【完結】惨めな最期は二度と御免です!不遇な転生令嬢は、今度こそ幸せな結末を迎えます。

糸掛 理真

文字の大きさ
70 / 74

70.あの時の

しおりを挟む
 「起きたのか、良かった!エマ!」

 迷いなく私に走り寄るテオドールに、医師が穏やかに言った。

 「うんうん良かったねぇ。でもちょっとお静かに。あまり患者さんを刺激しないでね」

 「あ、すみません…」

 叱られて素直に謝るテオドールを見て、私は思わず笑った。

 「ふふっ…!」

 「なんだよ…」

 少し不満そうにしながらも、テオドールも笑っていた。その顔は本当に嬉しそうで、ホッとしたような表情だった。

 医師が私の状態をテオドールに説明してくれ、傷口の状態が少しよくなってきたら腕の状態を確認し、場合によってはリハビリが必要になるかもしれないと話した。

 「あとねー、エマちゃんは割と血が止まりにくいタイプだから、今後の人生も大怪我には気をつけてねぇ。分かりやすく言うと、血液中の血を固める成分が少なめでサラッサラなのね。女の子だし、もし将来妊娠したら早めに大きい病院に行って、体質のことを必ず伝えるようにして。先に分かっていれば、病院も対策とれるからね。旦那さん…ではないんだっけ、まあでもパートナーなんでしょ?気をつけてあげてね」

 「あっ、はい。気をつけます」

 テオドールは特に否定せず、そう言った。

 そんなテオドールをじっと見て、医師は目を細めた。

 「ほんと、大きくなったねぇ…。こんなに立派に育って、天国のお母さんもきっと誇らしく思っているよ」

 「え?」

 怪訝そうなテオデールに、医師はにっこりした。

 「君が生まれた時、私が取り上げたんだよ」

 「ええっ!」

 私もテオドールもびっくりして医師を見つめた。
 
 「私ね、若い頃は辺境にいたんだよ。あのお産は一生忘れられない。リアさん、妊娠中の経過は順潮そのもので…なのに、いざ生まれるという段になって、大出血してしまってね。何とか助けようと全力を尽くしたんだけど、駄目だったんだ。今でも悔しいよ。原因は胎盤の位置が下すぎたことなんだ。この20年で機械の精度がかなり上がったから、今なら出産前にある程度分かるだろうし、きっと助けることができたのに…」

 そう話す医師の優しそうな目は一度悲しげに翳ったが、テオドールに再び向けられた目にはまた光が戻っていた。

 「でも、せめて君を助けられてよかった。『お腹の子を助けてください、命より大事なんです、絶対に助けてください』って…。自分の命がいよいよ危ないって時にだよ。君のお母さんは本当に強い人で、君が生まれる前から君を深く愛していたんだ」

 「…そうですね。命をかけて産んでもらいました。……俺は、そのことにずっと罪悪感を持っています」

 「そうかぁ…うん、当事者からしたらそう思ってしまうのかもねぇ。でもね、わたしも子どもがいるから分かるけど…我が子が生きていて、幸せでいてくれるのが親にとって最大の喜びなんだよ。まあ、親の中にも例外はいるみたいだけど…少なくともリアさんは君の幸せを何よりも願ってる。だからさ、君にはぜひ幸せでいてほしいな」

 テオドールは何と答えようか少し逡巡している様子だったが、不器用に小さく微笑んで言った。

 「はい。…父から、俺も生まれる時死にかけていたと聞きました。助けてくださってありがとうございました」

 「礼には及ばないよ。…大人になった君に会えて、こちらこそお礼を言いたいよ。ありがとうね。…エマちゃんが回復するまで、色々と助けてあげて」
 
 「…はい」

 照れたように笑うテオドールの顔は、なんだかこれまでと違って見えた。吹っ切れたような、スッキリしたような顔だった。

 また様子を見に来るからねと言い残して、医師は部屋から出ていった。私はテオドールを見つめた。どれだけ見てもまだ足りないと思うほど、つい見てしまう。テオドールは私の視線に気付き、身体を屈めて私に顔を寄せた。

 「どうした…?気分が悪いのか?水飲むか?」 

 気遣わしげにそう聞いてくれる。その優しさが嬉しく、同時に申し訳なくなった。

 「心配かけてごめんね」

 私が謝ると、テオドールはため息混じりにこう言った。

 「ほんっっっとに、な。しょうもない男に捕まりやがって、危ないことに巻き込まれやがって…。ケガ人相手にこれ以上はやめとくけどよ」

 「アルマン様とのこと、聞いたの?」

 「聞いてねえけど想像はつく。付き合ってたんだろ?」

 「うう…まぁ、うん」

 テオドールはまたため息を吐いたが、俺がとやかく言う権利はないなと言った。

 「もう他の男に騙されることは無いからいい。お前は俺の女だからな」
 
 『俺の女』。本来あまり好きな響きの言葉じゃないのに、テオドールに言われると嬉しくなってしまう。

 私が照れていると、テオドールはおもむろに私の右手をそっと取った。

 「エマ…今更と思われるかもしれないけど、頼みがある。俺と、けっ…」

  コン!コンコン!

 テオドールが何か言い終わる前に、部屋のドアがノックされた。入ってきたのはガンザー伯爵だった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。

MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。 記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。 旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。 屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。 旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。 記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ? それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…? 小説家になろう様に掲載済みです。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜

みおな
恋愛
 公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。  当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。  どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・

虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい

みおな
恋愛
 何度生まれ変わっても、私の未来には死しかない。  死んで異世界転生したら、旦那に虐げられる侯爵夫人だった。  死んだ後、再び転生を果たしたら、今度は親に虐げられる伯爵令嬢だった。  三度目は、婚約者に婚約破棄された挙句に国外追放され夜盗に殺される公爵令嬢。  四度目は、聖女だと偽ったと冤罪をかけられ処刑される平民。  さすがにもう許せないと神様に猛抗議しました。  こんな結末しかない転生なら、もう転生しなくていいとまで言いました。  こんな転生なら、いっそ亀の方が何倍もいいくらいです。  私の怒りに、神様は言いました。 次こそは誰にも虐げられない未来を、とー

行動あるのみです!

恋愛
※一部タイトル修正しました。 シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。 自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。 これが実は勘違いだと、シェリは知らない。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

殿下が好きなのは私だった

恋愛
魔王の補佐官を父に持つリシェルは、長年の婚約者であり片思いの相手ノアールから婚約破棄を告げられた。 理由は、彼の恋人の方が次期魔王たる自分の妻に相応しい魔力の持ち主だからだそう。 最初は仲が良かったのに、次第に彼に嫌われていったせいでリシェルは疲れていた。無様な姿を晒すくらいなら、晴れ晴れとした姿で婚約破棄を受け入れた。 のだが……婚約破棄をしたノアールは何故かリシェルに執着をし出して……。 更に、人間界には父の友人らしい天使?もいた……。 ※カクヨムさん・なろうさんにも公開しております。

処理中です...