上 下
25 / 62
第3日目

第20話 到着3日目・昼その3

しおりを挟む

※ダイニングルーム



 私たちはダイニングルームに集まっていた。

 メッシュさんが簡単な朝食を準備してくれたのだ。


 モンティクリストは定番のカナダの朝食メニューです。

 パンの片面にバターとマスタードを塗り、チーズと半分にしたハム2枚分をのせて2枚を合わせ、たまご、牛乳、粉チーズを合わせて作ったたまご液に、パンの両面と耳の部分もひたひたに浸したものを、フライパンに入れ、弱火で焼けば完成です。

 焦がさないように丁寧に焼かれたモンティクリストは、メッシュさんの料理の腕ですね。


 まさに、ふわっ!とろっ!

 最高です! メッシュさん、グッジョブです!!



 それに、カナダの国民食とも言えるフライドポテトの上にチーズやグレイビーソースをかけたプーティンが出ました。

 ポテトをレンジで焼き、塩コショウをまぶしピザチーズを散らし、オーブンに入れて余熱でとろけさせたものに、上からソースをかけ、サワークリームを乗せてできあがり。

 ベーコンピッツをかけるとよりおいしく感じました。


 ポテトは揚げても美味しいですね。

 これはいくらでも食べられますよ……。モグモグ……。




 それにしてもこんな状況でも料理に手を抜かないメッシュさんの料理人としての気概が感じられますね。

 私もそれに応えないといけませんから、たくさん食べましたよ。

 ええ。もちろん、メッシュさんの厚意を無にしないようにですよ? そりゃみなさん、なかなか手が進まないから、私も仕方なく……ね。



 ****




 「……というわけで、この館にその人狼という化け物が侵入した可能性が非常に高いと思われます。なにかご質問は?」


 ジェニー警視がパパデスさんの意向を受け、人狼についての情報をみなさんに説明をしたのです。

 人狼のことを知らされていなかったのは、どうやら宿泊客のビジューさん、ジニアスさん、イーロウさんのお三方だけだったみたいです。

 アイティさんやエラリーンさんも知らされてはいなかったのですが、もうお亡くなりになっているので……。



 「ふざけるなよ!? そんな大事なことを俺たちには伏せていたなんて……。それを知っていたら……。エラリーンは死なずに済んだかもしれないじゃあないか!?」

 イーロウさんが猛々しく文句を言った。

 それにはジニアスさんもビジューさんも頷いて賛同の意を示している。


 そりゃそうですよねぇ。もしかしたら警戒できたかもしれませんものね。

 ふと隣のコンジ先生を見ると、やはり苦々しい顔をしてらっしゃいました。

 コンジ先生は最初からみなさんに人狼の件を明かすべきだとおっしゃってましたからね……。



 「それは……。本当にすまない……。君にはなんと言っていいか……。」

 パパデスさんも口止めをした責任を感じているのか、口が重い。


 「みなさま! 本当に申し訳ないですわ! イーロウ様がお気を悪くされるのは当然でございます! でも……まあ、イーロウ様が襲われなくて良かったですわ。エラリーン様には悪いですが、本当に大切な方が被害に遭われなくて不幸中の幸いとも言えますわね?」


 そう言ったのはアネノさんです。心なしかアネノさんはイーロウさんを見ながら、微笑んだようにも見えたのは気の所為でしょうか……。

 ジジョーノさんが一瞬だけアネノさんのほうを鋭い目をして見ましたが、すぐにとりつくろうように笑みを浮かべていました。

 みなさんもこの発言にはさすがにひくついていたかと思います。

 だって、少なくとも管理人のカンさんやエラリーンさんが犠牲になっているのです。それを幸いと思えるはずがありませんからね。



 「まあまあ。この娘ったら。すみませんねぇ。みなさま。しかし、わたくしからも一言申し上げるとすれば、夜中に部屋の扉を開けるだなんて不注意をしてしまった彼女にも非があると申しているのですよ。ねえ? アネノ。」

 「そ……そうですわ。お母さま!」


 「待ってください! 夜中に彼女の部屋の扉を開けたのがエラリーンさんだとは断言できませんよ?」

 ここでコンジ先生が指摘をしたのだ。



 「えっと、どういうことなんだ? キノノウくん。」

 ジェニー警視も当然のように疑問に思ったらしい。


 「まず、夜中ということだが、エラリーンさんとカンさんはどちらも深夜のいつ殺されたのか? またその順番はどうなんだろう? ドクターの見解を聞きたい。」

 「はい。ふたりとも深夜2時から4時の間と見受けられますな。遺体は動かされた形跡がありませんでした。死斑の状態からおそらく間違いないでしょう。そして、どちらが早かったかというのは断定できませんな。まず、二人の状態が違いすぎる。カンのヤツは低温の中にずっとさらされていたし、エラリーンさんは……温かい部屋の中でございましたからな。」

 「ふむ。なるほど。では、エラリーンさんが先に襲われたのならば、ママハッハさんのおっしゃるとおり、エラリーンさんが犯人を自ら招き入れた可能性もありますね。しかしながら、カンさんが先に襲われたとするならば、犯人がエラリーンさんの部屋を開けた可能性も出てくるね。」



 「いったいどういうことですの?」

 ママハッハさんもアネノさんもコンジ先生が何を言わんとしているのか、皆目わからないって顔をされていました。


 「キノノウくん。それ言っちゃうの?」

 ジェニー警視が仕方ないなぁという表情をして頭を掻いた。



 「マスターキーが無くなっているんですよ……。」






 「え!? マスターキー?」

 「それってどういうことですか?」

 ジニアスさんとスエノさんがほぼ同時に叫んだ。



 「あれは厳重に保管されていたんじゃあないか? シープ。」

 「ええ。その通りです。……ですが、その保管を任されていたカンが犠牲になってしまったのです。」

 シープさんがパパデスさんに答える。


 「いや! カンのヤツは責任感が強い! たとえ強盗に脅されても保管場所の開け方を口を割るはずがねぇ! あっしはカンのヤツと15年一緒に働いてきたんでさぁ。」

 メッシュさんが声高に叫ぶ。

 その悲痛な声にはまだカンさんの死にショックを受けていることがヒシヒシと感じられる。





 しかし、コンジ先生は黙ってそれを聞きながら、辛そうな顔をしていた。


 「ああ! そういうことなんですか!? カンに化けた人狼がその鍵の在処を知ってしまったので、持ち去ったと!?」

 ジジョーノさんがそこに気がついたらしい。


 「その通りだよ。キノノウくんと私が確認した。確かに保管庫にはマスターキーがあったと思われる場所にマスターキーは無かったんだ。」

 「そうです。この犯人たる人狼は犠牲者の血をすすることでその人の記憶も引き出せるのです。つまり、カンさんを襲ったことでカンさんの記憶も盗まれたと言っていいでしょう。」


 「ふむふむ。つまり、この『或雪山山荘』の館には各部屋にひとつずつ鍵がある以外に、共通で使えるマスターキーなるものが存在していたと。で、それは今は保管場所に見当たらない……。そういうわけですな?」

 ビジューさんがまとめてくれたみたいですね。



 「マスターキーが奪われた今、ワレワレはこの山荘のどこにも逃げ場はなくなった……というわけデスネ?」

 「部屋に閉じこもっていればいいという状況ではなくなった……というわけだな。」


 アレクサンダー神父の言うことにコンジ先生もうなずく。



 「でも……。裏口が開いていたんでしょう? 人狼は裏口から逃げていったのではないのですか?」

 スエノさんがそう小さい声でささやくように言った。


 それには誰も答えなかった。

 そう、誰もがそう信じたいと思っているのだ。

 しかし、それと同時にこの中の誰かに化けているのではないかと疑心暗鬼にもなっているのだから……。




 まだ外の世界は吹雪が吠え狂う一面の雪の世界。

 そして、この辺りの天気は、7日吹雪くと1日晴れる特殊な天気なのです。


 まだ吹雪が止むまで、今日を入れて5日はかかるのだー。



 ~続く~



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

探偵注文所

八雲 銀次郎
ミステリー
 ここは、都内某所にある、ビルの地下二階。  この階に来るには、エレベーターでは来ることはできず、階段で降りる他ない。  ほとんどのスペースはシャッターが閉まり、テナント募集の紙が貼られていた。  しかし、その一角にまだ日の高いうちから、煌々とネオンの看板が光っている場所が存在する。  『ホームズ』看板にはそう書かれていた。  これだけだと、バーなのかスナックなのか、はたまた喫茶店なのかわからない。  もしかしたら、探偵事務所かも…  扉を開けるそのときまで、真実は閉ざされ続ける。 次話公開時間:毎週水・金曜日朝9:00 本職都合のため、急遽予定が変更されたり、休載する場合もあります。 同時期連載中の『レトロな事件簿』と世界観を共有しています。

超能力者は探偵に憧れる

田中かな
ミステリー
愛上探偵事務所助手、奈良篠郷平は超能力者である。彼の手にかかればどんな事件もすぐに解決!…とはいかないようで… 舞台は日本のどこかです。時代は電気通信機器が少し普及し始めた頃です。 この物語はフィクションです。

真実の先に見えた笑顔

しまおか
ミステリー
損害保険会社の事務職の英美が働く八階フロアの冷蔵庫から、飲食物が続けて紛失。男性総合職の浦里と元刑事でSC課の賠償主事、三箇の力を借りて問題解決に動き犯人を特定。その過程で着任したばかりの総合職、久我埼の噂が広がる。過去に相性の悪い上司が事故や病気で三人死亡しており、彼は死に神と呼ばれていた。会社内で起こる小さな事件を解決していくうちに、久我埼の上司の死の真相を探り始めた主人公達。果たしてその結末は?

探偵たちに時間はない

探偵とホットケーキ
ミステリー
前作:https://www.alphapolis.co.jp/novel/888396203/60844775 読まなくても今作だけで充分にご理解いただける内容です。 「探偵社アネモネ」には三人の探偵がいる。 ツンデレ気質の水樹。紳士的な理人。そしてシャムネコのように気紛れな陽希。 彼らが様々な謎を解決していくミステリー。 今作は、有名時計作家の屋敷で行われたミステリー会に参加することに。其処で事件が発生し―― *** カクヨム版 https://kakuyomu.jp/works/16818093087826945149 小説家になろう版 https://ncode.syosetu.com/n2538js/ Rising Star掲載経験ありのシリーズです。https://estar.jp/selections/501

母からの電話

naomikoryo
ミステリー
東京の静かな夜、30歳の男性ヒロシは、突然亡き母からの電話を受け取る。 母は数年前に他界したはずなのに、その声ははっきりとスマートフォンから聞こえてきた。 最初は信じられないヒロシだが、母の声が語る言葉には深い意味があり、彼は次第にその真実に引き寄せられていく。 母が命を懸けて守ろうとしていた秘密、そしてヒロシが知らなかった母の仕事。 それを追い求める中で、彼は恐ろしい陰謀と向き合わなければならない。 彼の未来を決定づける「最後の電話」に込められた母の思いとは一体何なのか? 真実と向き合うため、ヒロシはどんな犠牲を払う覚悟を決めるのか。 最後の母の電話と、選択の連続が織り成すサスペンスフルな物語。

マスクドアセッサー

碧 春海
ミステリー
主人公朝比奈優作が裁判員に選ばれて1つの事件に出会う事から始まるミステリー小説 朝比奈優作シリーズ第5弾。

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

処理中です...