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クエストを受けよう!

第79話 クエストを受けよう! 『デュオニュソスの酒場』

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 オレたちは『円柱都市イラム』の冒険者ギルドの酒場に集まっていた―。



 「……とまあ、そういうわけで、そこのジンさんがオオムカデは従えちまったんで、もう街に危険はなくなった。みんな、安心してくれ!」

 冒険者ギルド長のアマイモンさんが今回、緊急に集まったみんなに説明をしていた。


 「砂竜も大丈夫なんすか?」

 冒険者パーティー『モノケンタウロスズ』のイクテュオケンタウロスがそう質問する。


 「ああ。あの砂竜はジンさんの従魔だとわかった。オオムカデをいち早く抑えてくれていたというわけだ。」

 アマイモンさんの口から説明してくれることで、みんなはすんなりと納得してくれているようだ。

 やはり、冒険者ギルドのギルド長の信用は絶大だな。

 それに、アマイモンさんが、元Sランクの冒険者だということもさらに信用がある要因だと思うけどね。



 「あの砂竜、普通の砂竜よりはるかに大きくなかったか?」

 「あれは砂竜でもボスクラスだろう……。」

 「砂竜のボスを従魔にするか……。そいつはすげぇな……。」

 みんながひそひそと話している。



 「はーい! みなさん! ジン様のおかげで、やることなかったですけど、ギルドからはちゃんと報酬、出ますからね?」

 フルーレティさんがみんなにそう告げると、みんなから歓声が上がった。

 「やったぜ! 今日はもう仕事やめだ! やめだ!」

 「酒だ! 酒もってこい!」

 「さすが! フルーレティちゃん!」

 「いやいや! てめぇら! オレが報酬出すって決めたんだぞ? オレに感謝しろって! まあいい! とりあえず1杯オレのおごりだ! 飲んでけ!」

 アマイモンさんもノリよくみんなにツッコミを入れる。



 うん……。ここの冒険者ギルドは雰囲気がいい。

 みんなでわいわい、昼間から酒盛りになってしまった。

 オレたちもとりあえずエールを頼む。

 コムギト種の麦から作られたエールはこの世界の一般的なお酒らしい。



 「ジン様! これも美味であるな!」

 「ジン様! これはおいしいなのだ!」

 イシカもホノリもエールをじゃんじゃん飲んでいる。

 たしか、あの有名なタイムスリップものの映画でもアルコールがエンジンの燃料に使われていたが……。



 「あーん。もう! ギルドの依頼も溜まってるんですけどね!」

 「まあまあ。今日のところはいいんじゃないですか? フルーレティ。」

 「フルカス……。じゃあ、あなたにも働いてもらいますからね?」

 「はいはい。わかりましたよ。」

 フルーレティさんとフルカスさんもなんだかんだ楽しそうだ。



 お酒やおつまみを提供してくれるのは、ウサギの獣人たちだった。

 スタイルがいいウサギたち……。プリップリにほどよく肉付きが良くて……。

 ああ……。目の保養になるな。




 女性のウサギならね……。


 ウサギの獣人と言っても、男性スタッフだった。

 肉付きのいいウサギたちで、彼らウサギの獣人は月の兎という種族の子孫らしい。



 「おつまみのスナイモと海ゴケグモの『青のりイモ』です!」

 おお! これはエールに合う! めちゃくちゃ美味しいな。

 この揚げたスナイモのポテトに青のりがいい。海ゴケグモっていうのはなんだか知らないけど……。



 「耳無豚(みんきらうわ)と片耳豚(かたきらうわ)の腸詰め・ソーセージです! レッドパイパー・マスタードでお召し上がりください!」


 (マスター! みんきらうわ、かたきらうわとは、鹿児島県奄美大島に伝わる豚の妖怪です。
その名の通り片耳の無い豚の姿をしており、両耳の無い豚の妖怪の耳無豚(みんきらうわ)もいるとのことです。)

 (らうわ……ていうのはブタの種類らしいな。ソーセージにマスタードはそりゃ合うに決まってるよね!)



 とりあえず、ソーセージにエールがめちゃくちゃ合う!

 「こっち! じゃんじゃんエール持って来て!!」

 「お嬢様。少しは嗜みというものを……。」

 「まあ。今日くらいはいいではないですかぁ? ねえ。ベッキー様?」

 あぁ……。ベッキーってお酒強いのね。


 「おらぁ! 樽ごともってこいやぁ!」

 「あんちゃん!! 飲みすぎないでよ!」

 ウントコってさすがはオーガだな、いい飲みっぷり。



 「ふん! 俺が竜のチカラを出せば、あんなムカデごとき簡単に倒してくれたわ!」

 「はいはい。ですね。ドラコさん。はぁ……。」

 「ま、ボクも活躍の場は欲しかったとは思うなぁ。」

 「そうっすよね! やっぱ物足りないっしょ!」

 『モノケンタウロスズ』の連中も盛り上がってるようだ。



 「ジンさん! 乾杯させてくれるかの!?」

 そう言ってエールの入った瓶をオレのほうに傾けてきたのは『パウアトゥン・ファミリー』のリーダー、バカブだった。


 「おう! 乾杯!」

 オレもそれに応える。

 「なにか今後あれば、わしらにも声をかけてくれ! 今回はジンさんにすべて持っていかれたが、今度は役に立つぞい。」

 「それはこちらのセリフだよ。同じ冒険者としてこちらこそ、よろしくね。」



 「ジンさん。うちのリーダーはマジですごいんだから!」

 「カンシナエルは馴れ馴れしいですねぇ。」

 「うむ。カンシナエルはもう少しおしとやかにすべきだと思う……。」

 「サクシニぃーー? 誰がおしとやかじゃないのよ!?」

 「うんうん。これうめぇぞ?」

 「相変わらずホサネクはよく食べるの。」


 うん。『パウアトゥン・ファミリー』は本当に仲がいいパーティーのようだな。





 そんなこんなで、ギルドの酒場は、出会いと別れの酒場『デュオニュソスの酒場』というらしいが、昼間から賑わって大いにみんなが楽しんだのだった―。


 ……いや、指定依頼のこと、すっかり忘れてないかっ!?






 ****


 「……ということで、オオムカデも取り押さえられ、無事、事なきを得ました!」

 ギルガメシュ兵団長が、黒衣の宰相ベン・シラに報告を済ませたところだ。



 「なるほど。またしても、ジン殿の功績というわけか……。」

 「はい! またしてもジン殿のゴーレムがとてつもない動きでオオムカデを押さえ込んでおりました。」

 「ジン殿は我が街にとって敵対の意思はないのは明白だろうな。だが……、適度にワインを飲むのは人生を豊かにする。しかしワインの力に頼るのは愚か者である。それはその人の力を弱らせるばかりか傷を倍増させる。」

 ベン・シラは思案顔でそう答えた。



 それをじっと聞いていたシバの女王が奥の見えない空間に向かって話をする。

 「そちはどう思う? 小太郎……。」


 暗闇からシュンっと飛び出した影が、シバの女王の前にひざまずく。



 「は! しかしながら、今、我が『円柱都市イラム』にはSランクの冒険者は不在です。このまま我が街に留めておくことができれば、それは得策かと存じます。」

 風魔小太郎がそう進言をした。



 「それはそうであるな……。」

 シバの女王が言ったところで、ベン・シラが小太郎に向かってこう言ったのだ。


 「自分の手に負えないことに手を出してはいけない。自分の領分として定められたことについて思索せよ。

 自分の見解に自信を持ち、言うことを首尾一貫させよ。聴くに素早く返答にはじっくり時間をかけよ。ちゃんとした意見があるなら明確に答えよ。さもなくば手を口に当てよ。」




 「は! ベン・シラ様。出過ぎた意見でございました!」

 小太郎はすぐに自分の非をわびた。

 「なるほどな。さすがはベン・シラだな。たしかに、急いては龍を討ち漏らすって言うからな。」

 シバの女王はベン・シラに賛同する。



 「シバの女王様。ジン殿については懐柔策を取ると同時に警戒を怠らないのがよろしいかと存じます。」

 「うむ。ベン・シラの進言通りとしよう! ベン・シラよ。ジンの申し出てきていた件があるな。それについては許可を出すとしよう。」

 「は! それがよろしいかと……。そして、キトルの王・ナボポラッサル王に『龍国』の庇護をこの街にもお願いするのが得策かと存じますな。」

 「なるほどの。妾の夫君……の手を借りるか……。ふむ。急ぎ、ナボポラッサル宛に使いを出せ!」



 「は! シバの女王様。我が配下の『風の子』を使いに遣りましょう!」

 「ふむ。小太郎よ。そちに任せよう!」

 「ありがたき幸せ!」


 その翌日には、ジンたちに街頭テレビを設置する場所として中央の巨大円柱を使う女王の許可が下りたのであった―。




~続く~


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