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波紋と波動

第99話 波紋と波動 『黄金都市の商業ギルド』

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※黄金都市エル・ドラード周辺地図


 「こ……こんにちは! 行商集団『アリノママ』のカシム・ジュニアと言います! よろしくお願いします!」

 「ジロキチと言いやす。よろしくでございやす!」

 二人はイルマタルに挨拶をした。



 「あなたたちも遠いところからよく来たわね! 前に会ったことあったかしら?」

 「いえ。僕の父カシムがイルマタル様に交易の許可をもらったのですが、先日亡くなりましたので、僕が跡を継いだんです。」

 「あら……? そうなの……。それはお気の毒でしたね。ジュニアさんには当ギルドも支援できることは支援させていただきますわ。」

 イルマタルは憐憫の情を示した。


 「「ありがとうございます! イルマタル様!」」

 ジュニアもジロキチも素直にお礼を述べた。



 「それで、今後はどのような品を扱うおつもりか?」

 ギルド長の質問にジュニアは答える。


 「はい。我が街『楼蘭』の特産品であるココヤシ酒や『イラム』の産物……、および『海王国』の品などを取り扱いたく存じます。」



 「なに? 『海王国』とな……?」

 この発言にイルマタルは驚いたようだ。

 「ジュニアさん……。この黄金都市『エル・ドラード』はたしかに海上交通が非常に発達しております。ですが『海王国』とは直接の交易はありませんが、その伝手がおありとおっしゃいますか?」



 「はい。我らの支援者は『海王国』ともよしみを通じております。」

 「なんと!? それはこの街にとっても大いに喜ばしいところではあるが、この街と定期的に交易は可能であるのか?」

 じろりと値踏みするかのように、ネズミビト・月氏種族の二人に視線を巡らせるイルマタル……。

 そう、この『エル・ドラード』から『海王国』へ行くには、大森林を越え、死の平野を越え、さらにサファラ砂漠を越えていかなければならない。普通に考えたらたどり着くのは至難の業である。





 「問題ございません。我らには移動の手段がございます。こたびはご挨拶ゆえ、竜馬車で参りましたが、次回からは違う手段で参りますでしょう。それと……。」

 「それと……?」

 「砂漠ではすでに砂竜で移動が可能でございます。」


 「な……!? 砂竜……サンドドラゴンだと!? 移動の手段に砂竜を使うというのか!?」

 イルマタルは衝撃を受けた。

 砂竜といえば……、災害警戒レベル4、Aランクの魔物なのだ。この『エル・ドラード』周辺では見かけないが、この周辺であればロック鳥やバジリスク、ライオンヘッドなどと同じレベルに相当するだろう……。



 「おもしろいな。して我が黄金都市でどのような品をご所望なのかしら? 当然、交易というからには我が街からも商品を仕入れていくのであろう?」

 「おっしゃるとおりでございます。何かオススメは……。」


 するとその時! ジュニアが首から下げていたネックレスのダンゴムシのような物が突然、声を発した!!

 「……それは! 『食糧』をお願いしますっ!!」

 聞き覚えのある声が部屋に響いた。



 「ア……アイ様!?」

 ジュニアもジロキチも声を揃えて驚いた!


 「な……なんだ!? それは……? 魔道具……か!?」

 イルマタルもこんな魔道具は初めてだったからか驚いて聞く。



 「はい。イルマタル様。ワタクシはアイと言います。この魔道具・セコ・オウムを通して声を届けております。姿をお見せできぬ失礼をお許しくださいませ。」

 「あ……ああ。それはかまわないわ。……して、食糧がほしい……とな?」

 「はい。『円柱都市イラム』ではただ今、食糧が不足しております。冬に備えて食糧を大量に仕入れておきたいのです。」

 「ほぉ……。なるほどな。『イラム』に何かあったのか? まさか先日の魔力震と関係があるのか?」



 やはりこの黄金都市でも、サタン・クロースの魔力爆発のことは感知していたらしい。

 「イルマタル様。それは関係がありませんですわ。それとは別にナナポーゾという者が『イラム』にて農園荒らしをしでかした事件があったものですから……。」


 「なんですって!? ナナポーゾが……!?」

 イルマタルはこちらのほうが衝撃だったようだった。

 ナナポーゾは『エルフ国』のネイチャメリカ種族の者……。イルマタルはニュースオミ種族で種族は違えど同じ『エルフ国』の者だからナナポーゾのこともよく知っていたのだ。



 「え……っと……。僕はぜんぜん知りません……。」

 「あ……、いや、拙者もでございやす……。」

 二人はこの黄金都市に向かっていた道中だったから、『イラム』の街でのできごとについては知らないことだったのだ。

 しかし、アイはすべてを思念通信とカメラ・アイで見ていたため、アイだけが知り得る事実だったのだ。



 「ふぅむ……。あいわかった! 交易について当ギルドも力添えするとしましょう。食糧を取り扱っている商人で『行商集団アマゾネス』がもっともその取扱量が多いだろう。なにせ『コルキス大農場』と取引しておるゆえにな……。」

 「はい! ぜひイルマタル様からも、ご紹介とお口添えのほど……。よろしくお願いいたしますわ!」

 「わかった! 『行商集団アマゾネス』の女社長ヒッポリュテを紹介するとしよう。……っと、アルマイード!!」


 「はぁーい!! お呼びでございますか!? イルマタル様!」

 部屋に入ってきたのは元気なエルフの乙女だった。『3人の乙女たち』の一人で大変美しかった。





 「アルマイード。この方たち……『アリノママ』のアイさん、ジュニアさん、ジロキチさん……に、『アマゾネス』のヒッポリュテ社長へギルドの紹介状を書いて差し上げなさい。もちろん、私の推薦だと添えてな。」

 「はぁい!! うけたまわりでございますぅ!! あ、みなさん! アルマイード・デートルモンと申します!! よろしくお願いしますぅ!!」

 またハキハキとした元気な声で受けたアルマイードが、ジュニアたちに向き直って大きな声で挨拶をする。



 「は……は………はぃ……。」

 「よろしくでございやす!」

 またしても照れて声が小さくなるジュニアだった……。



 商業ギルドを後にした二人はギルドの外に出るやいなや、ジュニアの首のネックレスに向かって、話しかける。

 「ア……アイ様!? こ……これは、身を守る魔道具とおっしゃってませんでしたか!? こんな声を届けられる機能があるなんて……! いかなる魔法かはわかりませんが、先に言っておいてくださいよぉーーーっ!」

 「そうでやすよ! びっくりするじゃあないですか!? ……っというか、それなら、この街へ来る途中のあんな事態やこんな事態が起きた時に、どうして声をかけてくれなかったんでやすかぁーーーっ!?」

 二人……いや二匹はしっぽをぶんっぶんに振りながら叫んだ。



 たしかにこの道中、彼らは苦労の連続だったのだ……。

 川を越え、森を抜け、荒れ地を越え、魔物を避け……。

 もし、アイのサポートがあればどんなにか楽だっただろうか? そう思ったからの抗議……だったのだが……。



 するとセコ・オウムを通して、アイがぴしゃりと言う。

 「あのねぇ……。すでに二人の周囲をワタクシが防衛していたからこそ、道中、無事でこの黄金都市にたどり着けたのですよ? おわかりかしら?」

 「「え……?」」

 二匹はお互いの顔を見合う……。



 「砂漠ではサンドヘルがあなたたちが寝ている時に地面から一気に飲み込もうとしていたので、ワタクシの『巨人の見えざる手』で握りつぶしておきましたし……。」

 「「ええ……。」」


 「リンヌンラタ川を渡った時は、水虎の群れがあなたたちに襲いかかろうとしていましたけど、『エネルギー超伝導』ですべて焼き魚にしてくれましたし……。死の平野ではスケルトンの大群があなたたちの周りをうろついていましたが、『サイコガード』で寄せ付けませんでしたし……。『エルフ国』のヒーシ森に入ってからは……。」


 「「あーあーあーっ!! すいませんでしたーーーーーっ!!」」


 二匹のネズミたちはダンゴムシのようなモノに、スライディングで土下座したのであった………。




~続く~

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