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吸血鬼殲滅戦・真

第196話 吸血鬼殲滅戦・真『超巨大ブラックホール』

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 真っ暗な闇……。

 闇の世界を三人(?)の影が前へ前へ進んでいく……。

 一切の光が見当たらないこの空間は、いずれかの遠い遠い過去に存在したすべての銀河の成れの果ての世界である。




 その三人の後を追いかけていく恐ろしいほどの魔力を秘めた怪物が1匹。

 だが、この空間内に魔力を放つものは、この怪物しか存在しなかった。

 前の三人は魔力を持ってはいない。

 だが、この怪物は魔力だけでなく、あらゆるものを飲み込み、すべてを呪いと魔力に変換し、成長を遂げ、チカラを拡大しているのだ。



 (ついてきてますねぇ……。アイ様! あっちのほうに何かありますけど……。大丈夫っすか?)

 (あら? 気がついていたのね? 意外と細かいじゃあないの……。)

 (いや、そりゃ、あれほどの何か異様なチカラ……、なんですのん? アレ?)

 (へぇ……。この先の暗闇の方に何があるんだ!?)

 オレたちは真空の闇の中でも、その量子思念通信によって、会話ができるのだ。



 まったくの真の闇、一切の光を感じない。

 そして、前に進んでいるのも慣性の法則で、最初に加速したチカラでずっと進み続けているのだ。

 だから、追いかけてきている怪物『ズメイ・ゴルイニチ・エンペラー』本体に追いつかれることはない。

 加速するためには、何かを置いていかなければならないからだ。

 昔、見た映画で言ってたっけ?

 運動の第二法則だ……。



 (マスター。運動の第三法則ですね。 ニュートンの運動第三の法則……『前に進むには、後ろになにかを置いていかなければならない。』でございます。作用と反作用の大きさは等しく、逆向きなのです。作用反作用の法則とも言いますね。)

 (お‥…おぅ……。し、知っていたよ? ちょっと言い間違えただけさ!)

 (イエス! マスター! 承知していますよ。)

 (な……、なに言ってるのかあたしにはわかりませんけどね。とにかく、いったい、この先に何があるっていうんですかい?)

 (この空間が、華やかだった際に存在したすべてを吸引した超大質量ブラックホールですよ。)






 な……!?

 超大質量ブラックホール!?

 たしか、オレのいた過去の世界では、銀河系の中心に超巨大ブラックホールがあるとかないとか言ってたっけ……?



 (マスター。その通りでございます。しかしながら、あの先に存在する超大質量ブラックホールは、かつてワタクシたちが存在した銀河系の中心に存在した超大質量ブラックホールより、はるかに超大質量で巨大なブラックホールでございます。あの世界のすべての宇宙の物質を集積したに等しい規模の超大質量を持つ『超弩級大質量ブラックホール』なのです。)

 (そ……それはとんでもないな? しかし、いったい、その『超ド級ブラックホール』に向かってどうしようと……はっ!? まさか!?)

 (はい。マスターのお考えどおりです。あの『ズメイ・ゴルイニチ・エンペラー』をブラックホールに落とすのです!)



 なんてことを思いつくんだ!?

 アイのやつ……。

 とんでもないな。『超ド級ブラックホール』にアイツを……。

 しかし、それが成功すれば、さすがの『ズメイ・ゴルイニチ・エンペラー』のやつも抜け出られまい。



 「ギィイイヤァアアアーーーッ……!」

 まさか……!

 その『ズメイ・ゴルイニチ・エンペラー』が、オレたちのすぐ真後ろまで迫ってきていたのだ!

 しかも、その鳴き声が真空を伝わって、こっちの耳に届いたのだ。

 そんなバカな……。



 (運動の第三法則じゃあなかったのか!?)

 (マスター! やつはそれを実行してきているようです!)

 (なんだって!?)



 どうやら、ヤツは後方に自分の分身体を作り出しては、それを踏み台にしてジャンプするように前に進んできているのだ。

 『前に進むには、後ろになにかを置いていかなければならない。』

 それを忠実に実践してきているということらしい。



 まずい……!

 このままでは追いつかれるじゃあないか?



 (ジン様? あたしをお忘れですかね?)

 (デモ子! なにか手立てがあるのか!?)

 (単なる移動であれば……。開け! ゴマ! ……ならぬ『異界の穴』!!)



 ああ、呪文の詠唱とかないんだな。

 やはり、スキルのようなものじゃあないか?

 さっき使っていた時のは、呪文を詠唱していたフリをしてただけか……。



 デモ子の眼の前に異界へつながる穴が空いた。

 文字通り、空間に穴が空いたのだ。

 オレたちはそこをトンネルのようにくぐり抜ける。

 そして、また『異界の穴』が空き、その向こうへ飛び出したのだ。

 トンネルを抜けるとそこは……。

 川端康成先生のかの有名な『雪国』の冒頭ではないが、そこはさきほどの異空間の違う場所、少し前に進んだ場所に戻ってきたのだった。



 (ヤツよりずいぶん前に出たはず……。追いつかれないようにしなきゃですね? アイ様!)

 (その通りです。デモ子。よく理解してくれて嬉しいわ。)

 (ああ、ヤツの姿が感知できたよ。たしかにさっきよりずいぶん距離を空けることができたようだな。ワームホールを使ったワープ航法みたいだな……。)

 (ああ! マスター! まさにその航法と同じ原理でございます! さすがはマスター! ご理解が早いですわ!)



 いやぁ……。運動の第三法則が語られたあの宇宙の映画や、懐かしのアニメでもよく出てくるからな。

 さすがに知っているよ。

 原理はまったく理解できていないんだけどね……。



 (マスター! ここで止まってください!)

 アイがそう思念通信で言ってきた。


 (おう……。着いたのか?)

 (イエス! マスター! ここから先に行くのは危険でございます。お気をつけてください。マスターの目にはわかるように超ナノテクマシンでフィルターをかけます。)

 (ああ。助かる。)

 (アイ様。あたしはぁ……?)

 (あら? 必要なの? おまえ……。)

 (そ、そりゃ、あたしも見えませんからね? ブラックホールを視認するなんて普通できませんですって!)

 (仕方がないわね。手をかけさせますね。アナタ……。)

 (え……えぇ……。)



 (ブラックホールから出る『重力波』を検知しました。それを可視化したものがマスターに見えているはずです。)

 たしかに、オレの前方になんだか黒い巨大な塊が見えていた。

 そして、そこからジェット噴射のようなものが出ているのが見える。

 そういえば、オレのいた元の世界でも2019年4月11日 国立天文台(イベント・ホライズン・テレスコープ)が、5500万光年彼方の銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールを撮影することに成功したってニュースになっていたっけ……。


 (たしかに……。なにかあるな。)

 (ブラックホールとは、質量が無限の密度で集中している天体でございます。本来はその周囲に吸い込まれる光の衣があるはずですが、あそこにある『超弩級大質量ブラックホール』は、もうこの空間世界に存在するすべてを吸い尽くして、無限の時間が過ぎた結果、たたずんでいる終局状態の天体なのです。)

 (へぇ……。じゃあ、それを視ることが可能なのって矛盾していないか?)

 (はい。それはワタクシが優秀だからでございます。)

 (お……おぅ……。)



 堂々と自分を優秀と言い切るアイ……。

 素敵やん!



 そうこうしているうちに背後から『ズメイ・ゴルイニチ・エンペラー』が迫ってきていた。

 そうだ!

 アイツをあの『超ド級ブラックホール』に突っ込ませるっていう作戦だったっけ?

 いったい、どうやるっていうんだ……?



 (ジン様! アイ様! アイツがやってきましたよ!)

 デモ子が思念通信で語りかけてきた。




 「ギィイイヤァアアアーーーッハッハッハァ……!」

 その鳴き声が不思議にも耳に、脳に直接聞こえてくるのだ。

 なんという規格外なヤツだ。



 さて……。

 いよいよ、最終決戦だな。



~続く~

※「前に進むには何かを後ろに置いていかなければならない」
映画『インターステラー』でのクーパーのセリフ。運動の第3法則を表している。
※2017年4月、EHT(イベントホライズンテレスコープ)は、約5500万光年彼方にあるおとめ座方向の巨大楕円銀河M87の中心部を観測した。観測から得られたデータを画像化した結果、M87の中心に安定的に存在する構造として、光に取り囲まれた黒い丸が現れた。様々な解析と慎重な検証の結果、これが間違いなくブラックホールシャドウをとらえたものであることが確かめられた。史上初のブラックホール撮影成功であり、銀河中心に超大質量ブラックホールが存在することを示す決定的な観測証拠である。(参照:© AstroArts:https://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/10584_blackhole)










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