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波紋と波動

第92話 波紋と波動 『ユグドラシルの十長老』

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 『エルフ国』の長老の中でも、その頂点に立つ十人の長老のことを『ユグドラシルの十長老』と呼ぶ。

 だがそのネーミングとは裏腹に、実際に『世界樹ユグドラシル』に住んでいるのは、オメテオトルのみで、すぐ近くのトラロックを含めても二人しかいない。

 そして、長老タイオワも『法国』にほどよく近い森林『鉄の森ヤルンヴィド』を領地としていてユグドラシルの近くにはいないのだ。



 タイオワは自身の甥であり、ネイチャメリカ種族のまとめ役・首長であるソツクナングを呼び寄せた。

 「叔父上。お呼びでしょうか?」

 「うむ。ソツクナングよ。息災で何よりじゃ。」

 「叔父上こそ。お元気そうで。……で、いかがしましたか?」



 タイオワは事の次第を説明し、すぐにでも『ユグドラシルの十長老』を魔鏡会議につなぐよう指示をした。

 この魔鏡は、魔鏡知恵のカリスと呼ばれる者たちが管理していて、遠くのものをその映像と音声を魔鏡に映し、双方向でやりとりができるという画期的なものであった。

 この管理者は『国際魔法使い協会』の管理下にあり、その統括者は24人の議会で成り立っていてその構成メンバーは『24人の長老たち』という。

 長老ばかりでややこしいが、長老の座は魔法使いのトップが占めており、長老タイオワ、長老ビラコチャの二人は『ユグドラシルの長老』でもあり、『24人の長老たち』も兼ねている。



 「叔父上。では、『エルフ国』最高会議を開く……ということでよろしいか?」

 「そのとおりじゃ。近く、『七雄国サミット』が開かれる。その際の『エルフ国』の出席者と、考えを統一しておかねばならん。」

 「へぇ……!? 『七雄国サミット』ですか……。ああ。例の魔力震の件ですか?」

 「ふむ。おまえはどこまで掴んでおる? ソツクナングよ……。」



 「あはは。叔父上。『円柱都市イラム』には我が種族のココペリがいますよ? あれは『赤の盗賊団』と名乗っていたレッド・キャップ種族のサタン・クロースがやらかしたことと判明しておりますよ。」

 「なんと!? さすがは我が甥じゃの。優秀だな。」

 「……なるほどね。さては『巨人国』か、あるいは『帝国』あたりから、情報収集をたのまれましたか? 叔父上。」



 「するどいの。その『巨人国』と『法国』からじゃ。しかし、サタン・クロースのやつめがのぉ……。かつての英雄も堕ちたもんじゃな。」

 「まあ。今は経済の時代ですからね。過去の栄光にいつまでもしがみついていてはね。魔神淘汰の原則というやつです……。」

 「ふむ。では、魔鏡会議を準備しておけ。」

 「はは! 叔父上。了解しました! ……いくぞ! コクヤングティ!」


 彼が呼びかけると、その空間に女が現れた。

 「なぜ、わたしはここにいるのでしょう?」

 「おまえ……。いつも、それ言うのな……。まわりを見よ! 我々が創造したタイオワ様の居所『牧師館』なるぞ?」

 「はあ。理解しました。」



 ソツクナングは、彼の手助けとなるはずの女コクヤングティ(クモ女)とともに魔鏡会議の準備に取り掛かったのだった。

 連絡は一人をのぞいてすぐ取れるであろう。

 ノヴァステカ種族の二人の長老、『エルフ国』のユグドラシルの天上都市オメヨカンに住む長老オメテオトル、同じくその近隣の山中に住むトラロック。

 空中都市マチュピチュに住むシンインカ種族の長老ビラコチャ。

 東方のヒーシ森の浮森の群島に住むノイポリ種族の長老カーネ。

 『樹上都市トゥラン』に住むネオマヤ種族の長老フラカン。

 今は『黄金都市エル・ドラード』に住むニュースオミ種族の長老ウッコ。

 黒い森ミュルクヴィズに住む白エルフの長老・妖精女王ホルダ。

 そして、今や『法国』の首都アーカム・シティの守護者たる白エルフ・妖精王オベロンである。



 連絡がつかないであろう者は海エルフのエーギルである。

 東に広がる、その名もエーギルの海の大海のどこかにいるであろうが……。

 緊急時に連絡が取りづらいのが難点といえる。

 仕方ない……。事後報告ですませるか。



 その前に、一人だけ事前に相談しておくべき人物がいる。

 『法国』の国土交通大臣ヘルメス・トリスメギストスだ。

 彼は『魔協』の『24人の長老たち』でもあり、『法国』と『エルフ国』は同盟関係にある。

 こことは情報を密にしておくのが望ましい。



 タイオワは個別に小さな魔鏡を使って、ヘルメスに連絡を取る。

 「鏡よ。鏡よ。鏡さん。世界で一番美しいヘルメスさんはだぁれ?」

 タイオワが魔力をこめて、魔鏡に向かって語りかけると、魔鏡の鏡面の像がゆらぎ始めた。



 「……。……これはこれは。タイオワ様ではないですか? お元気でしたか?」

 「ふむ。ヘルメス様においてもご活躍は聞いておりますぞ?」

 「いえいえ。ところで、このたびはいかがなさいましたか? 魔鏡で連絡とはお急ぎの用件とお見受けしましたが……。」



 「実は……。」

 タイオワは、ヘルメスにこれまでの事情を伝えた。


 「ふむ。では、そのSランク候補の冒険者ジンについてはなにかご存知か?」

 「いや。Sランク候補に推挙されているのでしたね。もしかしたらSSランクの可能性もある……か。そうなると、世界に23組いるSランク冒険者が200年ぶりに24組そろうということ。ましてやSSランクになると、勇者と並んで世界の軍事戦力バランスを変えますからねぇ。」

 「たしかに……。では、私もゼウス様にさっそく『七雄国サミット』の件をお伝えしましょう。」

 「では、よろしくじゃ。」




 ……プツンー。

 魔鏡の鏡像が消えた。



 「叔父上。『ユグドラシルの十長老』、エーギル様をのぞいて、みな接続可能です!」

 そこへソツクナングが報告に来た。

 『エルフ国』専用の魔鏡の部屋に向かう。



 ひときわ大きな鏡が部屋に飾られている。

 その前の椅子に深々と腰をかける。

 クモ女・コクヤングティが白いケープをまとった双子を連れてきた。



 そして彼女は右の者に言った。

 「あなたはポカングホヤ。あなたは、魔鏡が接続されたときに、この魔鏡に秩序を保たせるのです。蜘蛛の巣の波動が完全に固まるよう、あなたの手を差し伸べなさい。それが、あなたの義務です。」

 次に彼女は左の者に向かって言った。

 「あなたはパロンガウホヤ。あなたも、魔鏡が接続されたときに、この魔鏡に秩序を保たせるのです。この蜘蛛の巣にどこからでも聞こえるよう音を送り出しなさい。これがあなたの役目です。」



 ポカングホヤは魔鏡に魔力を注ぎ込みその波動を固めた。

 パロンガウホヤは、魔鏡に隈なく魔力を注ぎ込み、命じられたままに声を響き渡らせた。

 両極を貫く地軸に沿った波動中枢の全てが、彼の魔力の波に反響した。

 全地は震え、宇宙は共鳴して揺れた。

 こうして、彼は全世界を音の道具にして、長老タイオワへの音の情報を響かせるための道具とした。



 「伯父上よ、これがあなたの声です。万物があなたの音に反響しています」

 と、ソツクナングはタイオワに言った。

 「上出来じゃ。」

 と、タイオワは答えた。



 こうした複雑な魔法を組み合わせて、魔鏡に音声と映像をつなぎ、みなが同時に会話をすることができるようにするのだ。

 これを『魔鏡の蜘蛛の巣』……魔鏡ネットワークと言う。



 「うむ。では、みなの者。そろっておるかの? 鏡よ。鏡よ。鏡さん。世界で十人しかいない『ユグドラシルの十長老』はだぁれ?」

 タイオワが魔力をこめて、魔鏡に向かって語りかけると、魔鏡の鏡面の像がゆらぎ始めた。

 魔鏡には8分割された像が浮かんでいく。





 ノヴァステカ種族の二人の長老オメテオトルとトラロック。シンインカ種族の長老ビラコチャ。ノイポリ種族の長老カーネ。

 ネオマヤ種族の長老フラカン。ニュースオミ種族の長老ウッコ。白エルフの長老・妖精女王ホルダと妖精王オベロン。


 それは『ユグドラシルの十長老』たちの姿であったー。



~続く~
※参考サイト
アメリカインディアン ホピ族の神話
第1章② 第1の世界 クモ女と双子
http://www.car14.info/1st_world/2stage.html


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