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68.臨死
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気がつくと、私は真っ白な空間の中にいた。
何もない、だだっ広い、殺風景な中に、一人ぽつんと立ち尽くしていた。
なんだか妙に身体が軽く、ふわふわとして落ち着かない。この感覚には覚えがあった。
ああ、私、死んだんだ。
前世で経験したから分かる。
しかし、前回とは違う点もずいぶんあった。
前は魂が抜け出る瞬間の感覚も分かったし、亡くなった自分の姿を俯瞰で見てもいた。
でも、ここには何もない。
全て終わった後のような、静けさがあるだけだ。
現世からすでに離れたところに来てしまっているのだろうか。
前回と同じなのは、死ぬ間際に感じていた痛みは全くないことだ。ということは、多分もうじき意識もなくなり、魂は消えてしまうだろう。
そう感じた時、『嫌だ』と強く思った。
同時に死ぬ間際のことを思い出して私は頭を抱えた。
『うそうそ、死んでもいいなんて嘘!やっぱり嫌だ!』
私は焦っていた。
前世で交通事故に遭って死んだ時とは全然違う心境だった。
前回は、ただただ、とてつもない虚しさを感じていた。
愛されたかった、幸せになりたかったという気持ちが強かった。
今は違う。
虚しさや悲しさよりずっと、後悔の方が大きかった。
愛をくれた人たちに、それ以上の愛を与えたかった。
もっと色々なことをしてあげたら良かった。
私はまだ、皆に何も返せてはいないのに死ぬのは嫌だ。
大切な人たちの顔が、次々と浮かんでくる。
比喩ではなく自分の周りの白い空間がスクリーンであるかのように、思い出の場面が映し出されていく。
これが走馬灯というものだろうか。
楽しかったことも、辛かったことも、たくさんたくさんあった。
充実した日々を送り、こんなに濃い思い出に包まれている。
十分幸せだったと言えるだろう。
それでも。
『死にたくない。生き返らせて』
私は強く願った。
『まだやるべきことをやっていない』
その時、名前を呼ばれた気がして、私は辺りを見回した。
しかし、耳をすませても何も聞こえない。
気のせいか、そう思った時だった。
「…い、………エ………」
「耳……、聞こ………ま…。呼ん……だ……」
「…マ!起き…、……」
「反応……………!……続…て、く………」
「…エ……、……マ!…エマー!」
微かな雑音のような音がだんだんクリアになってきて、最後にははっきりと聞こえた。
テオドールが呼んでいる。
必死に、私の名前を叫んでいる。
行かなきゃ。
何がなんでも行かなきゃ。
あんなに私に呼びかけている、私を必要としてくれている。
テオドールを悲しませちゃいけない。泣かせちゃいけない。
あの人の喜ぶ顔が見たい。
テオドールは私を守ると言ったけれど、私の方こそずっとずっと側にいて、守ってあげたい。
私は周りを見回した。どうにかして戻れないかと。
しかし私の魂はこの空間に囚われているようで、ここから出る方法は分からなかった。
あんなにハッキリと声が聞こえたということは、きっとまだ完全に死んではいないはずなのに。
ああ、どうして、この場所から動けないのだろう。
悔しくて、涙すら出てこない。
戻れるなら、何だって差し出すのに。
来世なんていらない。
二度と転生なんてしたくない。
もしも、来世ではチート級の有能な人間で、楽勝に無双できますよと言われてもお断りだ。
だからどうか、あの人生の続きを生きるチャンスを私にください。
私は身じろぎもせず、ひたすらに願い続けた。
どれぐらい経ったか分からないほど長い時間が流れていたが、それでも私は祈るのをやめられなかった。
何もない、だだっ広い、殺風景な中に、一人ぽつんと立ち尽くしていた。
なんだか妙に身体が軽く、ふわふわとして落ち着かない。この感覚には覚えがあった。
ああ、私、死んだんだ。
前世で経験したから分かる。
しかし、前回とは違う点もずいぶんあった。
前は魂が抜け出る瞬間の感覚も分かったし、亡くなった自分の姿を俯瞰で見てもいた。
でも、ここには何もない。
全て終わった後のような、静けさがあるだけだ。
現世からすでに離れたところに来てしまっているのだろうか。
前回と同じなのは、死ぬ間際に感じていた痛みは全くないことだ。ということは、多分もうじき意識もなくなり、魂は消えてしまうだろう。
そう感じた時、『嫌だ』と強く思った。
同時に死ぬ間際のことを思い出して私は頭を抱えた。
『うそうそ、死んでもいいなんて嘘!やっぱり嫌だ!』
私は焦っていた。
前世で交通事故に遭って死んだ時とは全然違う心境だった。
前回は、ただただ、とてつもない虚しさを感じていた。
愛されたかった、幸せになりたかったという気持ちが強かった。
今は違う。
虚しさや悲しさよりずっと、後悔の方が大きかった。
愛をくれた人たちに、それ以上の愛を与えたかった。
もっと色々なことをしてあげたら良かった。
私はまだ、皆に何も返せてはいないのに死ぬのは嫌だ。
大切な人たちの顔が、次々と浮かんでくる。
比喩ではなく自分の周りの白い空間がスクリーンであるかのように、思い出の場面が映し出されていく。
これが走馬灯というものだろうか。
楽しかったことも、辛かったことも、たくさんたくさんあった。
充実した日々を送り、こんなに濃い思い出に包まれている。
十分幸せだったと言えるだろう。
それでも。
『死にたくない。生き返らせて』
私は強く願った。
『まだやるべきことをやっていない』
その時、名前を呼ばれた気がして、私は辺りを見回した。
しかし、耳をすませても何も聞こえない。
気のせいか、そう思った時だった。
「…い、………エ………」
「耳……、聞こ………ま…。呼ん……だ……」
「…マ!起き…、……」
「反応……………!……続…て、く………」
「…エ……、……マ!…エマー!」
微かな雑音のような音がだんだんクリアになってきて、最後にははっきりと聞こえた。
テオドールが呼んでいる。
必死に、私の名前を叫んでいる。
行かなきゃ。
何がなんでも行かなきゃ。
あんなに私に呼びかけている、私を必要としてくれている。
テオドールを悲しませちゃいけない。泣かせちゃいけない。
あの人の喜ぶ顔が見たい。
テオドールは私を守ると言ったけれど、私の方こそずっとずっと側にいて、守ってあげたい。
私は周りを見回した。どうにかして戻れないかと。
しかし私の魂はこの空間に囚われているようで、ここから出る方法は分からなかった。
あんなにハッキリと声が聞こえたということは、きっとまだ完全に死んではいないはずなのに。
ああ、どうして、この場所から動けないのだろう。
悔しくて、涙すら出てこない。
戻れるなら、何だって差し出すのに。
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もしも、来世ではチート級の有能な人間で、楽勝に無双できますよと言われてもお断りだ。
だからどうか、あの人生の続きを生きるチャンスを私にください。
私は身じろぎもせず、ひたすらに願い続けた。
どれぐらい経ったか分からないほど長い時間が流れていたが、それでも私は祈るのをやめられなかった。
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