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〜序章〜

おかしな島『スーウィ』

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 私の生まれた町から遠く遠く離れたところに、その島はありました。

 大きな時計台とこれまた大きな噴水があまりにも素敵だったので、私はすぐさまそこに住むことに決めました。幸い、先客はいないようでした。

 その島は『スーウィ』と呼ばれており、不思議なことに甘い甘い香りで満ち溢れていました。

 私が初めてそのスーウィ島に降り立った日、まずは腹ごしらえ、と立ち寄ったコーヒーショップで食べたあの桃のミルフィーユの味が忘れられません。

 私は、どうせなら一番おっきなところに住もう、と首都である『ラティリア』という街で小さな部屋を間借りし、スーウィ島での新生活をスタートしました。

 さて、この街で何をしたものか、と街角のテラスでぼんやりと通りを眺めていると、ふとあることに気がつきました。

 それは、街ゆく女の子たちはとても可愛らしく、色鮮やかに着飾っているということです。

 そして、一人寂しくアップルパイを頬張る私は、地味で質素な紺色の服に身を包んでいます。

 遊びに来たわけじゃないわ。

 そう自分に言い聞かせ、皿に残ったパイを一気に頬張るとお気に入りの帽子をしっかりと被り、私は歩き始めました。

 まずはこの街のことをよく知らないと。

 そう思い、人でごった返す石畳の通りを進んでいくと、小さな噴水がいくつもある公園にたどり着きました。

 噴水には木漏れ日がキラキラと反射して小さな虹が浮かび上がっています。

 なんて素敵な街なんだろう。

 日陰になっているベンチに腰掛け、ぼんやりと物思いに耽っていると、ふとお婆さんが私の隣にゆっくりと腰を下ろしました。

 こんにちは。

 おばあさんは素敵な笑顔で私に微笑みかけます。

 こんにちは。

 私も自然と笑顔になっていました。

 私は初めてできたその友人にいろいろなことを教えてもらいました。

 その友人曰く、ここスーウィ島は、お菓子を愛する人々が集まってできた島なのだそうです。

 また、美味しいお菓子を食べることがステータスになっているこの島では、お菓子屋さんを営んでいる人はみんなの憧れの対象になるそうで、子供たちはみんな将来お菓子屋さんになることが夢になっているというのです。

 なんておかしな島なんでしょう。

 私のその感想に、私の新たな友人はにっこりと微笑みました。

 また、会いましょうね。

 そう微笑むとゆっくりと立ち上がり人混みの中へと消えていってしまいました。

 十三歳になった私は一人、このおかしな島『スーウィ』へとやってきました。

 私の家に代々伝わる習わしのためです。

 どうせなら、素敵なことをしよう。

 そう思った私は、このおかしな街でお菓子屋さんをやろう。と心に決めました。

 そうと決まると不思議と心は落ち着き、足取りも軽くなります。

 夢と希望に溢れた私はご機嫌で人混みの中へと消えていきました。
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