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閑話
第90話 閑話 『アイの冒険・その2』
しおりを挟むさて、ワタクシ、アイは普通に冒険者として、ギルドの許可証を見せて『帝国・南部幕府』の都市『モンジュ・イン・シティ』に侵入していた。
マル・コポ郎からの『帝国見聞録』の情報で、この国の地理関係はすでに把握している。
南北に1.6~1.7ドラゴンボイス(約2500km)、東西に1ドラゴンボイス(約1500km)。高さは20ドラゴンフィート(約100m)の長大で亭亭たる城壁に囲まれた城塞国家だ。
そして、その内部は碁盤の目のような整然とした都市造りになっている。
その『南部幕府』の東方の最大の都市が、この『モンジュ・イン・シティ』である。
この街自体も非常に計画的に造られた旧世界の基準で言うところの近代都市であった。
至るところに魔法文明技術が応用されている。
魔法で動く歩道。
魔力を利用した自動で物やヒトを上に運んでくれる階段。
道路を行き交う魔導ゴーレム車。
そしてその魔導ゴーレム車とヒトとを交通整理するための三色光を発行する光魔導標識。
……などなど。
たしかに、この世界の人々から見たら、この都市は恐ろしく進んだ魔法都市なのであろう……。
しかし、ワタクシの目から見たら、なんというかデジャヴ感……。
ジン様もびっくりなさるに違いない。
あまりにも旧世界然としていて……ね。
さて、探すべきターゲットは2つー。
調査隊バイオロイドのマル・コポ郎。
そして、ワタクシが手懐けたはずの三匹の魔物……猿と豚と河童……の内の一匹。
おそらくこの『南部幕府』内にいるのは、猿でしょう。
猿……今はハヌマーンと呼ばれているらしいですね。
あの者には通信樹冠を授けたはずなのに……。
ワタクシの呼びかけに何の反応も示さないとは、途方もない不届き者です。
ですが、まずはマル・コポ郎……。こやつはこの『モンジュ・イン・シティ』の牢獄に囚われています。
どうやって救い出すか……ですね。
マスターは争いごとを好まない御方。むやみやたらにワタクシが敵を作るわけにはいきませんからね。
****
『南部幕府』は軍事独立政権であり、その東方面軍団の指揮官がマンジュシュリーである。
空(一切は実体も自性もないこと)の智恵を持って菩提心を清め魔を断ずる『南部幕府』でも有数の英雄なのだ。
その強大なるチカラをもって、東方の征伐を行ってきた。
胎蔵五将軍が一人サムクスミタラージャの息子で、四侯会議の一人シャーキャムニの直属の配下であり、その智慧の偉大さは世界各国に轟いている。
言うなれば『南部幕府』の最重要人物の一人である。
「マンジュシュリー様。対面護門アビムカドヴァーラパーラが冒険者のお目通りのを申請してきております。」
「ほう? どこの冒険者だ? 誰からの取り次ぎなのだ?」
マンジュシュリーの腹心サマンタバドラは答える。サマンタバドラはやはりシャーキャムニの直属の配下であるが、その長はマンジュシュリーなのである。
「東方門の守護シャクラからのお取り次ぎ要請にございます。」
「東方門か……。では我が国のSランク冒険者『マーダラーズ』ではなさそうだな……。ならば、『エルフ国』の『大艦隊(Great Fleet)』か『クランの猛犬』、あるいは『がんばれベアーズ』のいずれかか……?」
「それが……。『円柱都市イラム』のAランクの冒険者『ルネサンス』の者だということです。」
「……ルネサンス? 聞いたことがないな。」
「はい。ですが、先日の魔力爆発についての情報を持っていると報告が上がってきております。」
「なに!? それは先日マンジュシュリー様が大日将軍様に指示を受けた件ではないか!?」
そばに控えていたアヴァローキテーシュヴァラ参謀が声を発した。
アヴァローキテーシュヴァラもやはりシャーキャムニの直属の配下である。
「うむ。そうだな。アヴァローキテーシュヴァラよ。貴公に調査を任せた件ではないか?」
「は! 目下調査中でございます。なにせ、『円柱都市イラム』と我が国は直接の交流はありませんゆえ。」
彼は彼自身の怠慢で調査がはかどっていないのではないと否定する。
「なるほどな……。向こうからほしい情報自身が飛び込んできおった……というわけか。醤油瓶を持ったサザエオニが『燃えろよ燃えろ』と唱えてくるようなものじゃないか!?」
「まさに……。渡りにアルゴー船……ですな。」
サマンタバドラもそれに同意する。
「よし! その者を連れてまいれ!」
マンジュシュリーはそう命じた。
****
「面をあげよ。アイ殿……と申したか。」
マンジュシュリーは目の前のロングツインテールの美しい金色の髪が足元まで届くほど長い超美少女に向って言う。
髪の毛のリボンが猫耳のようで、服はセーラー服とブレザーを合わせたようなコスチュームで、ネクタイがその胸の前にかかっている。
「は! マンジュシュリー指揮官様。『円柱都市イラム』のAランク冒険者『ルネサンス』のアイと申します。以後、お見知りおきを……。」
「ふむ。……で、先日の魔力爆発の件の情報をお持ちであるとか?」
「さようでございます。」
「では、貴殿の知っていることをすべて申せ。」
マンジュシュリーはさも当然のように命令をする。
するとアイはにこりとほほえみ、こう返した。
「情報というものはそれ自体が価値があり、その対価となる褒美をいただきたいのです。」
「なに……? ふはは。面白い。ただでは情報を渡さぬと申すか?」
「おっしゃるとおりでございます。さすがは知恵者で名高いマンジュシュリー様でございますね(にっこり)。」
マンジュシュリーはしばらくアイをじっと見て、こう答えた。
「しかし、アイとやら。当方はそのような情報を欲していないと申せばいかがする?」
「それならば、『穢土』のお殿様に直接、ご報告申し上げるまででございます……。」
「なんだと……!?」
マンジュシュリーの目が鋭く開き、今度は殺気を感じるほどの眼光でアイを見つめる。
まわりで見ているアヴァローキテーシュヴァラ、サマンタバドラも不安げに見ていた。
「はっはっは! なるほど貴殿の申す通りだ。本官は今、その情報を欲している。では、条件を言うが良い。」
「お話が早くて助かります。閣下。」
「マンジュシュリー様!?」
傍で見ていた二人はマンジュシュリーのこの機密指令を認めたかのような発言に驚いた。
「よい! お二方は控えておれ。」
二人は黙って引き下がる。
「では申し上げます。ワタクシの同じチームの者がこの都市の牢獄に無実の罪で捕らえられております。その者を解放していただきたく存じます。」
「ほう……。無実……とな?」
「はい。どうやらスパイ容疑で捕まえられているのですが、ワタクシどもは冒険者でありますが、商人でもあります。商売の版図を広めるためにこの都市にやってまいったのであって、断じて他国のスパイではありませんゆえ、ぜひとも閣下のおチカラで、解放していただきたきたく存じます。」
「ふむ……。言い分はわかった。が、その商売とはなんだ? それが明らかにならねばおいそれと解放するわけにもいくまい?」
「はい。手前どもは、新しい食物を提供したく商いをしております。」
「ほお? それはなんという食物なのだ?」
「ラーメンと言います。ワタクシが料理をさせていただきますゆえ、ぜひ一度ご賞味くださいませ。」
その後、マンジュシュリーがラーメンにどっぷりハマってしまい、『幕府』の美食の追求指揮官を兼任したのはまた別のお話であるー。
~続く~
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