33 / 110
第33話 薬屋の青年
しおりを挟む
昼過ぎになると、商人や冒険者の往来が目立ち始めた。
シェーナは店内にメニュー表を貼り終えると、他店の料理店を回ろうと思う。
「他の料理店を見て回ってくるよ。それと使えそうな調理器具があったら補充して買って来る」
「偵察もいいけど、シェーナはここに来て日は浅いし気晴らしにシャルティユの散策に行って来るといいよ」
キシャナは気を遣って送り出してくれた。
城塞都市シャルティユはハシェルの首都と比べて商人や冒険者の数が圧倒的に多い。
勇者一行が興した国だけあって、種族を問わずに自由な往来があるのは活気があって街の発展に繋がるだろう。リィーシャはシェーナ達を街の発展に貢献すると踏んで店の提供から色々と支援してくれたが、カリューのような上層部の人間はシェーナ達を快く思っていない者がいるのも事実だ。
商業地区の表通りにはピザ窯で焼いたピザやパンを提供する店や五大国の家庭料理を提供する店が連なっている。特にシェーナの故郷だったハシェル国の海産物で作られた特製スープは家庭料理として一般的に食べられていた。
裏通りに入ると、各商業ギルドの看板が下げられた建物が並んで冒険者が集まって賑わっている。シェーナが所属する『森の聖弓』は冒険者より商人の数が多く、商品の取引が飛び交っている。
裏通りを抜けて商業地区の中央広場に出ると、すぐ横で露店を開いている青年がシェーナに声をかけてきた。
「そこのお姉さん。気付け薬はいかがでしょうか?」
どうやら旅の薬屋らしい。
風呂敷には小さなボトルに入った液体を並べて、薬の効能について語り出す。
「ああ、待って下さい。こちらは刀傷を綺麗に治す薬ですよ」
「どうして私にその薬を勧める?」
シェーナは青年の勧誘を無視して、その場を通り過ぎようと思ったが立ち止まった。
冒険者のような風貌なら特に不思議ではないが、今日のシェーナは洋服に身を包んで、見た目は普通の町娘にしか見えない。
青年はシェーナの疑問に淡々と答える。
「僕は各地を転々と移動して長くこの商売をやっていると、お客さんの身体的特徴が大体掴めるんですよ。お姉さんの手には日常的に剣を握ったことのあるタコが見受けられましたので、剣士や騎士の方なら刀傷に効く薬を勧めたのです」
シェーナの手にはたしかに剣を握ってできるタコがある。
それを瞬時に見破った青年の着眼点は凄いが、青年から何か得体の知れない物を感じ取った。
シェーナはじっと青年を見つめると懐から薬の代金を支払う。
「わかった。刀傷を治す薬を一つもらおうか」
「毎度ありがとうございます! お姉さんのような美人な人に見つめられると照れるなぁ。お近づきのしるしに、もう一つ薬をサービスしますよ」
青年は代金を受け取ると、薬を二本包んでくれた。
あどけない青年の笑みを見ると、シェーナは気のせいかと思う。
「近々、商業地区で料理店を開くから是非とも立ち寄ってくれ」
「そうなんですか。ええ、お姉さんの手料理を食べられるなら行きますよ!」
シェーナは薬の包みを受け取ると、代わりに懐からメモを取り出して料理店がある住所と地図を書いて青年に手渡した。
中央広場を通り抜けると、正面からルトルスの事情聴取で同席していたカリューが衛兵を引き連れて向かって来る。
シェーナは道を譲るために道端によってやり過ごそうとするが、カリューはシェーナを呼び止める。
「お前……たしかハシェルの女騎士だな。ここで何をしている?」
「買い物です。それに私はもうハシェルの騎士ではありません。失礼します」
「待て。お前には話しておきたいことがある。行政地区までご同行願おうか?」
カリューはシェーナの腕を掴むと、衛兵が囲んで行政地区まで連行しようとする。
抵抗しても公務執行妨害で容疑をかけられて連行されるのは目に見えているので、素直に従うことにする。
「よし、連れていけ!」
衛兵はシェーナに縄をかけると、まるで罪人扱いをするかのように行政地区の独房フロアへと連行していった。
シェーナは店内にメニュー表を貼り終えると、他店の料理店を回ろうと思う。
「他の料理店を見て回ってくるよ。それと使えそうな調理器具があったら補充して買って来る」
「偵察もいいけど、シェーナはここに来て日は浅いし気晴らしにシャルティユの散策に行って来るといいよ」
キシャナは気を遣って送り出してくれた。
城塞都市シャルティユはハシェルの首都と比べて商人や冒険者の数が圧倒的に多い。
勇者一行が興した国だけあって、種族を問わずに自由な往来があるのは活気があって街の発展に繋がるだろう。リィーシャはシェーナ達を街の発展に貢献すると踏んで店の提供から色々と支援してくれたが、カリューのような上層部の人間はシェーナ達を快く思っていない者がいるのも事実だ。
商業地区の表通りにはピザ窯で焼いたピザやパンを提供する店や五大国の家庭料理を提供する店が連なっている。特にシェーナの故郷だったハシェル国の海産物で作られた特製スープは家庭料理として一般的に食べられていた。
裏通りに入ると、各商業ギルドの看板が下げられた建物が並んで冒険者が集まって賑わっている。シェーナが所属する『森の聖弓』は冒険者より商人の数が多く、商品の取引が飛び交っている。
裏通りを抜けて商業地区の中央広場に出ると、すぐ横で露店を開いている青年がシェーナに声をかけてきた。
「そこのお姉さん。気付け薬はいかがでしょうか?」
どうやら旅の薬屋らしい。
風呂敷には小さなボトルに入った液体を並べて、薬の効能について語り出す。
「ああ、待って下さい。こちらは刀傷を綺麗に治す薬ですよ」
「どうして私にその薬を勧める?」
シェーナは青年の勧誘を無視して、その場を通り過ぎようと思ったが立ち止まった。
冒険者のような風貌なら特に不思議ではないが、今日のシェーナは洋服に身を包んで、見た目は普通の町娘にしか見えない。
青年はシェーナの疑問に淡々と答える。
「僕は各地を転々と移動して長くこの商売をやっていると、お客さんの身体的特徴が大体掴めるんですよ。お姉さんの手には日常的に剣を握ったことのあるタコが見受けられましたので、剣士や騎士の方なら刀傷に効く薬を勧めたのです」
シェーナの手にはたしかに剣を握ってできるタコがある。
それを瞬時に見破った青年の着眼点は凄いが、青年から何か得体の知れない物を感じ取った。
シェーナはじっと青年を見つめると懐から薬の代金を支払う。
「わかった。刀傷を治す薬を一つもらおうか」
「毎度ありがとうございます! お姉さんのような美人な人に見つめられると照れるなぁ。お近づきのしるしに、もう一つ薬をサービスしますよ」
青年は代金を受け取ると、薬を二本包んでくれた。
あどけない青年の笑みを見ると、シェーナは気のせいかと思う。
「近々、商業地区で料理店を開くから是非とも立ち寄ってくれ」
「そうなんですか。ええ、お姉さんの手料理を食べられるなら行きますよ!」
シェーナは薬の包みを受け取ると、代わりに懐からメモを取り出して料理店がある住所と地図を書いて青年に手渡した。
中央広場を通り抜けると、正面からルトルスの事情聴取で同席していたカリューが衛兵を引き連れて向かって来る。
シェーナは道を譲るために道端によってやり過ごそうとするが、カリューはシェーナを呼び止める。
「お前……たしかハシェルの女騎士だな。ここで何をしている?」
「買い物です。それに私はもうハシェルの騎士ではありません。失礼します」
「待て。お前には話しておきたいことがある。行政地区までご同行願おうか?」
カリューはシェーナの腕を掴むと、衛兵が囲んで行政地区まで連行しようとする。
抵抗しても公務執行妨害で容疑をかけられて連行されるのは目に見えているので、素直に従うことにする。
「よし、連れていけ!」
衛兵はシェーナに縄をかけると、まるで罪人扱いをするかのように行政地区の独房フロアへと連行していった。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました
山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。
でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。
そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。
長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。
脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、
「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」
「なりすましヒロインの娘」
と同じ世界です。
このお話は小説家になろうにも投稿しています
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる