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第6日目
第44話 到着6日目・昼~夜
しおりを挟む※ダイニングルーム席順・夕方
赤=死亡 ピンク=行方不明
私たちは、ダイニングルームに集まっていました。
コンジ先生、ジェニー警視、ジニアスさん、スエノさん、メッシュさん、シュジイ医師、そして私・ジョシュア。
アレクサンダー神父の姿は、やはりこの館内をあれからくまなく探しましたが、見つけることはできませんでした。
「検死の結果、ジジョーノお嬢様の死亡推定時刻は、一昨日の深夜から、昨日の午前中までの間でしょう。また、ママハッハ奥様とアネノお嬢様ですが、先にアネノお嬢様が亡くなり、続いて、奥様が亡くなったのでしょう。死因はそれぞれ、同じく、何かの獣に噛みつかれた傷が原因と思われる失血死。まあ、間違いなく人狼の仕業でしょう。」
シュジイ医師が、みなさんに検死結果を報告してくれた。
コンジ先生とジェニー警視はすでに聞いていたので、ただ頷くばかりでした。
「……というわけで、昨夜の惨劇はアレクサンダー神父の仕業だったということだ。」
ジェニー警視が、『左翼の塔』5階で発見した神父さんの遺書?
……告白文でしょうか……の内容を説明したのでした。
「な……、なるほど。そんな手紙があったのでは疑いようがありませんね?」
「そうね。ジニアス。間違いないですね。もう人狼の被害は起きない……ということでよろしいのですよね? キノノウ様。」
ジニアスさんとスエノさんが楽観的な見解を示した。
少し顔を曇らせたコンジ先生でしたが、すぐに笑顔を見せ、答えました。
「そうであるといいですけどね。アレクサンダー神父の行方は杳(よう)として知れません……。ビジューさんも姿を消したままです。」
それを受けてジェニー警視も同意を示しました。
「そうだな……。ビジューさんはいったいどこへ行ったというのだ? アレクサンダー神父が人狼であったなら、すでに殺害されている公算が高いとは言えるがな。」
「そうですね。少なくとも、あのシープさんが殺害された時に、我々の目の前に姿を現した人狼の正体はビジューさんになりすましていましたからね……。」
「そうか!? そうだったな……。あの時入れ替わりで切り抜けた後、アレクサンダー神父の姿に戻ったのであろうか?」
「うーむ。僕にはまだ全貌が掴めていません。しかし、あの時、神父は『左翼の塔』にいた姿を他ならぬジェニー警視。あなたが確認されたはず……。」
「そうだった! あの時、神父が人狼であったなら、どうやって『左翼の塔』に入ったというのだ?」
「ジェニー警視! あの時、神父は間違いなく『左翼の塔』の中にいたのですか?」
コンジ先生も答えは知っているのですが、確認の意味もあり再度、ジェニー警視に聞いたようです。
「ああ。間違いない。あの神父はあの時、『左翼の塔』の5階で祈祷をしておったよ。私が呼び行った時も祈祷を続けようとしていたので、無理やり引っ張ってきたのだからな……。」
「なるほど……。しかし、ビジューさんに化けて姿をくらませた人狼が、ジェニー警視が『左翼の塔』に行く前に、マスターキーを使って、『左翼の塔』の中に入り、何食わぬ顔をして神父の姿に戻っていた可能性はありますね……。」
「むむ……!? まさか!? あの時の神父が人狼だった……のか……。恐ろしいな……。」
「ジェニー警視。危なかったですね。」
私も思わず、身震いしてしまいました。
「人狼……、怖いですわ……。」
「大丈夫だよ。スエノ。僕がついているから。」
「ありがとう。ジニアス。」
ちょっと、何、こんな時にイチャコラしてるのかしら……?
まあ、いいですけどね。
不安は恋の調味料って言いますからね。
「あっしは……、あの神父、最初から気に食わなかったですよ。」
「まあまあ。メッシュ。そういうことは思っても口にすべきではありませんよ。」
メッシュさんとシュジイ医師も神父さんについては、思うところがあったようです。
「神父さんの人柄はどうあれ、あの扉に『銀の粉』を振りかけたのは、人狼に効果があったのは間違いないようです。現に、人狼はママハッハさんの部屋の正面扉からではなく、『左翼の塔』側の扉から侵入しております。そして……。『左翼の塔』側の扉には、神父の『銀の粉』は振りかけられていなかった!」
コンジ先生が指摘する。
そうでした。
『銀の粉』が振りかけられていた館内の扉ではなく、裏側の『左翼の塔』に面した扉から侵入したということは、人狼は『銀の粉』を避けた?
「たしかに! 明らかに人狼は『銀の粉』を避けたように思えるな。」
「現に他の者は襲われなかった……ということですし。」
「そうか! じゃあ、万が一、今夜、人狼がどこかに潜んでいて舞い戻ってきたとしても、部屋の中にいれば安心ということですね!?」
「それは良いことですね!」
「うむ。その可能性は極めて高いと言えよう。」
「実に興味深いですね。人狼は銀で殺せる、という説がまことしやかに流されたのは、アメリカ・ユニバーサル社の映画『狼男(the wolf man/1941)』なのですよ。脚本のカート・シオドマクがドラキュラ映画的な退魔シーンを求めた末に考案し、これがドラキュラ、フランケンシュタインに続く第三のモンスター映画として大ヒットしたことから、さも本当の伝説のごとく一般に浸透したのですよ。ああ、この狼男を演じたロン・チャニーjrはこの作品で怪奇スターの仲間入りを果たしていますね。
……とはいっても、シオドマクもまったくの根拠なしに銀の武器が弱点という設定を持ち出したわけではないのですがね。魔女狩りの嵐がやんだ1764年の夏に、フランス・ジェヴォーダン地方に謎の野獣が現れたという話が残っている。いわゆる『ジェヴォーダンのベート(獣)』である。ここに登場する野獣は、狼よりはるかに巨大で、二年半の間に100人以上もの人間を殺傷した。この獣を射殺したのが聖母マリアのメダルで鋳造された銃弾であったという。またこの話では、16世紀のこととして、狼人間をもとに戻すには『一人の友が額に刃物で、三突きの傷を負わせ、三滴の血を失い、聖別された銀の銃弾で傷をつけられたなら』とあり、シオドマクはこれを参考に『銀の銃弾で倒す』というシーンを考え出したのだ。
しかしながら、そのシオドクマが考案した弱点が、本物の人狼にも通じるとはね……。実に興味が惹かれますね。」
コンジ先生の話は、延々と続きそうでしたが、とにもかくにも、『銀の粉』を人狼が苦手としているらしきことは確認ができたということでした。
その後、メッシュさんが用意してくれたトマトチリビーンズとウィンナーの輪切りのディッシュとチーズボールとスープをみんなで食しました。
玉ネギのみじん切りとウィンナー、玉ネギ、豆とコーン、トマト、ケチャップとトマトを弱火~中火で調整しながら炒めたものをパンと一緒に食べ、塩コショウを抑えてパルメザンチーズたっぷりのカナダ風ミネストローネを飲んだのでした。
「じゃあ、今晩は、みな、自室から一歩も出ないようにな。人狼がどこに潜んでいたとしても、『銀の粉』を越えて部屋に入ってくることはあるまい。」
「そうですね。万が一の場合に備えて、以前と変わりなく、中からワイヤーで扉のノブを固定して簡単に開かないようにすることもお忘れなく。」
ジェニー警視とコンジ先生の呼びかけにみなさん、ただただ頷くばかりなのでした……。
◇◇◇◇
~人狼サイド視点~
はぁ……。はぁ……。はぁ……。
頭が割れそうだ……。
昨夜もあれほどの血と肉を食らったのにも拘わらず、血の渇望が抑えられないのだ……。
人狼というのは欲深い。
いや、この衝動は人間という種に根ざしたものであろうか?
昼間のことは覚えている。
その成り済ました人物に記憶も性格も委ねているので、はっきり認識はしていないが、今晩はみな部屋に閉じこもっていて襲うことはできないかもしれない……。
ならば、人を襲うことを諦められるのか……。
いや! そうではなかった!
全身の細胞という細胞がわかっているのだ。
人間という種を……。
『喰らう!!』
……と本能が訴えかけてくるのだ。
しかし、人間というのは愚かなる生き物だな。
ダメと言われても、こうして外に出てくる者がいるのだ。
お笑い芸人が言うところの『フリ』なのか……?
まあいい……。
おかげで、今夜も食事にありつける……。
階段の間の扉を開けて、地下へ降りていく男の後をつけていく人狼。
何かを調べに来たようだ。
好奇心は猫を殺す……ということだな。
その男は、階段の間の地下室に安置している遺体を確認していた。
「むぅ……。やはり! ビジューさんの死体がある! それにこの死体は!?」
そうつぶやきながら、他の死体も確認していく。
「そんな……。これが事実なら、人狼の正体は……!?」
そう男が言った時……。
その背後には、人狼が大きな口を開いて、その牙を光らせ、まさにまさに襲いかからんとしていたのでした!
グシャリ……
その後……、地下室はただただ静寂と血の匂いが広がっていたのでしたー。
惨劇の『或雪山山荘』での宿泊は7日目の朝へと移る―。
~続く~
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