上 下
14 / 62
第1日目

第9話 到着1日目・夜

しおりを挟む
 夕食の時間、私はみなさんに、主にシンデレイラ家の方たちに向けて、『黄金探偵』の活躍の話を語って語って語りまくりました。

 私が必死でお話しているのに、コンジ先生ったらご自身の話をしているのに、横でパクパク食事を楽しんでましたよ。

 うー……。ゆるせん! 私だってもっとゆっくり味わって食事をしたかったですよー。



 まあ、どれだけ時間がなかったとしても、もちろん、完食はしましたけどね。

 そこは譲れません。

 そして、私が必死でお話をしたにも関わらず、褒め称えられるのはコンジ先生で、そんなときだけ、ちゃっかり、みなさんに愛想を振りまくんですから!

 コンジ先生のこの抜け目のなさ……。本当にIQ高いってこういうことなのかしら?



 そして、このときに、パパデスさんから、ビジューさんの画商から、新しい絵画を仕入れる話がまとまったと発表がありました。

 その仲介料だけで、ビジューさんにはなんと、5億円も払われるそうです!

 絵画についてはその名は伏せられましたけど、100億円はくだらないでしょうとビジューさんが自慢げに言ってました。



 「ふん……。お金さえあれば、私だって……。」

 アイティさんは悔しそうな顔をしていましたが、超がつくほどの大富豪のパパデスさんに対抗心を燃やしても無駄だと思うけど……。

 エラリーンさんは率直に褒めてましたね。

 彼女もかなり裕福な方だから、対抗心などないのかもしれません。



 そして、夕食後、解散となりました。


 この後のこの日の夜の行動については、翌日にみなさんからお聞きしたお話をもとに、書きますが、おおむね間違いはないと思われます。




 女性陣はさっさとお風呂に行かせていただくことになり、順番に入らせて頂きました。

 お客様からお先にどうぞと、ママハッハさんからのご厚意もあって、エラリーン夫人、ジェニー警視、そして私ジョシュアの順に入らせて頂きました。



 私がシャワーをした後は、シンデレイラ家のママハッハさん、アネノさん、ジジョーノさん、スエノさんの順だったようです。

 男性陣は適当にバラバラに好きな時間にシャワーをするようで、朝に浴びるから夜はシャワーをしないと、アイティさんは言ってましたね。

 その後の行動はみなさん、バラバラでした。



 遊戯室で、またしてもビリヤードをしていたのは、ジニアスさんとアイティさんでした。

 アイティさんはよほどワイン好きなのか、メッシュさんに頼んで、ワインを飲みながらのゲームをしていました。

 それをシュジイさんが見ていたようですけど、しばらくして、ジェニー警視がシャワーの後にやってきたので、一緒にチェスをしばらくしていたみたいです。

 エラリーン夫人はイーロウさんとエラリーンさんの部屋で何やらお話(?)をしていたとのことでした。



 パパデスさんは部屋でシープさんと何やらお仕事の話をしてから、その後、早めに就寝されたみたい。

 カンさん、メッシュさんは夕食の後片付けの後、メッシュさんは翌日の朝食の仕込みをしてから、深夜みなさんがシャワーを使った後、カンさんと順番にシャワーをしてから眠りについたと後から言っていました。



 アレクサンダー神父は『左翼の塔』でずっと朝まで例の祈祷をしていたとおっしゃってました。

 美術商のビジューさんは、一人で商談の件を書類に書き起こしていたようです。

 アネノさん、ジジョーノさんはアネノさんの部屋で二人で、何やらお話をしてからその後就寝したとのこと。

 スエノさんは書斎で読書していて、深夜には自分の部屋に戻ったとおっしゃっています。



 ジニアスさんは遊戯室で、アイティさんとビリヤードをした後は、シャワーを浴びてから自室に戻ったとのことでした。

 このとき、まだ遊戯室にはアイティさん、シュジイさん、ジェニー警視がいたとみなさん証言されています。

 シュジイさんは、ひとしきり、チェスに興じた後、パパデスさんの寝室に行き、寝る前の診察を終えてから、自室で就寝したと言っております。



 私はシャワーの後、コンジ先生の部屋を片付けて、自室で今日のことをまとめていました。

 日記に近いですが、業務日誌です。

 コンジ先生の部屋を訪ね、なにか用事はないか最後の確認をしたのが夜11時過ぎ、その後、明日の予定をお伝えして、また自室に戻って就寝しました。

 この時、コンジ先生は、なにごとか調べ物をしていらっしゃったようですが、それはあまり関係がないようですね……。



 だって……。

 この夜、初めての犠牲者が出たのですが、それは深夜遅くの出来事だったのですから……。

 みんなが寝静まった真夜中よりも後の時間に、その惨劇は起きたのでした―。





 ◇◇◇◇





 ~人狼サイド視点~


 はぁ……。はぁ……。はぁ……。



 頭が割れそうだ……。

 この心の奥底から湧き上がってくる渇きはいったいなんだ……?

 そして、飢え……。



 やけに熱い……。

 鼓動がそして異常に大きく、体の中を伝わって脳に直接響く。

 そして、全身の細胞という細胞が、訴えてくるのだ……。




 『喰らえ!!』


 ……と。



 行くならあそこしかない……。

 人狼の姿に変わっても、その知識は失われない。

 この化け物は欲望に忠実ではあるが、その欲望はそのなりすました者に由来するのだ。



 はぁ…。はぁ…。はぁ…。

 もうすぐだ。

 もうすぐ目的の場所にたどり着く……。

 すべて食らい付くしてやれ!



 ん? 何者かがいる……。

 なぜ、こんな深夜遅くに?

 いや……。何者であろうと、邪魔はさせない……。




 「あれ? いったい、どうしたんだね? こんな深夜に……。のどでも乾いたのか?」

 その男は声をかけてきた。

 どうやら、化け物はまだ人狼へと変貌を遂げてはいないようだ。




 「私もね。ちょっとね。失敬しているよ。はっはっは……。」

 男はなにも警戒していない様子だ。

 化け物は、ここで異常な欲望の高まりを覚えた。




 「あれ? 君……。どうしたんだい? 具合でも悪いのか……。ま……、まさか……!?」

 ああ、化け物はここで人狼へと完全に姿を変えていく……。

 身の丈はほとんど変わらないが、オオカミの頭、鋭い爪、そしてその大きな口に生えた牙!

 獰猛で巨大な肉食獣が、二本足で立ち、その獲物を見定めている。



 「ぐるるる……。」

 「うわっ! く……来るな! この化け物め!」

 その男は、必死で、廊下に出た。



 「た……たす……!」

 助けを必死で呼ぼうと、声を出しかけたその瞬間!



 ガッ……!!



 後ろからその化け物が、その男の首筋に一瞬で噛み付いたのだ。

 背後から、無抵抗なその男を捕らえ、首筋に噛みつき、そのまま広間の部屋に引きずっていく……。



 首を横からその大きな口で噛みつかれ、のどに食いつかれたその憐れな男は、声を出せなくなり、逆らおうにも力が出ない……。


 「う……。たすけ……。」


 その振り絞る声もかすれ、息が漏れる音でひゅうひゅうとあたりの空気を少し振動させただけにとどまった。



 ずる……。ずる……。ずる……。

 引きずられ、広間の中央に連れられてきた。

 そして……。



 そのやわらかい内臓を引きずり出し……。

 食するという行為自体は、そこに善悪もない。

 まさに生のために、生きるという生命の本能でしかないのだ。


 「ゴボ……。ゴボ……。」

 その男の口から血が溢れ出て、もはや声にならない。



 むさぼり食らわれるその犠牲者を見ていた者たちがいた。

 そう、それはこの部屋に飾ってある絵画に描かれた人物画の人物たち……。


 ゴッホッホ風の人物、マネモネ風の人物、フェアリメール風の人物といった全部が違った作風の人物たちが黙って見つめていた―。




 館の外は吹雪が荒れ狂い、この日の惨劇を覆い隠すか如く、激しくうなり、隔絶したこの館を取り巻いて、包み込むのであった―。




 ついに犠牲者が出てしまった『或雪山山荘』での宿泊は2日目へと移る―。




 ~続く~



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

四次元残響の檻(おり)

葉羽
ミステリー
音響学の権威である変わり者の学者、阿座河燐太郎(あざかわ りんたろう)博士が、古びた洋館を改装した音響研究所の地下実験室で謎の死を遂げた。密室状態の実験室から博士の身体は消失し、物証は一切残されていない。警察は超常現象として捜査を打ち切ろうとするが、事件の報を聞きつけた神藤葉羽は、そこに論理的なトリックが隠されていると確信する。葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、奇妙な音響装置が残された地下実験室を訪れる。そこで葉羽は、博士が四次元空間と共鳴現象を利用した前代未聞の殺人トリックを仕掛けた可能性に気づく。しかし、謎を解き明かそうとする葉羽と彩由美の周囲で、不可解な現象が次々と発生し、二人は見えない恐怖に追い詰められていく。四次元残響が引き起こす恐怖と、天才高校生・葉羽の推理が交錯する中、事件は想像を絶する結末へと向かっていく。

設計士 建山

如月 睦月
ミステリー
一級建築士 建山斗偉志(たてやま といし)小さいながらも事務所を構える彼のもとに、今日も変な依頼が迷い込む。

【毎日20時更新】アンメリー・オデッセイ

ユーレカ書房
ミステリー
からくり職人のドルトン氏が、何者かに殺害された。ドルトン氏の弟子のエドワードは、親方が生前大切にしていた本棚からとある本を見つける。表紙を宝石で飾り立てて中は手書きという、なにやらいわくありげなその本には、著名な作家アンソニー・ティリパットがドルトン氏とエドワードの父に宛てた中書きが記されていた。 【時と歯車の誠実な友、ウィリアム・ドルトンとアルフレッド・コーディに。 A・T】 なぜこんな本が店に置いてあったのか? 不思議に思うエドワードだったが、彼はすでにおかしな本とふたつの時計台を巡る危険な陰謀と冒険に巻き込まれていた……。 【登場人物】 エドワード・コーディ・・・・からくり職人見習い。十五歳。両親はすでに亡く、親方のドルトン氏とともに暮らしていた。ドルトン氏の死と不思議な本との関わりを探るうちに、とある陰謀の渦中に巻き込まれて町を出ることに。 ドルトン氏・・・・・・・・・エドワードの親方。優れた職人だったが、職人組合の会合に出かけた帰りに何者かによって射殺されてしまう。 マードック船長・・・・・・・商船〈アンメリー号〉の船長。町から逃げ出したエドワードを船にかくまい、船員として雇う。 アーシア・リンドローブ・・・マードック船長の親戚の少女。古書店を開くという夢を持っており、謎の本を持て余していたエドワードを助ける。 アンソニー・ティリパット・・著名な作家。エドワードが見つけた『セオとブラン・ダムのおはなし』の作者。実は、地方領主を務めてきたレイクフィールド家の元当主。故人。 クレイハー氏・・・・・・・・ティリパット氏の甥。とある目的のため、『セオとブラン・ダムのおはなし』を探している。

ピエロの嘲笑が消えない

葉羽
ミステリー
天才高校生・神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美から奇妙な相談を受ける。彼女の叔母が入院している精神科診療所「クロウ・ハウス」で、不可解な現象が続いているというのだ。患者たちは一様に「ピエロを見た」と怯え、精神を病んでいく。葉羽は、彩由美と共に診療所を訪れ、調査を開始する。だが、そこは常識では計り知れない恐怖が支配する場所だった。患者たちの証言、院長の怪しい行動、そして診療所に隠された秘密。葉羽は持ち前の推理力で謎に挑むが、見えない敵は彼の想像を遥かに超える狡猾さで迫ってくる。ピエロの正体は何なのか? 診療所で何が行われているのか? そして、葉羽は愛する彩由美を守り抜き、この悪夢を終わらせることができるのか? 深層心理に潜む恐怖を暴き出す、戦慄の本格推理ホラー。

化け物殺人事件 〜フランケンシュタインの化け物はプロメテウスに火を与えられたのか?〜

あっちゅまん
ミステリー
絶海の孤島に建てられた極秘の研究所は、軍とも関連があると言われており、島に向かっての極秘の定期便の船以外は外界と接続していない。 そんな隔絶された研究所の密室内で殺人事件が起きた! 真犯人は超人工知能搭載のロボットか!?  フランケンシュタインの化け物が登場。この最新科学で生み出された化け物はロボット三原則によって人間を害することはできない……はず? 点と点が繋がり…AIは道具なのか、意思を持っているのか!? 名探偵「黄金探偵」コンジの第二作目。 金色の脳細胞IQ250を持つ男・名探偵、輝乃皇・崑児(きののう・こんじ)は、この謎を推理で突きとめることができるのか!?

パイオニアフィッシュ

イケランド
ミステリー
ぜひ読んでください。 ミステリー小説です。 ひとはしなないです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

処理中です...