上 下
26 / 62
第3日目

第21話 到着3日目・昼その4

しおりを挟む

※『或雪山山荘』2階・見取り図



 「裏口の外に、何らかの足跡は発見できませんでした。……もちろん、雪が覆い隠したとも考えられますが、雪を掘り返しても血痕は見当たらなかったと断言できます。」

 裏口の扉の外を確認したジェニー警視がそう説明した。


 「それじゃあ……。その人狼とかいう化け物はこの館の中にまだいるっていうのか!?」

 イーロウさんが息巻いた。




 「それはわかりません。……が、みなさんのアリバイを確認しておきたいですね。」

 コンジ先生がすかさず主導権を握ってくる。

 こういう話の展開を進めるのが上手いのも先生なんですよねぇ……。うっとり……。


 「では、キノノウ先生。お願いします。」

 パパデスさんもコンジ先生におまかせ気分のようですね。



 「では、まずワタクシから言うと、ジニアスさん、イーロウさんとシャワーの時間を一緒に共有させていただきました後は、ワタクシはパパデス様との美術品契約の内容を引き続き、自室で取りまとめていましたからねぇ。ずっと部屋にいましたよ。」

 ビジューさんがそう主張した。


 「そうだったね……。俺はジニアス君とビジューさんとシャワーの後は、部屋に戻ったよ。」

 イーロウさんが小さく頷いた。






 「なるほど。昨日シャワーは3名で一緒に交代で済ませるとしていたのは、人狼を警戒してのことだったんだね?」

 ジニアスさんがそこで気づいたようだ。


 そうなんですよね。

 昨日はみなさんに人狼のことを伏せていたので、はっきり言えなかったのですけど、二人きりの時間を作らないようにしていたんですよね。


 「わたくしは娘のアネノとジジョーノとシャワーを頂いた後は、みなでそれぞれ自室に戻りましたわ。その後はみな部屋から出ていませんわ。」

 ママハッハさんがそう言って、自分たちには関係のない話だと言わんばかりのしぐさを見せた。




 「私は……、たしか……シュジイ医師とシープの付き添いで私の部屋でシャワーを浴びて、その後、シープにキノノウ先生を呼んできてもらったね?」

 パパデスさんが続いて証言する。

 「はい。私がキノノウ先生をパパデス様の部屋にお連れ致しました。」


 「そうでしたね。僕はカンさん、メッシュさんと一緒に夕食の片付けをしてから、シープさんが僕を呼びに来たのでパパデスさんの部屋に行きましたよ。」

 「キノノウ先生には、今後の警戒態勢についてご意見を伺っていたのですよ。」

 「ああ。そうでしたね。各人が部屋から出ないように夜を過ごせば問題ないと判断したのだがね。誰か破ったものがいるらしいな。……亡くなったカンさんもだがな。」



 「今回もジンロウは、その食欲という本能に根ざし、化けた人間の心の底の欲望を混ぜ合わせた『大罪』を犯したと思われマース!」

 「……『大罪』だって!?」

 「そうデス。『七つの大罪』という神に抗う大罪をこのジンロウは喰らうたびに犯すのデス!」



 神父は私たちの顔を見回した……。

 ビジューさんが反応する。


 「私もさすがに美術を取り扱うはしくれ……、『七つの大罪』くらい知っておる! ならば、エラリーンさんやカンが殺された理由はいったいなんだというのかね!?」


 「そうデスネー。この悪魔の獣の今回のエラリーンさん、カンさんを喰らった『大罪』は、『嫉妬(しっと)』だと思われマース!」





 「嫉妬(しっと)!?」

 「それは、どういうことなの!?」



 「そうデスネ……。アイティさんに化けたジンロウはおそらくエラリーンさんの財産に嫉妬したのデショウ!」




 「アイティさんとの取引の契約書がエラリーンさんの部屋にはばらまかれていました……。『嫉妬』ならば、そんな行動しますかねぇ?」

 コンジ先生がすかさず疑問点を指摘した。


 「フーム……。なるほど。キノノウさんは違うと?」

 「ああ。そうだな。アイティさんになりすましたのが確度が高いとは思われるがな……。それなら『強欲』なのではないかな?」

 「ハハハ……! ファンタスティック! たしかに、『強欲』もありえますねぇ。ですが、前回の『傲慢』に続き、『嫉妬』あるいは『傲慢』の大罪が行われたなら、残りの『大罪』も引き起こされるのは間違いないデショウ!」

 アレクサンダー神父がきっぱりと言い放った。

 まだこの惨劇が続くと彼は予言しているのか……。



 「ちょっと待った。得意そうに話しているところ悪いが、神父さんは昨夜、どう過ごしていたんだ? ずいぶんジンロウに詳しいようだが、容疑はあなたにもかかっているんじゃあないか?」

 ジニアスさんがここで神父さんに疑いを持ったようです。


 「いえ。ジニアス様。アレクサンダー神父は疑いようがないアリバイがあるのです。」

 シープさんがここで昨日と同様にアレクサンダー神父のアリバイを証言した。

 『左翼の塔』で神父さんが夕食の後ずっとお祈りをしていたこと、そしてアレクサンダー神父が『左翼の塔』に入った後、その扉の鍵を外側からかけたことを説明したのだ。


 「その後、今日の朝、アレクサンダー神父をお呼びさせていただきました際、間違いなく『左翼の塔』の1階扉の鍵はかかっておりました。」

 「ふむ。ならば昨夜に引き続き神父のアリバイは成立ということだな。なあ? キノノウくん。」

 「そうですね。間違いないでしょう。」

 ジェニー警視もコンジ先生も見解は一致していたようだ。





 「おほん……。ちょっといいかしら?」

 ここでアネノさんが満を持してと言わんばかりに、自身を持った表情で発言する。


 「おお。どうしたの? アネノ。」

 「お姉さま?」

 ママハッハさんもジジョーノさんもアネノさんの発言を予期していなかったようだ。



 「私……。ある人を深夜、見かけましたの。」

 「え……? なんだって!?」

 「深夜……?」


 「そうです。あれは深夜1時過ぎ……でしたかねぇ? その人が廊下を一人で歩いているのを見ましたのよ。」

 「1時過ぎ……。ふむ……。犯行時刻の2時~4時には早いが、そんな深夜に出歩いていたのは……たしかに怪しいな。」


 これは人狼のしっぽを掴んだのでしょうか……?

 ゴクリ……。



 「その人とは……、この……スエノですわ!」

 アネノさんがスエノさんを指差した。


 「スエノ……さん?」

 「そうですわ! 昨夜、私は2階の廊下を『右翼の塔』側から中央の廊下を『左翼の塔』側へ歩いてくるスエノの姿を見ましたわ。御存知の通り、『左翼の塔』側2階には、殺されたエラリーンさんの部屋がありますわね? エラリーンさんを襲いに行くところだったんじゃあないの!? スエノ!!」

 「そんな……。私じゃあ……ありません……。」

 「じゃあ、そんな夜中にどこへ行ったというのよ!?」

 「そうよ! お姉さまの言うとおりですわ!」

 「スエノ! あなたが!? 恐ろしい!」



 「ちょっと待ってください!」


 バンッ!

 テーブルを叩いてジニアスさんが立ち上がった。



 「いかがなされましたか? ジニアスさん……。」

 ジェニー警視がジニアスさんに先を促した。


 「ええ。スエノさんは昨夜、僕の部屋に来たのです……。」


 ええ!? まさか!

 ジニアスさんとスエノさんがそんな関係だったとは!?



 「う……嘘おっしゃい!」

 「本当です!」

 「本当なんだ!」

 アネノさんの言葉にジニアスさんとスエノさんの二人が声をそろえた。


 「じゃあ、いつまで一緒にいたのよ!?」

 「え……。それは……。」

 「ほら! 答えなさいよ!」



 ジニアスさんが言いにくそうにぽつりと言った。

 「深夜3時ごろまでだ……。」

 「そうです。3時ごろ、私はジニアスさんの部屋を出て、自室に戻りました! 誓って本当です!」


 「ははぁーん! ジニアスさんの部屋を出た後、すぐにエラリーンさんの部屋に行ったんじゃあないの!?」

 「いえ! そんなことはありません!」



 「でも、それじゃあ、アリバイにはなりませんよね? ねえ? キノノウ先生?」

 アネノさんがコンジ先生に問いかけた。


 「うーん。そうだな。死亡推定時刻は2時~4時だからな。アリバイは完全とは言えないな。」

 「ほらほら! スエノよ! スエノに決まってるわ!」




 「ちょっと……。アネノさんに質問いいかい?」

 「はい。キノノウ先生、どうぞ?」

 「うん。その昨夜、深夜の1時になぜ、あなたは部屋の外に出ていて……。しかも『左翼の塔』側の2階にいたのかな?」


 たしかに! 逆にアネノさんも怪しいのか!?

 コンジ先生……さすがです!





 「あーら。そんなこと? ふふふ……。私は朝までイーロウさんの部屋にいましてよ? ねえ? イーロウ?」

 アネノさんはそう言って、イーロウさんのほうを見る。




 イーロウさんはそれをなんとも言えない表情で見返した。


 イーロウさん……?

 エラリーンさんと交際していたんじゃあなかったのですか?

 あんなにエラリーンさんが亡くなった時、怒りを顕にしていたのはいったい……?




 ~続く~



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

真実の先に見えた笑顔

しまおか
ミステリー
損害保険会社の事務職の英美が働く八階フロアの冷蔵庫から、飲食物が続けて紛失。男性総合職の浦里と元刑事でSC課の賠償主事、三箇の力を借りて問題解決に動き犯人を特定。その過程で着任したばかりの総合職、久我埼の噂が広がる。過去に相性の悪い上司が事故や病気で三人死亡しており、彼は死に神と呼ばれていた。会社内で起こる小さな事件を解決していくうちに、久我埼の上司の死の真相を探り始めた主人公達。果たしてその結末は?

探偵たちに時間はない

探偵とホットケーキ
ミステリー
前作:https://www.alphapolis.co.jp/novel/888396203/60844775 読まなくても今作だけで充分にご理解いただける内容です。 「探偵社アネモネ」には三人の探偵がいる。 ツンデレ気質の水樹。紳士的な理人。そしてシャムネコのように気紛れな陽希。 彼らが様々な謎を解決していくミステリー。 今作は、有名時計作家の屋敷で行われたミステリー会に参加することに。其処で事件が発生し―― *** カクヨム版 https://kakuyomu.jp/works/16818093087826945149 小説家になろう版 https://ncode.syosetu.com/n2538js/ Rising Star掲載経験ありのシリーズです。https://estar.jp/selections/501

探偵注文所

八雲 銀次郎
ミステリー
 ここは、都内某所にある、ビルの地下二階。  この階に来るには、エレベーターでは来ることはできず、階段で降りる他ない。  ほとんどのスペースはシャッターが閉まり、テナント募集の紙が貼られていた。  しかし、その一角にまだ日の高いうちから、煌々とネオンの看板が光っている場所が存在する。  『ホームズ』看板にはそう書かれていた。  これだけだと、バーなのかスナックなのか、はたまた喫茶店なのかわからない。  もしかしたら、探偵事務所かも…  扉を開けるそのときまで、真実は閉ざされ続ける。 次話公開時間:毎週水・金曜日朝9:00 本職都合のため、急遽予定が変更されたり、休載する場合もあります。 同時期連載中の『レトロな事件簿』と世界観を共有しています。

母からの電話

naomikoryo
ミステリー
東京の静かな夜、30歳の男性ヒロシは、突然亡き母からの電話を受け取る。 母は数年前に他界したはずなのに、その声ははっきりとスマートフォンから聞こえてきた。 最初は信じられないヒロシだが、母の声が語る言葉には深い意味があり、彼は次第にその真実に引き寄せられていく。 母が命を懸けて守ろうとしていた秘密、そしてヒロシが知らなかった母の仕事。 それを追い求める中で、彼は恐ろしい陰謀と向き合わなければならない。 彼の未来を決定づける「最後の電話」に込められた母の思いとは一体何なのか? 真実と向き合うため、ヒロシはどんな犠牲を払う覚悟を決めるのか。 最後の母の電話と、選択の連続が織り成すサスペンスフルな物語。

俺が咲良で咲良が俺で

廣瀬純一
ミステリー
高校生の田中健太と隣の席の山本咲良の体が入れ替わる話

超能力者は探偵に憧れる

田中かな
ミステリー
愛上探偵事務所助手、奈良篠郷平は超能力者である。彼の手にかかればどんな事件もすぐに解決!…とはいかないようで… 舞台は日本のどこかです。時代は電気通信機器が少し普及し始めた頃です。 この物語はフィクションです。

かれん

青木ぬかり
ミステリー
 「これ……いったい何が目的なの?」  18歳の女の子が大学の危機に立ち向かう物語です。 ※とても長いため、本編とは別に前半のあらすじ「忙しい人のためのかれん」を公開してますので、ぜひ。

処理中です...