40 / 256
赤の盗賊団
第38話 赤の盗賊団 『アンデッド・カシム』
しおりを挟むミトラ砦の中は、中央に上の階がある3階建て・二重に壁がある構造で、オレたちが入ってきた南門の反対の北の奥にも門があり、そこまで通路が壁沿いにぐるりと囲んでいた。
西側と東側に中に入る扉があり、その中をさらに周囲に沿って通路がある。
そこでまた北側と南側に階段があり2階へと通じていた。
階段までの道のりの間に、敵は出てこなかった。
2階は渦状の作りになっていて、一本道になっている。
攻め側として先を迷うことはないが、その代わりに守り側にも待ち伏せしやすく有利だ。
「ここから先でおそらく敵は待ち構えているに違いない。慎重に進むぞ。」
「待って! 私の偵察魔法『うさぎ』を使うわ。」
ここまでまったくいいところがなかったベッキーがそう進言してきた。
『うさぎ、うさぎ、なに見てはねる、十五夜お月さま、見てはねる!』
ベッキーの前にかわいいウサギが出現した。
「前に進みなさい!」
ベッキーがウサギに支持すると、ウサギがぴょこぴょこ前に跳ねながら進んでいく。
「なるほど。罠があればあのウサギが先にかかるってことか。」
ヘルシングさんがそう言い、前に進んでいく。
「そうよ。それにウサギの目が見たものは私も見えるから、待ち伏せがあってもわかるわ。」
「ただの役立たずじゃなかったんだな。」
グラウコーピスがそう言ってやはり前に進む。
「ちょっ!! ちょっと! 役立たずって誰のことよ!」
ベッキーもそう言って、パックとともに進む。
オレたちもそれに続く。
(マスター。トンボ型ドローンが前に先行しています。ヤツラは今しがた3階から降りてきました・・・が何やら様子が変です。)
(どういうふうに変なんだ?)
(は! 狂犬病のような病を患っているような症状かと。よだれを垂らし唸り声を上げ、仲間に噛みつきこちらのほうへ向かってきています。)
「狂犬病だって!?」
オレは思わず声を出した。
「どうした!? ジン殿!」
ギルガメシュ兵長とアテナさんがこちらを振り返った。
「どうやら、やつら何かの病気のような様子なんです。アイの感知魔法でそう見えたみたいです。」
「どういう症状なんだ?」
「よだれを垂らし唸り声を上げ、仲間に噛みつきこちらのほうへ向かってきていると。」
「なんだと!? それは吸血鬼化ではないか!?」
ヘルシングさんがそう言って、みなに確認する。
「勢いを増して、こちらに向かってきているとのことです。迎え撃ちましょう。」
「それがよさそうだな。こちらが待ち構えて戦うことが善だな。」
エリクトニオスもそう賛成してきた。
「来たわ! ヤツラが一丸となってこちらに向かってきてるわ!」
ベッキーがそう言った瞬間、先に進んでいたベッキーの召喚したウサギが前の方で八つ裂きにされたのだった!
ブシャッ・・・。
道の先の曲がり角から、『赤の盗賊団』の集団・・・だった者たちが現れた。
だった者たちと過去形なのは、彼らがみな吸血鬼かゾンビになってしまっていたからだ。
見積もっていた敵の数を大きく上回って百名ほどはいるようだ。
屍体を蘇らせたに違いない。
そして、その先頭に、現れたのは・・・。
「と・・・父さんっ!!」
ジュニアくんがそう叫んだ。
"
"
「ぶしゅるるるるぅ・・・。」
なんとその人物は、カシムだった。そう砂漠でアーリ・ババくんを助けたその前に殺されてしまったというカシムJrくんの父の姿だった―。
「父さん・・・。そんな姿になってしまって・・・。」
ジュニアくんは震えている・・・。目には涙が浮かんでいた。
「カシム様・・・。おいたわしや。・・・許せんでやすよ! テラーっ!!!」
ジロキチが主人であったカシムの姿を見てそう叫んだのだった。
"
"
「うるうるうるさいんだよよよっ!! 行けぃ!! アンデッド・カシムよぉよよ! 殺ぁるぇるぇれぃ! あのあのあの者らをぉおおお!!」
その背後でそう叫んだのは、吸血鬼と化した仕立て屋テラー・テーラーの姿があった。
カシムはいろいろな魔物をつぎはぎに縫い合わせたような巨漢の姿をしていて、どうやらテラーのやつに改造されたようだった。
さらにレッド・マント、レッドキャップ種族の者、ヴァン・テウタテス、ヴァン・エスス、ヴァン・タラニスらが現れた。
「血を!! 吸わせろーーーっ!!」
サタン・クロースの姿が見えない。後方に控えているんだろうか。
(お答えします。サタン・クロースは奥の部屋にいます。)
(何してるんだ? 総力戦で打って出て来ると思ったんだけど。)
(音声を盗聴いたしますか?)
(と・・・盗聴か・・・。仕方がない。緊急時だ。音声を拾ってくれ。)
オレの頭に直接、サタン・クロースと部屋にいるものの映像・音声が浮かぶ。
********
サタン・クロースがベッドに寝ている女の子二人に話しかけている。
どうやら、サタン・クロースの娘のようだ。
赤い帽子と赤い靴を履いた少女と、赤い頭巾をかぶった少女だ。
「ズッキーニャ。シューニャ。よぉく聞くんだぞ。悪りぃ奴らがこの砦にやってきだんだ。」
「まあ。なんてこわいんでしょう! おっとぅ。大丈夫なのか?」
レッド・シューニャがそうサタン・クロースに問う。
「ああ。これからおっとぅが悪りぃやつらを倒して来るから、おめぇたちはおとなしくここに隠れているんだぞ。」
「ああ。おっとぅ。おらたちはここに隠れているよ。」
レッド・ズッキーニャがそう答えた。
「おっとうが帰ってこなけりゃ、ここの扉は絶対開けてはなんねぇぞ?」
「うんうん。わかったよ。おっとぅ。絶対開けないよ。」
「ね。シューニャ。」
「うん。ズッキーニャ。」
「いい子にしてたら、プレゼントをあげるからな?」
「わーい。いい子にするぅ!」
「やった!いい子にするよ。おっとぅ大好き!」
二人の娘は嬉しそうだ。
ふと、ズッキ―ニャがサタン・クロースに尋ねる。
「おっとぅ。どうしてそんなにどうして耳が大きいの?」
「ん・・・? ああ。おまえたちの声ををよぉーっく聴くためだよ。」
「お目々が赤いね、それにどうしてそんなにお目々が大きいの?」
「ん? ああ。これはおまえたちを最後に・・・よぉっく見るためだぁ。」
ズッキーニャが最後に聞く。
「どうして今日はそんなに口が大きいの?」
サタン・クロースがそれを聞き、自らの口に生えた牙をちらつかせ、にんまりと微笑んだ―。
********
オレはサタン・クロースと娘のやりとりを見ていたが、どうも目の前で戦闘が始まったので、目の前に意識を切り替えた。
サタンのやつにも事情・・・っていうのがあるようだ。
だが、今はそれにかまっている状況じゃない。
目の前に、狂気に吹っ切れたレッド・キャップ種族の最後の抵抗が行われていたからだ。
しかも、よりによってジュニアくんのお父さんを死んだ後もこんなふうに利用するだなんて・・・。
「許せない!!! ジュニアくん! 悪いけど、お父さんは助けられない・・・だけど火葬にしてもいいかい?」
「ジン様! 父を・・・一刻も早く楽にしてあげてください・・・。お願いします・・・。」
ジュニアくんは震えながら、涙をこらえ歯を食いしばりながらそう答えた。
「わかった! 君はもう立派な大人だよ!」
オレはそう叫び、周囲の超ナノテクマシンたちにイメージを伝える。
今にも襲いかかってくる吸血鬼とゾンビたち!!
ギルガメシュ兵長以下オレたちみんながそれを迎え撃つべく構えをとっていた・・・その時―。
「火炎放射だーーーっ!!」
周囲の超ナノテクマシンの工場が一気に熱エネルギーを生産し、その膨大なエネルギーを前方の通路に向かって放射する!
辺りの空気の中がなにか、キラキラ光ったかと思うと、本当にアニメに出て来たようなものすごい火炎が発生し敵に襲いかかったのだ。
ジュワッゴオォォオオオオオオオオオ!!!!
目の前にいたやつらが一瞬で燃やし尽くされた!
ガラガラガラ・・・。
周囲の壁も黒焦げになり、崩れてきていた―。
~続く~
©「うさぎ」(曲/わらべ歌 詞/わらべ歌)
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜
海月 結城
ファンタジー
ストーカーが幼馴染みをナイフで殺そうとした所を庇って死んだ俺は、気が付くと異世界に転生していた。だが、目の前に見えるのは生い茂った木々、そして、赤ん坊の鳴き声が3つ。
そんな俺たちが捨てられていたのが孤児院だった。子供は俺たち3人だけ。そんな俺たちが5歳になった時、2人の片目の中に変な紋章が浮かび上がった。1人は悪の化身魔王。もう1人はそれを打ち倒す勇者だった。だけど、2人はそんなことに興味ない。
しかし、世界は2人のことを放って置かない。勇者と魔王が復活した。まだ生まれたばかりと言う事でそれぞれの組織の思惑で2人を手駒にしようと2人に襲いかかる。
けれども俺は知っている。2人の力は強力だ。一度2人が喧嘩した事があったのだが、約半径3kmのクレーターが幾つも出来た事を。俺は、2人が戦わない様に2人を守護するのだ。
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~
昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる