を吐いた。
「せっかく来たんだ。ゆっくりしていくといいヨ。・・・ところで僕のご馳走したお酒は美味しいカナ?」
古き旧友との時間を楽しむかのように、優しく肩に手を置いたムーは分厚く大きなサングラス越しにソルのことを見つめている。
ソルは手に持っていたグラスを慌てて置き「お、美味しいです。ありがとうございます」と丁寧に頭を下げた。
突如、ムーの顔から笑みが引いていく。
えっ、何かまずいことでも言ったのかな。
おずおずとムーの顔を見るが、サングラスが分厚すぎてその表情は全くもって読み取れない。
気まずい空気が流れるが、隣にいるミッキー・シックスは知らん顔。酔いがすごいのだろう。真っ赤にした顔でこちらをぼんやりと眺めている。
「あ、あの・・・」
何か癪に触ることでも言ってしまったのだろうか。
ソルはおずおずと謝ろうと立ち上がった。
するとムーは突如「うぉー」と大声を上げ立ち上がり、ソルのことを抱きしめた。
「なんていい子なんだキミは。ありがとうー!」
先ほどよりも熱く抱きしめてくるムーにソルの脳は停止した。
「さぁさぁ。もっと飲んで。遠慮なんてノーセンキュー!」
マスターに「おかわり!カモン!カモン!」とソルのお酒を要求するムー。
「かしこまりました」と早速ソルのお酒の準備を始める。
そんな様子を見ながら呆然と立ち尽くすソル。
何か怒られるのではないか、とビクビクしていたがそうではなかったようだ。
ホッと一息、ゆっくりと席に戻った。
・・・これも異文化交流だ。
そう思い少しだけ心が軽くなる。
「あ、ありがとうございます。えっと、なんていうか光栄です、とても。・・・ところでムーさんは何飲んでるんですか?」
「ん?ボク?ボクが飲んでいるのは、ノンアルコールミルクだゼッ!」
そう言って掲げたグラスから白い液体がピチャっと跳ねた。
「えっ?・・・お酒じゃないんですか?」
ソルのその言葉にハハハと笑い声を上げたムーはニンマリとして言った。
「ボクはお酒が飲めないからネ!健康ドゥーパンチッ!」
ソルは唖然とし、隣ではミッキー・シックスが「ふぇっ」と寝言のような声を上げた。
「はぁ。夜風が気持ちいいナァ」
ふぅ、と口に咥えた小さな棒状の物から吸い込んだ煙を気持ちよさそうに吐き出すミッキー・シックス。『タバコ』というものらしい。
魔女のシニコローレも同じような物を吸っていた気がするが、それが同じ物であったかどうかはっきりとした確信はなかった。が、異国の民たちの中で、特に変わっている人が何か吸っているということは、どうやら共通しているようだ。
「あのー。さっきも言ったんですけど、僕の友達が・・・」
「さっきも言ったけど、彼女なら大丈夫だヨ。少しは信頼してヨ」
ハハハ、と気弱に笑うミッキー・シックス。まだ酒が頭の中を巡っているのだろう。
ソルは黙るしかなく、ひとまずそれを飲み込んだ。
二人は満点の星空の下、静かに夜風に当たっていた。
そう、ここ『フォスナ』では夜があるのだ!
夜風に揺れる木々たちの奏でる音はなんとも美しく、そして幻想的であった。
ソルの故郷では夜風は吹くが、それになびく草木は一切育つことがない。
そのため、ソルは目の前に広がる光景に圧倒されるばかりであった。
「はぁ。・・・ありがとネ。やっと酔いが冷めたヨ」
口に咥えていたタバコを指で弾き、気持ち良さそうに煙を吐き出すと、ミッキー・シックスはゆっくりと歩き始めた。
火の付いたタバコの行方が気になりつつも、慌ててミッキー・シックスの後を付いていくソル。
どうやらその目的地は先ほどのバーではないようだ。
酔いが覚め足取り軽くなったミッキー・シックスはスタスタと歩いていく。調子外れな鼻歌を歌いながらとても幸せそうである。
「ミッキーさん。どこ行くの?あの、コーモスは?」
ご機嫌な背中にそう問いかけるソル。
「もうすぐ夜が明ける。ちょっと散歩しよう。面白いものが見られると思うヨ。コーモスクンはまた別口サ」
彼はそう言うとソルの肩に手を回し、ぐいぐいと歩き始める。
「あ、あの・・・」と声をかけるが、ミッキー・シックスは調子外れな鼻歌を楽しそうに歌っている。
地平線の彼方にはうっすらと太陽が上がってきたようだ。
ソルはやはりルーナのことが引っかかっていたが、どこか魔法に魅せられたかのようにぼんやりと流れに身を任せた。
二人は地平線に輝くその光の方向へと歩いていく。
ソルの心はただただ感動に打ち震えていた。
ソルとミッキー・シックスはそう歩かないうちに小さな街に辿り着いていた。
「ここはね、『スーザー』って街。絵に命を宿す人たちが暮らす街なんだ」
ミッキー・シックスの指差す先には色鮮やかな街がどこまでも広がっていた。
土壁に木枠といった様子で作られている建物が所狭しと立ち並んでおり、そのどれもが三角帽子のような屋根を天に突き出していた。
広場を思わせる街の中央には噴水がキラキラと朝陽を反射し輝いている。
「キミの目にはこの街の美しさの半分も見えていないんだろうなぁ。・・・かわいそうに」
ソルマルク人の色の識別能力のことを言っているのだろうか?
残念そうにそう呟いたミッキー・シックスは、「あ、そうだ!」と何かを思い出した様子で懐へと手を忍び込ませた。
「ほら、ここだヨ」
何やらボロ切れを取り出したミッキー・シックスは嬉しそうにそれをソルへと手渡した。
差し出されたボロ切れを覗き込むと、どうやらそれはフォスナの地図のようであった。
縦に細長い大陸が描かれており、その上には『フォスナ』と表記されている。ミッキー・シックスの指差した場所はその大陸の一番下の辺りだ。
『スーザー』から順に上へ指を滑らせていくと、そこには『フォスタ』、『オルン』、『タン』、そして『パパラパ』と描かれていた。
「あれ、パパラパってこんな位置なの?」
今、ソルたちがいる『スーザー』が最南端である。そして、先ほどまでいた『パパラパ』は最北端となっている。
「これ間違っているんじゃないの?流石に僕たちそんなに歩いていないよ。それともフォスナってすっごい小さい国なの?」
ミッキー・シックスと地図を見比べながらそう尋ねるソルに、ミッキー・シックスはニヤニヤと人差し指を突き立て振った。
「ホラ、僕たちは神の子孫なんだ。ちょっと魔法を使えば、あら不思議。ちょっとした散歩をするだけで辿り着けるってわけ!」
ふふん、と鼻を鳴らしたミッキー・シックスは自身の髭を上品に撫で付け胸を張った。
フォスニアンの生態を少しずつ理解し始めていたソルは、野暮な問いを投げかけることはせず、「なるほどねー。魔法ってすごいなぁ」と一人感心していた。
「でしょ!魔法ってほんとにすごいんだヨ」
ミッキー・シックスは目を輝かせ嬉しそうに頷くと、またもや鼻歌を歌いながら意気揚々と街中へと歩いて行った。
ミッキー・シックスの方を目の端に捉えつつ、辺りを見渡しながらゆっくりと歩いていく。
なんて美しい街なんだろう。
ドゥロルパとはまた違った美しさがそこには秘められている。
どこの路地を曲がっても、すぐにでも物語が始まりそうな雰囲気が漂っているようである。
ソルはその街それ自体に見惚れ、ぼんやりと歩いていた。
そんなソルを振り返り、呆れた様子のミッキー・シックスはツカツカと歩み寄ってきた。
「ホラ、こっちこっち。さぁ、行こう!」
ぼーっとしていたソルはミッキー・シックスに手を引かれるままにスーザーの街を練り歩いた。
ミッキー・シックスは立ち上がり、ムーさんと呼ばれたその旧人類と熱い抱擁を交わす。
互いに嬉しそうに背中を叩き合っているが、ひっそりとしていた店内にはどうにも似つかわしくない光景であった。
一通り抱擁を交わしたムーはソルの方へと向き直り両手を広げ抱擁を求めてきた。
「さぁ、機械人間クン。熱い抱擁を交わそうゼ!ヘイッ、カモン!」
大きなサングラスがキラリと光る。どうやら今回は逃げ場はなさそうだ。
おずおずと立ち上がり恐る恐る抱擁を返すソル。
「は、初めまして」
ガシガシとソルの背中を抱いたムーは満足そうに身を離し、しげしげとソルの顔を見た。
「さっきはなんで来てくれなかったのさー。せっかく盛り上がってたのに」
ハハハ、と笑いながら背中を叩いてくる。ドカッと空いた席に座ると「いつものね!」と慣れた様子で注文をした。
ミッキー・シックスに促され渋々席へと座り直したソルであったが、二人の旧人類に挟まれなんとも居心地が悪い。
そんなソルを気に留めることもなく話を続けるムー。
「いやぁ、今日もよかったよー!アゲアゲだゼ!ハハハッ」
ムーの前にすぐさまグラスが差し出された。
「それじゃ」と言ってグラスを掲げるムー。
カチンとグラスが割れんばかりに乾杯をした。
旧人類、もといフォスニアンたちは誰もがこんなにもテンションが高いのだろうか。
陽気な空気がムンムンと溢れている。
「ムーさんはね。この国で有名なディージェーなんだ。・・・ディージェーってのはディスクジョッキーのことで、音楽を流してみんなを楽しく踊らせてくれる人のことだヨ」
とっくのとうにベロンベロンになっていたミッキー・シックスは怪しい呂律でそう説明してくれた。
「キミも踊りたくなったらボクのところにカモン!アゲアゲのハピハピにしてあげるゼッ!」
またもや大声で笑い声を上げるムーであったが、周りにいる人たちは特に気にした様子はない。いつものことなんだろうか。
「そういえば、まだキミの名前を聞いていなかったネ。僕はムー・イシノイトロ。この国で一番アゲアゲでイケイケなディージェーだゼ!ホワットイズユアネイム?」
何も持っていないのにも関わらず軽く握りしめた手をソルの口元まで運んでくるムー。
ソルは彼の勢いに気圧されごくりと生唾を飲み込んでからなんとか口を開いた。
「ソ、ソルン・スペスです。・・・よろしくお願いします」
そうなんとか自己紹介をしたソルは、なんだかよくわからない緊張感に包まれ慌ててグラスを手に取り、ほんの少しだけ口を潤した。
「いい名前だネ!お肌がスベスベになりそうな名前だぁ!ハハハ」
ムーのその言葉に隣のミッキー・シックスも爆笑している。
ソルにはなにがなんだかわからなかったが、曖昧に苦笑いを返しそっとため息を吐いた。
「せっかく来たんだ。ゆっくりしていくといいヨ。・・・ところで僕のご馳走したお酒は美味しいカナ?」
古き旧友との時間を楽しむかのように、優しく肩に手を置いたムーは分厚く大きなサングラス越しにソルのことを見つめている。
ソルは手に持っていたグラスを慌てて置き「お、美味しいです。ありがとうございます」と丁寧に頭を下げた。
突如、ムーの顔から笑みが引いていく。
えっ、何かまずいことでも言ったのかな。
おずおずとムーの顔を見るが、サングラスが分厚すぎてその表情は全くもって読み取れない。
気まずい空気が流れるが、隣にいるミッキー・シックスは知らん顔。酔いがすごいのだろう。真っ赤にした顔でこちらをぼんやりと眺めている。
「あ、あの・・・」
何か癪に触ることでも言ってしまったのだろうか。
ソルはおずおずと謝ろうと立ち上がった。
するとムーは突如「うぉー」と大声を上げ立ち上がり、ソルのことを抱きしめた。
「なんていい子なんだキミは。ありがとうー!」
先ほどよりも熱く抱きしめてくるムーにソルの脳は停止した。
「さぁさぁ。もっと飲んで。遠慮なんてノーセンキュー!」
マスターに「おかわり!カモン!カモン!」とソルのお酒を要求するムー。
「かしこまりました」と早速ソルのお酒の準備を始める。
そんな様子を見ながら呆然と立ち尽くすソル。
何か怒られるのではないか、とビクビクしていたがそうではなかったようだ。
ホッと一息、ゆっくりと席に戻った。
・・・これも異文化交流だ。
そう思い少しだけ心が軽くなる。
「あ、ありがとうございます。えっと、なんていうか光栄です、とても。・・・ところでムーさんは何飲んでるんですか?」
「ん?ボク?ボクが飲んでいるのは、ノンアルコールミルクだゼッ!」
そう言って掲げたグラスから白い液体がピチャっと跳ねた。
「えっ?・・・お酒じゃないんですか?」
ソルのその言葉にハハハと笑い声を上げたムーはニンマリとして言った。
「ボクはお酒が飲めないからネ!健康ドゥーパンチッ!」
ソルは唖然とし、隣ではミッキー・シックスが「ふぇっ」と寝言のような声を上げた。
「はぁ。夜風が気持ちいいナァ」
ふぅ、と口に咥えた小さな棒状の物から吸い込んだ煙を気持ちよさそうに吐き出すミッキー・シックス。『タバコ』というものらしい。
魔女のシニコローレも同じような物を吸っていた気がするが、それが同じ物であったかどうかはっきりとした確信はなかった。が、異国の民たちの中で、特に変わっている人が何か吸っているということは、どうやら共通しているようだ。
「あのー。さっきも言ったんですけど、僕の友達が・・・」
「さっきも言ったけど、彼女なら大丈夫だヨ。少しは信頼してヨ」
ハハハ、と気弱に笑うミッキー・シックス。まだ酒が頭の中を巡っているのだろう。
ソルは黙るしかなく、ひとまずそれを飲み込んだ。
二人は満点の星空の下、静かに夜風に当たっていた。
そう、ここ『フォスナ』では夜があるのだ!
夜風に揺れる木々たちの奏でる音はなんとも美しく、そして幻想的であった。
ソルの故郷では夜風は吹くが、それになびく草木は一切育つことがない。
そのため、ソルは目の前に広がる光景に圧倒されるばかりであった。
「はぁ。・・・ありがとネ。やっと酔いが冷めたヨ」
口に咥えていたタバコを指で弾き、気持ち良さそうに煙を吐き出すと、ミッキー・シックスはゆっくりと歩き始めた。
火の付いたタバコの行方が気になりつつも、慌ててミッキー・シックスの後を付いていくソル。
どうやらその目的地は先ほどのバーではないようだ。
酔いが覚め足取り軽くなったミッキー・シックスはスタスタと歩いていく。調子外れな鼻歌を歌いながらとても幸せそうである。
「ミッキーさん。どこ行くの?あの、コーモスは?」
ご機嫌な背中にそう問いかけるソル。
「もうすぐ夜が明ける。ちょっと散歩しよう。面白いものが見られると思うヨ。コーモスクンはまた別口サ」
彼はそう言うとソルの肩に手を回し、ぐいぐいと歩き始める。
「あ、あの・・・」と声をかけるが、ミッキー・シックスは調子外れな鼻歌を楽しそうに歌っている。
地平線の彼方にはうっすらと太陽が上がってきたようだ。
ソルはやはりルーナのことが引っかかっていたが、どこか魔法に魅せられたかのようにぼんやりと流れに身を任せた。
二人は地平線に輝くその光の方向へと歩いていく。
ソルの心はただただ感動に打ち震えていた。
ソルとミッキー・シックスはそう歩かないうちに小さな街に辿り着いていた。
「ここはね、『スーザー』って街。絵に命を宿す人たちが暮らす街なんだ」
ミッキー・シックスの指差す先には色鮮やかな街がどこまでも広がっていた。
土壁に木枠といった様子で作られている建物が所狭しと立ち並んでおり、そのどれもが三角帽子のような屋根を天に突き出していた。
広場を思わせる街の中央には噴水がキラキラと朝陽を反射し輝いている。
「キミの目にはこの街の美しさの半分も見えていないんだろうなぁ。・・・かわいそうに」
ソルマルク人の色の識別能力のことを言っているのだろうか?
残念そうにそう呟いたミッキー・シックスは、「あ、そうだ!」と何かを思い出した様子で懐へと手を忍び込ませた。
「ほら、ここだヨ」
何やらボロ切れを取り出したミッキー・シックスは嬉しそうにそれをソルへと手渡した。
差し出されたボロ切れを覗き込むと、どうやらそれはフォスナの地図のようであった。
縦に細長い大陸が描かれており、その上には『フォスナ』と表記されている。ミッキー・シックスの指差した場所はその大陸の一番下の辺りだ。
『スーザー』から順に上へ指を滑らせていくと、そこには『フォスタ』、『オルン』、『タン』、そして『パパラパ』と描かれていた。
「あれ、パパラパってこんな位置なの?」
今、ソルたちがいる『スーザー』が最南端である。そして、先ほどまでいた『パパラパ』は最北端となっている。
「これ間違っているんじゃないの?流石に僕たちそんなに歩いていないよ。それともフォスナってすっごい小さい国なの?」
ミッキー・シックスと地図を見比べながらそう尋ねるソルに、ミッキー・シックスはニヤニヤと人差し指を突き立て振った。
「ホラ、僕たちは神の子孫なんだ。ちょっと魔法を使えば、あら不思議。ちょっとした散歩をするだけで辿り着けるってわけ!」
ふふん、と鼻を鳴らしたミッキー・シックスは自身の髭を上品に撫で付け胸を張った。
フォスニアンの生態を少しずつ理解し始めていたソルは、野暮な問いを投げかけることはせず、「なるほどねー。魔法ってすごいなぁ」と一人感心していた。
「でしょ!魔法ってほんとにすごいんだヨ」
ミッキー・シックスは目を輝かせ嬉しそうに頷くと、またもや鼻歌を歌いながら意気揚々と街中へと歩いて行った。
ミッキー・シックスの方を目の端に捉えつつ、辺りを見渡しながらゆっくりと歩いていく。
なんて美しい街なんだろう。
ドゥロルパとはまた違った美しさがそこには秘められている。
どこの路地を曲がっても、すぐにでも物語が始まりそうな雰囲気が漂っているようである。
ソルはその街それ自体に見惚れ、ぼんやりと歩いていた。
そんなソルを振り返り、呆れた様子のミッキー・シックスはツカツカと歩み寄ってきた。
「ホラ、こっちこっち。さぁ、行こう!」
ぼーっとしていたソルはミッキー・シックスに手を引かれるままにスーザーの街を練り歩いた。
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