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〜4章〜
孤独な道化の住処
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「何を読んでるんだ?」
『雨の降る傘』の中、まだ幼い魔女シニーは何やら読み物に耽っていました。
シニーの道案内(実際はただついて行くだけだったが)により『シナモルンの森』を抜けた一行は『エスパノス』と呼ばれる小さな平原を歩いていました。何もない退屈な平原です。
その先にはシエロの家がある『モックショートの谷』があります。
でも、モックショートの谷までは、まだもう少しかかるようです。
だって、色々話を聞きたいですし。
「別に。つまらない男が書いたつまらない話よ」
大切なものをなくしてしまった人のように深い深いため息をついたシニーはパタンとその本を閉じると、シエロの方を振り返りました。
彼女の動きに合わせて回った傘から雨粒が飛んできます。
「それで?うら若き乙女のことをジロジロと見るのは失礼よ」
身軽にその雨粒を交わしたシエロは、気にした様子もなく笑顔で応えます。
「俺にかかった魔法、解いてくれるんじゃなかったのか?」
何年ぶりの会話だろうか。
ピエロになってしまってからというもの、他人と会話をすることは一度としてなかった。
だって、ピエロは言葉を発さないものだから。
なので、こうして他人と会話をすることができるのはシエロにとってはなんとも嬉しいことなのです。
「あぁ、それね。ちょっとお家に帰らないとわからないわ。忘れちゃった」
そうあっけらかんに言い放つ魔女を尻目に、パタムールが耳元でそっと呟きます。
「シエロ。やっぱり魔女はやばいよ。隙を見て逃げ出そう」
シエロも小声で返します。
「ダメだ。もしかしたらピエロをやめられるかもしれないだろ?もう少し我慢してくれ」
二人の会話が聞こえているのかいないのか、シニーは不機嫌そうにこちらを見つめそっと呟きました。
「男同士で密談だなんて、いやね。ハレンチだわ」
シニーは自らを抱きしめるようにして寒気を抑えているような仕草をしました。
シエロはピエロよろしく両手を上げおどけてみせます。
「忘れたって?魔女っていったって大したことないんだな」
シエロはもう十分に大人です。少しばかり目の前の小娘をからかってみました。
シニーはニヤリと微笑み、まん丸メガネの中から三日月型の目をキラリと光らせました。
「あんまり舐めないで。今度はカエルにしちゃうわよ」
その言葉にシエロとパタムールはビクッと体を震わせ目をキョロキョロと彷徨わせました。
「あはは、案外可愛いところあるのね」
幼い魔女にからかわれシエロたちは深いため息をつきました。
やはり魔女というのはなんとも絡みづらいもののようです。
それからしばらく行くとシエロのお家がある『モックショートの谷』への入り口へと辿り着きました。
「もう大丈夫。ありがとな」
シエロはそう魔女に告げると重たい荷物を抱えさっさと歩き出そうとします。
「あら。道案内のお礼にお茶でも一杯いかがですか?って尋ねるのが紳士ってものでしょ?」
まったくこれだからお子ちゃまは、などとまたまた一人呟きながらそそくさと歩いて行きます。その足は間違いなくシエロのお家へと向いているようでした。
シエロの肩越しに魔女を伺っていたパタムールはそっといつもの定位置に腰を落ち着けると、不思議そうな顔で言いました。
「魔女って怖いな」
顔を見合わせたシエロとパタムールは困ったように笑い、幼い魔女の後を追いました。
「へぇー。案外綺麗にしているのね」
家にたどり着くなりさっさと足を踏み入れたシニーはしげしげと家の中を観察しているようです。パタムールが急いでキッチンの方へと駆けて行きます。
シエロのお家の中には商売道具があるのみで、質素で生活感のない空気が漂っていました。
「勝手に物を触らないでくれ」
巨大なサーベルに手をかけていた魔女は振り返り、いたずらっ子のように笑います。
「私、ピエロって初めてなの。色々考えられてるのね」
シニーはそのサーベルを自分の腕めがけて振り下ろしました。
「おーい、シエロ!早くオレにバターを塗ってくれ!」
その呼びかけと目の前の幼い魔女に、シエロは呆れた様子で肩をすくめます。
シニーは目を輝かせ何度も何度も自らの腕を切り落とそうとサーベルを振り下ろしています。
シエロはキッチンの方へと行くと、約束通りパタムールにバターを塗ってあげました。
油分が戻り関節の動きが滑らかになったようです。パタムールは嬉しそうな声を上げ、軽快な足取りで外へと駆け出して行きました。
「体が木でできているってのも大変なのね。外に何しに行ったのかしら?」
シニーはサーベルにはもう飽きたようで、今度は大きな手鏡を手に自らの容姿をチェックし始めました。
「きゃっ!」
何かに驚いたシニーの手から手鏡が滑り落ちます。シエロはなんとか地面に落ちる前に手鏡をキャッチしました。
「さっすが、ピエロ!」
シエロは、だから勝手に触るなって言ったんだ、と言い元あった場所にそっと戻します。
「なんなの、あの鏡」
シニーは興味深そうに尋ねますが、もう勝手に物を漁ろうとは考えていないようです。
今では大人しく(勝手に)椅子に腰掛けています。
「あれは自分が一番怖いと思うものが映る鏡。子供たちを驚かすにはうってつけだ」
シエロはそう言うと、キッチンの方へと戻りお湯を沸かし始めました。
その間シニーは大人しく、ギョロギョロと家の中を詮索していました。
ピーっと元気にお湯が沸き立つ頃、パタムールが戻ってきました。
身軽に机の上に飛び乗ると、ご機嫌な様子でシニーに話しかけます。
「見てくれよ。オレ、いい感じにピッカピカだろ」
太陽の日差しを浴びていい感じに馴染んだのでしょう。
腰に手を当て仁王立ちをしているパタムールは、油分を十分に染み込ませた体をツヤツヤとさせていました。
「いい感じね」
シニーはパタムールの手を取りその手触りを確認しているようです。パタムールはそれがくすぐったかったようで、ゲラゲラと笑い声をあげています。
シニーは腰に下げた小さな巾着袋からタバコを取り出すと口に咥えます。
さっと手をかざすとなんとタバコの先に火が灯りました。
魔法って素晴らしい!
「おいおい、子供のくせにタバコなんて吸うのか、魔女は」
小さなお盆にコーヒーカップが二つ、それに得体の知れない薄っぺらい焼き菓子のようなものを乗せたシエロは呆れたようにため息をつきました。
「体に良いのよ。そんなことも知らないの?」
ふんっとタバコの煙を鼻から吐き出したシニーは、テーブルに置かれた謎の焼き菓子を見て眉を顰めました。
「道案内のお礼にお茶でもどうぞ」
ニヤッと笑ったシエロはコーヒーのカップをそっと目の前に差し出しました。
「なるほどね。かわいそうな道化師ってわけか。大好きな甘いお菓子を食べることも禁じられてるのね。子供の考えそうなことだわ」
どうも、と高飛車に言い放ったシニーはそっとコーヒーカップを口へと運びます。シニーの周りでは吐き出された煙たちが楽しげにゆらゆらと漂っています。
「そんなことまでわかるのか」
シエロは自らにかけられた魔法を言い当てられ、とても驚いている様子です。
悪くないわね、とコーヒーカップを置いたシニーはタバコを美味しそうに吸い、ぶわぁっと吐き出しました。仲間が増えて煙たちは嬉しそうです。
まぁね、と呟いたシニーは恐る恐るといった様子で謎の焼き菓子へと手を伸ばしました。
ほんの小さな一口だけ齧ると、目を瞑りゆっくりと味わいます。
「んー。味気ないの王様ね」
それを聞いてパタムールが大声をあげて笑います。
「ハハハ!そりゃいいや、ピッタシの表現だ。なぁ、シエロ!」
シエロはムッとした様子で黙ってコーヒーを啜ると、それで?と切り出しました。
「家に帰ればわかるって言ってたけど、家はどこにあるの?」
味気ない、と言っていたもののしっかりと全部平らげたシニーは満足そうにタバコの煙を吐き出しました。
シニーの吐き出した煙を、パタムールはなんとも美味しそうに浴びています。彼にとっては良い香りなのでしょうか?
燻されて男前になった気分のようです。
煙たちと仲良くやっているパタムールを横目にシニーは言いました。
「すぐ近く、その辺よ」
ニヤニヤと意地の悪い微笑みを浮かべた魔女は美味しそうに煙に巻きます。
流石に目に染みてきたのか、パタムールはその煙の中から抜け出し、シエロの肩へと避難しました。
「話にならないな。どうせまた適当なこと言ってるんだろ」
はぁっと深いため息をついたシエロは食べ終えたお皿たちを回収すると、キッチンへと向かいさっさと洗い出しました。
「失礼ね。いつ私が適当こいたって言うのよ」
傷ついた!とでも言いたげに両手を上げるシニー。
「なぁ。そろそろタバコは終わりにしてくれないか?オレ、目がシバシバするよ」
シエロの右肩の上で目を擦るパタムールは不満げに抗議しました。
「あら、そう?仲良くやってたと思ったけど」
シニーはそう言うと大きな口を開け、手にしていたタバコをその中へと放り込みました。
こぼれ落ちそうになるほど大きく目を見開いたパタムールはゲラゲラと笑い声をあげます。
「魔女っておかしいや」
ふっと微笑んだシニーはついに自身の住処を明かしました。
「私の家はカロンにあるわ」
あぁ、そうか。と何か納得した様子のシエロ。
ちょっと待てよ?『魔女の浜カロン』のこと、か?
先ほど彷徨った『シナモルンの森』を抜け、『イェチャイ』と呼ばれる湿地帯を抜けたその先に、『魔女の浜カロン』はあります。
「遠すぎるな。俺たちはいけないよ。俺にかかった魔法のことはよくわかってるだろ?ピエロとして生きなきゃいけないんだ」
洗い物をする手を止め、抗議の声を上げるシエロ。
その辺って言ったでしょ、と今度は三日月型のウィンクを飛ばすとそそくさと立ち上がり、家の外へと出て行ってしまいました。
「後、追った方がいいんじゃね?」
シエロは深いため息をつくと、仕方なしといった様子で魔女の跡を追いました。
家の前には小さなテントが建てられていました。その小さなテントの前では、シニーが満足げに仁王立ちをしています。
「さて、うら若き乙女の家にご招待するわ。感謝してよね」
振り返ることなくそう言ったシニーは、そそくさとテントの中へと入って行きます。
シエロとパタムールは顔を見合わせました。
どう見ても人一人しか入れないぐらいに小さいサイズなのです。
テントの入り口からシニーの手だけが伸びて、早く来い、と手招きをしています。
「まぁ、魔女だから?」
苦笑いを浮かべたシエロはその小さなテントの中へと頭を突っ込みました。
『雨の降る傘』の中、まだ幼い魔女シニーは何やら読み物に耽っていました。
シニーの道案内(実際はただついて行くだけだったが)により『シナモルンの森』を抜けた一行は『エスパノス』と呼ばれる小さな平原を歩いていました。何もない退屈な平原です。
その先にはシエロの家がある『モックショートの谷』があります。
でも、モックショートの谷までは、まだもう少しかかるようです。
だって、色々話を聞きたいですし。
「別に。つまらない男が書いたつまらない話よ」
大切なものをなくしてしまった人のように深い深いため息をついたシニーはパタンとその本を閉じると、シエロの方を振り返りました。
彼女の動きに合わせて回った傘から雨粒が飛んできます。
「それで?うら若き乙女のことをジロジロと見るのは失礼よ」
身軽にその雨粒を交わしたシエロは、気にした様子もなく笑顔で応えます。
「俺にかかった魔法、解いてくれるんじゃなかったのか?」
何年ぶりの会話だろうか。
ピエロになってしまってからというもの、他人と会話をすることは一度としてなかった。
だって、ピエロは言葉を発さないものだから。
なので、こうして他人と会話をすることができるのはシエロにとってはなんとも嬉しいことなのです。
「あぁ、それね。ちょっとお家に帰らないとわからないわ。忘れちゃった」
そうあっけらかんに言い放つ魔女を尻目に、パタムールが耳元でそっと呟きます。
「シエロ。やっぱり魔女はやばいよ。隙を見て逃げ出そう」
シエロも小声で返します。
「ダメだ。もしかしたらピエロをやめられるかもしれないだろ?もう少し我慢してくれ」
二人の会話が聞こえているのかいないのか、シニーは不機嫌そうにこちらを見つめそっと呟きました。
「男同士で密談だなんて、いやね。ハレンチだわ」
シニーは自らを抱きしめるようにして寒気を抑えているような仕草をしました。
シエロはピエロよろしく両手を上げおどけてみせます。
「忘れたって?魔女っていったって大したことないんだな」
シエロはもう十分に大人です。少しばかり目の前の小娘をからかってみました。
シニーはニヤリと微笑み、まん丸メガネの中から三日月型の目をキラリと光らせました。
「あんまり舐めないで。今度はカエルにしちゃうわよ」
その言葉にシエロとパタムールはビクッと体を震わせ目をキョロキョロと彷徨わせました。
「あはは、案外可愛いところあるのね」
幼い魔女にからかわれシエロたちは深いため息をつきました。
やはり魔女というのはなんとも絡みづらいもののようです。
それからしばらく行くとシエロのお家がある『モックショートの谷』への入り口へと辿り着きました。
「もう大丈夫。ありがとな」
シエロはそう魔女に告げると重たい荷物を抱えさっさと歩き出そうとします。
「あら。道案内のお礼にお茶でも一杯いかがですか?って尋ねるのが紳士ってものでしょ?」
まったくこれだからお子ちゃまは、などとまたまた一人呟きながらそそくさと歩いて行きます。その足は間違いなくシエロのお家へと向いているようでした。
シエロの肩越しに魔女を伺っていたパタムールはそっといつもの定位置に腰を落ち着けると、不思議そうな顔で言いました。
「魔女って怖いな」
顔を見合わせたシエロとパタムールは困ったように笑い、幼い魔女の後を追いました。
「へぇー。案外綺麗にしているのね」
家にたどり着くなりさっさと足を踏み入れたシニーはしげしげと家の中を観察しているようです。パタムールが急いでキッチンの方へと駆けて行きます。
シエロのお家の中には商売道具があるのみで、質素で生活感のない空気が漂っていました。
「勝手に物を触らないでくれ」
巨大なサーベルに手をかけていた魔女は振り返り、いたずらっ子のように笑います。
「私、ピエロって初めてなの。色々考えられてるのね」
シニーはそのサーベルを自分の腕めがけて振り下ろしました。
「おーい、シエロ!早くオレにバターを塗ってくれ!」
その呼びかけと目の前の幼い魔女に、シエロは呆れた様子で肩をすくめます。
シニーは目を輝かせ何度も何度も自らの腕を切り落とそうとサーベルを振り下ろしています。
シエロはキッチンの方へと行くと、約束通りパタムールにバターを塗ってあげました。
油分が戻り関節の動きが滑らかになったようです。パタムールは嬉しそうな声を上げ、軽快な足取りで外へと駆け出して行きました。
「体が木でできているってのも大変なのね。外に何しに行ったのかしら?」
シニーはサーベルにはもう飽きたようで、今度は大きな手鏡を手に自らの容姿をチェックし始めました。
「きゃっ!」
何かに驚いたシニーの手から手鏡が滑り落ちます。シエロはなんとか地面に落ちる前に手鏡をキャッチしました。
「さっすが、ピエロ!」
シエロは、だから勝手に触るなって言ったんだ、と言い元あった場所にそっと戻します。
「なんなの、あの鏡」
シニーは興味深そうに尋ねますが、もう勝手に物を漁ろうとは考えていないようです。
今では大人しく(勝手に)椅子に腰掛けています。
「あれは自分が一番怖いと思うものが映る鏡。子供たちを驚かすにはうってつけだ」
シエロはそう言うと、キッチンの方へと戻りお湯を沸かし始めました。
その間シニーは大人しく、ギョロギョロと家の中を詮索していました。
ピーっと元気にお湯が沸き立つ頃、パタムールが戻ってきました。
身軽に机の上に飛び乗ると、ご機嫌な様子でシニーに話しかけます。
「見てくれよ。オレ、いい感じにピッカピカだろ」
太陽の日差しを浴びていい感じに馴染んだのでしょう。
腰に手を当て仁王立ちをしているパタムールは、油分を十分に染み込ませた体をツヤツヤとさせていました。
「いい感じね」
シニーはパタムールの手を取りその手触りを確認しているようです。パタムールはそれがくすぐったかったようで、ゲラゲラと笑い声をあげています。
シニーは腰に下げた小さな巾着袋からタバコを取り出すと口に咥えます。
さっと手をかざすとなんとタバコの先に火が灯りました。
魔法って素晴らしい!
「おいおい、子供のくせにタバコなんて吸うのか、魔女は」
小さなお盆にコーヒーカップが二つ、それに得体の知れない薄っぺらい焼き菓子のようなものを乗せたシエロは呆れたようにため息をつきました。
「体に良いのよ。そんなことも知らないの?」
ふんっとタバコの煙を鼻から吐き出したシニーは、テーブルに置かれた謎の焼き菓子を見て眉を顰めました。
「道案内のお礼にお茶でもどうぞ」
ニヤッと笑ったシエロはコーヒーのカップをそっと目の前に差し出しました。
「なるほどね。かわいそうな道化師ってわけか。大好きな甘いお菓子を食べることも禁じられてるのね。子供の考えそうなことだわ」
どうも、と高飛車に言い放ったシニーはそっとコーヒーカップを口へと運びます。シニーの周りでは吐き出された煙たちが楽しげにゆらゆらと漂っています。
「そんなことまでわかるのか」
シエロは自らにかけられた魔法を言い当てられ、とても驚いている様子です。
悪くないわね、とコーヒーカップを置いたシニーはタバコを美味しそうに吸い、ぶわぁっと吐き出しました。仲間が増えて煙たちは嬉しそうです。
まぁね、と呟いたシニーは恐る恐るといった様子で謎の焼き菓子へと手を伸ばしました。
ほんの小さな一口だけ齧ると、目を瞑りゆっくりと味わいます。
「んー。味気ないの王様ね」
それを聞いてパタムールが大声をあげて笑います。
「ハハハ!そりゃいいや、ピッタシの表現だ。なぁ、シエロ!」
シエロはムッとした様子で黙ってコーヒーを啜ると、それで?と切り出しました。
「家に帰ればわかるって言ってたけど、家はどこにあるの?」
味気ない、と言っていたもののしっかりと全部平らげたシニーは満足そうにタバコの煙を吐き出しました。
シニーの吐き出した煙を、パタムールはなんとも美味しそうに浴びています。彼にとっては良い香りなのでしょうか?
燻されて男前になった気分のようです。
煙たちと仲良くやっているパタムールを横目にシニーは言いました。
「すぐ近く、その辺よ」
ニヤニヤと意地の悪い微笑みを浮かべた魔女は美味しそうに煙に巻きます。
流石に目に染みてきたのか、パタムールはその煙の中から抜け出し、シエロの肩へと避難しました。
「話にならないな。どうせまた適当なこと言ってるんだろ」
はぁっと深いため息をついたシエロは食べ終えたお皿たちを回収すると、キッチンへと向かいさっさと洗い出しました。
「失礼ね。いつ私が適当こいたって言うのよ」
傷ついた!とでも言いたげに両手を上げるシニー。
「なぁ。そろそろタバコは終わりにしてくれないか?オレ、目がシバシバするよ」
シエロの右肩の上で目を擦るパタムールは不満げに抗議しました。
「あら、そう?仲良くやってたと思ったけど」
シニーはそう言うと大きな口を開け、手にしていたタバコをその中へと放り込みました。
こぼれ落ちそうになるほど大きく目を見開いたパタムールはゲラゲラと笑い声をあげます。
「魔女っておかしいや」
ふっと微笑んだシニーはついに自身の住処を明かしました。
「私の家はカロンにあるわ」
あぁ、そうか。と何か納得した様子のシエロ。
ちょっと待てよ?『魔女の浜カロン』のこと、か?
先ほど彷徨った『シナモルンの森』を抜け、『イェチャイ』と呼ばれる湿地帯を抜けたその先に、『魔女の浜カロン』はあります。
「遠すぎるな。俺たちはいけないよ。俺にかかった魔法のことはよくわかってるだろ?ピエロとして生きなきゃいけないんだ」
洗い物をする手を止め、抗議の声を上げるシエロ。
その辺って言ったでしょ、と今度は三日月型のウィンクを飛ばすとそそくさと立ち上がり、家の外へと出て行ってしまいました。
「後、追った方がいいんじゃね?」
シエロは深いため息をつくと、仕方なしといった様子で魔女の跡を追いました。
家の前には小さなテントが建てられていました。その小さなテントの前では、シニーが満足げに仁王立ちをしています。
「さて、うら若き乙女の家にご招待するわ。感謝してよね」
振り返ることなくそう言ったシニーは、そそくさとテントの中へと入って行きます。
シエロとパタムールは顔を見合わせました。
どう見ても人一人しか入れないぐらいに小さいサイズなのです。
テントの入り口からシニーの手だけが伸びて、早く来い、と手招きをしています。
「まぁ、魔女だから?」
苦笑いを浮かべたシエロはその小さなテントの中へと頭を突っ込みました。
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