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第66話 炊飯器とご対面②

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 キシャナは足早に炊飯器が置いてあるテーブルに駆け寄ると、目を輝かせて手に取る。

「まるで新しい玩具を手に入れて浮かれている子供ね」
「冷蔵庫の時も、あんな感じで喜んでいたぞ」
「冷蔵庫に抱き付いたりしたのかしら?」
「まあ多少は……」
「へぇ……君、今度転生するなら冷蔵庫になったら?」
「選択できたとしても、お断りだよ」

 女性として異世界転生しただけでも苦労してきたのに、無機物の冷蔵庫なんて論外もいいところだ。
 シェーナは部屋を見渡すと、今日はアシスタントのエルフやダークエルフの姿がないことに気付いた。

「アシスタントの人達はどうしたの?」
「今日からエルフの里に帰省中よ。しばらく戻って来ないわ」
「そうなんだ。副業の漫画は順調に描けているのかい?」
「まあね。子供用の絵本から青年誌まで幅広く描かせてもらってるわ」

 主に前世で有名な童話を絵本にして、リィーシャが運営する孤児院に無償で提供したりしているらしい。反響は上々で、最近は本業である錬金術より副業の絵本や漫画を求める客が増えているようだ。

「この異世界って身近な娯楽が少ないからね。子供からお年寄りまで楽しめる漫画は需要がそれなりにあるのよ」
「人を笑顔にする仕事は素晴らしいと思うよ。俺も経営者として見習いたいよ」
「あら? そう思うなら、同人誌のモデルになってよ。意外とその方面はお忍びで貴族の人達が購入に来るのよ。屈強な女騎士様なら大歓迎よ」
「……やっぱり、さっきの発言は撤回しようかな」

 途中まで良い話だったのが、とんだ藪蛇になったとシェーナは苦笑いを浮かべる。
 そんなやりとりをしている間に、キシャナは台所に立って炊飯器から釜を取り出して米を研ぎ終えると釜に水を入れて準備を整えていた。

「三十分程度、このままつけておくよ。後はボタンを押して炊き立てのご飯ができるよ。折角だから、ここの冷蔵庫の中身で一品料理を作ってもいいかな?」
「勝手にどうぞ」

 サリーニャの許可を得て、キシャナは冷蔵庫の中身を確認する。
 シェーナは手伝おうかと申し出るが、一人で大丈夫だからサリーニャとお喋りしていてくれと断られた。
 炊飯器で炊いたご飯は前世で食べたのが最後だったので、シェーナも内心はキシャナのようにテンションが上がっている。

「おお! 冷蔵庫からとんでもないのを見つけたぞ」
「どうしたんだ?」
「乾燥昆布があったんだ。これなら……よし、アレを作ってみるか」

 以前、サリーニャが商業地区の掘り出し物を取り扱っている店で偶然に乾燥昆布を見つけて錬金の素材になるかもと思って購入したらしい。
 結局は使用する機会がなく、冷蔵庫に眠らせていたようで本人も今まで忘れていたらしい。
 キシャナは大鍋を取り出して、冷蔵庫から茄子と南瓜を取り出して一口サイズに包丁を入れていく。
 一体何を作るのか気になるが、シェーナとサリーニャは料理の完成を楽しみに見守る。
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