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赤の盗賊団
第20話 赤の盗賊団 『カフェでのひととき』
しおりを挟む※円柱都市イラム
シバの女王の宮城を出て、アイとヒルコ、ジュニアくんとジロキチと一緒に大通りを歩いていく。
途中、ギルド長・アマイモンとフルカスさんと別れ、なにか美味しいものを探しに行くことにした。
ここ円柱都市イラムは店がいっぱいで盛況である。
大通りの左右に店が軒並み連なっていて、そのどちらの奥にも運河が流れており、円柱で囲まれていた。
「あ! カフェがあるよ! ジン様! あそこで何か飲みながら軽く食べちゃいますか?」
「カフェか!? いいね。じゃあ、ちょっと寄っていくか。」
「マスター。ではワタクシが席をとってきます。」
カフェの看板には『はーむず』という名前が書いてあった。
ハームズってたしか、イラク独特の飲料の名前じゃなかったかな……?
(イエス! マスター! その通りでございます。)
アイ先生がまた答えてくれた。
乾燥ライムを煮出して砂糖を加えたハームズは、イラン料理には無いイラク独特の飲料である。
このイラムのカフェで味わえるとは・・・。なんだか、バビロン地方って、そういうことなのかな……。
店の主人は、獣人の男でなかなかの無愛想ではあったが、他の店にいまさら移るのも面倒だし、そのまま、オレたちは人数分のハームズを注文した。
お茶に合わせてお菓子を頼むことにした。
ミナ・サマーという呼ばれるヌガーに似た菓子。名前は旧約聖書の『出エジプト記』に由来するようだ。
ちなみにヌガーとは砂糖と水飴を低温で煮詰め、アーモンドなどのナッツ類やドライフルーツなどを混ぜ、冷し固めて作るお菓子だ。
茶色くて固く、歯に粘りつくような食感が特徴である。
「わーい。甘いの大好きー!」
「僕もこのお菓子、好きですね。」
「拙者もいただくでございやす。」
「ワタクシもいただきます!」
「じゃ、オレもいただこうかな。」
うん、このお菓子は美味しいな。
ん? ふと隅の方の席を見ると、さきほどシバの女王の謁見の間で会ったアテナさんが三人の従者とやはりお茶を飲んでいる姿が見えた。
「お!? ジン殿にカシム殿ではないか! 卿《けい》らもお茶かい?」
ああ、向こうも気がついたようだ。
「アテナ様、こんにちは。ええ。僕たちもちょっと小腹がすいちゃったので……。」
「ああ、アテナさん。そちらもお茶ですか?」
「では一緒にどうだ? こちらの従者も紹介しておきたいしな。」
「では、お言葉に甘えて。」
オレたちは席をアテナさんたちの隣に移動した。
アテナさんの右の隣には若い有翼の女性が、正面にはフクロウの顔をした騎士が、左の隣には蛇の顔をした騎士が、それぞれ席についていた。
「こちらに座っている女性はわたしの従者、ニーケだ。そして、わたしの左の蛇の騎士がエリクトニオス。最後にわたしの正面のフクロウの騎士が、グラウコーピス。わたしの軍師だ。」
「ニーケです。よろしく。」
「エリクトニオスだ。よろしくである。」
「グラウコーピスです。よろしくお願いします。」
「ああ、よろしくね。ニーケさん、エリクトニオスさん、グラウコーピスさん。」
「よろしくお願いします……。」
ジュニアくんもそう挨拶をした。
「ワタクシはアイです。マスター・ジン様のパートナーでございますわ。」
「僕はヒルコだよー。よろしくねー。」
「あ! 拙者はジロキチでございやす。」
アイって必ずオレのパートナーって強調するよなぁ……。ま、パートナーは間違いないか。そだな。いつも助かってるしなぁ。
(あ……ありがとうございます。マスター。)
あ……。思念通信で聞こえちゃってたか。
「ところで、ジン殿は冒険者なのか? あのサンドワームを倒したと聞き及んでいるが。」
「いや、オレたちは冒険者じゃないよ。ジュニアくんについてきただけのただの野次馬だよ。」
「ん? 野次馬? 馬国の者なのか?」
「あ……いや。サファラ砂漠に引きこもりで住んでいたんだよ。」
「砂漠の民か!? 失われた無名の都市があるとは聞いたことがあるな。月氏の楼蘭以外に街があったのか……。」
「無名都市か。地図に載っていたな。何者がいるんだろう?」
「アテナ様。恐れながら。たしか古代に栄えた街で、古代の民はその地を『虚空』を意味する『ロバ・エル・カリイエ』の名で呼んでいたという。今は廃墟のはずでございますぞ。」
グラウコーピスがそう話してくれた。
「なるほど。古代に栄えた都市か。」
「そうだ。法国ではそう伝え聞いているぞ。」
「法国とはどこにあるのでしょうか?」
アイがそう質問した。さすがアイ。オレが聞きたかったことをずばり聞いてくれる。
「ジン殿たちは法国には行ったことがないのか。まあ、ここイラムやバビロン地方は栄えているからなぁ。さもありなん。
……あぁ。世界国家略図、たしか持ってきていたな。1枚、ジン殿に献上しよう。ニーケ!」
「はーい。アテナ様。これに。」
※世界国家・概略図
「ほら。ジン殿。この世界の中心にあるのが法国だ。このバビロン地方は法国から東南方向にある。」
「なるほど。法国が中心にあり、その南方に『南北・帝国』があって、北に『皇国』、東は淡水の海でそのさらに東に『龍国』、『帝国』のさらに南に『火竜連邦』か。」
「ジン様。そのとおりです。このイラムの南東には『馬国・フウイヌム国』、『ヴァン国・ヴァナランド国』、東の大森林には『エルフ国・世界樹共和国』がありますよ。
あと僕たちの街『楼蘭』の南方に『小国・コルヌアイユ国』があって、南方の海には『海王国』があり、西の大河を越えたら『帝国の南部幕府』『火竜連邦』がありますね。」
そう、ジュニアくんが教えてくれた。
「あ……。この東の森林の向こうにある火山のあたり、『不死国』という国があるのか。その向こうに『龍国』か。」
「そうですね。『不死国』は正式名を『ラグナグ王国』といい吸血鬼が支配している国です。『龍国』は『龍自由連盟』といい、数十の龍種が支配しています。」
今度はニーケさんが教えてくれる。
(アイ。どうやら、人工衛星『コロンブス』を撃ち落としたのは、『不死国』か『龍国』のようだな。)
(そうですね。撃ち落とされたのは『不死国』と『龍国』の中間地点の海上です。間違いありませんね。)
(そっち方面はちょっと情報が集まるまで調査はいったん中止だな。西のほうを調査開始していこうか。)
(かしこまりました。)
「ジン様。『不死国』や『龍国』はたしかに脅威ではありますが、今はこの『エルフ国』に巣食う『赤の盗賊団』が目下の敵でございますよ?お忘れなく。」
そう進言してきたのはエリクトニオスだった。蛇の見た目もさることながら、舌をぺろりとしたその仕草もちょっと恐ろしげなのだが、言ってることはまさしくそのとおりだった。
「ああ、そうだったな。すまん。ちょっと田舎者なもので、なにぶん知らないことだらけだったのでな。」
「では、また後で冒険者ギルドでその『赤の盗賊団』について話し合おうではないか。」
そのようにアテナさんがその場は仕切って偶然のお茶会はお開きになった。
「では、またのちほど。」
そう言って去っていくアテナさんたち一行。
その後姿を見送っていたところ、声をかけてきた者がいた。
月氏の仕立て屋、テラ・テーラーだった。
「カシムJrの坊っちゃんにジンサマ・サマ・サマじゃなぬわいですくぅわーーーっちゅっちゅ!?」
「ジン様! また変なヤツ来たよ!」
ヒルコも思わず口にするほど、やっぱり相変わらず変なヤツだ。
「聞きましたよぅおぅおっおっ!! 『赤の盗賊団』の何なっにくわかわか……りましたのでっすっ……くわっ!?」
「あ……あぁ。ヤツラは森のミトラ砦を根城にしているらしい。」
「さっきほどぬお!美しいぃいい方はどなたぬわんですぅくわっ?」
「あの方は法国のパラス・アテナ様だよ。おまえも失礼のないようにしてくれよ? 同じ月氏の恥になるからな?」
「あいあい!!ああーーっいいい!! わっかりましとぅわっ!! あ! わたくしめぬお!仕立てた服をお持ちになってくだ・くだ・くだっすわい!!」
「ああ。何か役に立つものがあれば、あとで冒険者ギルドに届けるんだぞ。」
ジロキチもそうテーラーに注文した。
「わっか……りましっとぅわっ!!」
急いでテーラーがちょこまかと店を出て駆け出していった。
なんとも騒がしいヤツだな。まったく。
「じゃあ、オレたちもギルドへ向かうとしようか?」
「はい!」
そう言って会計をしようとしたところ、なんと、アテナさんたちがすでに支払いを済ませてくれていたようだ。
うーむ、アテナさんって……めちゃくちゃいい人な上に、デキル女の人だな。
(あ!! いや、アイのほうがもちろんデキル女性だよ?)
(おわかりいただいて、ありがとうございます。)
うっかり心のなかでも褒めることのできないジンであったー。
~続く~
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