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第33話 薬屋の青年

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 昼過ぎになると、商人や冒険者の往来が目立ち始めた。
 シェーナは店内にメニュー表を貼り終えると、他店の料理店を回ろうと思う。

「他の料理店を見て回ってくるよ。それと使えそうな調理器具があったら補充して買って来る」
「偵察もいいけど、シェーナはここに来て日は浅いし気晴らしにシャルティユの散策に行って来るといいよ」

 キシャナは気を遣って送り出してくれた。
 城塞都市シャルティユはハシェルの首都と比べて商人や冒険者の数が圧倒的に多い。
 勇者一行が興した国だけあって、種族を問わずに自由な往来があるのは活気があって街の発展に繋がるだろう。リィーシャはシェーナ達を街の発展に貢献すると踏んで店の提供から色々と支援してくれたが、カリューのような上層部の人間はシェーナ達を快く思っていない者がいるのも事実だ。
 商業地区の表通りにはピザ窯で焼いたピザやパンを提供する店や五大国の家庭料理を提供する店が連なっている。特にシェーナの故郷だったハシェル国の海産物で作られた特製スープは家庭料理として一般的に食べられていた。
 裏通りに入ると、各商業ギルドの看板が下げられた建物が並んで冒険者が集まって賑わっている。シェーナが所属する『森の聖弓』は冒険者より商人の数が多く、商品の取引が飛び交っている。
 裏通りを抜けて商業地区の中央広場に出ると、すぐ横で露店を開いている青年がシェーナに声をかけてきた。

「そこのお姉さん。気付け薬はいかがでしょうか?」

 どうやら旅の薬屋らしい。
 風呂敷には小さなボトルに入った液体を並べて、薬の効能について語り出す。

「ああ、待って下さい。こちらは刀傷を綺麗に治す薬ですよ」
「どうして私にその薬を勧める?」

 シェーナは青年の勧誘を無視して、その場を通り過ぎようと思ったが立ち止まった。
 冒険者のような風貌なら特に不思議ではないが、今日のシェーナは洋服に身を包んで、見た目は普通の町娘にしか見えない。
 青年はシェーナの疑問に淡々と答える。

「僕は各地を転々と移動して長くこの商売をやっていると、お客さんの身体的特徴が大体掴めるんですよ。お姉さんの手には日常的に剣を握ったことのあるタコが見受けられましたので、剣士や騎士の方なら刀傷に効く薬を勧めたのです」

 シェーナの手にはたしかに剣を握ってできるタコがある。
 それを瞬時に見破った青年の着眼点は凄いが、青年から何か得体の知れない物を感じ取った。
 シェーナはじっと青年を見つめると懐から薬の代金を支払う。

「わかった。刀傷を治す薬を一つもらおうか」
「毎度ありがとうございます! お姉さんのような美人な人に見つめられると照れるなぁ。お近づきのしるしに、もう一つ薬をサービスしますよ」

 青年は代金を受け取ると、薬を二本包んでくれた。
 あどけない青年の笑みを見ると、シェーナは気のせいかと思う。

「近々、商業地区で料理店を開くから是非とも立ち寄ってくれ」
「そうなんですか。ええ、お姉さんの手料理を食べられるなら行きますよ!」

 シェーナは薬の包みを受け取ると、代わりに懐からメモを取り出して料理店がある住所と地図を書いて青年に手渡した。
 中央広場を通り抜けると、正面からルトルスの事情聴取で同席していたカリューが衛兵を引き連れて向かって来る。
 シェーナは道を譲るために道端によってやり過ごそうとするが、カリューはシェーナを呼び止める。

「お前……たしかハシェルの女騎士だな。ここで何をしている?」
「買い物です。それに私はもうハシェルの騎士ではありません。失礼します」
「待て。お前には話しておきたいことがある。行政地区までご同行願おうか?」

 カリューはシェーナの腕を掴むと、衛兵が囲んで行政地区まで連行しようとする。
 抵抗しても公務執行妨害で容疑をかけられて連行されるのは目に見えているので、素直に従うことにする。

「よし、連れていけ!」

 衛兵はシェーナに縄をかけると、まるで罪人扱いをするかのように行政地区の独房フロアへと連行していった。
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