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〜16章〜
甘い蜜に誘われて
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不思議な幼い魔女に会ったのはつい二日前のことでした。
ルーフェはその魔女から手渡された古めかしい本を片手に、うとうとと小さな船を漕いでいました。
『つまらない男が書いたつまらない話』
そう言ってその魔女はニヤリと笑っていました。
そのちょっと前には面白いからぜひ読んでみて、なんて言っていたのに。
なんとも不思議で魅力的な女の子です。
彼女との時間を思い出し、ふっと口元が緩んできます。
ルーフェの働くマジディクラは今日もまた閑散としており、構って欲しそうな閑古鳥に目をつけられていました。
道ゆく人々は時折お店の中を興味深そうに覗き込みますが、わざわざお店の中まで足を運んでくる人はおらず、退屈な時間が流れていきます。
「はぁ」
まるで壊れてしまったのかのような時計の針を目に、自然とため息が溢れ出てきます。
今日はこれで何回目でしょうか。
それに、今日はエイマがお休みのため話し相手もいません。
ルーフェは退屈な時間をなんとかやり過ごそうと、幼い魔女からもらった本を読もうと目を凝らしますが、文字が流れるばかりでちっとも頭に入ってきません。
んんーと眉間に皺を寄せぼんやりとする頭をなんとか集中させようとします。
が、すぐにも集中力が切れたのか、ついにはパタンとその本を閉じて置いてしまいました。
はぁ、とふと顔を上げるとなんとそこには見覚えのある顔が。
「ごきげんよう。なんの本を読んでいるのかな」
そこにいたのは、あのディアボロ伯爵です。
いつものように素敵な笑顔をたたえ、興味津々といった様子でたった今ルーフェが閉じた本を見つめています。
「あら。ご、ごめんなさい」
慌てて立ち上がったルーフェはなんとかお辞儀をすると、ほんのりと頬を赤らめています。
「退屈な本ですわ」
シニーからもらった本を掲げ困ったように肩をすくめたルーフェでしたが、ルーフェのその物言いにむしろ伯爵は興味を抱いたようです。
「それは興味深い。今度私にも貸してくれるかな?」なんておっしゃっています。
「え?えぇ、いつでも良いですけど、ほんとに退屈な本ですよ」
ルーフェのその言葉に伯爵は優しく微笑むと「読み終わったらぜひ」と呟きました。
「ところで今日は、お時間はありますか?よかったら少し散歩にでも」
伯爵の誘いを断る理由なんてありません。
ルーフェは手にしていた古めかしい本を乱暴に机に投げ出すと、静かに頷きました。
「えぇ、もちろん。ですが・・・」
壁にかけられた時計を恨めしそうな眼差しで見つめます。
お店が閉まるまでまだあと二時間ほどありました。
ここ最近、相変わらずのお店の不況はもちろんのこと、ストーカーまがいのことであったり、突然降って沸いたシエロのことなど、ルーフェはなんだか少し疲れていました。
伯爵との散歩は、そんなルーフェにとっていい気晴らしになりそうです。
ルーフェの心の中に潜む悪魔が囁きます。
『どうせ客なんて来ないさ。それより目の前のいい男と散歩をした方が良いに決まってる』
うん、たまにはいいわよね。どうせ暇だし。
今度は天使が囁きます。
『ダメよ、ちゃんと仕事しなきゃ。早仕舞いなんて、お客様の信頼を失ってしまうわ』
そう、よね。今、頑張りどきなのに。
『たまには息抜きしないと。疲れたままじゃいい仕事なんてできないぜ』
『今やるべきことから逃げちゃダメよ』
ルーフェの頭の中では天使と悪魔が口喧嘩をしています。
その間を、ルーフェはふらふらと行ったり来たり、困った様子で彷徨っています。
「それで、どうかな?今からでも」
ぼーっと頭の中の天使と悪魔の攻防を見守っていたルーフェは突如、現実に引き戻されました。
「え、えぇ。いや、あの」
ルーフェはどうしたものかと改めて壁にかけられた時計を見ました。
じとーっとした目をしたその時計の針は、さっきからちっとも進んでいません。
頭の中では天使と悪魔が激論を交わしています。
そんな彼らを一旦傍に置き、ルーフェは笑顔で答えました。
「ええ、もちろん。喜んで」
ルーフェの返答に伯爵は嬉しそうに目尻を下げると「実は君に頼みたいことがあるんだ」と夕方の街へと誘いました。
ルーフェは看板をクローズへとひっくり返すと、カーテンを下ろし店じまいを急ぎます。
と、いっても一日中暇だったのでやることなどほとんどないのですが。
エイマへの置き手紙を書いたルーフェは伯爵の元に駆け寄ると微笑みました。
「お待たせしました」
伯爵は優雅に頷くとそっと手を差し出しました。
なんだかドキドキする気持ちでその手を取ったルーフェは、伯爵に誘われるままに店を後にします。
マジディクラが早々に閉まってしまい、暇を持て余した閑古鳥は残念そうに鳴き声をあげました。
ルーフェは伯爵に気がつかれないようその閑古鳥へとウィンクを飛ばすと、閑古鳥は恨めしそうに鳴きました。
と、「用がないのならそこをどけ」と言わんばかりにカラスの群れが一斉に鳴き始め、閑古鳥は仕方なく空へと羽ばたきました。
陽の沈みかけたなんだか寂しい時間に、カラスの合唱が鳴り響いています。
閑古鳥はというと、一人寂しく黄昏の空をだらだらと飛んでいきました。
ルーフェはその魔女から手渡された古めかしい本を片手に、うとうとと小さな船を漕いでいました。
『つまらない男が書いたつまらない話』
そう言ってその魔女はニヤリと笑っていました。
そのちょっと前には面白いからぜひ読んでみて、なんて言っていたのに。
なんとも不思議で魅力的な女の子です。
彼女との時間を思い出し、ふっと口元が緩んできます。
ルーフェの働くマジディクラは今日もまた閑散としており、構って欲しそうな閑古鳥に目をつけられていました。
道ゆく人々は時折お店の中を興味深そうに覗き込みますが、わざわざお店の中まで足を運んでくる人はおらず、退屈な時間が流れていきます。
「はぁ」
まるで壊れてしまったのかのような時計の針を目に、自然とため息が溢れ出てきます。
今日はこれで何回目でしょうか。
それに、今日はエイマがお休みのため話し相手もいません。
ルーフェは退屈な時間をなんとかやり過ごそうと、幼い魔女からもらった本を読もうと目を凝らしますが、文字が流れるばかりでちっとも頭に入ってきません。
んんーと眉間に皺を寄せぼんやりとする頭をなんとか集中させようとします。
が、すぐにも集中力が切れたのか、ついにはパタンとその本を閉じて置いてしまいました。
はぁ、とふと顔を上げるとなんとそこには見覚えのある顔が。
「ごきげんよう。なんの本を読んでいるのかな」
そこにいたのは、あのディアボロ伯爵です。
いつものように素敵な笑顔をたたえ、興味津々といった様子でたった今ルーフェが閉じた本を見つめています。
「あら。ご、ごめんなさい」
慌てて立ち上がったルーフェはなんとかお辞儀をすると、ほんのりと頬を赤らめています。
「退屈な本ですわ」
シニーからもらった本を掲げ困ったように肩をすくめたルーフェでしたが、ルーフェのその物言いにむしろ伯爵は興味を抱いたようです。
「それは興味深い。今度私にも貸してくれるかな?」なんておっしゃっています。
「え?えぇ、いつでも良いですけど、ほんとに退屈な本ですよ」
ルーフェのその言葉に伯爵は優しく微笑むと「読み終わったらぜひ」と呟きました。
「ところで今日は、お時間はありますか?よかったら少し散歩にでも」
伯爵の誘いを断る理由なんてありません。
ルーフェは手にしていた古めかしい本を乱暴に机に投げ出すと、静かに頷きました。
「えぇ、もちろん。ですが・・・」
壁にかけられた時計を恨めしそうな眼差しで見つめます。
お店が閉まるまでまだあと二時間ほどありました。
ここ最近、相変わらずのお店の不況はもちろんのこと、ストーカーまがいのことであったり、突然降って沸いたシエロのことなど、ルーフェはなんだか少し疲れていました。
伯爵との散歩は、そんなルーフェにとっていい気晴らしになりそうです。
ルーフェの心の中に潜む悪魔が囁きます。
『どうせ客なんて来ないさ。それより目の前のいい男と散歩をした方が良いに決まってる』
うん、たまにはいいわよね。どうせ暇だし。
今度は天使が囁きます。
『ダメよ、ちゃんと仕事しなきゃ。早仕舞いなんて、お客様の信頼を失ってしまうわ』
そう、よね。今、頑張りどきなのに。
『たまには息抜きしないと。疲れたままじゃいい仕事なんてできないぜ』
『今やるべきことから逃げちゃダメよ』
ルーフェの頭の中では天使と悪魔が口喧嘩をしています。
その間を、ルーフェはふらふらと行ったり来たり、困った様子で彷徨っています。
「それで、どうかな?今からでも」
ぼーっと頭の中の天使と悪魔の攻防を見守っていたルーフェは突如、現実に引き戻されました。
「え、えぇ。いや、あの」
ルーフェはどうしたものかと改めて壁にかけられた時計を見ました。
じとーっとした目をしたその時計の針は、さっきからちっとも進んでいません。
頭の中では天使と悪魔が激論を交わしています。
そんな彼らを一旦傍に置き、ルーフェは笑顔で答えました。
「ええ、もちろん。喜んで」
ルーフェの返答に伯爵は嬉しそうに目尻を下げると「実は君に頼みたいことがあるんだ」と夕方の街へと誘いました。
ルーフェは看板をクローズへとひっくり返すと、カーテンを下ろし店じまいを急ぎます。
と、いっても一日中暇だったのでやることなどほとんどないのですが。
エイマへの置き手紙を書いたルーフェは伯爵の元に駆け寄ると微笑みました。
「お待たせしました」
伯爵は優雅に頷くとそっと手を差し出しました。
なんだかドキドキする気持ちでその手を取ったルーフェは、伯爵に誘われるままに店を後にします。
マジディクラが早々に閉まってしまい、暇を持て余した閑古鳥は残念そうに鳴き声をあげました。
ルーフェは伯爵に気がつかれないようその閑古鳥へとウィンクを飛ばすと、閑古鳥は恨めしそうに鳴きました。
と、「用がないのならそこをどけ」と言わんばかりにカラスの群れが一斉に鳴き始め、閑古鳥は仕方なく空へと羽ばたきました。
陽の沈みかけたなんだか寂しい時間に、カラスの合唱が鳴り響いています。
閑古鳥はというと、一人寂しく黄昏の空をだらだらと飛んでいきました。
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