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迷路館の戦い

第229話 迷路館の戦い『迷路の館へ』

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 デモゴルゴン……。

 それは異界の生物であり、未知の超生物であり、見た目は化け物そのもの。

 大きな恐ろしい口を巨大な花のように開いただけの頭部に、気持ち悪い身体の変な生物なのだ。

 そのデモゴルゴンはデモ子と呼ばれている。





 そんなデモ子が叫んだ……。


 「あたしを……、忘れてません? 置いていかれたんですけどぉおおおおっ!」

 デモ子は空で吸血鬼どもを蹴散らして、必死に追いかけようとするが、なんせ吸血鬼どもの数が多い……。

 そして、そうして空でモタモタしていたら、ジンたちが地上に降りて、地下への扉をくぐっていったのを見たのであった。



 (デモ子! おまえにはやってもらうことがあるのです! だから、わざと置いていったのですよ?)

 (ああ! アイ様! 思念通信……ですか……!? ……で、何をしろとおっしゃるので?)

 (それは……。もう、おまえの目の前にその者が見えるでしょう……。)


 (……え!?)

 デモ子が目の前を見ると、そこに奇妙な化け物が地上に向かって降りようとしていた。

 その化け物……異生物は、特に複雑怪奇な姿をしていて、先がハサミ状の六本の足に丸い胴体、その上に丸い頭部があり三つの魚のような目、長い鼻がある。鰓を備え全身を覆う毛と思しきものは実は触手で先端に吸盤がある。

 その化け物の名は、ラーン=テゴス!

 クトゥルフ神話と呼ばれる一連の創作群において、言及される架空の神性である。




 「ぬぅ……!? なんだ? この化け物は……? 貴様! いったいどこの化け物だ!?」

 ラーン=テゴスがデモ子を見つけて、そう聞いてきた。

 「化け物に化け物呼ばわりされる覚えはないかしら!?」

 デモ子が言い返す。



 「ラーン=テゴス様! こんな気持ちの悪い化け物にかかわる必要はありません。我らは早くあのジンとかいうヤツラを追いましょう!」

 近くにいたラーン=テゴスの信奉者らしき毛むくじゃらのヤツが言う。

 「おお。ノフ=ケーよ。まさにおぬしの言う通り。ヴァン=パイア陛下に直々の命を遂行することこそ、先決であったな?」

 「さすがはラーン=テゴス様。実に賢明ですな。おい! ジョージ・ロジャーズよ! ラーン=テゴス様を讃えよ!」

 そう声をかけられたジョージ・ロジャーズなる者がたった一人、声を大に叫んだ。





 「ウザ=イェイ!ウザ=イェイ!イカア・ハア・ブホウ-イイ、ラーン=テゴス-クルウルウ・フタグン-エイ、エイ、エイ、エイ!! ラーン=テゴス、ラーン=テゴス、ラーン=テゴスゥゥウウウウウ!!」

 どうやら信奉者によるラーン=テゴスへの呪文のようだ。

 ラーン=テゴスがギラリとその目をギョロつかせ、地上へ向かおうとする。



 「ちょ……待てよ!」

 そこをデモ子が金切り声を上げ、異界の穴を開き、先回りしたのだ!

 「ちょいちょいちょいちょい! あーたたち! あたしを無視しようとは態度がでかいんじゃあないの? あーたたちをこのまま行かせてしまっては、あたしがあの『化け物』にヤラれちゃうじゃあないの!? んっとにもう!」

 デモ子が早口言葉のように文句を言う。



 「あくまでも邪魔をするというのか……? この化け物め!」

 「ああーーーーっ! もう! なんであたしがこんなグロい化け物相手しなきゃならないっつーのか!? アイ様ぁーー! ホンットに、あとで肉! 奢ってもらいますからねぇええ!?」

 (はいはい。わかったわよ。その代わり、そいつらを地上に一歩でも降ろしたら……、ぶち○しますよ?)

 「ひぇえええええーーーー!! ……ッシャァアアアアアンナローーーーッ!!」

 デモ子はその巨大な頭部の口を開き、叫び声を上げ、ラーン=テゴスたちのもとへ向かっていった……。



 ****





 その頃、地下への扉を空け、地下空間へ侵入したオレたちは戸惑っていた。

 「アイ! こんな地下に広大な空間があるって、いったいどうなってるんだ?」

 「イエス! マスター! どうやらなにか異空間をツギハギし、この空間全体が迷宮のように入り組んで創られているようです……。」

 「……というと?」

 「はい。『迷宮』になっている……ということです……。」

 「なるほど……。地下の館全体が迷宮になっているって……、まるで『迷路館』のようだな……。」



 すると、そこに恐ろしげな声が響いた。

 「ふはははは……! よくぞ、この地下の館が『迷路館』だとわかったな? 歓迎しよう! ここは『迷路館』! 侵入者を確実に始末する死の罠が張り巡らされているこの迷路を抜けて、余の前に来られるかな?」

 「な……!? おまえはいったい、何者だーい!?」

 ヒルコが怖じ気もせずに、声の主に尋ねる。



 「余こそがこの『トゥオネラ』の王・トゥオニである! 貴様らはこの館に入ってきた時点で『首を切られる』ことが運命づけられたのだ!」

 「なんだーい! 奥で隠れてコソコソしてるのが王だなんて、僕は怖くないぞー?」

 「なんだと!?」

 ヒルコが挑発する。



 「ふふふ……。まあ良い。この迷路の中には10人の魔人が待ち構えている。魔人たちを打ち破り、この最奥の間にたどり着いたものなど……いまだかつて誰一人としていないのだ! ふはは……。メイド風情がどこまで来られるか、見ていてやろうぞ!」

 「ぷーーっ! ジン様にこんな迷路なんて簡単すぎるくらいさ! ねえ!? ジン様!」

 「え……? いや、まあ、そうだな……。ヒルコ! 任せておけ!」

 「うわーい! さっすがはジン様!」

 ヒルコがキラキラした目でオレを見つめてくる……。



 (そうさ……。いざとなれば、デモ子の『異界の穴』で……。)

 (マスター! デモ子は空で敵の侵入を防ぐため、残してきました。)

 (え……!? じゃ、じゃあ、アイの探索機能で、こんな迷路くらい正解の道順がわかるでしょ?)

 (申し訳ございません。この空間は異空間のツギハギでできた迷路……。ワタクシの探索機能を使っても、すぐにマップが空間ごと書き換えられてしまい、正確なマッピングは不可能でございます。)

 (な……、なんだってぇーー!? そんな……? アイでさえ探索できないなんて……、やっぱりそれは……?)

 (イエス! マスター! 魔力のなせる技かと……。)

 (まぁた、魔力かぁーーー!?)



 くぅーーー!

 さっそく、3つに別れた道に来たな……。

 むぅ……。

 どの道を選べば良いやら……。



 ****





 「さて……。侵入者どもを抹殺する魔人たちよ……。『ズーグ族』の7人の魔人たち……、そして魔女レダとその双子の息子たちよ。行け……。ヤツラを血祭りにあげてくるのだ!」

 「「キィィ……。キィイイイ!」」


 「おまかせを……。トゥオニ王よ。我が忠誠は王に捧げます! カストール! ポルックス! 行きますよ!」

 「「は! 母上!」」

 魔女レダは、カストールとポルックスのディオスクーロイの双生児の母であるのだ。



 おのおの10人の魔人たちが、張り巡らせた迷路の罠の陣に散っていく。

 この難関を突破しない限り、最奥の王の間にたどり着くことはできないのだ。

 トゥオニ王はその口元の牙を光らせ、ニヤリと邪悪な微笑みを浮かべたのだった……。




 迷路の中に闇の魔力が満ち満ちているのに、オレたちは気づくはずもなかった……。




~続く~

 ※参照『迷路館』
 『迷路館の殺人』(めいろかんのさつじん)は、綾辻行人による日本の推理小説。館シリーズの第三作である。




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