上 下
20 / 256
赤の盗賊団

第18話 赤の盗賊団 『シバの女王』

しおりを挟む

 大きな円柱をぐるりと廻り、冒険者ギルドへと急ぐ。大きな看板で『冒険者ギルド』と文字が見えてきた。

 もちろんアイ先生に習得・翻訳してもらったのでオレもまた遠くからでも読めたので、今度もすぐ場所がわかった。

 『冒険者ギルド』扉をくぐると、受付が見えた。中には何名かの者たちがいて、その姿形はさまざまであった……おそらく冒険者であろう。

 酒場も兼ねていたギルドだったが、前に来たときとは違い、すでに酒場は開いており、酔っ払ってるやつもちらほら見えた。



 「あ! ジン様! カシム様! こちらへお越しください!」

 そう声をかけてきたのはフルーレティ女史だった。

 隣に白髪と長いあごひげをたくわえた、老人の騎士の姿があった。

 「私はギルドの執事・フルカスでございます。以後お見知りおきを。」

 「おー。オレはジンだ。フルカスさん、よろしく。フルーレティさんも、こんにちは。」

 「僕はカシム・ジュニアです。よろしくおねがいします。」

 「私はジン様のパートナーの……。」

 アイがそう言いかけたところで、すかさずフルーレティさんが口をはさんできた。



 「あ! アイさんですよ。フルカスさん。ただの仕事のパートナーのアイさんと、ヒルコさん、ジロキチさんです。」

 「ヒルコだよー。よろしくー。」

 「ジロキチでございやす。」

 アイがなにかいいげな様子だったけど、オレはとにかく早く話が聞きたかったので、こう言った。



 「で、呼び出した要件を聞こうか?」

 「はい。では、またこちらへどうぞ。」

 フルーレティが、奥のギルド長の部屋に案内してくれた。

 「アマイモン様! ジン様とカシム様、その御一行にお越しいただきました。」

 「おう! 通してくれ!」

 ガチャ。扉を開くとあいかわらずの殺風景な部屋だった。



 「ああ、ジンさん。悪いな。ま、そこに座ってくれ。お、みんなも座ってくれ。フルカス! お茶用意してくれ。」

 「アマイモン様。かしこまりました。」

 「で、さっそくだけど。ジンさん、ジュニアくん。シバ様から謁見許可が下りた。で、これからすぐ会われるそうだ。」

 「え!? 今から? めちゃくちゃ急だな。」




 「ああ。シバの女王様は、即断即決・即実行というお人だ。くれぐれも気をつけてくれよ。」

 「ふぇー。ま、会ってくれるっていうなら、こっちは文句なんてないけどな。な? ジュニアくん。」

 「ええ。もちろんです! 急がばバーサ―カーに殺られるって言いますからね。」

 え? そんなこと言うんだっけ? 急がばまわれ……じゃないのか。5千年経って、ことわざも変わったのかな?



 「マカいい茶、お持ちしました。」

 その時、フラカスさんがお茶を持って入ってきた。……ん? マカ茶?

 「これは上等なマカの葉のお茶だ。滋養強壮に効くぞ? まあ飲んでくれ。」

 たしか、マカって……あれか?


 (お答えします。アンデス高地で栽培されていました、 インカ帝国の時代には特権階級の食べ物として珍重され、戦勝をあげた兵士への褒賞として与えられたという植物です。強烈な紫外線と酸性土壌、昼夜の温度差の激しい過酷な自然環境に育つ。土壌の栄養素を満遍なく吸い取るため、一度マカを栽培した土地は数年間不毛になるといわれております。)

 いつもながら、タイミングが良いな、アイ先生……。

 (なるほど。砂漠の環境が栽培に適しているかもしれないのか。)

 (そうですね。乾燥地帯でも育つようです。ですが、『マカいい茶』とは意味深な名前ですね。)

 (上等なマカのお茶ってことだろ? まあ、意味深なのか……。)



 「じゃ、お茶飲んだら、オレについてきてくれ。」

 アマイモンがそう言って、立ち上がり、部屋の外へ促した。

 「じゃ、フルーレティ、あとは頼んだぞ。」

 「かしこまりました。アマイモン様。」



 ギルド長・アマイモンさんと執事フルカスさんが先導して、冒険者ギルドを出て、中央の円柱を見ながらシバの女王の宮城へ歩いていく。

 シバの女王の宮城は、天を突くほどの高さで、ぐるりには一千の高楼が巡らされ、各高楼には一千の橄欖石、紅玉、碧玉の円柱が黄金の円天井を支えている。
正面に大階段があり、兵士が両側に控えていた。

 アマイモンさんが兵士になにか話しかけると、兵士が先へ行って良いというようなジェスチャーをした。



 正面の門を越えると、黒い装束に身を包み、真っ白のネクタイをして、黒い帽子にターバンでその左眼を隠している男が現れた。

 左の目を隠すのはその目が『プロビデンスの目(真実の眼、全能の眼)』であるからだという。

 ちなみに右の目は『ラーの目』であり、太陽を意味するらしい。



 「よくぞ参られた。シバの女王の宮城へ。私はベン・シラ。シバの女王に仕える神官にして、このバビロンの宰相である。」

 「これはベン様。しばらくぶりでございますな。こちらの者がアシア・ジン殿とその御一行。あの魔獣サンドワームを倒した者です。
そして、こちらが『行商集団アリノママ』の代表カシム殿です。」

 アマイモンさんがオレたちを紹介してくれた。



 「よろしくお願いします。ベン・シラ様。サンドワームを倒せたのは、アーリくんを助けようと必死だったからです。たまたまですよ。」

 「なるほどの。高きところにある者は多く、高名なる者もまたしかり。なれど神秘は謙遜なる者に明かされる……だな。ジン殿。今後もよしなにお願いしますぞ。」

 「あはは……。いえいえ、こちらこそ。」

 何言ってるのかさっぱりだったけど、気に入られたってことで良いみたいだな。



 通された宮城でしばし待ち、半刻ほど過ごしたオレたちは、女王の宮城の輝くばかりの豪華さにひたすら息を飲み、その壮麗さに圧倒されっぱなしだった。

 そして、いよいよシバの女王に謁見の間へ通されることとなった。

 きらめく水晶でつくられた張(とばり)を抜けると、そこは見渡すばかりの広大な謁見室になっていた。そこで、ついにシバの女王に相見えることになったのである。



 初めて見る女王は健康的な褐色の肌に、その瞳は黒く、眉毛は威厳に満ちており、口元には謎めいた微笑みが浮かんでいた。

 そして、女王は、七つの段の最上に置かれた王座に座っているのだった。その王座は、すべて、象牙と黄金で出来ており、各所には大きな真珠や宝石が散りばめられていた。
王座に静かに座る女王の姿は、まことに女王の名にふさわしく堂々として自信と威厳に満ち溢れているように思えた。

 格段の両脇には、精悍なワシやライオン、サイなどの鳥や獣を形取った像が配されていた。そして、最上段には、まばゆいばかりの羽を広げた黄金の孔雀の像が置かれていた。
きらめく黄金の王座には、威厳に満ちたシバの女王が、座っているのが見えた……。

 広大な謁見室には、女王にお使えする取り巻きの側近たちを始め、ありとあらゆる大臣が左右に分かれて勢ぞろいしていた。





 女王のすぐとなりには幼気な雰囲気が残る若者が一人、黄金で作られた椅子に座していた。

 おそらくはシバの女王の息子、ナブー・クドゥリ・ウスル、通称ネブカドネザル2世王子であった。

 オレたちは女王の前まで歩いていき、そしてそこで平伏した。



 「面をあげよ!」

 オレは顔をあげようとした……が、そこでアイが思念通信でこう言ってきたのだ。

 (頭を上げないでください、もう一度促されたら、上げていいと思います。作法として室町時代の武家の作法にも登場したと記憶されております。)

 (え!? マジか! ……あっぶねぇ……って、あ! ジュニアくん……顔上げちゃった!)

 「ジュニアくん、それは礼を失するよ! まだ顔を上げちゃダメだ。」

 「え!? あ、申し訳ありません!!」

 ジュニアくんが急いで顔をまた下げた。

 (んん……まぁ、とはいっても、公家や公方など貴族の話で、地方の武士や町人には、一般的ではなかったようでございます。)

 アイがまた思念通信で補足してくれた。



 「はっはっは。よいよい。妾はそのようなかたくるしい作法は気にしておらぬ。そちらも面をあげてよいぞ?」

 「はは! では遠慮なく。オレは……いや、私はアシア・ジンと申します。」

 「か……カシム・ジュニアと申します!」

 「うむ。妾は、ニカウレー・シバ。この円柱都市イラムの都市長であり、商業ギルド長もやっておるぞ。遠慮はいらぬ。オレ……でよい。許す。」

 「ありがたい。敬語はあまり慣れてないんですよね。改めて、女王様。よろしくお願いします。」


~続く~


しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:1,968

ピーターパン協会、ただいま隊員募集中!

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

猫屋の看取り屋 保護猫カフェと終の住処 命と向き合う

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

現代ダンジョンマスター

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:12

廃校カニバリズム

ホラー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...