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〜24章〜
バカンス日和の悪魔
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「ここね」
広大なメリゼル砂漠の最果てにはなんと、小さいながらも心地の良い開放的なビーチがありました。
無数に生い茂る大きな木を抜けると現れる美しい浜辺はまさにオアシスです。
浜辺のすぐ目の前には巨大なガラス張りのお金持ちの別荘のような建物が一軒、楽しげに佇んでいました。
魔法を扱う者たちは皆、ビーチというものを好むのでしょうか。
シニーの家がある魔女の浜『カロン』を思い出し、シエロは一人心の中でニヤつきます。
シエロたちは魔法の小鳥に誘われるままに、箒にまたがりこの浜までやってきました。
「どうするんだ?」
遠巻きにそのガラス張りの建物を観察していた一行は、照りつける陽の光を避けるように木の影に隠れています。
「もちろん!忍び込んで助けるしかないわ」
プカプカとタバコを咥えながら老婆が言いました。
その目はついに獲物を見つけた、と言わんばかりにキラキラとしています。
「そもそも、あの建物ってほんとにレタシモンってやつの住処なのか?どう見ても金持ちの道楽にしか見えないけどなぁ」
木の枝の上から建物を観察していたパタムールがスルスルと降りてきて言いました。
パタムールの言うとおり、その建物は到底悪魔には似つかわしくないほど、陽気で楽しげな雰囲気を放っています。
ガラス張りの建物からは広々としたウッドデッキが迫り出しており、パラソルやビーチチェアなどが置かれています。
真っ黒な箱形の何かはバーベキューグリルでしょうか。
なんとも優雅な生活を送っていると見えます。
本当にあの『心臓喰らいの悪魔』の隠れ家なのでしょうか。
「間違いないわ。もうプンプン匂うもの。マザコン特有のあの嫌な匂いがね」
鼻の頭に皺を寄せ、ゲンナリとした様子でそう言い放った老婆はタバコを咥えたままじっとその建物を見据えています。
「忍び込むって、どうやって?」
シエロもなんだか癖になったのか、葉巻を加えたままそう尋ねます。
「シニー婆さんに任せなさい。大丈夫、うまくやるわ」
老婆はキラリとそう微笑むと「ここで待ってて。しばらくしたら戻るから。いい?余計なことしないでよ。大人しくここで待ってなさい。」と、きつく言い付けて一人スタスタとその建物の方へと歩いて行きました。
「あ、おい」
シエロとパタムールは顔を見合わせてため息をつきました。
「まぁシニーなら大丈夫だろ。その心臓喰らいの悪魔がうさぎに変えられちまうところを拝むとしようぜ」
パタムールは開放的な空気に気を良くしたのか、そんな調子のいいことを口にしながら木の枝に背中を預け腕枕です。
そんなにうまくいくのかな。
シエロは口にしていた葉巻を消し、レタシモン卿の隠れ家と思われる建物へ、勇み足で歩いていくシニーの背中をじっと見守りました。
ブー、ブー。
なんとも下品な音が建物の中から鳴り響いてきます。
すぐに音もなく扉が開いたかと思うと、中からなんとも品の良さそうな男性が顔を覗かせました。
真っ白な肌はまるで透き通るようで、綺麗に肩取られた眉はまるでお人形のようです。
「どちら様でしょうか」
その男性は優しげに微笑みそう尋ねてきました。
シニーは居住まいを正し、か弱く無力な老婆を装い節目がちに口を開きました。
「あの、レタシモン様はおいででしょうか。一度で良いからお会いしたいんです。わたしゃ、もう先も長くない老いぼれです。最後にひと目で良いからあのお美しいと噂のレタシモン様にお会いしたいのです」
しゃがれた弱々しい声はまるで本物の老婆のようです。
少しばかりやりすぎな気もしますが、それでもなんとか誤魔化せたようです。
扉を開けた男性は少しばかり驚いたようでしたが、綺麗に整った眉を八の字に下げると、申し訳なさそうに口を開きました。
「申し訳ありません。レタシモン様は大変お忙しいのです。きっとお会いにはならないでしょう。はるばるお越しいただいて申し訳ありませんが、どうかお引き取りを」
男性の懇切丁寧な対応に、シニーはしめしめと心の中で舌なめずりです。
「それはわかっております。ですが、どうか最後にこの老いぼれの願いを。もし、もしお嫌でなければこの心臓だって差し上げるつもりでございます」
なんとか哀れみを頂戴しようと、身振り手振りで熱意を伝えました。
「何やってるんだ?」
パタムールは手で双眼鏡よろしく、シニーと扉を開けた男性のやりとりを見守っていました。
何やらわちゃわちゃと会話が交わされているようです。
が、なんだかうまくいっているようには見えません。
「大丈夫かな」
シエロはいざとなったら助けに行けるように、とパタムールを木の上から引き摺り下ろし、少しばかり建物の方へと近づいていきました。
と、どうやら中からもう一人の男性が現れたようです。
気持ちの良いビーチには不釣り合いなほどに厚着を決め込んだ長身の男は、なんだか危険な空気を放っているように見えました。
その長身の男は、最初に扉を開けた男性を叱りつけると、シニーのことを丁寧に中へと招き入れたではありませんか。
「あれが、レタシモンか?」
「わーお、招き入れられちまったよ。さっすが、魔女だなぁ」
「大丈夫かなぁ」
二人はドキドキと一連の動向を見守っていましたが、一度建物の中に入ってはもうどうすることもできません。
仕方なく何か動きがあるまで待機、といったところでしょうか。
無事に済むと良いのですが。
広大なメリゼル砂漠の最果てにはなんと、小さいながらも心地の良い開放的なビーチがありました。
無数に生い茂る大きな木を抜けると現れる美しい浜辺はまさにオアシスです。
浜辺のすぐ目の前には巨大なガラス張りのお金持ちの別荘のような建物が一軒、楽しげに佇んでいました。
魔法を扱う者たちは皆、ビーチというものを好むのでしょうか。
シニーの家がある魔女の浜『カロン』を思い出し、シエロは一人心の中でニヤつきます。
シエロたちは魔法の小鳥に誘われるままに、箒にまたがりこの浜までやってきました。
「どうするんだ?」
遠巻きにそのガラス張りの建物を観察していた一行は、照りつける陽の光を避けるように木の影に隠れています。
「もちろん!忍び込んで助けるしかないわ」
プカプカとタバコを咥えながら老婆が言いました。
その目はついに獲物を見つけた、と言わんばかりにキラキラとしています。
「そもそも、あの建物ってほんとにレタシモンってやつの住処なのか?どう見ても金持ちの道楽にしか見えないけどなぁ」
木の枝の上から建物を観察していたパタムールがスルスルと降りてきて言いました。
パタムールの言うとおり、その建物は到底悪魔には似つかわしくないほど、陽気で楽しげな雰囲気を放っています。
ガラス張りの建物からは広々としたウッドデッキが迫り出しており、パラソルやビーチチェアなどが置かれています。
真っ黒な箱形の何かはバーベキューグリルでしょうか。
なんとも優雅な生活を送っていると見えます。
本当にあの『心臓喰らいの悪魔』の隠れ家なのでしょうか。
「間違いないわ。もうプンプン匂うもの。マザコン特有のあの嫌な匂いがね」
鼻の頭に皺を寄せ、ゲンナリとした様子でそう言い放った老婆はタバコを咥えたままじっとその建物を見据えています。
「忍び込むって、どうやって?」
シエロもなんだか癖になったのか、葉巻を加えたままそう尋ねます。
「シニー婆さんに任せなさい。大丈夫、うまくやるわ」
老婆はキラリとそう微笑むと「ここで待ってて。しばらくしたら戻るから。いい?余計なことしないでよ。大人しくここで待ってなさい。」と、きつく言い付けて一人スタスタとその建物の方へと歩いて行きました。
「あ、おい」
シエロとパタムールは顔を見合わせてため息をつきました。
「まぁシニーなら大丈夫だろ。その心臓喰らいの悪魔がうさぎに変えられちまうところを拝むとしようぜ」
パタムールは開放的な空気に気を良くしたのか、そんな調子のいいことを口にしながら木の枝に背中を預け腕枕です。
そんなにうまくいくのかな。
シエロは口にしていた葉巻を消し、レタシモン卿の隠れ家と思われる建物へ、勇み足で歩いていくシニーの背中をじっと見守りました。
ブー、ブー。
なんとも下品な音が建物の中から鳴り響いてきます。
すぐに音もなく扉が開いたかと思うと、中からなんとも品の良さそうな男性が顔を覗かせました。
真っ白な肌はまるで透き通るようで、綺麗に肩取られた眉はまるでお人形のようです。
「どちら様でしょうか」
その男性は優しげに微笑みそう尋ねてきました。
シニーは居住まいを正し、か弱く無力な老婆を装い節目がちに口を開きました。
「あの、レタシモン様はおいででしょうか。一度で良いからお会いしたいんです。わたしゃ、もう先も長くない老いぼれです。最後にひと目で良いからあのお美しいと噂のレタシモン様にお会いしたいのです」
しゃがれた弱々しい声はまるで本物の老婆のようです。
少しばかりやりすぎな気もしますが、それでもなんとか誤魔化せたようです。
扉を開けた男性は少しばかり驚いたようでしたが、綺麗に整った眉を八の字に下げると、申し訳なさそうに口を開きました。
「申し訳ありません。レタシモン様は大変お忙しいのです。きっとお会いにはならないでしょう。はるばるお越しいただいて申し訳ありませんが、どうかお引き取りを」
男性の懇切丁寧な対応に、シニーはしめしめと心の中で舌なめずりです。
「それはわかっております。ですが、どうか最後にこの老いぼれの願いを。もし、もしお嫌でなければこの心臓だって差し上げるつもりでございます」
なんとか哀れみを頂戴しようと、身振り手振りで熱意を伝えました。
「何やってるんだ?」
パタムールは手で双眼鏡よろしく、シニーと扉を開けた男性のやりとりを見守っていました。
何やらわちゃわちゃと会話が交わされているようです。
が、なんだかうまくいっているようには見えません。
「大丈夫かな」
シエロはいざとなったら助けに行けるように、とパタムールを木の上から引き摺り下ろし、少しばかり建物の方へと近づいていきました。
と、どうやら中からもう一人の男性が現れたようです。
気持ちの良いビーチには不釣り合いなほどに厚着を決め込んだ長身の男は、なんだか危険な空気を放っているように見えました。
その長身の男は、最初に扉を開けた男性を叱りつけると、シニーのことを丁寧に中へと招き入れたではありませんか。
「あれが、レタシモンか?」
「わーお、招き入れられちまったよ。さっすが、魔女だなぁ」
「大丈夫かなぁ」
二人はドキドキと一連の動向を見守っていましたが、一度建物の中に入ってはもうどうすることもできません。
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無事に済むと良いのですが。
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