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黙示録戦争後に残された世界でたった一人冷凍睡眠から蘇ったオレの日常

ありふれた日常 第7話『グレイス・レイシオ・ハッピー~おそらくは恵比寿祭り~』

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 黙示録の最終戦争は実際に起きてしまった……そして、人類は一度滅亡した。

 だが、もう一度世界は創生され、新しい魔法文明が栄えた世界となっていた。

 ところが、そんな中、冷凍睡眠されていたジンはなんと蘇生されてしまったのだ。


 今、『楼蘭』は『グレイス・レイシオ・ハッピー』の儀式を行う準備で街は大賑わいである。

 この世界で今月は「神無月」……10月のことなんだけど、作物の豊作をお祈りするらしい。

 しかし、どう考えても『恵比寿』祭りだよなぁ。





 そもそも、日本人なら誰でも聞いた事がある「神無月」という言葉だけど、文字通り神がいなくなる月という意味で、日本では毎年旧暦10月に全国の神が島根県の出雲大社に集まって会議をすると言われていた。そのため出雲の国以外には神がいなくなってしまうので「神無月」と呼ばれたんだとさ。

 逆に神様がたくさん集まる出雲の国ではこのシーズンを「神在月」と呼ぶんだよね。



 それで、じゃあ、「神無月」に神様が全員土地を離れていなくなって大丈夫か!? となるんだけど、あの恵比寿様だけは「留守神」として地域に残ると言われていて、恵比寿様が農民にも作物の収穫をもたらすと信じられているから、地域によっては10月20日に五穀豊穣を祈る「恵比寿講」が執り行われる。

 だが、そんな旧世界とはもう関係ないはずのこの世界で、なぜか、『恵比寿』を意味するであろう『グレイス・レイシオ・ハッピー』ねぇ……。



 なんだか、かぼちゃをくり抜いて、ウィル・オー・ザ・ウィスプという魔物に模した姿で街を月氏の子どもたちが練り歩き、家々をまわって、お菓子かいたずらか質問して行くらしい……。

 いや、それってハロウィンだよね!?

 それに、ウィル・オー・ザ・ウィスプ……なんだかあの森にいたやつだろ?

 意味がわからない! ……ま、いいけどね。楽しそうだし。



 「ジン様ぁ! お菓子かいたずらか選ぶのはあなた次第です!」

 そう言って、オレのもとに駆け寄ってきたのは、かぼちゃの化け物の格好をしたズッキーニャだった。


 可愛い……。

 なにそれ? その可愛すぎるハロウィンのコスプレ……。

 いたずらを選びたくなってしまうだろ!



 うっ……。背筋がゾクリとした!

 あ、アイがこっちを見てる……。

 「いや……。お菓子がほしいなぁ……。ジン兄ちゃんはお菓子がほしいかなぁ……?」

 「じゃあ、これあげるぅ!」


 おお! ズッキーニャがくれたのは、可愛いネズミのクッキーだった。

 なんだか食べるのがもったいないくらい可愛いなぁ。



 「ありがと! このネズミ、可愛いねぇ?」

 「え……? ネズミ? いや、ジュニア様に似せたんだよぉ!」

 「あれ? ああ、月氏種族だもんね? はは……。」

 「ハハ! クッキーだよ?」


 んんー。ギリギリ、セーフかな?



 「マスター。ズッキーニャはワタクシと昨日一生懸命、クッキーづくりを頑張りましたのですよ?」

 「おお! そっかぁ! えらいぞ! ズッキーニャ! うん、美味しいよ。クッキー。」

 「えへへ。嬉しいな。」


 よしよし。思わずズッキーニャを撫でるオレ。

 一瞬、アイがキッと睨んだような気もしたが、気のせいだろう……。

 うん、にこやかに微笑んでる。

 でもさ、お菓子あげるのはオレのほうじゃなかったっけ?



 ハムスターの行列がオレに順番にモフモフされに来る……。

 いや、月氏の子どもたちにオレに順番にお菓子をあげる……だった。

 アイのクッキーをひとつひとつ手渡してあげる。



 すると、街の通りを仮装行列がやってきた。

 最初は包帯ぐるぐる巻のホノリだ。

 「ジン様! ホノリはミイラ男なのだ!」

 「おお! なかなか!」


 続いて、白い布ですっぽりかぶった幽霊の姿のものがやってきた。

 「ジン様! ゴーストであるゾ!」

 「あ! その声はイシカか!」

 声でイシカとわかった。



 月氏のみんなもいろんなモンスターに仮装してるんだ。

 その中でまたひときわ目立つ中世の防護マスクのようなものをつけた鳥人間がやってきた。

 「ご主人様。いかがであるか?」

 「ああ! コタンコロか!? うん、かっこいいよ!」

 「これはお褒めいただき嬉しく思いますぞ。」



 続いてやってきたのは黒の猫耳をつけて、しっぽもつけたネコ娘姿のヒルコだった。

 いつものメイド姿もかわいいけど、これはこれでまた可愛いな。

 「ジン様ぁ! どうかニャー?」

 「いいじゃないか! ヒルコ。かわいいよ。」

 「えへへぇ。褒められたのだぁ。」



 あれ? さっきまで近くにいたアイがいない。

 と、思ったら、仮装行列の中に、ひときわ目立つ、白いウエディングドレス姿のお姫様がいるのが見えた。


 ドキッ

 これはすごく美しい。



 「マスター。どうでしょうか? 似合ってますか?」

 「うんうん! アイ! すごくいいよ。きれいだ!」

 「まぁ……! ワタクシ! 最高ぉ! ですわ!」

 アイは頬を赤らめて照れまくった。



 「アイ様。きれい! お姫様みたぁい!」

 ズッキーニャも褒める。

 「ありがと。ズッキーニャ。あなたも可愛いわ。」

 「えへへ。」



 あ、なにかでかいフランケンシュタイン博士の怪物みたいなヤツがやってくる。

 「ジン様! ッシャアアアアアアッ!」

 「なんだなんだ!?」

 「デモ子……。うるさいでうよ。」

 「失礼しましたぁ。あたしの仮装どうですか? メイクに時間かかったんですよねぇ……。」

 「うん。まあ、迫力あると思うよ。つか、デモ子だけリアル過ぎてまわりのこどもたち怖がってんじゃん……。」

 「あらぁ……。頑張りすぎちゃったかしら? あたし?」





 それにしても、かぼちゃの化け物の格好するのなんなんだろうなぁ。

 「ジン様。ウィル・オー・ウィスプは炎の精霊の下級精霊なんですよ?」

 そんなオレの心を見透かしたようにモルジアナが教えてくれる。


 「へえ。じゃあ、もっと上の精霊なんかもいるの?」

 「ええ。ジャック・オー・ランタンという炎の上位精霊がいますね。」

 ジュニアくんが答えてくれる。




 そして夜は例のごとくキャンプファイヤーになって、『グレイス・レイシオ・ハッピー』は盛り上がったのだったー。



~続く~

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