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吸血鬼殲滅戦・離

第181話 吸血鬼殲滅戦・離『餓者髑髏・龍型』

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 ヤム・カァシュは思い出していた……。

 数十年前に起きた『餓者髑髏』による大量の死人が出た大災害を……。

 それはこのホッドミーミルの森とヒーシ森の東方に位置する何もない荒れ地、通称『死の平野』で起きた。

 何者かがバカな魔法実験をしたのであろう、とてつもない呪詛を呼び起こし、餓鬼魂が出現したのだ。


 その餓鬼魂はあたりの死者の怨念を喰らい、通りかかった旅人を喰らい、どんどん成長を続け、ついに『餓者髑髏』となったのだ。

 だが、その『餓者髑髏』は使用した魔術師の魔力が少なかったのと、幸いにして、『帝国』の勇者ラーマが『死の平野』の脅威を取り除くべく、聖なる力で掃討作戦を行ったばかりであったのだ。

 よって、成長に必要な怨念や呪詛、漂う死者や魔物の絶対数が減っていたため、人間サイズ程度の『餓者髑髏・人型』への成長にとどまっていた。

 だが、その人型の『餓者髑髏』でさえ、周囲の帝国の衛星都市であった街が数十個は消され、帝国領土は現在の領域に撤退せざるを得なくなったのだ。



 その時ばかりは、『七雄国』すべてが協力し、Sランク冒険者が7つ、『帝国』の勇者ラーマまで出陣し、ようやく『餓者髑髏』を消滅させることが出来たという……。

 それ以来、『餓者髑髏』を生み出す呪文……、と言っても誰が使用したかはついに明らかにならなかったため、その呪文の詳細を知るものさえいないが、それは禁呪とされ、かつての大戦の際に、各地を死の荒れ地に変貌させた禁呪『魔王』と並んで有名な禁呪となったのであった。

 そして、『餓者髑髏』はたとえ、小さな人型であっても、世界を滅ぼす脅威『ワールドボス』と認定され、特別危険視されている存在であったのだ……。




 「あの……、天の災害『ワールドボス』、『餓者髑髏』の魔核……、『餓鬼魂(がきだましい)』だっ!! みなのもの! あれは最大級の危険災害じゃぁーーーーっ!!」

 ヤム・カァシュは声を張り裂けんばかりの大声で、みなにその脅威を伝えた。


 『ぽっぽっぽ、鳩ぽっぽ、豆がほしいか、そらやるぞ。みんなで仲善く食べに來い!!』

 伝令呪文『鳩』であったが、重奏魔法により、おびただしいほどの伝令の鳩が世界中に飛び散っていった。

 レベル2の器用な一般人でも使える魔法だが、それをまるで鳥が危険を察知して、空を埋め尽くすかのように伝令の『鳩』が飛び去っていった。

 もちろん近くの者たちには全員、周知されたのだ。



 そして、今、この『チチェン・イッツァ』の街の近郊に現れた『餓鬼魂』の異常な大きさ……。

 どんどん周りの骨や、死骸、魔物、兵士たちを吸い寄せ、怨念と呪詛が増大していっている。

 そして、その骨がひとつの形態を取りだした。


 その姿は……。

 『龍』……、『龍型』、しかも巨大すぎる。

 魔牛ストーンカくらいはある……。

 『餓者髑髏』の中でも最大レベルの異常種、『龍型』だったのだ!

 もはや、『ワールドボス』クラスは当然であり、それ以上の危険度である様相を呈していたのだ……。




 アラハバキはエネルギーを消費したため、イシカとホノリの二人の姿にもとに戻っていた。

 「ホノリ! あのガイコツ、なにか危険であるゾ!」

 「イシカ! あのドクロのヤツ、危ないのだ!」

 イシカとホノリも警戒を強める。



 「憎い憎い憎い……、喰らえ喰らえ喰らえ……!」

 『餓者髑髏・龍型』がおぞましうめき声をあげている。


 「撤退っ! 全員、『チチェン・イッツァ』の防壁まで後退しろ!」

 ククルカンさんが総員退却命令を指示した。

 クラウン・バジリスクさんもそれを受け、『ククルカンの蜥蜴軍』に即時、命令を出す。

 「退却! 退却! 総員! 下がれ!」



 「ヴォオオオオオオオ……ォオオオロロロロロォオオオ……ォーーーォオオン……!」


 餓者髑髏・龍型が鳴き声を上げ、周囲の生者に無秩序に攻撃を始めた。

 逃げ遅れたものは、あっという間に生気を吸われ、ミイラのようになり、さらにその肉体まで食われてしまった。

 バラバラに引きちぎられ、食われていくだけ……。

 何も抵抗することが出来ない、ただの暴力的な災害そのものであった。



 「ホノリ! やるしかないのであるゾ!」

 「イシカ! わかったのだ!」

 イシカとホノリが、ガシャドクロ・ドラゴンに向かっていく。



 疾風のように走り、一気にガシャドクロ・ドラゴンの真下に近寄り、イシカがロケット・パンチを放つ。

 「ロケット・ナックル・パンチィッ!!」

 勢いよく真下から打ち上げた、まさにロケットのように超スピードの勢いのイシカの肘から先の両腕部分が、ドラゴンの肋骨部分を吹き飛ばした!


 ……だが、その両腕が、ガシャドクロ・ドラゴンの魔核部分にぶつかったかと思うと、一瞬でバラバラに引き伸ばされ、粉々になってしまったのだ。

 まるで、ブラックホールに飲み込まれる物体のように、斥力が働いたかのようだった。

 魔力による斥力なのか……。



 ホノリもその瞬間に、ガシャドクロ・ドラゴンの背中に跳躍し、背骨から勢いよく踵落としを叩きつけた!

 ドラゴンの背骨部分は、破壊されたが、やはり魔核部分に当たる瞬間、足が引きちぎられた。

 勢いで、ホノリがすっ飛ばされ、地面に落とされた。


 だが、二人の攻撃のおかげで、一瞬、龍の身体を壊され、ガシャドクロ・ドラゴンはその場で、バラバラになって崩れ落ちた。

 だが、その中心の『餓鬼魂』はいまだ、その形を保ったまま、また周囲の骨や死骸を引き寄せ始めたのだ……。

 やはり、魔核を壊さなければ、不死身というようだ。



 「ホノリ! もう一発行けるであるか?」

 「イシカ! やるしかないのだ!」

 二人は、何かを決意したかのように、目を合わせ、叫んだ。


 「「フュージョンッ!!」」




 と叫んだかと思うと……、その場に、巨大な機械のパーツがどんどん合体していき、巨大な全長100mの超巨大ロボット……つか土偶戦士アラハバキになった。

 だが、さきほど一度波動レーザー砲は射ってしまった。

 エネルギーの再度の充填に時間はかかる。

 周囲の超ナノテクマシンも、今はアイとジンのいる『人ごろし城』のほうに大部分が集中しているのだ。


 「我々の、コア自身のエネルギーを変換して、あのドクロ野郎にぶつけるしかないだろうな……。」

 アラハバキはそうつぶやいた。



 「周囲の者たちの撤退はうまく進んだようだ。ここは我々が止める! ジン様の意思を守るのだ!!」

 そう言って、アラハバキはその両手を握り合わせ、照準をドラゴンの姿を取り戻しつつあるガシャドクロに向けた。

 「おまえは……ここで我々が葬り去るのであるゾ! のだ!」

 「喰らう喰らう喰らう……。憎い憎い憎い……。」

 「おまえはこの世界に存在してはいけないのである。なのだ! ジン様は平和な世の中を! 笑ってアニメやマンガを楽しめる世界を作るのだ!」



 「そのために! 我々は身命を捧げるっ!!」

 アラハバキの前にかざしたその両腕が光りだした……。



 「アラハバキ! 波動ビーム砲撃ーーーーーっ!! 発射!!!」

 アラハバキが叫ぶと同時に、その両腕からレーザービーム砲が発射された。



 ジュワ……



 そのあまりの眩しさの前で、辺りが一瞬見えなくなるくらい輝き、ガシャドクロ・ドラゴンの骨の身体は瞬間に黒焦げになり、蒸発してしまったのだ。

 アラハバキの体内でタキオン素粒子発電したエネルギーを電磁波動に変え、発生したエネルギーを超高密度で発射するレーザービーム砲・波動ビーム砲だった。



 その衝撃は、いままでの比ではないほどの光を放ち、まわりの大気が振動した……。

 時間が止まったかのようであった。

 かつてないエネルギーの集中が、ガシャドクロ・ドラゴンを吹き飛ばした。

 その骨の龍の姿は一瞬で蒸発し、四散した。




 「もう……、エネルギーが空っぽであるゾ! なのだ!」

 アラハバキはそう言って、またイシカとホノリの二人に戻り、その場に倒れ込んでしまった。


 そして、その様子を見ていた『ククルカンの蜥蜴軍』たちは大いに歓声をあげた。

 「「やったぁーー!!」」

 「「おおーーーっ!!」」


 リザードマンの軍隊が、一斉に勝鬨をあげた……。

 その時だった。


 あのガシャドクロ・ドラゴンがいた空間に、『餓鬼魂』がさらなる黒き輝きを持って、悠然と浮いているのがイシカとホノリの目に見えたのだったー。





~続く~

©「鳩」(曲/文部省 詞/文部省)



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