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2.転生しても地味
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そして話は今世に移る。
今いる世界は私が前世を生きていた場所と似ている部分もあるが、違う部分の方が多い。違いを逐一具体的に述べると長くなるので割愛するが、雰囲気というざっくりとした観点において簡単に述べるなら、転生先はかなりファンタジックだ。私が前世で子どもの頃に親しんだ、ヨーロッパの児童書に描かれている挿絵のような感じを彷彿とさせると言ったら良いだろうか。あるいは、ちょっと古風な王道RPGっぽさがあるとでも言おうか。
ただ、そうは言っても魔法やら呪いやら不老不死の薬やらといったものが登場するようなマジもんのファンタジー世界ではない。ドラゴンもユニコーンも妖精も多分いない。しかし美しい森や草原の間を澄んだ川が流れ、のどかな田園や牧草地が広がっている様を見ていると、今にもエルフやドワーフが現れそうな気さえする。村には水車や藁葺き屋根の家々があり、周りには畑や牧場が見える。街にはさまざまな商店や住宅の他に石造りの教会もあり、決まった時間に鐘の音が響く。新鮮な青果や魚、花、牛乳、穀物などの種々雑多な品物が並ぶ市場からは賑やかな声が聞こえてくる。そびえ立つ荘厳な城は古く、その中には威厳に満ちた王族が歴史とともに暮らしている。なんとも情緒があってロマンティックだ。私の大好物である。
こんなロマン溢れる美しい世界に転生したのにもかかわらず、残念なことに二度目の人生でも私は全てにおいて純度100%の地味人間であった。全て思い出した今、前世と全く変わらないこの有様に対して心の底から何でだよと思う。同時に、前世で死後聞いたのはやはり悪魔の笑い声だったのだと確信している次第だ。
そういえば、前世で徳を積めば生まれ変わった後の世で恩恵を受けられるとか聞いたことがある。悪行を重ねれば、その報いを受けるとも。おそらく私は毒にも薬にもならないような人間だったため、同スペックのままなのだろう。逆縁の罪を着せられて、賽の河原で小石を積む羽目にならなかっただけ良かったと思うべきなのだろう。そう考えて私は自分を無理矢理納得させた。
ちなみに、今の私の名前は「エマ・ヘスティア・ユリシーズ」という。なんだか大仰なようだが、この世界ではごく一般的な名前である。まあ、前世の名前である「倉田香奈」とそう変わらない。ちなみにこの世界にもキラキラネームに当たるような名はあるので、そういう自分に似合わぬ煌びやかな名前でなくてよかったと心底思っている。
ところで、私は自分が転生者だと言うことを長いこと自覚しないまま生きていた。確信したのは17歳の時だった。いささか遅すぎである。生まれた時から、というのは無理でも、私がまだ純粋無垢な幼女だった頃あるいはせめて思春期の頃に分かっていれば私の人生は今とは違った様相だったかもしれない。
今思うと、物心ついた頃から不思議な感覚に陥ることは良くあったのだ。初めての経験であるはずなのにどこか懐かしく思うということは日常茶飯事だった。奇妙な夢を見ることもあった。起きている時にふと何かの情景が脳をかすめるようにちらつくこともあった。それでも、それらが前世の記憶だとは思わなかった。
私は物語の世界に入ったつもりになってあれこれと空想して遊ぶのが好きだったので、「そのせいで不思議な夢を見たり妙に既視感を感じたりするのかな?」ぐらいに思っていた。それぐらい鈍感な私であったが、それでも実は12歳頃に一度「もしかしたら自分は誰かの生まれ変わりなのではないか?」と疑ったことがあった。
しかし、その考えはすぐに打ち消された。何冊かの書物は私に、転生者というのは選ばれた特別な人であることを教えた。どの本を読んでも、聖人あるいは天才と大体相場は決まっていた。そのため私は、自分が転生者ではないと結論づけた。書物というのは本当に玉石混淆で、当てにならないものはとことん当てにならないと今なら言えるが、当時の私は素直だったため何者かもよく分からない著者をあっさり信じた。
しかし、断片的で靄がかかったようだった前世の記憶は次第に鮮明になっていった。当時17歳だった私は
「自分は頭がおかしいのだろうか、空想と現実の区別が付いていないのだろうか」
と本気で心配し始めていた。だがすぐに、驚くべき事実が判明した。なんという偶然か、縁者の中に転生者がいたのだ。
その人と話しているうちに、私は自分も彼と同じ転生者であると確信した。後述するが、その人とは私が子どもの頃から面識があった。私は得体の知れない感覚の正体が分かって安堵した。自分の気が違っているわけでは無いと分かった上に、信頼する人が自分と同じ転生者であるという事実が嬉しかった。私はこれまでになく興奮して相手を質問攻めにし、何時間も話し込んだ。そして話せば話すほど芋づる式に色々なことを思い出し、前世の記憶は私の中で明瞭なものになっていった。
だが悲しいことに、あまり幸せな思い出はなかった。そのためせっかく思い出しても暗い気持ちになることが多かった。特に、前世での最後の日を思いだしたときは非常に辛かった。私は数日に渡ってずっと鬱々とした気持ちだった。あまり眠れぬ夜を過ごし、それを周囲に悟られないように気を使って余計に疲れ、少しやつれた。
それだけショックが大きかったが、何日か経つとそれなりに気持ちの整理もついてくる。前世は残念な結果に終わったが、私には今世があるのだ。次こそはベッドの上で安らかに人生を終えたい。転生してもやっぱり地味なのは諦めるとして、運の悪さだけは引き継いでいないことを心底願う。そして、私の末期の願いもぜひ叶えたい。あんな死に方はもうごめんだし、次も寂しく惨めな思いでこの世を去るのはもっと嫌だ。絶対に、金輪際、お断りだと私は強く思った。
今いる世界は私が前世を生きていた場所と似ている部分もあるが、違う部分の方が多い。違いを逐一具体的に述べると長くなるので割愛するが、雰囲気というざっくりとした観点において簡単に述べるなら、転生先はかなりファンタジックだ。私が前世で子どもの頃に親しんだ、ヨーロッパの児童書に描かれている挿絵のような感じを彷彿とさせると言ったら良いだろうか。あるいは、ちょっと古風な王道RPGっぽさがあるとでも言おうか。
ただ、そうは言っても魔法やら呪いやら不老不死の薬やらといったものが登場するようなマジもんのファンタジー世界ではない。ドラゴンもユニコーンも妖精も多分いない。しかし美しい森や草原の間を澄んだ川が流れ、のどかな田園や牧草地が広がっている様を見ていると、今にもエルフやドワーフが現れそうな気さえする。村には水車や藁葺き屋根の家々があり、周りには畑や牧場が見える。街にはさまざまな商店や住宅の他に石造りの教会もあり、決まった時間に鐘の音が響く。新鮮な青果や魚、花、牛乳、穀物などの種々雑多な品物が並ぶ市場からは賑やかな声が聞こえてくる。そびえ立つ荘厳な城は古く、その中には威厳に満ちた王族が歴史とともに暮らしている。なんとも情緒があってロマンティックだ。私の大好物である。
こんなロマン溢れる美しい世界に転生したのにもかかわらず、残念なことに二度目の人生でも私は全てにおいて純度100%の地味人間であった。全て思い出した今、前世と全く変わらないこの有様に対して心の底から何でだよと思う。同時に、前世で死後聞いたのはやはり悪魔の笑い声だったのだと確信している次第だ。
そういえば、前世で徳を積めば生まれ変わった後の世で恩恵を受けられるとか聞いたことがある。悪行を重ねれば、その報いを受けるとも。おそらく私は毒にも薬にもならないような人間だったため、同スペックのままなのだろう。逆縁の罪を着せられて、賽の河原で小石を積む羽目にならなかっただけ良かったと思うべきなのだろう。そう考えて私は自分を無理矢理納得させた。
ちなみに、今の私の名前は「エマ・ヘスティア・ユリシーズ」という。なんだか大仰なようだが、この世界ではごく一般的な名前である。まあ、前世の名前である「倉田香奈」とそう変わらない。ちなみにこの世界にもキラキラネームに当たるような名はあるので、そういう自分に似合わぬ煌びやかな名前でなくてよかったと心底思っている。
ところで、私は自分が転生者だと言うことを長いこと自覚しないまま生きていた。確信したのは17歳の時だった。いささか遅すぎである。生まれた時から、というのは無理でも、私がまだ純粋無垢な幼女だった頃あるいはせめて思春期の頃に分かっていれば私の人生は今とは違った様相だったかもしれない。
今思うと、物心ついた頃から不思議な感覚に陥ることは良くあったのだ。初めての経験であるはずなのにどこか懐かしく思うということは日常茶飯事だった。奇妙な夢を見ることもあった。起きている時にふと何かの情景が脳をかすめるようにちらつくこともあった。それでも、それらが前世の記憶だとは思わなかった。
私は物語の世界に入ったつもりになってあれこれと空想して遊ぶのが好きだったので、「そのせいで不思議な夢を見たり妙に既視感を感じたりするのかな?」ぐらいに思っていた。それぐらい鈍感な私であったが、それでも実は12歳頃に一度「もしかしたら自分は誰かの生まれ変わりなのではないか?」と疑ったことがあった。
しかし、その考えはすぐに打ち消された。何冊かの書物は私に、転生者というのは選ばれた特別な人であることを教えた。どの本を読んでも、聖人あるいは天才と大体相場は決まっていた。そのため私は、自分が転生者ではないと結論づけた。書物というのは本当に玉石混淆で、当てにならないものはとことん当てにならないと今なら言えるが、当時の私は素直だったため何者かもよく分からない著者をあっさり信じた。
しかし、断片的で靄がかかったようだった前世の記憶は次第に鮮明になっていった。当時17歳だった私は
「自分は頭がおかしいのだろうか、空想と現実の区別が付いていないのだろうか」
と本気で心配し始めていた。だがすぐに、驚くべき事実が判明した。なんという偶然か、縁者の中に転生者がいたのだ。
その人と話しているうちに、私は自分も彼と同じ転生者であると確信した。後述するが、その人とは私が子どもの頃から面識があった。私は得体の知れない感覚の正体が分かって安堵した。自分の気が違っているわけでは無いと分かった上に、信頼する人が自分と同じ転生者であるという事実が嬉しかった。私はこれまでになく興奮して相手を質問攻めにし、何時間も話し込んだ。そして話せば話すほど芋づる式に色々なことを思い出し、前世の記憶は私の中で明瞭なものになっていった。
だが悲しいことに、あまり幸せな思い出はなかった。そのためせっかく思い出しても暗い気持ちになることが多かった。特に、前世での最後の日を思いだしたときは非常に辛かった。私は数日に渡ってずっと鬱々とした気持ちだった。あまり眠れぬ夜を過ごし、それを周囲に悟られないように気を使って余計に疲れ、少しやつれた。
それだけショックが大きかったが、何日か経つとそれなりに気持ちの整理もついてくる。前世は残念な結果に終わったが、私には今世があるのだ。次こそはベッドの上で安らかに人生を終えたい。転生してもやっぱり地味なのは諦めるとして、運の悪さだけは引き継いでいないことを心底願う。そして、私の末期の願いもぜひ叶えたい。あんな死に方はもうごめんだし、次も寂しく惨めな思いでこの世を去るのはもっと嫌だ。絶対に、金輪際、お断りだと私は強く思った。
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