7 / 62
第1日目
第2話 到着1日目・昼その2
しおりを挟む現在僕は、ロイ兄さんたちが剣術の練習場を、お茶を啜り、ふかふかの椅子に腰掛けながら眺めている。
確かに遠くても良いと言ったが、流石に少し遠すぎるんじゃ無いだろうか。
「ねぇ、僕もう少し近くで見たいな、ここからじゃロイ兄さん、よく見えないよ……?」
そう言うと、隣に座っていたローレンツ兄さんが即座に眉をひそめた。
「……ダメだ。もしノエルの身に何かあったらどうするんだ?」
この距離を譲らないことは変わりないらしい。僕は口を尖らせたが、すぐに別の提案を思いつく。
「じゃあね、ロイ兄さんのかっこいいところ見せて!そしたらここでちゃんと座ってる!」
ローレンツ兄さんは少し呆れた顔をしたものの、僕の提案を飲む代わりに軽く頭を撫でた。
「それぐらい容易いよ。」
そう言うと、僕の額にキスを落とし、ぎゅっと抱きしめてから軽く回転しつつ立ち上がる。そして練習場へ向かって歩き出した。
「……おぇえ……マジでなんで俺はロイのこんな所見なきゃなんないの……甘すぎて砂糖吐けそう。」
ジラルデさんが腹を押さえながら大袈裟に身をよじると、ローレンツ兄さんがその後頭部を軽く小突いた。
「いって!なにすんだよ!」
「うるさい。さっさと練習に行け。」
「はいはい。」
そう返事をし、手をひらひらと振りながら、ジラルデとローレンツは練習場へと向かって行った。
そんなわけで、僕は椅子に深く座り直し、お茶を飲みながらロイ兄さんたちの練習を眺めている。さっきから何度もロイ兄さんと目が合っている気がするけど……気のせいだよね?だってこの距離だもん。
あ、ロイ兄さんが誰かに頭を叩かれた。
なんだか、いつもと違うロイ兄さんの姿が見られてちょっと嬉しくて、思わず笑ってしまった。
でも、剣を握ると急に真剣な顔になる。やっぱり兄さんたちはすごくかっこいい。僕もいつかはロイ兄さんみたいに筋肉をつけて、剣を扱えるようになるのかな?
そんなことを考えていると、不意に左から聞き慣れない声がした。
「見慣れないお客さんだね。良ければ名前を教えてくれるかな?」
振り向くと、そこには柔らかい笑みを浮かべた一人の青年が立っていた。年はルー兄さんやロイ兄さんとそう変わらないか、少し下くらいだろうか?
「えっと、僕はノ……」
名乗ろうとした瞬間、練習場から大きな声が響いた。
「おいハンス!お前、何度言ったら遅刻せずに来れるんだよ。そろそろ本気で退学の相談に行くか?」
声の主はローレンツ兄さんだった。彼に怒鳴られると、ハンスと呼ばれた少年は、僕に向けていた視線を外し、苦笑いしながらそちらに向かって歩き始めた。
「ごめんなさーい。どうしても行かないでってアンネが……」
「アンネ?先週はロゼだかローズだか言ってなかったか、この野郎……」
「その子たちとはもう終わったよ。」
「……やってられない。」
ローレンツ兄さんは呆れたように額を押さえた。ローレンツ兄さんは僕に目を向けると、先程青年に向けたのとは打って変わって明るい声で言った。
「ノエル、向こうでこいつ以外と昼食を取ろう。今日はサンドイッチがあるよ。」
「サンドイッチ!僕、大好きだよ!」
「へぇ……ノエルって言うのか……」
ハンスさんがまた話しかけようとしたところで、ローレンツ兄さんが「黙れ。」と鋭く遮った。
僕はなんとなく「えっと……ハンスさん?一緒にお昼ご飯、食べないの?」とロイ兄さんに尋ねた。
「ノエルくん、誘ってくれるの?ありがとう。」
そう言って、ハンスさんがノエルの手の甲に軽くキスを落とした。その瞬間、ローレンツ兄さんの顔が一気に険しくなった。
「……お前、後で腕立て、腹筋、500回ずつ、ランニングな。」
「職権乱用ですよ!?マジ勘弁してください!」
ハンスさんは苦笑いしながら反論していたけど、ローレンツは取り合わない。その代わり、呆れ顔のまま僕を片腕でひょいと抱き上げると、昼食が用意された場所へ向かって歩き出した。
「あの…ロイ兄さん、ハンスさんはいいの……?」
「ノエルは優しいな。でも、あんなのは放っておいて問題ないよ。」
ローレンツ兄さんの声はいつも通り冷静だったけど、どこか釘を刺すような響きがあった。僕は項垂れるハンスさんのほうをロイ兄さんの肩越しに見つめた。
確かに遠くても良いと言ったが、流石に少し遠すぎるんじゃ無いだろうか。
「ねぇ、僕もう少し近くで見たいな、ここからじゃロイ兄さん、よく見えないよ……?」
そう言うと、隣に座っていたローレンツ兄さんが即座に眉をひそめた。
「……ダメだ。もしノエルの身に何かあったらどうするんだ?」
この距離を譲らないことは変わりないらしい。僕は口を尖らせたが、すぐに別の提案を思いつく。
「じゃあね、ロイ兄さんのかっこいいところ見せて!そしたらここでちゃんと座ってる!」
ローレンツ兄さんは少し呆れた顔をしたものの、僕の提案を飲む代わりに軽く頭を撫でた。
「それぐらい容易いよ。」
そう言うと、僕の額にキスを落とし、ぎゅっと抱きしめてから軽く回転しつつ立ち上がる。そして練習場へ向かって歩き出した。
「……おぇえ……マジでなんで俺はロイのこんな所見なきゃなんないの……甘すぎて砂糖吐けそう。」
ジラルデさんが腹を押さえながら大袈裟に身をよじると、ローレンツ兄さんがその後頭部を軽く小突いた。
「いって!なにすんだよ!」
「うるさい。さっさと練習に行け。」
「はいはい。」
そう返事をし、手をひらひらと振りながら、ジラルデとローレンツは練習場へと向かって行った。
そんなわけで、僕は椅子に深く座り直し、お茶を飲みながらロイ兄さんたちの練習を眺めている。さっきから何度もロイ兄さんと目が合っている気がするけど……気のせいだよね?だってこの距離だもん。
あ、ロイ兄さんが誰かに頭を叩かれた。
なんだか、いつもと違うロイ兄さんの姿が見られてちょっと嬉しくて、思わず笑ってしまった。
でも、剣を握ると急に真剣な顔になる。やっぱり兄さんたちはすごくかっこいい。僕もいつかはロイ兄さんみたいに筋肉をつけて、剣を扱えるようになるのかな?
そんなことを考えていると、不意に左から聞き慣れない声がした。
「見慣れないお客さんだね。良ければ名前を教えてくれるかな?」
振り向くと、そこには柔らかい笑みを浮かべた一人の青年が立っていた。年はルー兄さんやロイ兄さんとそう変わらないか、少し下くらいだろうか?
「えっと、僕はノ……」
名乗ろうとした瞬間、練習場から大きな声が響いた。
「おいハンス!お前、何度言ったら遅刻せずに来れるんだよ。そろそろ本気で退学の相談に行くか?」
声の主はローレンツ兄さんだった。彼に怒鳴られると、ハンスと呼ばれた少年は、僕に向けていた視線を外し、苦笑いしながらそちらに向かって歩き始めた。
「ごめんなさーい。どうしても行かないでってアンネが……」
「アンネ?先週はロゼだかローズだか言ってなかったか、この野郎……」
「その子たちとはもう終わったよ。」
「……やってられない。」
ローレンツ兄さんは呆れたように額を押さえた。ローレンツ兄さんは僕に目を向けると、先程青年に向けたのとは打って変わって明るい声で言った。
「ノエル、向こうでこいつ以外と昼食を取ろう。今日はサンドイッチがあるよ。」
「サンドイッチ!僕、大好きだよ!」
「へぇ……ノエルって言うのか……」
ハンスさんがまた話しかけようとしたところで、ローレンツ兄さんが「黙れ。」と鋭く遮った。
僕はなんとなく「えっと……ハンスさん?一緒にお昼ご飯、食べないの?」とロイ兄さんに尋ねた。
「ノエルくん、誘ってくれるの?ありがとう。」
そう言って、ハンスさんがノエルの手の甲に軽くキスを落とした。その瞬間、ローレンツ兄さんの顔が一気に険しくなった。
「……お前、後で腕立て、腹筋、500回ずつ、ランニングな。」
「職権乱用ですよ!?マジ勘弁してください!」
ハンスさんは苦笑いしながら反論していたけど、ローレンツは取り合わない。その代わり、呆れ顔のまま僕を片腕でひょいと抱き上げると、昼食が用意された場所へ向かって歩き出した。
「あの…ロイ兄さん、ハンスさんはいいの……?」
「ノエルは優しいな。でも、あんなのは放っておいて問題ないよ。」
ローレンツ兄さんの声はいつも通り冷静だったけど、どこか釘を刺すような響きがあった。僕は項垂れるハンスさんのほうをロイ兄さんの肩越しに見つめた。
0
★★★★★★★★★★★★
名探偵コンジ先生の第二弾!!
ぜひお読みいただければ嬉しいです。
化け物殺人事件 〜フランケンシュタインの化け物はプロメテウスに火を与えられたのか?〜←ここをクリック
★★★★★★★★★★★★
名探偵コンジ先生の第二弾!!
ぜひお読みいただければ嬉しいです。
化け物殺人事件 〜フランケンシュタインの化け物はプロメテウスに火を与えられたのか?〜←ここをクリック
★★★★★★★★★★★★
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
『沈黙するグラス』 ~5つの視点が交錯する~
Algo Lighter
ミステリー
その夜、雨は静かに降り続けていた。
高級レストラン「ル・ソレイユ」で、投資家・南條修司が毒殺される。
毒はワインに仕込まれたのか、それとも——?
事件の謎を追うのは、探偵・久瀬真人。
彼はオーナー・藤倉俊介の依頼を受け、捜査を開始する。
最初に疑われたのは、料理長の高梨孝之。
だが、事件を深掘りするにつれ、違和感が浮かび上がる。
「これは、単なる復讐劇なのか?」
5人の視点で描かれる物語が、点と点をつなぎ、やがて驚愕の真実が浮かび上がる。
沈黙する証拠、交錯する思惑。
そして、最後に暴かれる"最も疑われなかった者"の正体とは——?
灰色の世界の執行人~首斬りとホムンクルス~
きょろ
ファンタジー
貧乏商人アッシュは、金貸し屋のヴェロニカへの借金返済が迫っていた。
しかし、報酬を受け取る筈だった依頼人の男が死んでおり、アッシュの報酬は未払い状態。
返済の当てがなくなったアッシュであったが、ヴェロニカは死体の傍らにある「阿片」に金の匂いを嗅ぎつけた。
“元諜報員”のヴェロニカと“元死刑執行人”のアッシュ。
共に知られたくない過去を持つ二人が、灰色に染まった都市に潜む金、阿片、宗教派閥の闇へと巻き込まれていく――。
ミステリー✖サスペンス✖ダークファンタジーの新感覚ストーリー。
白が嫌いな青~剣と密室の頭脳戦~
キルト
ミステリー
【決して瞳を合わせてはいけない】
『魔眼病』瞳を合わせただけで感染する奇病が蔓延する世界。
偶然出会った孤独な男女はある約束を交わした。
お互いに嘘をついたまま次第に惹かれ合う二人。
その幼い感情が恋と呼ばれ始めた頃……想いを伝えられないまま互いの記憶を失くし突然飛ばされた。
女は密室で『断罪ゲーム』と呼ばれる推理ゲームに巻き込まれ。
男は異世界で記憶を取り戻す戦いに巻き込まれる。
ミステリーとファンタジー。
人々の嘘と恋が交わる時、世界の謎が明かされる。
※女主人公(サヤカ)の生き残り推理ゲームと
男主人公(優介)の記憶を取り戻す異世界バトルが交互に描かれています。
目次の最初に名前を記載しているので参考にして下さい。
全三十話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
さんざめく左手 ― よろず屋・月翔 散冴 ―
流々(るる)
ミステリー
【この男の冷たい左手が胸騒ぎを呼び寄せる。アウトローなヒーロー、登場】
どんな依頼でもお受けします。それがあなたにとっての正義なら
企業が表向きには処理できない事案を引き受けるという「よろず屋」月翔 散冴(つきかけ さんざ)。ある依頼をきっかけに大きな渦へと巻き込まれていく。彼にとっての正義とは。
サスペンスあり、ハードボイルドあり、ミステリーありの痛快エンターテイメント!
※さんざめく:さざめく=胸騒ぎがする(精選版 日本国語大辞典より)、の音変化。
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

秘められた遺志
しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる