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幕間4

第151話 幕間・その4『閉幕』

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 『皇国』のフォルセティとロキは現れたときと同じように光の転移魔法『静けき祈りのとき』で帰って行った。


 「さぁて、みんな! おいらたちは帰っちゃうけど、決められたことを守るようにね?」

 「ゆめゆめ『法』を乱すことなかれ! 『皇国』はいつでも見ておるぞ?」

 「うむ。光皇バルドル陛下とオーディン上皇陛下によしなに。」

 ゼウスら各国の代表たちがそれを見送った……。



 『皇国』は世界の国家すべての上位に存在する国。

 決して支配しているというわけではないが、どこの国家も『皇国』には敬意を抱いているのだ。



 「各国の皆様もこたびの『七雄国サミット』へのご参加ありがとうございました。」

 ヘルメスが集まった世界の代表陣に挨拶をする。


 「ヘルメス殿。ヘスティア殿も準備などご苦労であったな。ゼウス閣下。次はいつになるかわからぬが、息災であれ。」

 龍王アヌがそう言って、身を翻す。

 「ゼウス閣下。『不死国』との戦闘、武運長久をお祈りします。」

 「うむ。エンキ殿もよしなにな。」



 「龍王アヌ! 『キトル』に寄こすヤツは厳選することだな……。」

 ハスターが去りゆくアヌに声をかけた。

 それを聞き、少し振り返り、ニィと笑った。

 「ふふ。楽しみにしていることだ。皇太子よ。」

 マルドゥクが代わりに答え、『龍国』のものたちは『ヘスティアの炉』の間から出ていった。





 「では、我らも国へ帰るとするか。オシリス。」

 「ですな。」

 「ラー王よ。魔界の動きが気になります。急ぎ国へ帰り対策を講じなければ……。」

 「たしかにの。セトよ。」

 『地底国』の者たちは、会議に乱入した魔界の動向が気になるところのようだ。



 「では、朕も帰ろうぞ。」

 「はい。ブラフマー陛下。ところで、ヴァイローチャナ将軍閣下! 『シュラロード帝国』の威信を汚すでないぞ?」

 サヴィトリが『南部幕府』のマハー・ヴァイローチャナに発破をかけるように言った。


 「ははっ! お任せあれ! 『帝国』は今後も1国2制度で世に君臨する! 武威を示して参る所存である!」

 ヴァイローチャナは声高らかに宣言した。

 それは今後、『南部幕府』が『帝国』として全面的に武力行動を起こすことを意味していた。



 「閣下……。あくまでも『法』の遵守をおすすめいたしますよ?」

 『法国』の法務大臣テミスがそこに釘を刺す。


 「ご安心を。テミス殿。すべての大義は『幕府』にございますよ?」

 プラジュニャー・パーラミターがこれに答える。

 女同士、静かに目を合わせる。



 「はっはっは。まあ、良い。では、我らは参ります。ブラフマー陛下にはご健勝をお祈り申し上げます。」

 ヴァイローチャナがそう言って、『幕府』のものたちも退席していく。

 続いて、『北部帝国』のものたちも去っていった。



 「ゼウス閣下。では、余も帰るとするが、アトラスは今しばらく『法国』を周遊してから帰国するので、よしなに頼みますぞ。」

 「おお。そうか。アトラスもゆるりとするが良いぞ?」

 「閣下。某(それがし)に御慈悲を賜り感謝に耐えませぬ。」

 「まあ。アトラスも殊勝になりましたこと。」

 ヘラもアトラスの変わりように驚きを隠せないようだ。


 かつての大戦の際、アトラスは『法国』と敵対し、暴虐の限りを尽くしたという。

 その記憶が残る『法国』の者はいまだにアトラスに恐れを抱いているのだ。

 だが、『巨人国』で平穏な日々を過ごしているアトラスは昔とは変わったように見えた。



 「では、参ろうか? ブロッケン。」

 「ギョイ。」

 影の巨人とともに『巨人国』の者たちも去っていく。



 「俺たちも行くとするか。ハスター。」

 「ニャル。そうだな。ああ、オベロン殿よ。」

 ハスターが帰る際、オベロンに声をかけた。


 「ハスター殿下。なにか?」

 「ふむ。貴殿の娘、ベッキーと申したか。ベッキー嬢は今、ジンの居所に世話になっているようだぞ。」

 「ええ!? 殿下。我が娘ベッキーの居場所をご存知で? いやぁ。あちこちふらふらと、本当にお恥ずかしい。」

 「いや。あの街『楼蘭』は安全であろう。しかし、以前は『イラム』や『チチェン・イッツァ』などいたらしいからな。これからは近づかせぬほうが良かろう。『龍国』の影響も強まるからな。」

 「ああ。ご親切にありがたきことです。殿下。」



 「では、ニャル。帰るとするか。」

 「おおさ! で、今回は楽しめたかい? ハスター。」

 「ふふふ……。まあな。『法国』の防衛制度も盤石とは言えないこともわかったしな。」

 「あらあら? 本当にこの御仁は何考えてるのか読めないねぇ。」

 「んんー? それはニャル。貴様も同じこと。貴様の座興もなかなかのものであったぞ?」

 「あはは! なぁんだ? バレちゃってたか。貴様はやっぱり侮れないねぇ……。」



 ハスターは相変わらず霧に包まれながら、ニャルラトホテプとともに去っていった。


 残されたのは『エルフ国』のタイオワ長老だが、オベロンとティターニアに忠告をしていた。

 「オベロンよ。お主ら白エルフ種族の民は、『法国』の地を守るが良いであろうな。『魔界』の連中がどう動くかわからんでのぉ?」

 「しかし、タイオワ長老。吸血鬼どもはすでに『エルフ国』の『メメント・森』に進行の手を進めてきております。我らも戦闘に行くがよいのでは?」

 「まあまあ。あなた。タイオワ長老の言うことも一理ありますよ? もし『法国』に魔界の手が伸びたなら、『法国』も対処に困りますでしょう?」

 ティターニアもタイオワに賛同する。



 「吸血鬼どもは我らにお任せあれ! 見事、敵を討ってみせましょう!」

 「そうです! オベロン様は『法国』の都市の防衛に注力するがよかろう!」

 ト・バジシュ・チニとナーイー・ニーズガニも声をあげる。

 彼らはネイチャメリカ種族きっての戦士なのだ。



 「そうか……。ト・バジシュ、ナーイー! では、任せたぞ!?」

 「は! お任せあれ!」

 「それに……。他種族の者たちも黙っていまいて。特にネオマヤ種族のフラカンのヤツや、ノヴァステカ種族のオメテオトルにトラロックや、シンインカ種族のビラコチャのヤツも同じくであろうな。」

 「さようですな。では、『エルフ国』の領土はおまかせいたした。タイオワ長老。」

 「うむ。」



 『エルフ国』のタイオワとその一行も去っていく。

 みな、来たときと同様、魔導列車に乗って帰っていくのだ。

 この『天球神殿』はさすがに侵入者を許さない。

 だが、今回、『魔界』のメッセンジャーが侵入してきたことは、『法国』の者たちを大いに驚かした。



 「アレス。アテナ不在の今だ。環境大臣のアルテミスと連携を取り、こたびのような『魔界』の魔族の侵入を二度と許さぬようにするのだ。」

 「おお! ヘルメス。あの者の侵入経路はどこか? それを確認せねばならんな。」

 「たしかに。この『ヘスティアの炉』にまで入ってくるなんて……。」

 「ああ。警察の威信にかけて、我も調査いたします!」

 ヘスティアとマルスも同意する。



 「うむ。みな、頼んだぞ?」

 「は!」



 こうして数百年ぶりに開催された『七雄国サミット』は幕を下ろした。

 この後、ジンたちは世界の国々のそれぞれの思惑に巻き込まれていくのだが、そのことをジンたちはまだ知らないのであったー。




~続く~

©「静けき祈りのとき」(曲/ブラッドベリー 詞/作詞者不詳)



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