7 / 11
Starting
第3話 『到着~arrival~』
しおりを挟む「着きましたわよ!」
ヘレナさんが声をあげる。
何もない大海原の真ん中にポツンとある島に、その研究所は建っていた。
私たちを乗せた小型飛行機は、その島に向かって高度を下げ、旋回しながら、その島唯一の飛行場に着陸したのでした。
狭い飛行場でしたが、完璧な操縦で、まったくズレること無く島に降り立ったのです。
「到着いたしマシタ! シートベルトを外して注意してお下りくださいマセ。」
A・Iの機内アナウンスが流れ、やっと私たちは5時間半ぶりの大地に降り立つことができた。
「あそこに見えるのが……、『フランケンシュタイン研究所』ですわ!」
ヘレナさんがそう言って指差した方には、立派な建物がそびえ立っていた。
ただし、非常に殺風景な感じです。
「……んん? あれがかの有名な『フランケンシュタイン研究所』か……。そして、こちらに向かってくるのは……、研究所の所長ってわけか。」
「ええ? コンジ先生。どうして向かってきている人が所長さんだってわかるのですか?」
「ふむ。ジョシュア……。君、いいかい? 簡単なことじゃあないか。こちらにおわす少女を誰だか忘れたのかい?」
「あ……! ヘレナさん!? そっか! 会長さんのお孫さん……でしたね。」
「それに、この研究所の経営会社RUR社の社長だぞ? 所長が迎えに来ないでどうするんだよ。」
「なるほどですね。コンジ先生。さすが! おみそれしました……。」
「まあ、いい。それより、僕の荷物……、忘れないでくれたまえよ?」
そのおそらくは研究所の所長と思わしき人物が乗ってきたクルマは、やはり自動運転のようです。
未来的なデザインの流線型のボディの曲線が緩やかでなめらかなシルエットのオートバスが近づいてきました。
「Welcome to the Frankenstein laboratory!」
そう音声案内が聞こえ、ドアが開く。
ヒュィー……ン……
静かな音で開いたドアから、メガネをかけた笑顔の男性が降りてきた。
「ようこそ。我が『フランケンシュタイン研究所』へ。ヘレナ……。お久しぶりですなぁ……。」
その男性がまず話しかけたのは、やはり、ヘレナさんだった。
「お久しぶりね。ハリー所長。ああ、みなさん。こちらは、この『フランケンシュタイン研究所』の責任者で所長のハリー・ドミンですわ。」
「みなさん。初めまして。ハリー・ドミンです。ささ、立ち話もなんですから、オートバスにお乗りください。」
なんと、バスの中には美しい超美人な女性が……、1、2……、3人も乗っていたのです!
「オオ! トレビアァーン! Quelles belles belles femmes(ケル ベル ベル ファァム 訳:なんと美しい女性たちだ)!!」
そう声を上げたのはムラサメ刑事だった。
「ムラサメ刑事……。彼女たちはたしかに美しいが、アンドロイドであることは明白だよ?」
コンジ先生がムラサメ刑事にそう告げた。
「なんですって!? ど……。どこから見ても人間の女性にしか見えない……! しかも、こんなにも美しい……。」
ムラサメ刑事がびっくりしている。
「おお……。君は……?」
ハリー所長がコンジ先生の発言を聞き、コンジ先生に興味を持ったようです。
「えぇ……。こちらの方は、かの『黄金探偵』、コンジ・キノノウ様でいらっしゃるわ!」
あ! ヘレナさんに先を越されてしまった……。
助手の名折れだわ!
「はい。こちらは名探偵、『黄金探偵』コンジ・キノノウです。私はその助手のジョシュア・ジョシバーナです。よろしくお願いします。」
「ふぅむ……。『黄金探偵』か……。こんな辺鄙な島に引きこもっている私でさえ、その名は知っている。かの名探偵が、我が研究所にはるばるお越しとは……、歓迎するよ!」
「ふん……。そんなことより、謎を早く解きたいものだ。研究所に案内してくれたまえ……。」
「おお。そうですな。だけど、その前に、差し支えなければ、うちの自慢のアンドロイド……『Milky Way6G』たちを即座にアンドロイドと見破ったその根拠をお聞かせいただきたい。なにせ、今までに、こんなに早くアンドロイドだと看破されたのは初めてだからな……。この自慢の『Milky Way6G』はまだ世界にも発表していない最新モデルだからな……。」
ハリー所長は、意外と負けず嫌いなのかもしれない。
「そうね。ワタシたちも知りたいですわ。ねえ? エウプロシュネー、タレイア?」
「そうね。アグライアー。ワタシも知りたいですわ。どうして、おわかりになられたのですか? キノノウ様。」
「今まで、ワタシたち『三美神』シリーズの姿を見て、初見でアンドロイドだと見抜かれたのはお客様が初めてですわ。」
三人(?)の女性アンドロイドが口々に声を発する。
どうやら、名前はそれぞれアグライアー、エウプロシュネー、タレイアと言うようです。
だけど、それより驚いたのが、人間と同じような反応で疑問をコンジ先生にぶつけてきたことです……。
これが、アンドロイドだと言うの!?
「ほぉ……。自律型オペレーションシステムを組み込んであるのか……。なるほどな。リアルな感情表現も膨大な演算のなせる技か……。よし! いいだろう! 簡単なことだよ。僕たちが『彼女たち』を見た時の、ハリー所長、ヘレナさん、あなた方の視線が異様に僕たちに注がれていたからさ? ただ単に、美女を自慢したい……というのはまず却下される。なぜなら、ここがかの『フランケンシュタイン研究所』だからだ。そして、R.U.R.社のトップである彼女の眼が物語っていたよ……。」
コンジ先生がまた奇妙な、手を前だか後だか、わからないポーズで語ってみせるのでした。
「さすがね! 黄金探偵さん。でも、彼女たちだけでは、人間と区別がつかなかった……。つまりは、そういうことでしょう?」
おお……。ヘレナさんも負けてはいない!
「いや。僕にはわかりましたね。ただ、より、あなた方の反応でわかりやすかった……ということです。まあ、種明かしをすると、僕は彼女たち『三美神シリーズ』のプロトタイプ型の『パリスの審判モデル』を知っていたからね。」
「なるほど……。キノノウさんはロボットのモデルについて造詣が深いようですな……。」
「そうね。その知識……。さすがは黄金探偵……、いや、ムッシュ・コンジ。これは頼りになりそうね? ハリー所長?」
「まったくですな。では、さっそく、研究所を案内しましょう。みなさん、オートバスにお乗りください。」
いつものことながら、コンジ先生のその知識はいったい、いつ、どこで吸収しているのかしら?
さすがはコンジ先生です……。私の……。
あ、いえ……。コホン……。
研究所へ移動する間の、わずかな時間。
車内ではコンジ先生のうんちくが披露されていました……とさ。
「いいかい? ジョシュア。そもそも『三美神(The Three Graces)』とは、ギリシア神話とローマ神話に登場する美と優雅を象徴する三人の女神のことで、ラファエロ・サンティの作品やサンドロ・ボッティチェッリの「春」にも描かれていることで有名だな。それぞれ魅力(charm)、美貌(beauty)、創造力(creativity)を司っていて、一般的には、ヘーシオドスの挙げるカリス(美と優雅を司る女神たち)のアグライアー、エウプロシュネー、タレイアとされているわけだ。『彼女たち』の名前はそこから来ているのだな。」
「「「そのとおりでございます。キノノウ様。」」」
『三美神』たちが肯定する。
「……で、『パリスの審判(パリスのしんぱん)』は、ギリシア神話の一挿話で、トロイア戦争の発端とされる事件で、イリオス(トロイア)王プリアモスの息子パリス(アレクサンドロス)が、神々の女王ヘーラー・知恵の女神アテーナー・愛と美の女神アプロディーテーという天界での三美神のうちで誰が最も美しいかを判定させられたという逸話のことさ。そちらのモデルもたいそう美しい女性がモデルになっていたんだよ? ……って、おい! 聞いているのか? ジョシュア!」
「はいはい。聞いていますよ。アンドロイドであったとしても、その美人さんたちに、おもてなしされるってことで、さぞ、嬉しいことでしょうね!?」
「……何を言ってるんだよ? この美しい工芸品のアートがわからないかなぁ……。君ってホントに……。」
ええ、ええ。わかっていますよ。
コンジ先生が女性として見てるのではないってことくらい……。
でも……。
あんまり、美しい、美しい……って、褒め称えなくてもいいんじゃあありませんか?
そんな、私は、ちょっと、何やら胸騒ぎがしているのでした。
いよいよ、研究所が近づいてきていたから……でしょうかね?
~続く~
※イメージ画像
・アイスランドのヴェストマン諸島のヘイマエイ島の右上辺りにある小さな島「エリデイ島」
・東京モーターショー 自動運転
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
若月骨董店若旦那の事件簿~水晶盤の宵~
七瀬京
ミステリー
秋。若月骨董店に、骨董鑑定の仕事が舞い込んできた。持ち込まれた品を見て、骨董屋の息子である春宵(しゅんゆう)は驚愕する。
依頼人はその依頼の品を『鬼の剥製』だという。
依頼人は高浜祥子。そして持ち主は、高浜祥子の遠縁に当たるという橿原京香(かしはらみやこ)という女だった。
橿原家は、水産業を営みそれなりの財産もあるという家だった。しかし、水産業で繁盛していると言うだけではなく、橿原京香が嫁いできてから、ろくな事がおきた事が無いという事でも、有名な家だった。
そして、春宵は、『鬼の剥製』を一目見たときから、ある事実に気が付いていた。この『鬼の剥製』が、本物の人間を使っているという事実だった………。
秋を舞台にした『鬼の剥製』と一人の女の物語。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
没落貴族イーサン・グランチェスターの冒険
水十草
ミステリー
【第7回ホラー・ミステリー小説大賞奨励賞 受賞作】 大学で助手をしていたテオ・ウィルソンは、美貌の侯爵令息イーサン・グランチェスターの家庭教師として雇われることになった。多額の年俸と優雅な生活を期待していたテオだが、グランチェスター家の内情は火の車らしい。それでもテオには、イーサンの家庭教師をする理由があって…。本格英国ミステリー、ここに開幕!
憑代の柩
菱沼あゆ
ミステリー
「お前の顔は整形しておいた。今から、僕の婚約者となって、真犯人を探すんだ」
教会での爆破事件に巻き込まれ。
目が覚めたら、記憶喪失な上に、勝手に整形されていた『私』。
「何もかもお前のせいだ」
そう言う男に逆らえず、彼の婚約者となって、真犯人を探すが。
周りは怪しい人間と霊ばかり――。
ホラー&ミステリー
白い男1人、人間4人、ギタリスト5人
正君
ミステリー
20人くらいの男と女と人間が出てきます
女性向けってのに設定してるけど偏見無く読んでくれたら嬉しく思う。
小説家になろう、カクヨム、ギャレリアでも投稿しています。
【完結】『部屋荒らし』の犯人は。 ◇たった4分探偵◇
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ミステリー
「これは……」
部屋のあまりの惨状に、私は思わずそう呟いた。
***
いつものように帰宅すると、目の前に広がっていたのはひどく荒らされた部屋の惨状だった。
この事件の謎は『探偵』の私が解いてみせよう。
現場検証をし、手がかりを見つけ、そうしてたどり着いた犯人はーー。
【完結】リアナの婚約条件
仲 奈華 (nakanaka)
ミステリー
山奥の広大な洋館で使用人として働くリアナは、目の前の男を訝し気に見た。
目の前の男、木龍ジョージはジーウ製薬会社専務であり、経済情報雑誌の表紙を何度も飾るほどの有名人だ。
その彼が、ただの使用人リアナに結婚を申し込んできた。
話を聞いていた他の使用人達が、甲高い叫び声を上げ、リアナの代わりに頷く者までいるが、リアナはどうやって木龍からの提案を断ろうか必死に考えていた。
リアナには、木龍とは結婚できない理由があった。
どうしても‥‥‥
登場人物紹介
・リアナ
山の上の洋館で働く使用人。22歳
・木龍ジョージ
ジーウ製薬会社専務。29歳。
・マイラー夫人
山の上の洋館の女主人。高齢。
・林原ケイゴ
木龍ジョージの秘書
・東城院カオリ
木龍ジョージの友人
・雨鳥エリナ
チョウ食品会社社長夫人。長い黒髪の派手な美人。
・雨鳥ソウマ
チョウ食品会社社長。婿養子。
・林山ガウン
不動産会社社員
連鎖 (T大法医学教室シリーズ)
桜坂詠恋
ミステリー
ゴールデンウィークの真っ只中、T大法医学教室に、美しい女性の遺体が運び込まれてきた。
遺体には幾つもの打撲痕と擦過傷が。
法医学者月見里は、解剖から死因を突き止めるが、彼女には悲しい秘密があった。
心優しきイケメン法医学者、月見里流星の法医学ミステリシリーズ第二弾!
※単体でお楽しみ頂ける「不動の焔」スピンオフです。
本編も是非よろしくお願い致します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる