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第5日目

第36話 到着5日目・昼その6

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 まさに蛇に睨まれたカエルならぬ、神父に睨まれた化け物……、そうとでも言わんばかりにシュジイ医師はうろたえていました。

 アレクサンダー神父さんの追求で、ついにあの人狼の正体が暴かれたのでしょうか!?


 それに、まさか!?


 あのコンジ先生が謎解き推理対決で、負けたとでも言うの!?

 いえ! そんなはずはありません。

 きっとコンジ先生がさきほど示したビジューさんが人狼の正体で入れ替わったのが正しいと、私ジョシュアはこのときも信じていましたよ。



 「どうなんですか!? ドクター・シュジイ! まさか……? 長年、わたくしのもとに仕えてきたあなたが……! 人狼の正体だと言うのですの!?」

 「シュジイ! どうなの!? 早く答えなさい!」

 ママハッハさんも、アネノさんもまさか身近に常にいる身内が人狼の正体だったとは、とても信じられないといった表情で、シュジイ医師にきつく詰問するのでした。



 「観念しなサイ! ドクター・シュジイ! アナタしかバトラー・シープをその手にかけ、シェフ・メッシュに襲いかかったジンロウなのデショウ!?」

 アレクサンダー神父さんが、シュジイ医師に、銀の十字架を掲げながら詰め寄っていきます。


 「ち……、違いますよ! ど、どうして!? ワタクシがそんな化け物だと言うのですか!? ワタクシはただ、銃声が聞こえたので、階下に下りて、倒れていたメッシュさんを見つけたので、介抱していただけなんです! 本当です! 信じてください!」

 シュジイ医師は必至な形相で反論をした。


 だが、その場にいたみなが、シュジイ医師から少しずつ、後ずさりしながら遠巻きにして行こうとしていたのでした。



 「神父さん! シュジイ医師は犯人、つまり人狼ではありませんよ!?」

 そう声が高らかに響き渡りました。

 もちろん、私の……、いえ、我らがコンジ先生です!



 「オウ? ミスター・キノノウ! まさか……、私のパーフェクトな推理が間違えているとでもおっしゃるのデスカ!?」

 神父さんもコンジ先生を見返し、反論します。

 コンジ先生……。

 なにか、もちろん、考えがあるんですよね!?

 期待していますよ!



 「ええ。さきほど、えー、神父さんは我々が『左翼の塔』側の階段ルームに入り込んだと同時に、扉の上・天井近くから、逆に玄関ルームに戻り、また引き換えしたとおっしゃりましたね!?」

 「イエース! ソレがどうかしまシタカ?」

 「それは不可能なんですよ!」

 「ナ……、ナニを根拠にアナタは言い切れるのデスカ!? 一瞬の間のことをはっきりと否定できるとでも言うのデスカ!?」

 神父さんも激しく声をあげました。

 おろおろとそれを見ているのはシュジイ医師です。

 ジニアスさんやスエノさん、私も他のみなさんも、じっと二人を、いや、三人を凝視していたのでした。



 コンジ先生がゆっくりとかつ丁寧な口調で語り出しました。


 「玄関扉は両開き扉で、階段の間のほうへ開きます。あの人狼は右側の扉を開け、素早く閉めて『左翼の塔』側の階段の間に入っていきました。あの時、一瞬でも早く我々から逃げたかった人狼は早く姿を消したかったと僕は読んで閉まる直前までその隙間を注意深く見ていましたんですよ……。そして、人狼が右側からその隙間を左に、つまり上へ上がる階段のほうへは横切らなかったことを確認しております。ええ……! もちろん、この僕が見過ごすわけはあり得ません! そして、その後……、時間にして、およそ2.7秒後、ジェニー警視が玄関ホールのその扉を勢いよく両開きで開放しました。 ねぇ? ジェニー警視?」



 「ああ。キノノウくんの言う通り、私は右、左と注意しながら銃を構えつつ、素早く突入しましたよ! そして、人狼の姿が見えなくなっていることに気づいて、扉と壁の間の影を右側のほうからチェックしましたね。それは警察の威信をかけても間違いないことですわ!」

 ジェニー警視も強く肯定する。



 「さすがは警察の方です。あの一分の隙も無いまったく無駄のない動きに僕は、1956年のカンヌ国際映画祭における最高賞『パルム・ドール』を受賞したジャック=イヴ・クストー
ルイ・マル監督の『沈黙の世界(Le Monde du silence)』を初めて鑑賞したときのように感心しましたねぇ。 あ、ちなみに『パルム・ドール』と呼ばれるようになったのは、1955年からであり、1939年から1954年までは最高賞を『グランプリ(Grand Prix du Festival International du Film)』としていたが、1955年にデザインはジャン・コクトーがしたトロフィーの形にちなんだ『パルム・ドール』、意味は黄金のシュロだが、この『パルム・ドール』を正式名称としたんだがね。」

 あ、またコンジ先生の悪いクセだわ。

 無駄に知識をひけらかしてるの、あれ、本人はカッコいいと思っているんでしょうねぇ……。



 「あ、コンジ先生。続きの解説をお願いします。」

 「ああ。ジョシュア。もっともな意見だ。話がそれてしまったね? 要するに、僕はそこまで確認しながら、相手は人狼ということもあり、思いもよらぬ上方に隠れているやもしれないと予測し、実は我々と入れ替わりに玄関ホールへとヤツが戻ってこないか、上方向と合わせてジェニー警視と反対の左の扉と壁の間を要注意しながら、やや遅れて後から入ったのですよ。ええ、もちろん、扉の上にも、四方周囲の壁の上方にも天井にも人狼の姿はなく、左の扉と壁の間にもヤツの姿はなかったのです。ゆえに、僕は、右側へ逃げたと判断し、注意深く様子を見ていたのです。そして……、時間にして僕が階段の間に踏み込んで4.4秒後に、ビジューさんが階段から下りてきて現れたのです。」

 ここまで誰も口をはさむ人はいませんでした。



 「また、左の塔の扉の鍵はかかっていました。さすがに、左塔の中にまで逃げる時間はなかったと判断しますよ。その後は今ここにおられるジェニー警視、ジニアスさん、スエノさんらみなさんと、『左翼の塔』側1階の塔までの間のトイレ含む各部屋を慎重に確認しましたよね?」

 「ええ。そうでした。僕も一緒でしたから間違いないです。」

 「はい! 私もジニアス……さんと同じく確認いたしました!」

 「ああ。もちろん、私もキノノウくんとヤツがいつ飛び出して来ないか最大限に注意し、確認したわね。」

 御三方みなさん、確かだと証言されました。



 「……ということです。アレクサンダー神父。人狼はさきほど僕が述べたビジューさんとの入れ替わりによってしか、姿を隠すことは不可能だったのです!」

 「そ……、そんな……。ソコまでディテクティブ・キノノウが警戒していたと証言されるのであれば、私の推理は間違いデショウ……。」

 アレクサンダー神父も素直にご自身の仮説を取り下げたようです。



 「そ、そら見たことか! ワタクシがシープを襲ったり、メッシュを怪我させたりするわけがないんだ!」

 疑いをかけられたシュジイ医師はここぞとばかりに、大声を出して自身の無実を訴えました。

 さっきまでの青菜に塩がかかったような状況とは、まるで別人のようです。



 そして、コンジ先生が締めくくりました。


 「その証拠と言っても過言ではないかと思われますが、現に今、ビジューさんは行方をくらませているのですから……。」



 そうなのです!

 まさにコンジ先生がたった今、指摘したとおり、ビジューさんは今、この場にもいませんし、お部屋にもいませんでした。

 これから、『或雪山山荘』の館内をくまなく調べる必要はありますが、ジジョーノさんのときと同様に、見つからない予感しかしませんでした。





 それは、私だけでなく、ここに集まっているみなさん全員がうすうす感じていたと確信していました……。


 館の外はやはり吹雪の風巻く音がゴォゴォと聞こえるばかりでしたー。





 ~続く~



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