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〜15章〜
老婆と坊や
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「ただいま」
ソワソワと落ち着かない様子で家の中を行ったり来たりしていたシエロは、ギィーっと突如鳴り響いた扉の音に、まるで操り人形のように背筋をピンっと伸ばしました。
「来た!」
ついにルーフェとの再会が叶う。
ドキドキワクワクとほんの少しの不安を抱えた心を落ち着かせ、扉の方へと駆け寄ります。
ですが、期待に反して扉の影から現れたのはまだ幼い魔女シニー一人だけでした。
「あれ、ルーフェは?」
幼い魔女は深いため息をついて「コーヒーちょうだい」とだけ言い残し、まるで自分のお家かのようにドサっとソファへと腰を下ろしました。
「失敗したのかな」
肩に乗ったパタムールが小声で呟きます。
なんだか顔色の悪いシニーはソファに深く体を沈めながら考え事をしているようです。
彼女には気が付かれないようにそっとため息をついたシエロは、言われた通りにコーヒーの支度を始めました。
ゴリゴリとコーヒー豆を引く音が鳴り響く以外には音がしないその部屋の空気はなんだかどんよりと重たい様子です。
「はぁ」
お湯が沸き、香ばしい湯気の立ち上るコーヒーカップを目の前に差し出すと、シニーは深い深いため息をつきました。
例も言わずにそのカップを手に取った魔女は、またもや深いため息をついた後、やっとのことそっと小さく「ありがと」と呟きました。
こんなにも元気がないなんて、らしくありません。
小さく一口コーヒーを啜ったシニーはまたもや深いため息をつきます。
温かいコーヒーを飲んだためか、ほんの少しだけではありますがシニーの頬に生気が戻ってきたようです。
シエロはついに我慢ができなくなり口を開きました。
「それで?どうなった?・・・やっぱり、ダメだった?」
シエロのその問いにシニーはゆっくりと首を横に振りました。
それが何を意味するのか、シエロはもちろんのことパタムールにも計りかねます。
シニーはいつものように流れるようにタバコに火をつけると、気だるそうに口を開きました。
「ルーフェさん、レタシモンに狙われてるみたい」
ふぅっとため息混じりの煙をたっぷりと吐き出したシニーは続けます。
「ここ最近、常連さんやらなんやらに強引に言い寄られてるみたいなのよね。まぁ綺麗な人だから男の人が放っておかないってことはわかるけど。あれは間違いなく狙われてるわ。『心臓喰らい』のレタシモン卿に」
顔を真っ青にしながらそう話すシニーはひどく怯えているようです。
ぶるぶるっと身を震わせると、そんな自分を落ち着かせるかのように慌てた様子でタバコを咥えます。
「それで?ルーフェを一人置いてきたのか?狙われてるってわかってるのに?」
シエロはシエロで気が気ではありません。
その心臓喰らいとやらのことを詳しく知っているわけではありませんが、どうやら良くない状況だということは、シニーの顔色からしてはっきりとわかるものです。
「ちょっと待って。大丈夫。ちゃんと守りの魔法はかけておいたから」
めんどくさそうにシエロたちの方へと煙をけしかける魔女。
かかって来い、と言わんばかりにファイティングポーズを取るパタムールでしたが、あっという間に煙に巻かれると、降参だと言わんばかりに机の上でタップをしています。
「あの気持ちの悪いマゾコンでロリコンの変態野郎。なんて卑劣なやつなのかしら。人の好意を踏みにじって自分は影からコソコソと。最低よ。人間のクズだわ。気持ち悪い」
物憂げにタバコを吸い続けていた魔女は、自身の口から放たれる罵詈雑言に段々と勇気が湧いてきた様子です。
先ほどまでの血の気の引いた顔はもうそこにはありませんでした。
魔女のレパートリーに富んだ華麗な暴言にゲラゲラと笑い声を上げるパタムールは、迫り来るタバコの煙たちを叩き落としています。
「そもそも、狙われているって確かなのか?」
魔女の妄言に苦笑いを噛み殺しながらシエロが尋ねます。
「間違いないわ」
シニーは間髪入れずにそう答えると、すっかりと短くなったタバコを口の中に放り込み、また新たなタバコを吸い始めました。
「守りの魔法かけたっていうけど、連れて来ればよかったんじゃないのか?」
ふんっと鼻で一蹴、シニーはまだ先は長いというのにまだ吸いかけのタバコを口に放り込むとスッと立ち上がり言いました。
「あの魔法はお一人様用なの。しばらくは大丈夫よ。でも、急ぐに越したことはないわね」
そう言うとお家の扉を開けてさっさと出て行ってしまいました。
どこへ行くのでしょうか?
魔女の突飛な行動にももう慣れたものです。
シエロは諦めた様子でその後を追うと、お家の庭先で魔女のテントが張られているのを発見しました。
「家に帰るのか?」
魔法でキッチリと張られたテントの中へと入っていく背中に声をかけます。
「ちょっと着替えてくるわ。別にうちに来てもいいけど、覗かないでよね」
魔女はそう言うと小さなテントの中に体を突っ込みあっという間に姿を消しました。
やることもなかったシエロはパタムールを引き連れてテントの中へと入ると、テントの向こう側にあるもう一つの入り口へと身を滑り込ませました。
穏やかな凪が揺れる浜を歩く幼い魔女の背中がありました。
「適当にお茶でもしてて」
家に着くなり魔女はそう言い残すと、リビングから続く奥の部屋へと篭ってしまいました。
シエロは一人でに頷くとゆっくりと椅子に腰掛け、ただじっと魔女が何やら用意とやらを終わるのを待ちました。
珍しくすぐに出てきた魔女は、なんだか古めかしい格好に身を包み、右手にはこれまた古めかしい杖をついています。
「化粧をしたら出発よ」
手前の椅子を乱暴に引き不機嫌な様子で腰を下ろした魔女の前に、部屋の至る所から化粧に使うと思われる道具たちがビュンビュンと飛んできます。
ちょうど魔女の顔の前に浮かび上がった鏡を覗き込み、魔女はおめかしを始めました。
「なんでこんな時に化粧なんてしてるんだよ」
呆れた様子で声をかけるシエロに魔女は、それ以上に呆れた様子で答えました。
「乙女の化粧を待つのも男の務めよ。そんなことも知らないの?」
プンプンとまたもや機嫌を損ねた様子でぶつくさと何やら呟きながら化粧を始める魔女。
やれやれと天を仰いだシエロでしたが、パタムールは何やら異変に気がついたようです。
シエロの肩から飛び降りると、鏡の向こう側の魔女の顔を覗き込み思わず声を上げました。
「わーお。こりゃおったまげたもんだ」
シッシッと不機嫌そうに古めかしいおっきなブラシで追い立てられたパタムールでありましたが、何を見たのでしょうか。その顔はニヤニヤと楽しげです。
シエロも気になったようで、腰を浮かし鏡の向こう側を覗き込みます。
なんとそこには知らない老婆の顔がどんどんと描かれているではありませんか。
シエロはポカンと口を開け、その老婆の顔に魅入られています。
「ハエが入るわよ。そのだらしない口を閉じなさい」
まるで本当の老婆になってしまったかのようにしゃがれた声を出したシニーが笑います。
「驚いた。どっからどう見てもお婆さんだ」
「すごいでしょ」とニヤリと笑う魔女は、さまざまな角度から自分の顔を確認しています。
最後の仕上げを終えた魔女は満足げに顔に皺を寄せると「よっこいしょ」と杖を頼りに立ち上がりました。
顔もさることながらその動きはまるで本物の老婆のようです。
トントンっと杖で床を突いた魔女の合図で、化粧道具たちは無造作に部屋中へと離散していきます。
「なんでまたそんな変装なんかしたんだ?」
ゆっくりと歩き、お茶の準備をしようとしている老婆が振り返り、さも当たり前のように言いました。
「これでレタシモンに襲われずに済むでしょ」
ふふんと陽気なお婆さんはテキパキとお茶の準備をしています。
大きく曲がった背中では物を取るのも一苦労、といった様子ではありますがそれすらも楽しんでいるようで、上機嫌に鼻歌を歌っています。
シエロは魔女のその自信満々に言い放った言葉に呆れながらも、黙ってお茶入れを見守りました。
「さて、それじゃ私はあんたの良い人を迎えに行ってくるわ」
腰の曲がった老婆は、さっさとお茶を飲み干した後、そう呟くと今にも折れそうな杖を頼りにゆっくりと扉の方へと歩いていきました。
「今度こそ、家までお連れするわ。部屋の掃除でもして待ってて」
老婆はそう言うと萎れた星形のウィンクを飛ばしてきましたが、シエロはそれを払い除けると老婆に近づいて言いました。
「いや、俺も行く」
キョトンとした魔女の顔はまだ幼いシニーの表情が見え隠れしています。
「行くって、あなた無理じゃない。また倒れるわよ」
忘れたの?とでも言いたげに困った様子の老婆。
パタムールも心配そうに耳元で呟きます。
「シニーの任せておけよ。体に障るぞ」
あの時のことを思い出し、胸を軽くさすったシエロは「それでも」と高らかに宣言しました。
「近くまででもいいから行く。人手は多い方がいいだろ?手前のラプリナまでなら大丈夫さ」
はぁっと呆れた様子の魔女と木の人形。
シニーは「仕方ないわね」と苦笑いを浮かべながら、腰に下げた巾着袋の中をガサガサと漁りました。
ズボッと取り出された手には何やら怪しげな小瓶が握り締められています。
「街に近づいて苦しくなってきたら飲んで」
小さな瓶の中に揺れる金色の液体は怪しげな光を放っています。
これは何?などと野暮なことはもう聞きません。
シエロはニヤリと笑みを浮かべると「ありがと」と呟き、颯爽と家から飛び出しました。
「後で別のも作ってあげるか。まったく、世話のかかる坊やだよ」
カラカラとしゃがれた笑い声を上げると、ゆっくりとゆっくりと杖に誘われるままに歩みを進めました。
シエロたちは魔女のテントを介して再びシエロのお家があるモックショートの谷へと戻ると、ルーフェの元への旅路を始めました。
ソワソワと落ち着かない様子で家の中を行ったり来たりしていたシエロは、ギィーっと突如鳴り響いた扉の音に、まるで操り人形のように背筋をピンっと伸ばしました。
「来た!」
ついにルーフェとの再会が叶う。
ドキドキワクワクとほんの少しの不安を抱えた心を落ち着かせ、扉の方へと駆け寄ります。
ですが、期待に反して扉の影から現れたのはまだ幼い魔女シニー一人だけでした。
「あれ、ルーフェは?」
幼い魔女は深いため息をついて「コーヒーちょうだい」とだけ言い残し、まるで自分のお家かのようにドサっとソファへと腰を下ろしました。
「失敗したのかな」
肩に乗ったパタムールが小声で呟きます。
なんだか顔色の悪いシニーはソファに深く体を沈めながら考え事をしているようです。
彼女には気が付かれないようにそっとため息をついたシエロは、言われた通りにコーヒーの支度を始めました。
ゴリゴリとコーヒー豆を引く音が鳴り響く以外には音がしないその部屋の空気はなんだかどんよりと重たい様子です。
「はぁ」
お湯が沸き、香ばしい湯気の立ち上るコーヒーカップを目の前に差し出すと、シニーは深い深いため息をつきました。
例も言わずにそのカップを手に取った魔女は、またもや深いため息をついた後、やっとのことそっと小さく「ありがと」と呟きました。
こんなにも元気がないなんて、らしくありません。
小さく一口コーヒーを啜ったシニーはまたもや深いため息をつきます。
温かいコーヒーを飲んだためか、ほんの少しだけではありますがシニーの頬に生気が戻ってきたようです。
シエロはついに我慢ができなくなり口を開きました。
「それで?どうなった?・・・やっぱり、ダメだった?」
シエロのその問いにシニーはゆっくりと首を横に振りました。
それが何を意味するのか、シエロはもちろんのことパタムールにも計りかねます。
シニーはいつものように流れるようにタバコに火をつけると、気だるそうに口を開きました。
「ルーフェさん、レタシモンに狙われてるみたい」
ふぅっとため息混じりの煙をたっぷりと吐き出したシニーは続けます。
「ここ最近、常連さんやらなんやらに強引に言い寄られてるみたいなのよね。まぁ綺麗な人だから男の人が放っておかないってことはわかるけど。あれは間違いなく狙われてるわ。『心臓喰らい』のレタシモン卿に」
顔を真っ青にしながらそう話すシニーはひどく怯えているようです。
ぶるぶるっと身を震わせると、そんな自分を落ち着かせるかのように慌てた様子でタバコを咥えます。
「それで?ルーフェを一人置いてきたのか?狙われてるってわかってるのに?」
シエロはシエロで気が気ではありません。
その心臓喰らいとやらのことを詳しく知っているわけではありませんが、どうやら良くない状況だということは、シニーの顔色からしてはっきりとわかるものです。
「ちょっと待って。大丈夫。ちゃんと守りの魔法はかけておいたから」
めんどくさそうにシエロたちの方へと煙をけしかける魔女。
かかって来い、と言わんばかりにファイティングポーズを取るパタムールでしたが、あっという間に煙に巻かれると、降参だと言わんばかりに机の上でタップをしています。
「あの気持ちの悪いマゾコンでロリコンの変態野郎。なんて卑劣なやつなのかしら。人の好意を踏みにじって自分は影からコソコソと。最低よ。人間のクズだわ。気持ち悪い」
物憂げにタバコを吸い続けていた魔女は、自身の口から放たれる罵詈雑言に段々と勇気が湧いてきた様子です。
先ほどまでの血の気の引いた顔はもうそこにはありませんでした。
魔女のレパートリーに富んだ華麗な暴言にゲラゲラと笑い声を上げるパタムールは、迫り来るタバコの煙たちを叩き落としています。
「そもそも、狙われているって確かなのか?」
魔女の妄言に苦笑いを噛み殺しながらシエロが尋ねます。
「間違いないわ」
シニーは間髪入れずにそう答えると、すっかりと短くなったタバコを口の中に放り込み、また新たなタバコを吸い始めました。
「守りの魔法かけたっていうけど、連れて来ればよかったんじゃないのか?」
ふんっと鼻で一蹴、シニーはまだ先は長いというのにまだ吸いかけのタバコを口に放り込むとスッと立ち上がり言いました。
「あの魔法はお一人様用なの。しばらくは大丈夫よ。でも、急ぐに越したことはないわね」
そう言うとお家の扉を開けてさっさと出て行ってしまいました。
どこへ行くのでしょうか?
魔女の突飛な行動にももう慣れたものです。
シエロは諦めた様子でその後を追うと、お家の庭先で魔女のテントが張られているのを発見しました。
「家に帰るのか?」
魔法でキッチリと張られたテントの中へと入っていく背中に声をかけます。
「ちょっと着替えてくるわ。別にうちに来てもいいけど、覗かないでよね」
魔女はそう言うと小さなテントの中に体を突っ込みあっという間に姿を消しました。
やることもなかったシエロはパタムールを引き連れてテントの中へと入ると、テントの向こう側にあるもう一つの入り口へと身を滑り込ませました。
穏やかな凪が揺れる浜を歩く幼い魔女の背中がありました。
「適当にお茶でもしてて」
家に着くなり魔女はそう言い残すと、リビングから続く奥の部屋へと篭ってしまいました。
シエロは一人でに頷くとゆっくりと椅子に腰掛け、ただじっと魔女が何やら用意とやらを終わるのを待ちました。
珍しくすぐに出てきた魔女は、なんだか古めかしい格好に身を包み、右手にはこれまた古めかしい杖をついています。
「化粧をしたら出発よ」
手前の椅子を乱暴に引き不機嫌な様子で腰を下ろした魔女の前に、部屋の至る所から化粧に使うと思われる道具たちがビュンビュンと飛んできます。
ちょうど魔女の顔の前に浮かび上がった鏡を覗き込み、魔女はおめかしを始めました。
「なんでこんな時に化粧なんてしてるんだよ」
呆れた様子で声をかけるシエロに魔女は、それ以上に呆れた様子で答えました。
「乙女の化粧を待つのも男の務めよ。そんなことも知らないの?」
プンプンとまたもや機嫌を損ねた様子でぶつくさと何やら呟きながら化粧を始める魔女。
やれやれと天を仰いだシエロでしたが、パタムールは何やら異変に気がついたようです。
シエロの肩から飛び降りると、鏡の向こう側の魔女の顔を覗き込み思わず声を上げました。
「わーお。こりゃおったまげたもんだ」
シッシッと不機嫌そうに古めかしいおっきなブラシで追い立てられたパタムールでありましたが、何を見たのでしょうか。その顔はニヤニヤと楽しげです。
シエロも気になったようで、腰を浮かし鏡の向こう側を覗き込みます。
なんとそこには知らない老婆の顔がどんどんと描かれているではありませんか。
シエロはポカンと口を開け、その老婆の顔に魅入られています。
「ハエが入るわよ。そのだらしない口を閉じなさい」
まるで本当の老婆になってしまったかのようにしゃがれた声を出したシニーが笑います。
「驚いた。どっからどう見てもお婆さんだ」
「すごいでしょ」とニヤリと笑う魔女は、さまざまな角度から自分の顔を確認しています。
最後の仕上げを終えた魔女は満足げに顔に皺を寄せると「よっこいしょ」と杖を頼りに立ち上がりました。
顔もさることながらその動きはまるで本物の老婆のようです。
トントンっと杖で床を突いた魔女の合図で、化粧道具たちは無造作に部屋中へと離散していきます。
「なんでまたそんな変装なんかしたんだ?」
ゆっくりと歩き、お茶の準備をしようとしている老婆が振り返り、さも当たり前のように言いました。
「これでレタシモンに襲われずに済むでしょ」
ふふんと陽気なお婆さんはテキパキとお茶の準備をしています。
大きく曲がった背中では物を取るのも一苦労、といった様子ではありますがそれすらも楽しんでいるようで、上機嫌に鼻歌を歌っています。
シエロは魔女のその自信満々に言い放った言葉に呆れながらも、黙ってお茶入れを見守りました。
「さて、それじゃ私はあんたの良い人を迎えに行ってくるわ」
腰の曲がった老婆は、さっさとお茶を飲み干した後、そう呟くと今にも折れそうな杖を頼りにゆっくりと扉の方へと歩いていきました。
「今度こそ、家までお連れするわ。部屋の掃除でもして待ってて」
老婆はそう言うと萎れた星形のウィンクを飛ばしてきましたが、シエロはそれを払い除けると老婆に近づいて言いました。
「いや、俺も行く」
キョトンとした魔女の顔はまだ幼いシニーの表情が見え隠れしています。
「行くって、あなた無理じゃない。また倒れるわよ」
忘れたの?とでも言いたげに困った様子の老婆。
パタムールも心配そうに耳元で呟きます。
「シニーの任せておけよ。体に障るぞ」
あの時のことを思い出し、胸を軽くさすったシエロは「それでも」と高らかに宣言しました。
「近くまででもいいから行く。人手は多い方がいいだろ?手前のラプリナまでなら大丈夫さ」
はぁっと呆れた様子の魔女と木の人形。
シニーは「仕方ないわね」と苦笑いを浮かべながら、腰に下げた巾着袋の中をガサガサと漁りました。
ズボッと取り出された手には何やら怪しげな小瓶が握り締められています。
「街に近づいて苦しくなってきたら飲んで」
小さな瓶の中に揺れる金色の液体は怪しげな光を放っています。
これは何?などと野暮なことはもう聞きません。
シエロはニヤリと笑みを浮かべると「ありがと」と呟き、颯爽と家から飛び出しました。
「後で別のも作ってあげるか。まったく、世話のかかる坊やだよ」
カラカラとしゃがれた笑い声を上げると、ゆっくりとゆっくりと杖に誘われるままに歩みを進めました。
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