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目指せ!Sランク!

第107話 目指せ!Sランク!『森林での野営』

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 ホッドミーミルの大森林をオレたちはさらに深奥部へ進んでいた。

 森のうっそうとした樹々のせいで、陽の光がほとんどささない。

 時間の感覚が曖昧になっていたが、そろそろ夜に差し掛かるようだ。



 「マスター! 時刻は夕刻、酉の刻に差し掛かりましたが、休憩いたしますか? それとも夜間も行軍なさいますか?」

 「そっか……。もうそんな時間か。いろいろあったし、今日はここらあたりで野営にしようか?」

 「それは、わても賛成や。夜の森は危険やさかいな。それに魔物の生態系がえらい変わってる様子……。慎重に行ったほうがええと思うわ。」

 「イシカは平気であるゾ!」

 「ホノリも大丈夫なのだ!」

 イシカとホノリだけは元気そうだ。



 「わし……そろそろ、休ませてもらっていいですか?」

 ムカデ爺やも疲れた様子だ。ちょうどよかったかもしれないな……。

 朝から走り詰めだったからな。



 「よし! じゃあ、このあたりでキャンプにしよう。爺やも休んでいいぞ!」

 「おお! ありがたや! ジン様。」

 「マスター。ではこの辺りで野営の準備をいたします。」



 アイが超ナノテクマシンであたりの樹々を薙ぎ払い、あっという間に開けた空間を作る。

 そこにイシカとホノリがその薙ぎ払われた樹々をせっせと運んできて、テキパキとやぐら状に組んで積み上げていく。

 あれ……? これ、まさかキャンプファイヤーの準備してるんじゃない?



 「そんなに高く木を組まなくてもよくないか?」

 「おお! ジン様! ほら! あれであるゾ?」

 「うん! ジン様! そう! あれなのだ!」


 「あれ……? なんだよ……。」



 「燃えろよ燃えろよ~ 炎よ燃えろ~ 火の粉を巻き上げ、天までこがせ~ってやつである!」

 「そうそう! 照らせよ照らせよ~ 真昼のごとく、炎ようずまき、闇夜を照らせ~ってやつなのだ!」

 「やっぱキャンプファイヤーじゃあないか!?」




 「ほお! それはレベル4の炎の上級魔法『燃えろよ燃えろ』の呪文やな! 樹木が絡みつきそれを炎が燃やし尽くす……。延々と成長し巻き付く大樹と炎の竜巻のコンボっちゅうやつや。いや、さすがはAランクの冒険者パーティー『ルネサンス』ってわけやな。」

 「そ……そうなんだよ……。あはは。」


 (アイ。あの歌に合わせてナノテクマシンであの組木に炎を燃え上がらせること、できるか?)

 (もちろんでございます。マスター。お任せあれ!)



 『燃えろよ燃えろよ! 炎よ燃えろ! 火の粉を巻き上げ、天までこがせ! 照らせよ照らせよ! 真昼のごとく、炎ようずまき、闇夜を照らせ! 燃えろよ照らせよ! 明るくあつく。光と熱とのもとなる炎!!』

 オレたちはそれからみんなで大合唱した。

 もちろん、それに合わせてアイが炎をつけ、組み上げた木を燃やすのも忘れずにね。



 「ムカデ爺や! ほら! グガランナ牛をお食べ! 今日はよく働きましたね。」

 そう言って、空間収縮技術工法で作られたオオムカデに取り付けられていた荷物入れから、アイが牛2頭まるごと取り出す。

 そのうち1頭をムカデ爺やに与える。


 「おおおお! ありがたや! これが美味いんだのぉ!」

 爺やが牛にむしゃぶりつく。



 さて、オレたちは炎であぶってケバブみたいに丸焼きにする。

 『キトル』の街に『爆裂コショウ』は品切れで売ってなかったものだから、『楼蘭』の街から持ってきたサソリパウダーと「ラ・ピエドラ・デル・ペニョール」の岩塩をかける。

 塩コショウ……ならぬ塩サソリで案外と美味しいものだ。コショウよりもピリピリ来るような気がしないでもないけどね。



 「ジン様ー! 美味しいね! イシカも満足である!」

 「ジン様ー! 美味なのだ! ホノリも幸せなのだ!」

 「こりゃ、なかなか味わえへんグガランナ牛をまるごとなんて! ジンのだんなに着いてきて正解やーーっ! 美味しさの……爆裂呪文やでーーっ!!」

 「うん! これはホント美味いよね!! あー生き返ってホントに良かった!」

 「マスターっ……!! そのお言葉!! アイは……。アイは……、嬉しゅうございますっ!!」



 こんな森の中でキャンプして、バーベキューして、焼き肉食べて、ああ、幸せ……。

 そんなこんなで、夜も更けて行く……。

 オレたちはみんな、ぐっすりと眠りについたのだったー。


 だが、眠っていたオレはなにかの泣き声のせいで目が冷めた。


 うぇーーん! うぇーーーぇん! うええええーーーっん……!



 どこかで幼児が泣くような声が聞こえる。

 なんだ……? 赤んぼうか? いや……、幼児の泣き声か?

 こんな森の奥で……?



「ジンのだんなも気がついたようやな?」

 サルワタリも起きてきたようだ。

 「マスター。あれはおそらくは鳥かと推測されます。ここから距離にして250メートル……。50ドラゴンフィートでございます。」



 「鬼鳥、姑獲鳥(こかくちょう)の鳴き声や……。死んだ妊婦が化けたものと言われてる鳥や。夜間に飛行して幼児を害する怪鳥ですわ。」

 「なんだ……。それは不吉な鳥だな……。」

 「まあ、わてらに子どもはおらんさかいな……。大丈夫やないか?」



 子ども……か……。

 たしかにここにはいないが、『霧越楼閣』にはズッキーニャを残してきているし、ジュニアくんは今、『黄金都市』に商いに出かけているのだ。

 なんだか嫌な予感がするじゃあないか。



 「マスター。ご案じ召されなさいますな。ズッキーニャは親のごとくサタン・レイスがその守護についております。」

 「ジュニアくんは? 大丈夫かな?」

 「はい。ジロキチも一緒についておりますし、彼らにはセコ・オウムを身に着けておりますゆえ安心くださいませ。」

 「そっか……。なら、安心だな。オレは誰かを失うのはもう嫌なんだ……。」

 「マスター……。」



 うえぇええーーん……。うぇえええーーーん……。

 姑獲鳥(こかくちょう)の鳴き声が夜の森林に響く。


 そうしていると、周囲をなにかがガサガサと這い回る音が聞こえてきたのだ。

 今度は何だ……!?



 「あかん……。なにやらおでましのようやで。」

 「ああ。アレは見覚えがあるぞ……。」



 黒い触覚を動かしながら、キャンプファイヤーの炎の明かりに照らされて姿を見せたのは、以前も遭遇したことがあるアレ……ゴブリンだな。

 「黒い悪魔、ゴブリンやで!! 気ぃつけなはれや!」

 サルワタリが注意するまでもなく、オレたちは警戒態勢に入った。

 おびただしいほどの巨大なゴキ……いや、ゴブリンたちに囲まれたオレたち……。





 ちょうどこの野営地を取り囲むように、ギチギチと歯を鳴らしている。


 「ギィギィ……ギギィ!!」



うわぁ……。気持ちが悪い……。

 だが、オレたちの周囲は超ナノテクマシンでガードしているのだ。

 入っては来れないだろう。



 「んん……!? むにゃむにゃ……。あれ? どうしたんですかいの? ジン様……。朝はまだじゃて?」

 そうしているとムカデ爺やも目を覚ましたようだ。

 そして、まわりのゴブリンたちを見て、興奮しだした。



 「なんじゃーーー!? ごちそうがこんなに集まってきてるじゃあないかい!?」

 爺やがそう叫ぶ。

 「あ……! そういえば、爺やはゴブリンが好物だって言ってたね……。」

 「なんやて!? あのゴブリンを!?」

 「おおおーーーい! 爺や! 周りのゴブリンどもを追っ払ってくれるか!? なんなら食べちゃっても良いんだけど!」



 「それはありがたい話!! いただきますじゃーーー!!」

 オオムカデは身体をくねらせながら、ゴブリンの群れに突っ込んでいったのであった。



 「さ……。またひと眠りするか。朝までまだ時間あるからな。」

 「はい。マスター。」

 「ま、あの調子なら大丈夫やろうな。ほな。わても寝させてもらいまっさ。」



 オレたちはまた眠りに着くのだった。



 しかし、イシカとホノリはこの騒ぎにまったく気が付かないのか、安定スリープモードのまま身動きひとつしないのであったー。


~続く~


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